カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
何も書いていないカード、というのは時折存在する。
大抵それは、何かしらいまだこの世界に存在していないモンスターを収めるためのカードだ。
ぶっちゃけてしまえば、パワーアップアイテム。
こう、いい感じの展開で覚醒するとカードにモンスターが出現するアレだ。
でも、今更俺にそんなパワーアップアイテムが必要になることなんてあるか?
まぁ、必要になることは今後起きるかも知れないが。
<グランシオン>デッキを使うようになったダイア相手にも新エースを創ったり入手したりしなかった俺が、今後新たな新エースを使うとは思えないんだけどな。
仮にそんな事態がおきたとしても、今ではないだろう。
とするとこれは――
「やはり、君の運命は占いでは測ることができないようだ」
「……そういうことですか」
単純に、占いの結果をカードが示せなかったということ。
まぁ、あり得ない話ではない。
俺は転生者だし、この世界の運命から逸脱した存在だ。
そしてこの結果をキヨシさんが予見していたということは――
「君を呼んだ理由は他でもない、占いに関することだ」
「と、いいますと」
「先日、部下が奇妙な卜占を私のところに報告してきたのだ」
――ようやく、話が本題に入った。
いや、キヨシさんにとっては最初の雑談も本題だっただろう。
俺にとっても、かなり貴重な話を聞くことができた。
それはそれとして。
「今日、この“社”で史上類を見ない出来事が起こる、というのだ」
「史上類を見ない出来事……?」
「ああ、詳細は不明。それが吉事なのか凶事なのかすらも、ね」
なんでも、こんなことかつて歴史上一度もなかったらしい。
普通、占いというのは良いことだろうと悪いことだろうと、何かしら方向性を示すものなのだとか。
破滅の予言も、救済の予言も等しく。
そういうものなのだと、キヨシさんは言う。
「だから、ただ史上類を見ないとだけ言うのはありえないことだ」
「なるほど……ですが、なぜ俺に?」
「それこそ、理由は先程のカードが答えだよ」
言いながら、俺の手にある何も描かれていないカードにキヨシさんは視線を向ける。
「君は特別な運命を歩む人間。占いの結果すら、君の運命が書き換える――とレンが言っていてね」
「ほらアレだ、
なるほど、シズカさんがダークイグニッション星人のセールスに引っかかった時みたいなやつだな。
俺は真面目なでかい事件に関われない体質だから、それを利用して事件の種類を判別するのだ。
俺が関われるってことは、たいしたことのない事件かギャグ系の事件であるというアレ。
というわけで、
「そういうわけなのだ。店長くん、エレアくん。……今日一日、社に泊まっていってはくれないだろうか」
これが、キヨシさんの本題だった。
もちろん、否やはない。
とはいえタダで引き受けるというのも、向こうのメンツ的に困るだろう。
刑事さんのアレだって、報酬をもらって仕事としてやっていることだからな。
「それなら、一つお願いがあります」
「ほう、何だね」
「――俺と、ファイトしてもらえませんか?」
そして、ここで頼むならこれしかない。
普段、キヨシさんは組織の長として多忙な日々を送っているだろう。
こういう機会でもなければ、ファイトを挑む機会がないのだ。
対するキヨシさんは、
「いいだろう」
凄まじい威圧感を、噴出させた。
思わず、エレアが息を呑む。
とんでもない圧の暴力。
これが、――これが”一族”当主!
レンさんの、父!
――ん? レンさんの父?
