カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
左右に並んだ、白い仮面を付けて神職っぽい和服姿の人々が恭しく礼をする。
その中を、レンさんはためらうことなく進んでいった。
俺とエレアが、その後ろをおっかなびっくり進んでいく。
「レンさんはともかく……店長は動じてなさすぎじゃないですか?」
「動じてはいるさ。ただまぁ、初めてのことじゃないからな」
明らかに厳かなお屋敷の中へと入る。
そこは明らかに外とは違う隔絶した世界で、空気もそうだが――気配が違った。
自然とここが、神聖な場所であることを俺達に伝えてくる。
そんな場所に俺達はやってきていた。
俺がこういう場所へやってくるのは、かれこれ数回目のことだ。
特火室――特殊点火事件対策室、この国の公的エージェント機関――の秘奥とされる蔵の中とか。
この世界の“マナ”――つまるところファイトエナジー――を守護する世界樹を祀る秘境の中とか。
そういう、神聖かつ特別な場所を訪れた経験は過去に何度かある。
大抵はダイアの付き添いだが、一応は客人として。
「さて、天の民、瞳の民」
「ひゅい、なんでしょうレンさん」
「そう緊張するな、取って食ったりはせぬ。ともあれ――」
屋敷に入って、レンさんは俺達に向かって振り返る。
普段は黒ゴスばかり着ている彼女は今、ソシャゲの巫女キャラが着ていそうな巫女服を身にまとっている。
コレが正装なのだとか。
そんな彼女は笑みを浮かべて――
「ようこそ、我が“一族”の総本山。“社”へ」
そう、俺達に告げた。
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俺達は、現在レンさんに招待されて彼女の実家を訪れていた。
一族の総本山、もったいぶってそう言っているものの、レンさんの実家であることに変わりはない。
“社”、エゴサする時にめちゃくちゃ大変そうなその名前こそ、この組織の名前。
レンさんはそんな組織の長の娘として産まれたのだ。
んで、その組織が何をしているのかというと単純。
この国の秘匿組織の管理である。
この世界には無数の秘匿組織が存在し、中には実態が怪しいものもある。
場合によっては、秘匿組織の皮を被ったダークファイター集団であるかもしれないのだ。
そんな連中を、可能な限り把握して管理――はできなくとも監視をするのが社の仕事。
世界には、こういう組織が各地に存在するのだ。
欧州ならユースティア家。
アメリカなら財団といった組織がこれを管理している。
じゃあなんでそんなすごい組織に俺が呼ばれているのかというと――謎だ。
レンさんからは、社に遊びに来ないか、としか言われていない。
なぜ呼び出したのかも秘密、とのこと。
エレアが一緒に来ている理由は本人曰く、実家にお呼ばれするとか付き合ってるみたいなイベント認めませんよ! だそうだ。
別にそんなことは一切ない、というか俺の恋人は生涯エレアだけだ。
「しかし、スタッフのかたが全員仮面を被っていますねぇ」
「ここは秘匿組織の中でも、特に秘匿性が高い組織だ。昔は顔を知られたら呪われたりしたからな、その名残というのもある」
行き交う人々は皆仮面を着けている。
厳かな組織なのだから、そういうものだと言えばそこまでだが。
要するに慣習らしい。
昔から仮面をつけるのが生業だから、今もそうしているだけ……ということだろう。
「夏場は暑くないですか?」
「通気性に関しては、様々な工夫が凝らされている。それに、仮面を着けて外に出るわけではないからな」
外では普通にスーツ姿で行動するらしい。
そりゃそうだ、秘匿組織なんだから一般に溶け込まないと。
「後気になったのは……強いファイターが少なくないか?」
「昔は、社にも精鋭が詰めていたがな。今の時代は正直社に守るべき価値はない」
社、というのは特殊な組織だ。
かつてはこの国の護国を司る最重要機関だった。
しかしそれが政治やらなんやらのあれこれで、少しずつ権力が分散していった。
