カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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132 やさしい先生に導かれ ③

 ここでアツミちゃんが発奮するのは、多分誰にとっても意外な展開だったと思う。

 アツミちゃんは基本的にファイトは眺めてるのが一番楽しいタイプ。

 特にネッカ少年のファイトを眺めるのが好きで、彼の隣にいることで彼を支えるタイプ。

 そんな、典型的幼馴染ヒロインである。

 だからこうして、ファイトに乗り気な姿を見せるのは意外だった。

 ただ、あえて誰が一番驚いていないかを挙げるなら――ネッカ少年だろう。

 

「アツミがやるのか?」

「うん、ネッカくん。……私ね、前に一度タッグファイトをネッカくんとしたことがあるでしょ?」

「ああ、あの変な女が徒党を組んで攻めてきたやつ」

 

 誰だよ変な女、片方はハクさんだとして……もう片方は?

 ん、なんかレンさんが目をそらした。

 ――――リュウナさんか?

 犯罪みたいな組み合わせだな!?

 

「その時、一緒にファイトするのが私だったせいで、ネッカくんに迷惑かけちゃったでしょ?」

「そんなことないぞ! クローとやるよりはずっと楽だったぜ!」

「なんだと?」

「おいバカども、また喧嘩を始めたら外につまみ出すぞ」

 

 ナチュラルに煽り(いちゃつき)始めるネッカとクロー。

 見かねたレンさんが脅しをかけると、二人はへいへいとバツの悪そうな顔をした。

 アツミちゃんは苦笑いだ。

 なんか、いつもの光景――青春って感じだな。

 エレアが少し羨ましそうにしている。

 

「それでね、思ったの。今度は迷惑をかけないようにしたい……って」

「アツミ……」

「ふむ……そういうことなら、クルミ先生」

「そうですねぇ……じゃあ、アツミちゃん。タッグファイト……やってみる?」

「は、はい! 先生!」

 

 この後の予定は、タッグファイトの基礎を皆に教えつつ実際にタッグファイトをやってみてもらう感じだ。

 タッグファイトをやってもらう時間はそれなりに取ってあって、かつそこが始まれば子どもたちは楽しく時間を過ごすだろう。

 だから、割と構成としてはタイムスケジュールに余裕がある。

 もう一戦くらいなら、やっても問題ないはずだ。

 というか、レンさんも皆の前でファイトしたいだろうから、そこは想定して予定を組んであるのだが。

 まさかアツミちゃんが積極的になるとは。

 

「んじゃ相方は……レンさん、どうだ?」

「……む? 我か? いいのか、熱血の民ではなく」

「ネッカはさっきクローとやっただろ」

「俺はいいぜ、レンもやりたそうだったじゃねぇか」

 

 そこで譲れるのが、ネッカ少年のネッカ少年たるところだな。

 ともあれ、レンさんはやりたいが少し及び腰といったところだ。

 

「しかしなぁ、我はアレだぞ。こういう場はとことん苦手だぞ」

「だ、大丈夫だよレンちゃんっ! 私だってファイト苦手だし……」

「それに、相手は店長だ。ちょっとくらい当たって砕けるつもりでもいいだろ」

 

 クロー少年は無責任だなぁ。

 まぁ、実際ファイトは戦った全員が楽しければ勝っても負けても全員の勝利だ。

 当たって砕けろって考え方も悪いことじゃない。

 

『ふごごごご!』

「ええと……『まだ<サーヴ・タイガー>を使ったデッキに私が慣れてないから、行けるかも知れませんよ』と言っている」

「だからその翻訳力はなんなのだ! ええい!」

 

 そして、レンさんも立ち上がる。

 やる気になったようだ。

 

「どうなっても知らんからな!」

「頑張ろうね、レンちゃん」

「ふんっ!」

 

 アツミちゃんと一緒にいると、レンさんが一気に年相応になるなぁ。

 まぁ、ネッカ少年達相手にお姉さんぶってる時も、年相応といえば年相応なんだけど。

 学校の外でレンさんがネッカ少年達と一緒にいることが少ないから、こういう時しか見られない光景でほっこりするな。

 とか考えつつ、俺とエレアは頷いて構える。

 

