カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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128 “一族”の社にて ②

 “一族”の当主。

 “社”の長。

 なんとでも言えるが、この国のエージェント機関に属する人間の中では、おそらくイチニを争う偉い人。

 ネオカードポリスの塚部さんとか、偉い人は各組織にいるけれど。

 社の当主に会うのはこれが初めてだ。

 少しばかり緊張する。

 

「どんな方なのでしょう」

 

 逆にエレアは、完全についてきただけなので、本人感覚ではおまけ扱いなのか気楽なものだ。

 

「厳格だが、優しい父上だ。……生真面目すぎるところもあるが」

「……聞いてる限りだと、普通の父親だな」

「うむ、自慢の父上だ」

 

 と言って、レンさんが戸を叩く。

 沈黙。

 なんとなく緊張するな。

 そしてしばらくしてから――

 

「開いている」

 

 と返事が返ってきた。

 なんというかこれは、アレだな。

 

「失礼するぞ!」

 

 そしてレンさんはためらわない。

 元々身内なのだから当然だけど、相手が身内でなくともレンさんはためらわないだろう。

 そして戸が開いて、中には――

 

「――――」

 

 

 筋骨隆々、凄まじい威圧感の御仁が待っていた。

 

 

 威圧感、やばい。

 見ろ、エレアが完全に震えた子鹿みたいになっている!

 仮にも元軍人のエレアがだぞ!?

 そりゃまぁ、自分は関係ないと思って油断してたとしてもだ。

 いやぁ、すごい。

 存在感がここまで伝わってくる。

 さすがは秘匿組織“社”の長といったところか――

 

 と、言いたいところだが。

 ふと、俺はあることを感じていた。

 ただそれをいきなり口に出すわけには行かず、彼に招かれるまま中に入る。

 

「帰ったぞ、父上!」

「うむ、壮健そうで何よりだ、レン」

 

 父と娘の会話。

 それだけで、なぜか空気が震える。

 エレアがカタカタし始めた。

 

「おおおおお、おはつおめにかかりましゅっ、棚札エレアともうしましゅ!」

「エレア!?」

「え、あ!? 思わず願望が!?」

 

 なんかとんでもない事を口走ったな!?

 否定はしないけど、まだ早い!

 

「――」

 

 対するレンさんの父親は、少しエレアの方を見る。

 あ、エレアが威圧感にやられてうごけなくなった。

 そして、沈黙。

 とても気まずい。

 

 そして――――

 

 

「――――ハハハハハ!」

 

 

 彼は、楽しげに笑った。

 んえ? とエレアが正気に戻る。

 

「いや、なんとも。レンから君たちが恋仲であるとは聞いていたが……仲睦まじいようで何よりだ」

「あ、ありがとうございます?」

 

 首を傾げるエレア。

 状況が飲み込めていないな。

 

「改めて、私はキヨシ。“一族”の当主及び“社”の長を務めている。レンが世話になっているな」

「カードショップ“デュエリスト”店長、棚札ミツルです。よろしくお願いします」

「ああ」

 

 なんとも、相変わらず威圧感はすごいものの。

 穏やかな雰囲気で俺とレンさんの父親――キヨシさんは握手を交わす。

 その後、おっかなびっくりエレアも握手をしていた。

 

「まずは、社にご足労いただき感謝する。いかがだったかな、社の雰囲気は」

「何とも厳かな様子で、歴史を感じましたよ」

 

 そうして、促されてめちゃくちゃ体が沈み込むソファに腰掛けつつ、雑談に移る。

 途中、リュウナさんが部屋に入ってきて飲み物をだしてくれた。

 雰囲気バッチリ、熱々の緑茶だ。

 んで、しばらく歓談した後。

 

「ええとそれで……お話というのは?」

「そうだな……いくつかあるのだが」

 

 ちびちびと緑茶を呑んでいるレンさんを、キヨシさんが見る。

 

「まずは、普段のレンの様子を聞かせてもらえないだろうか」

「んぐっ! けほけほっ、父上――――!?」

 

 そして、思わずといった様子でむせたレンさんが、すごい剣幕で立ち上がってキヨシさんを見る。

 まぁ、娘としてはそういうのを自分のいる場所で話されたくはないよな。

 

「やめろー! 天の民もはなすではないぞ!」

「ははは、この通り娘は恥ずかしがり屋なので、普段の様子を話してくれないのだ。仕事の成果はきちんと報告するのだがな」

「そうですね……」

「やめろと言っているだろうがー!」

 

 恥ずかしそうに叫ぶレンさんだが、ここは聞かれたことを話さない理由はない。

 そういう流れだからな。

 

「常に感じるのは、レンさんの真面目さですね。どんなことにも逃げずに取り組んでいるところは尊敬に値します」

「レンは昔から、何でもできたからな」

「あまりにも器用すぎて、一体どこにそんな時間があるのかわからないところも、すごいと思っています」

「レンは時間を圧縮できるからなぁ」

 