最終的に表向きの実働部隊である特火室と、裏向きの組織である社に別れた。
そのうち社は、現在その戦力がほとんど外部に依存しているという。
「我の闇札機関がその典型だ。“一族”は現在、社の下部組織として各地に秘匿組織を作り活動している」
「なんでまたそんな事になったんですか?」
「社は秘匿組織だが、その存在は公に知られてしまっているのだ。歴史書に名前が残っているからな。それでは秘匿組織の意味がない」
これは、何も“社”に限った問題ではない。
欧州のユースティア家も古くから世界を守ってきた一族。
そのせいで、その名前は広く世に知られていた。
ちなみにユースティア家の場合は、表向きには現在エージェント機関としての地位を返上している。
現在のユースティア家は、世界有数の大財閥だな。
その裏で、色々と世界を守るために頑張ってるわけだ。
なお“財団”はそもそも発足が数百年前と、新しい組織なので秘匿を維持している。
「それに、社の守り自体はないわけではない。鬼門の方角には、社を守護する聖獣が待機している。後で挨拶をするといいだろう」
「聖獣……」
「この国最強のエージェントの一人だ。異世界からやってきたモンスターが、この国に根付いて子供を作った結果産まれた一族らしい」
「我の
つまり社は、最強ファイター――それこそ俺やダイア、エージェントでいうとレンさんや周防さんレベルのファイターが一人で防衛を担っているらしい。
直接会ったことはないが、レンさんや周防さんから度々話は聞いている。
以前、とある事件でダイアと本気でやりあったこともあったとか言ってたな。
「それにしても、不思議な組織ですねぇ、“社”。闇札機関ともまた違いますし」
「あそこは所属しているのが学生だけだから、また特殊な例ではあると思うが」
「社が特殊であるというのは、否定しないぞ。闇札機関に関しては、学生ノリ以外はだいたいどこもあんなものだ」
俺の知っている限りだが、秘匿組織というのは二種類ある。
一つは社によって管理された、健全な組織。
闇札機関はそもそも社の”一族”が直接運営している健全極まりない組織だが、他にもきちんと社の認可を受けた外部組織もコレに当たる。
正体を明かしていないだけのエージェント機関。
レンさんの闇札機関が、学生だけを受け入れているように。
公的エージェント機関で働きにくい人材を受け入れる側面もある。
少し特殊だが、秘境を管理する境界師組合もこの一種だ。
秘境の存在は基本、秘匿されるからな。
外の世界で働こうと思う場合、秘匿組織に所属するのが都合がいい。
そしてもう一つが、社の監視対象である怪しい組織。
闇札機関から、学生特有のノリを取り除いた組織をイメージしてもらえればいいだろう。
つまり、ガチで学生をエージェントとして雇用している組織とかだ。
規則とかもかなり厳しく、俺達が闇札機関本部を訪れた時最初に出会ったリオンさんのような振る舞いが常に求められる組織。
ううん、息苦しい。
まぁ、ラノベ的中二組織としてはこちらの方が正しいっちゃ正しいのだが。
現代的かといえば、全く以て否である。
「監視対象の組織はなぁ、たとえダークファイターの隠れ蓑でなかったとしても、あくどいことをしていることが多い」
「というと?」
「給料未払とか」
「そっち方面のブラック!?」
いやまぁ、秘匿組織っていうのも非営利で成り立つものではないからな。
基本的には、ダークファイターを捕えた報酬とか、手に入れたレアカードの売買で経営を成り立たせるものだ。
中には、金儲けのために秘匿組織を運営するあくどい輩もいる。
そういう組織は、何かとブラックになりがちなんだよなぁ。
「ま、そのための社なのだがな」
「それはそれで、社も大変そうですねぇ……世知辛い」
「うむ。それはそれとして、ついたぞ」
そう言って、レンさんが足を止める。
そこは、ひときわ豪華な扉の前だ。
「ここが我が社の中心、父上が仕事をするための執務室だ」
そう、俺達を呼び出したのは、レンさんの父親。
現在、この社を管理する長にして、“一族”の現当主である。