カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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122 ファイト探偵は胡散臭い ②

 ヤトちゃんが店に来なかった。

 なんとなくそれに、不穏な流れを感じていたものの。

 閉店間際に今日の夕飯を買い出しに出かけた先で俺は――

 

「あ、店長。奇遇ね」

 

 ――買い物をしているヤトちゃんと出くわした。

 普通に買い出ししてるだけでしたねぇ。

 

「こんにちわ、ヤトちゃん。こんなところで会うとは思わなかった」

 

 というか、何なら今日はもう会えないんじゃないかと思ってた。

 失礼なことを言うと、ヤトちゃんがすでにダークファイターに敗北している可能性すら想定していたよ、俺は。

 それくらいヤトちゃんはフラグを立てていたということだ。

 

「実をいうと、ヤトちゃんに用事があったんだけどな」

「あー……スマホわすれてきちゃってたのよね、ごめんなさい。心配かけちゃったかしら」

「心配はしたよ、でも無事なら問題ないさ」

 

 いいながら、二人で色々と夕飯を買い込んでいく。

 時刻は二十時を回っていて、これから夕飯となると作るよりも半額の惣菜を狙ったほうが話は早い。

 まぁ、最悪惣菜の取り合いでファイトに発展する可能性もあるが。

 今日は客入りが少ないので、そういう問題もおきなかった。

 

「それで、私に用事って?」

「そうだな……どこから話したもんか」

 

 内容としては非常に単純なものなんだが。

 ファイト探偵という素敵ワードだけが、圧倒的にその中で浮いている。

 

「ふぁ、ファイト探偵……」

「まぁ、胡散臭いことだけは間違いない。ヤトちゃんも気をつけてくれ」

「それはもちろん。忠告助かったわ」

 

 ともあれ、ヤトちゃんはファイト探偵というワードに慄きつつも、俺の話を聞き入れてくれた。

 

「それにしても……ファイト探偵かぁ」

「何か心当たりとか、あるか?」

「いいえ。強いて言うなら姉さんだけど……姉さんには連絡が取れたのよね」

「ああ。連絡が取れない状況だったのはヤトちゃんだけだ」

 

 あの後、エレアとも話をしたしな。

 メカシィだって、いつも通りピガガピーしつつ七色(ゲーミング)に発光していた。

 いや七色に発光するのはいつもどおりじゃないな。

 

「とすると、やっぱり私のことかあ」

「そうなるな」

「でも、心当たりとなると――」

 

 ヤトちゃんは考え込みながら、途中で言葉を止める。

 心当たり、何かあったのだろうか。

 

「そうだ。店長たちが言ってた、私か<ショルメ>かわからない誰かの話」

「……ああ、そういえば」

 

 すっかり忘れていた。

 いや、忘れていたわけではないのだけど。

 ファイト探偵という胡乱すぎるワードが、先日のモンスターランドカーニバルで起きた出来事と今回の件が結びつくのを妨げていた。

 んで、その<ショルメ>事件っていうのはアレだ。

 コスプレブースで、様子のおかしいヤトちゃんと出会った話。

 もしかしたらアレは<ショルメ>本人なんじゃないか、という疑惑があったのだ。

 あの後、そのことをヤトちゃんにも報告したのだけど――

 

「私の答えは、今も変わってないわ。心当たりはない」

 

 答えはこれだった。

 ただ、同時にヤトちゃんは少しだけ不思議なことを言っていた。

 

「でも、私はその時間、コスプレブースで<ショルメ>のコスプレをしていた。店長達と話した記憶もある。ただ、内容はあんまり覚えていない」

 

 ――とのことだった。

 

「店長も知っての通り――私は、かつて『蒸気騎士団』の世界で暮らしていたモンスターだったかもしれないの」

 

 そしてぽつり、とヤトちゃんは切り出す。

 俺も知っての通り、とヤトちゃんは言うけれど、その事を直接ヤトちゃんから聞いたのはコレが初めてだ。

 もちろん、そうかもしれないとは思っていたし、きっとそうなのだろうな……とも思っているが。

 それはそれとして、断定することは今までしてこなかった。

 なぜなら、時期じゃないからだ。

 

「いずれ、私はその事実に直面すると思う。でも、こっちから向こうの世界に干渉できない以上。それは今じゃないと思ってた」

 

 こっちの世界から、「蒸気騎士団」の世界に干渉する方法はない。

 だから、向こうのアクションを待つしかないのである。

 なので俺もヤトちゃんも――ついでにハクさんやレンちゃん、それにエレアを含めたヤトちゃんの秘密を知る人は、誰もその事に触れようとしてこなかった。

 