 レンさんの多才っぷりは、父親から見てもすごいとしか言いようがないらしい。

 まさか、GCH(ジーニアス・チルドレン・ハブ)でも名前が出てくるとは思わなかった。

 なんて話をするたびに、レンさんが顔を真赤にしている。

 

「むああー! そろそろそこまでにせよ! すねるぞ、父上!」

「あああ、それはすまないレン。だからすねないでくれ、おまんじゅう上げるから」

「ここの菓子はジジくさい!」

「ぐふっ」

 

 レンさんをなだめるために、おまんじゅうとかせんべいを見せたキヨシさんがカウンターを食らって沈んでしまった。

 他には黒飴とかお茶請けに置いてある。

 祖父母の家にしか置いてないようなお茶請け……!

 

「まぁ、アレです。他にもレンさんのことを詳しく聞きたかったらそうですね……」

「レンの組織の子と話をしたことはあるのだがね、萎縮されてしまったよ」

 

 キヨシさんは優しい人だが、とにかく威圧感がすごいようだ。

 闇札機関の学生達が相対したら、それはもう縮こまってしまうだろうなぁ。

 なんだかんだ、あの後普通にガチガチで一言も発せられていないエレアみたいに。

 そういうことなら、絶対に物怖じしないレンさんの知り合いを紹介しよう。

 

「でしたら、ネッカ少年はどうでしょう」

「ふむ、名前は聞いたことがあるが……」

「彼はいずれダイア……逢田トウマに並ぶ逸材です。キヨシさん相手でも物怖じしないでしょう」

 

 ダイアの名前を出すと、キヨシさんが目を見開く。

 まぁ、なんとなくあるとは思ってたけど、ダイアとの面識があるようだ。

 俺の口から「いずれダイアに並ぶ」とまで評すれば、ネッカ少年に興味を持つのはむべなるかな。

 

「何より、彼はレンさんの同級生ですから」

「――ほう、レンの同級生にそんな逸材が」

「んひぃっ」

 

 おっと、キヨシさんの威圧感が増した。

 親ばかというやつなのだろう、レンさんがまたキヨシさんを睨んでいる。

 そして威圧感を受けてエレアが更に縮こまった。

 

 まぁでも安心してほしい、レンさんとネッカ少年は世界観が違うから深く交わることはない。

 少なくとも、同級生として親交はあるがそれ以上の関係ではないな。

 

「我と熱血の民は学友以上の関係性はない!」

「そ、そうか……」

 

 ほっと胸をなでおろすキヨシさん。

 なんというか、見た目の威圧感はすごいが印象としては普通の人だ。

 生真面目なレンさんの、父親。

 まさに似た者同士というか、なんというか。

 

 さて、話は続く。

 ネッカ少年の話から、ダイアの話に移って。

 どういう経緯でダイアとキヨシさんが知り合ったのか……とか。

 周防さんの息子さんが反抗期だとか。

 そういうちょっと踏み込んだような世間話を交えつつ。

 

「そうだ、店長くんは我々一族の母体が陰陽寮であったことは存じているかな?」

「レンさんの組織が、十二天将を役職名にしているあたりで、なんとなくは」

「アレは欠陥システムだと思うのだがなぁ、そろそろ改修したらどうだ?」

「うるさーい!」

 

 それはそれとして、陰陽道。

 キヨシさんが何を言いたいのか考えていると――

 

「一つ、一族の卜占を試していかないかな?」

 

 と、キヨシさんが言った。

 言いながら、彼が取り出すのは二枚のイグニッションファイトのカードだ。

 それを俺とエレアの前に差し出す。

 

「といっても、これはカードを使った一種のお遊びだが。どうかな?」

「え? え? あ、えっと」

「いいんじゃないか?」

「じゃ、じゃあせっかくですし……」

 

 困惑した様子で俺の方を見るエレアに頷く。

 自主性を発揮したいエレアだが、流石にこの場でそれを発揮するのは無茶だろう。

 そうしてエレアが引いたカードは――

 

「……ミチルちゃんじゃないですか!?」

「ほう、<極大天使ミチル>か。いいカードを引くな」

 

 言いながら、残り一枚を俺に差し出すキヨシさん。

 なんでもこの占いは、パックから出たカードをお互いに見ずに引いて、どんなカードを引いたかによってその後の運勢を占うものらしい。

 エレアが<ミチル>を引くのは、どういう暗示なのだろう。

 なお、キヨシさんは引いたカードをそのままプレゼントしてくれた。

 四枚目だが、普通に嬉しそうなエレアである。

 

「んで、俺は――」

 

 言いながら引いたカードは――

 

 

「白紙の、カード?」

 

 

 何も、描かれていなかった。

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