カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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130 やさしい先生に導かれ ①

 言うまでもないことだが、俺の店の常連であるネッカとクローにアツミちゃん、それから一応レンさんは小学生だ。

 ということは彼らには担任の教師がいるということで。

 実は俺も面識がある。

 やさしいと評判の、良い先生だ。

 そんな先生がある日、俺に頼みたいことがあると言って店までやってきた。

 

「本日は時間を取ってくれてありがとうございますね? 店長さん」

「いやいや、これもネッカ達のためですから。――クルミ先生」

 

 皆倉クルミ先生。

 ふんわりとした茶髪のセミロング、おっとりとした雰囲気の女性だ。

 確か俺の一つ下だった気がする。

 情報元はエレアだ。

 

 んで、俺達は現在バックヤードでクルミ先生の話を聞くため席について向かい合っている。

 エレアが「粗茶ですが」とかいって常備してあった冷えた麦茶を置いて、店の方に戻っていった。

 今日は俺とエレアの二人が店番をしているからだ。

 

「ふふ、店長さん。エレアちゃんとやっと付き合い始めたんですっけ? おめでとうございます」

「久しぶりに会う人間全員から言われてるよ、クルミ先生」

「あらあら」

 

 あいも変わらずマイペースな人、といった感じ。

 なぜかこういうふわふわ系の優しい人ってホビーアニメだと豹変しがちな気がするのは気のせいだろうか。

 まぁ、クルミ先生はそんなことないんですけど。

 今のところは。

 

「じゃあ、本題に入りますね? 実は今日は、店長さんにお願いがあって来ました」

「いつものヤツかな? もちろん、構わないですけど」

「はい。店長さんに、ファイトに関する授業の講師をやってもらいたいな……って」

 

 ファイトに関する講師。

 実は、カードショップ店長としては割とありふれた業務だ。

 この世界にはファイトインストラクターという資格が存在し、それを専門とする職業もあるわけだが。

 講義をする時に、いついかなるときもファイトインストラクターを確保できるわけではない。

 そこでカードショップ店長に依頼して、講師をしてもらうことがある。

 

 ショップ店長は、人々にとってのファイトへの入口だ。

 これほどカードのことを教えるのに向いている存在もいないだろう。

 何より、大抵の店長はファイトインストラクターの資格を取ってるからな。

 

「今回はどんなことを教えれば?」

「えっと……タッグファイトをみんなにやってもらおうと思うんですよぉ……」

 

 タッグファイト……なるほど。

 前世ではあまりやる機会もなかったけれど、アニメとかだとタッグでのカードバトルは定番だ。

 作劇的に便利なんだよなぁ、協力プレイとか描きやすいし。

 

 この世界におけるタッグファイトは、それ専門のプロファイターも存在するカテゴリだ。

 いわゆるダブルスみたいな。

 ダークファイトでも、時折タッグファイトに発展するときもある。

 いつだったか、ネッカ少年とクロー少年が喧嘩してしまった理由も、タッグファイトに原因があったな。

 んで、そんなタッグファイトだが、わざわざ講義で教えるのには訳がある。

 

「タッグファイトは、やる機会がないととことんやらないからなぁ」

「そうなんですよぉ。私のクラスでもやったことあるのは四人だけで」

 

 ネッカ、クロー、アツミちゃん、レンさんだな。

 とかく、タッグファイトはやろうと思わないとやる機会がない。

 タッグを組む相手とのデッキ相性が悪いと、お互いの足を引っ張ることにしかならないためだ。

 墓地利用デッキと墓地メタデッキが組むとか最悪に近いぞ。

 

 逆に、専用にチューンされたデッキ同士が織りなすコンビネーションはまさしく芸術。

 自分はやらないけど、見るのは好き。

 そんな人が多いのがタッグファイトというカテゴリだ。

 

「でもやっぱり、多少は経験があると見方も変わってくると思うんです」

「お互いの足を引っ張り合うのも、授業の中でならいい経験……ってことですか」

 

 俺の言葉に、クルミ先生はうんうんと頷く。

 なるほど確かに、多少の失敗も失敗して良い状況なら悪いことではない。

 いつぞやのネッカ少年とクロー少年のアレは、今までやったことないタッグを即席でやったことも喧嘩の原因だったというしな。

 まぁ、あの二人は基本お互いに対して、衝突してからコミュニケーションを取っているのでいつだってタッグの相性は最悪だが。

 