「さぁ、始めようか! ちょうどいい機会だ、みんなにもタッグファイトの基礎を説明するぞ!」

「お、お願いします!」

 

 レンさんと子どもたちの前でファイトする場合、タッグファイトの基礎はレンさんとファイトしながら教えるつもりだった。

 相手はクルミ先生かネッカ少年を想定していたが、まさかアツミちゃんになるとは。

 

 では、お手並み拝見と行こう。

 

「イグニッション!」

『ふごー!』

 

 

 □□□□□

 

 

 体育館が静まり返る。

 ファイトは決着がついた。

 誰もが驚いた様子で、その結末を眺めている。

 そして、その視線の中央。

 レンさんとアツミちゃんは――

 

 

「か、勝った……」

 

 

 自分でも信じられない結果に、呆然としていた。

 そう、アツミちゃんとレンさんが勝ったのだ。

 俺達が手加減していたわけではない。

 二人がすごかったのだ。

 いや、その言い方すら正確ではないな。

 

「アツミ……すげぇな、何だよ今の!」

「あ、え、えっと……ネッカくん」

 

 ネッカ少年が、目を輝かせて立ち上がった。

 間違いなく今のファイトのMVPは――

 

「レンをあそこまでサポートできるなんてさ!」

 

 ――アツミちゃんだからだ。

 

「信じられん……今の我、全力の八割くらいは出せていなかったか?」

「出せてたな。といっても、その二割の方が俺は大きいと思うけど」

「それでも……人前で天の民に勝ったのはこれが初めてだ!」

 

 レンさんが嬉しそうに目を輝かせている。

 他の子達も、レンさんが全力を出せたことに嬉しそうだった。

 しかしアレだな、全力を出せたことを嬉しがるってことは、この子達はレンさんの本気を見たことがあるってことだ。

 ……考えると闇が深そうな気もするから止めておこう。

 

「それで店長……説明してもらってもいい?」

「ああ、いいぞネッカ。とはいえ、そうだな……アツミちゃん。少し質問していいか?」

「あ、は、はいっ」

 

 ネッカ少年は、どうしてレンさんとアツミちゃんが俺達に勝てたか理解しているものの。

 それを言葉にできないのだ。

 直感型だからなぁ。

 というわけで代わりに、先程のファイトを俺が解説する。

 アツミちゃんへの質問形式で。

 

「さっき、ファイトを始める前に少しだけデッキを組み替えてたよな? アレは、レンさん向けのデッキ調整?」

「はい。えっと……事前に考えておいたんです。レンちゃんとタッグを組むなら、こうしようって」

「んで、今のアツミちゃんのデッキは、完全にタッグファイトで相手をサポートするためのデッキだ」

 

 デッキ自体が、サポート用になっている。

 単独でファイトしたら、そもそもファイトになるか怪しいくらいデッキ構成をサポートに寄せていた。

 ここまで極端なデッキ構築、俺でもできるかどうか。

 多分、この場にいるファイターの中でできるとしたら、アツミちゃんを除けばエレアくらいだろうな。

 それも、タッグを組む相手が俺限定だ。

 アツミちゃんのように、即興でレンさんに合わせるとか絶対できない。

 

「じゃあ、最後に。アツミちゃん――今日、誰とタッグを組む前提で調整用のカード用意してきた?」

「え? えっと――――()()ですけど」

 

 その言葉に、子どもたちがざわつく。

 クルミ先生ですら想定外だったみたいで、目を見開いていた。

 驚いていないのはネッカ少年くらいだろう

 つまるところ、結論は一つ。

 今まで、タッグファイトをする機会がほとんどなかったから気が付かなかったが――

 

 

「つまり、アツミちゃんはタッグファイトでパートナーをサポートする天才なんだ」

 

 

 いやはや、まったく。

 才能とはどこに眠っているかわからないものだ。

 特にタッグファイト専門の才能とか、気付く機会が一生の中であるかどうか。

 

 その後は、子どもたち同士でタッグファイトをする時間だ。

 アツミちゃんが、タッグファイトの天才と判明し一躍今回の主役に。

 子どもたちもタッグファイトに興味が出たようで、和気あいあいとした時間が流れていくのだった。

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