カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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123 ファイト探偵は胡散臭い ③

 エレアはむくれていた。

 買い出しに出かけた恋人が、親友の送り狼になったからだ。

 まぁ、実際にはその親友が胡散臭い探偵を名乗るファイターに狙われていて、そんな彼女の付き添いとして恋人――店長が適任だっただけなのだが。

 

「それはそれとして、むくむくですよ、むくー!」

「メカシィもピガピガいたしますか? ピガガピー」

「しましょう! いきますよー!」

 

 閉店前で、客もいない店内で七色に光っているメカシィとエレアが同時にむくれる。

 

「むくー!」

「ピガー!」

 

 七色の光が、ひときわ輝いた。

 眩しい。

 

「それにしても、ヤトちゃんを狙う怪人ファイト探偵、一体なにものなのでしょう」

「公的エージェントでも、秘匿エージェントでもないのデスよね? ピガガピー」

「そうなんですよねー、名前からしてイグニッション星人系列のトンチキファイターな可能性が一番高いんですけど……」

 

 持って回った言い方に、メカシィが首を傾げる。

 

「どういうことでしょう。ピガガピー」

「店長曰く、態度は至って真面目だったそうなのです。見た目も、雰囲気も」

「変なファイターは、見た目からして変デスからね。ピガガピー」

 

 変なファイター筆頭とも言うべきメカシィの発言には、妙な説得力があった。

 エレアはカウンターの椅子に背中を預けて、天井を見上げながら考える。

 そして、ふとあることに思い至った。

 

 

「――そうだ、一つありました! 公的でも秘匿でも、トンチキでもないファイターの可能性!」

 

 

 勢いよく立ち上がる。

 メカシィが不思議そうにエレアを見る中、エレアはそのまま店の外へ走っていく。

 もともとエレアは店番をしているわけではない、このまま出ていっても問題はなかった。

 

「ちょっと店長のところに行ってきます!」

「行ってらっしゃいませ、ピガガピー」

 

 見送られながら、スマホで店長に連絡を取ろうとするも――失敗。

 おそらく、ファイトが生み出すご都合主義的な電波がスマホを圏外にしているのだろう。

 ダークファイトをしているなら、よくあることだ。

 まぁ、今店長――と、おそらくヤトがしているファイトは()()()()()()()()()()()はずだが。

 それでも、ダークファイトと似たような状況が発生している可能性は高い。

 

「間に合ってください……! でないと――」

 

 連絡に失敗したスマホを懐にしまって、エレアは駆ける。

 

 

「また、ヤトちゃんに関する事件が台無しになりかねません!」

 

 

 そう、零しながら。

 

 

 □□□□□

 

 

「私は<ダークランドヤード・ハスキー>をサモン」

 

 俺の眼の前でファイトが続いている。

 ヤトちゃんとファイト探偵丹波スグルのファイト。

 別に俺がファイトしてもよかったのだが、ヤトちゃんは今回のことで色々とやる気のようだ。

 ならば、俺は見守っているのが吉。

 もし万が一ヤトちゃんが敗れた時は、俺が雪辱を果たせばいい。

 

「闇をまとえ<ハスキー>……カウンターエフェクト! <ダークランドヤード・ナイトメア>発動……!」

「またそのカード……! ワンちゃんがかわいそうでしょ!」

 

 それにしても、ファイト探偵の使用デッキはなんというか胡散臭さ極まっている。

 「ダークランドヤード」デッキというらしいそのデッキは、一言でいうと闇っぽい犬のおまわりさんデッキだ。

 <ハスキー>がそうであるように、「ダークランドヤード」モンスターは犬系モンスターで統一されている。

 そのうえで、どこか警察っぽい意匠と禍々しい雰囲気を併せ持っている。

 

 そんな「ダークランドヤード」モンスターだが、こいつらには共通効果がある。

 「サモンした時、手札、デッキ、セメタリーから<ダークランドヤード・ナイトメア>を手札に加える」という効果だ。

 つまり、「ダークランドヤード」デッキはこの<ダークランドヤード・ナイトメア>を前提にしている。

 そして、このカードを使用すると禍々しい<ダークランドヤード>モンスターが更に禍々しくなる。

 ちなみに、どの「ダークランドヤード」モンスターにも<ナイトメア>の効果はあるが、<ナイトメア>は使用に同名ターン1枚の縛りがあるカードだ。

 なので、使うタイミングを選ぶ。

 そこで戦略が発生するから、見た目以外は中々面白いデッキだと思う。

 

 なんにせよ、これは悪のファイター。

 でも不思議なことにこのファイト、ダークファイトじゃないんだよな。

 使っているモンスターも、あくまで雰囲気が禍々しいだけだ。

 そうなると、ある可能性が頭をもたげてくるわけだが――ファイト探偵の使用デッキも「ダーク()()()()()()」だし。

 ま、今はヤトちゃんのファイトを見守ろう。

 

「闇に身を落とせ……ヤト!」

「なんのことだかさっぱりよ、アンタ私になにを求めてるの!?」

「ふん……記憶がないのか。小癪なマネを」

 

 ファイトを始めてから、怪しいのを隠さなくなってきたな。

 元々隠すつもりがあったのかは謎だが。

 

「この世界で、ずいぶんと気楽な生活を送っているようだな?」

「それがなんだって言うのよ」

「いいご身分だな。お前にそのような資格はない。ヤト、お前は闇の住人なのだ」

 

 ファイト探偵を名乗る男が、怪しい言動をしている。

 ヤトちゃんが闇の住人?