「そういうことなら解りました。じゃあ早速だけど、講義の流れを考えないと」

「あ、ありがとうございます。それなら、ある程度の案は考えてるんですけどぉ」

 

 というわけで、俺としても中々興味深いテーマだ。

 講師の経験も初めてではないので、受けない理由はない。

 早速、本格的な話に入っていこう……というタイミングで、勢いよく扉が開いた。

 

「話は聞かせてもらいました!」

「うお、聞いてたのかエレア。……業務の方は大丈夫か?」

「今は常連しかいませんよ!」

 

 なら、何かあったら気軽に声をかけて貰えばいいか。

 仮に知らないお客さんが来ても、エレアならそれを察知して接客に戻れるし。

 

「とにかくですよ! タッグファイトの講義ということは、店長のお相手が必要になりますね!?」

「いや、別にクルミ先生でも、生徒の誰かでもいいんじゃ――」

「必要になりますよね!?!?!?!?!?」

「あ、うん」

 

 そっすね。

 というわけでエレアが俺のパートナーとして講義に参加することとなった。

 まぁ、パートナーなのは事実だしいいだろ……子どもたちにからかわれて恥ずかしいのはエレアだし。

 

「いやぁ、私も参加してみたかったんですよ……店長の講義」

「今までは店員が俺とエレアだけだったから、俺が講義してる時はエレアが店番してないといけなかったからな」

「ありがとうございますメカシィさん!」

 

 参加したい理由は真っ当だった。

 今まで寂しかったのだろう。

 おおよしよし。

 

「というわけで、私の案も少し聞いてもらっていいですか?」

「いいですよ、エレアちゃんと一緒にお勉強ができると、私も嬉しいですから」

「く、クルミ先生ーーーっ」

 

 ううん、母性。

 相変わらず、聖職者という言葉がよく似合う教師だ。

 彼女のような先生になりたいものである。

 

 

 □□□□□

 

 

 そして、講義当日。

 俺とエレア、それからクルミ先生とそのクラスの生徒は、学校の体育館に集まっていた。

 ネッカ少年達が通う小学校の体育館だ。

 普段はここで、ドッジボールやファイトをして遊んでいるらしい。

 ううん、小学生。

 

 どうでもいいけど、俺の人生において小学生の時期ってあんまり印象がない。

 前世のそれはもう半世紀近く前のことだし、今の人生は中学以降にイベントが集中しすぎている。

 小学生時代に、近くにネッカ少年のような主人公タイプがいなかったんだよなぁ。

 

 んで、集まって体育座りをしている子どもたちの様子を見ると、ネッカ少年とクロー少年が目を輝かせている。

 普段はここまで彼ら――特にネッカ少年――が授業に熱中していることはないそうなのだが、やはりファイトに関する講義となると違うようだ。

 俺が講師をしているから……というのは、ぶっちゃけそこまで理由ではないと思う。

 だってあの二人の場合、別にこうして俺が講師として学校に赴かなくても向こうから話を聞きに来るだけだし。

 

 どっちかというと楽しそうにしているのは、レンさんだな。

 普段、レンさんは学校に来れない日の方が多いとのことだけど、俺が講師をする日は事前に確認して予定を空けるらしい。

 今日も、俺の講義が始まるのを周囲の学友と楽しそうに話をしながら待っている。

 ああいうレンさんを見る機会は俺視点だと稀なので、ほっこりするな。

 

 んで、それはそれとして。

 

 子どもたちの視線は、俺の横の”そいつ”に集中していた。

 何だあれ、とか。

 瞳の民はバカじゃないのか、とか聞こえてくる。

 そう、俺の横に立っているのはエレアだ。

 

 ただし――

 

 

『ふご、ふごご、ふご』

 

 

 きぐるみを着ていた。

 やたらと出来のいい、デフォルメされた<サーヴ・タイガー>――この世界でエレアが初めてであったモンスターだ――のきぐるみである。

 なお、顔は怖い。

 ダヨーとかいいそうだった。

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