「私は結局、姉さんの妹……ヤトでしかなかったの。今まではね」

 

 ヤトちゃんが、小容量の卵をカゴに入れつつつぶやく。

 

「私がこっちの世界で暮らし始めた時、私の世界は私と姉さんのふたりきりだった。学校に友達はいたけど、今のエレアや機関の人たちほど親しくはなかったわね」

「学校の中だけの関係ってところか」

「そ……その頃は、忙しくバイトと部活を頑張ってる姉さんのために家事を請け負ったり、一人で動画や漫画を見ながら時間を潰してた」

 

 一人でいる時間が多かったということだろう。

 孤独というほどではないけど、つながりと言えるつながりはハクさん以外になかったわけだ。

 

「ファイトはしてたのか?」

「まぁ、人並みにはね。学校でも誘われたら受けてたし、ただ――」

「ただ?」

「私、他人よりファイトが強かったの」

 

 この世界には二種類の人間がいる。

 ファイトが強い人間と、そうでない人間だ。

 前者が色々あって後者に落ちぶれることも、後者が努力の末に前者になることもままあるものの。

 端的に言うと、その時周囲の人間と比べて自分が強いのかどうかは、割とはっきりしている。

 

 ヤトちゃんは周囲の人間と比べるとファイトが強かった。

 そうなると、そんなヤトちゃんとファイトしたいと思う人間は限られてくる。

 そうなった場合、ヤトちゃんが取れる行動は二つ。

 よりファイトの強い場所に自分を移すか、現状を維持するかだ。

 そして――

 

「……私は、後者を選んだ」

「どうしてだ?」

「理由は一つじゃないわ。姉さんの負担になりたくなかったし、新しい環境に身を置くのが怖かったし。でも一番大きいのは――」

 

 ヤトちゃんは、足を止めてカゴに商品を入れながら少しだけ言葉を止める。

 

「――わからなかったから」

「わからなかった?」

「そう。自分がどうしたいのか、わからなかったの。あの頃の私は、この世界というものがよく理解っていなかったし」

 

 記憶喪失だったヤトちゃんにとって、その頃の世界はわからないことだらけの世界だった。

 一歩を踏み出すことだって、ためらわれただろう。

 

「まぁ、結果として姉さんの事件に巻き込まれる形で、私の時間は進み始めるんだけど――」

「……ヤトちゃんはこういいたいんだな? 今までヤトちゃんは、ずっと受け身だった」

「――そう、そのとおりよ。さすが店長、お見通しね」

 

 まぁ、ここまで聞けばな、と肩を竦める。

 思い返せば、ヤトちゃんの行動はあまり自発的ではなかった。

 決して自分から行動を起こさなかったわけではない。

 ただ、きっかけは向こうからやってきている。

 といっても、ヤトちゃんに起きた事件と言えば、闇札機関への加入と月兎仮面くらいだけどな。

 ――今までは。

 

「そして、多分今回も私は事件に巻き込まれる形で関わることになる」

「……そうなるだろうな」

 

 ファイト探偵。

 あの胡散臭い男が、ヤトちゃんの何を狙っているかはわからない。

 ただそれでも、ヤトちゃんをなにかに巻き込むことだけは間違いないのだ。

 

「でも」

 

 その状況で、ヤトちゃんは力強く続ける。

 

「ようやく私は、私の事件に巻き込まれることになる」

「闇札機関の事件に巻き込まれるのでもなく、ハクさんの事件に巻き込まれるでもなく……か」

「ええ、だから……今度こそ私は、私の考えで進みたいと思うの」

 

 それはどうして?

 そう、聞くことはできた。

 でも、聞かなかった。

 聞く必要がないとわかっていたからだ。

 なぜなら――

 

 俺達は、共に会計を終えて店を出る。

 念の為、家まで送っていくとヤトちゃんに申し出る。

 状況が状況だ、ヤトちゃんも拒絶はしない。

 エレアに少し遅くなると連絡すると、モチを焼いているスタンプが返ってきた。

 少しだけ顔がほころぶ。

 そして――

 

 

「お前が、ヤトだな?」

 

 

 ――()()()、そいつは姿を見せた。

 

 ファイト探偵、丹波スグル。

 

「お前にファイトを申し込む」

「……でしょうね」

 

 イグニスボードを構えて、ヤトちゃんと向かい合った。




今回はこの世界で暮らす人々の日常と世界観の掘り下げがメインなので、こういう話もあります。
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