 ちょいと言ってることが唐突すぎるだろう。

 やつの言っていることに心当たりがないでもないが、端から聞いている分には真実を捻じ曲げているように聞こえた。

 嘘はいっていない、というやつだ。

 

「闇の住人? 確かに私は闇札機関のエージェントだけど、悪いことをした覚えはない!」

「ふん、なんとでも言えばいい。だが、これを受けても正気でいられるかな?」

「……何をするつもり?」

 

 ふと、ファイト探偵の様子がにわかにおかしくなる。

 というか、やつの雰囲気が明らかに不穏に傾いている。

 何かしでかす気だ。

 それこそ、悪魔のカードをサモンするときのような――

 

「私はカウンターエフェクト、<ダークランドヤード・カウンターナイトメア>を発動! その効果は<ナイトメア>と同様。しかし――対象は相手のモンスターだ!」

「私のモンスターを強化するつもり!?」

「お前の心の闇もろともな!」

「――!」

 

 ヤトちゃんが目を見開く。

 ヤトちゃんの場には現在、<ドリーマーナイツ・アリアン>と<蒸気騎士団(パンクナイツ) 獅子心王リチャード>がいる。

 それはヤトちゃんを代表するエースカードだ。

 そんなカード達を、闇が蠢き覆っていく。

 

「ヤトちゃん!」

 

 俺は叫んでいた。

 闇はヤトちゃんすら包んでいたからだ。

 あのカード、悪魔のカードではないものの、その効果は悪魔のカードに似通っている。

 使用することで、相手ファイターそのものに悪影響を与えるカード!

 似たようなところでいうと、デビラスが使用するカードはコレに近い。

 

「――ふ、ははは! 罠にかかったな、ヤト! これでお前の本性がさらけ出される! お前の本性をそこの男が知れば、そいつはお前から離れていくぞ!」

「ヤトちゃんの本性?」

「そうだ、よく見ておけ。この女の正体は――」

 

 そうして、闇の中からヤトちゃんが姿を表す。 

 その姿は――

 

 

 ――――なんの変化もなかった。

 

 

「世界を揺るがす大怪――――あれぇ!?」

「何驚いてるのよ、心の闇を強化するんでしょ? だったら、私に心の闇がなければその効果は不発に終わる。当然の結果じゃない」

「バカな!」

 

 おののくファイト探偵。

 ヤトちゃんは無事だった。

 ヤトちゃんのモンスター達も、迫りくる闇を掴んで動けなくしている。

 ……あ、砕いてパワーとして取り込んだ。

 

「お前には姉との確執が生まれているはずだ!」

「…………何の話?」

「え?」

 

 首を傾げるファイト探偵。

 あ、俺の方を見た。

 いや、俺を見られても困るぞ。

 俺もなんのことかわからんからな。

 

「……とにかく、私は私の考えで、私の選択をする」

 

 こほん、と咳払いをして。

 ヤトちゃんは正面からファイト探偵を見て、言った。

 

「たとえ私が、どんな過去を抱えていようとも。それを受け止めて前に進む。姉さんが、店長が、エレアが……みんなが私に居場所をくれたから」

 

 かつて、ヤトちゃんの世界は小さかった。

 姉と自分、二人だけの世界。

 そんな孤独な世界は、いつの間にかどんどん大きくなっていく。

 闇札機関に所属し、エレアと親友になり。

 俺の店の常連になった。

 

「私は、これまでもらってばかりだった! だから今度は、その恩をみんなに返す番! みんなを守るという形で!」

 

 そして、ファイト探偵が強化した二体のモンスターでファイト探偵を攻撃。

 ヤトちゃんはファイトに勝利する。

 本来なら、闇に染まったせいで攻撃を宣言できなかったり、一方的にファイト探偵を蹂躙していたのだろう。

 だが、そんなことは起こらない。

 居場所をもらった恩で、前に進むことを選ぶヤトちゃんに、そんなことは起こらない。

 

「ば、かなぁ……!」

「それと……アンタに正体を少しでも隠すつもりがあったなら、そのファイト探偵とかいう自称はやめときなさい。ぶっちゃけシュールで浮いてたわよ」

「――――えっ」

 

 そして最後に、ファイト探偵は素に返った。

 

「いやだって、この世界の正義の味方はそんな名前が普通だと……」

「一部はそうだけど、一部を見ただけで全てがそうだと……判断するな!」

「ば、ばかなあああああ!」

 

 かくして、ファイト探偵丹波スグルを名乗る何者かは――消えていった。

 その消え方に、俺は覚えがある。

 異世界の存在が、元いた世界に帰る時。

 ああいう消え方をする。

 具体的に言うと、エレアの次に現れた帝国の奴と同じ消え方だった。

 ファイトもそんなに強くなかったし、ファイト探偵も木端の雑魚だったんだろうな。

 

「にしても……ごめんね店長、巻き込んで心配させちゃって」

「いいさ、若人を守るのもショップ店長の役目だからな。それにしても――」

「……ええ、今の」

 

 俺達は頷き合う。

 

「――『蒸気騎士団』世界からやってきたのでしょうね」

 

 『蒸気騎士団』。

 実はモンスター疑惑のあるヤトちゃんの、出身世界かもしれない世界。

 <探偵ショルメ>の件を考えれば、それ以外はありえないだろう。

 闇札機関にヤトちゃんが加わってしばらく。

 ようやく、再びヤトちゃんの物語が幕を開けるのだ。

 

「必ず、事件を解決してみせる!」

 

 そう、固く決心するヤトちゃん。

 

 

 ――しかし、それから結局、『蒸気騎士団』世界の連中がヤトちゃんに接触してくることはなかった。

 

 そして俺は、なぜかエレアとレンさんから何とも言えない視線を向けられるのだった。




はい。
異世界+バグ案件とかいう、店長が関わるのもやむなしな事件でした。
ファイト探偵(笑)は泣いていい。
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