少し疑問が浮かんだものの、俺とキヨシさんはイグニスボードを構えた。
「「イグニッション!」」
かくして、ファイトが始まった。
□□□□□
そして、即決着がついた。
「まいった!」
瞬殺である。
あっという間に俺が勝ってしまった。
うん、コレはアレだな。
「……レンさんと同じ奴!」
エレアが思わず突っ込んでいた。
いわゆる、ダークファイトでないと全力を発揮できないというやつだろう。
「違う、間違っているぞ瞳の民!」
「そ、そうなんですか?!」
「父上は――普通にファイトが弱い!」
レンさんが宣言すると、キヨシさんは崩れ落ちた。
自覚していても、娘に言われるとこたえるものがあるのだろう。
というか、最初に会った時感じた違和感はこれだったか。
なんというか、威圧感に対してファイターとしての気配が希薄だと思ったんだよな。
「父上は、その威圧感と事務処理能力の高さを評価されて、当主を任されたのだ」
「ファイトの強さで言えば母さんが当主をするべきなのだが、彼女は基本的に人の上に立つのに向いていないからな」
母さん。
キヨシさんの奥さんで、レンさんの母。
現在は行方不明なのだとか。
ハクさんのご両親といい、行方知れずの親世代が多いな。
行方不明って時点で、生きてはいるのだろうけど。
この世界にいない可能性は高い。
「強いファイターと戦いたいなら、
「”社”最強のファイター……楽しみにしておきます」
なんて話をして、俺とエレアの社滞在が始まった。
――そして、何事もなく一日が経過して、俺達は社を後にした。
特筆するべきことは何もなく。
社最強ファイター、聖獣の少女とのファイトは白熱した。
彼女に関しては……いずれまた触れることもあるかも知れないが、とにかく。
徹頭徹尾、何一つ「史上類を見ない」ことは起きなかった。
「結局、何だったんだろうなぁ。史上類を見ないこと……って」
「……さあ、何でしょうね」
かくして俺は、なぜかこちらと視線を合わせようとしない半笑いのエレアを伴って、この国最大の秘匿エージェント組織“社”を後にするのだった。
□□□□□
”店長”とその奥さん(予定)が社を去った後。
どこかホッとした様子で、レンとその父親、キヨシが胸をなでおろしていた。
「……何事もなく乗り切れたな、父上」
「そうだな、レン。……最初に卜占の報告を受けた時はどうなることかと思ったが、ここまで穏便に終わるとはなぁ」
「それもこれも、天の民のおかげだ」
ふふん、となぜか胸を張るレン。
どこか微笑ましい視線をキヨシが向けると、レンはそれに対して唸った。
レンもまた、反抗期だ。
「初めて聞いた時はびっくりしたけれど――看過できない事件を先んじて“潰す”運命の持ち主。彼は本当に面白い逸材だ」
「そうだろうそうだろう、我の自慢の店長だ」
――今回、店長を社に招いたのは、事件の判別をするためだ。
その中には、事件を先んじて潰す可能性をレン達は考えていた。
まぁ、結果としては何も起こらないパターンを引いたわけだが。
「これで、スーパーイグニッション星人とかが侵略してきたら、大変なことになっていたなぁ」
「対抗できるのが天の民と瞳の民と
最悪の可能性はギャグパターンだったが、幸いにもそのパターンは起こらなかった。
いや別に、ギャグパターンならそれでもいいのだが。
「史上類を見ない」ギャグ展開など、何が起こるかわかったものではない。
起きないなら、それに越したことはないのだ。
「しかしそうなると、一体何が史上類を見ない出来事だったのか――」
「それなのだが、父上」
と、そこで少し言いにくそうにレンが言う。
「瞳の民が、帰り際に言っていたのだ」
どこか気まずそうに、視線を逸らすレン。
父であるキヨシとしても、こんなレンを見るのは初めてのことだった。
そんなレンは――
「……天の民が、社に来る。これではないか?
「古式聖天使の御使いが社を訪れる」。
それは確かに、これまでに類を見ない出来事だった。
エレアがいの一番に気付くのも当然というもの。
かくして、納得を伴う沈黙が降りる。
何とも言えない空気の中――
「――まぁ、結果オーライというやつだろう」
キヨシは、そう纏めるのだった。
そういえば、レンさんの時間圧縮は能力ではなく技術です。
すごい。