カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
「……店長、助けてほしいの」
「とりあえず内容は聞くけど、ヤトちゃんなら大抵のことは自分で解決できると思うけど」
「姉さんが仮面の変な男だか女だかわからない奴と密会してる」
「よし、今すぐ解決に向かおうか」
みたいな話をして、店を飛び出したのが一時間前。
店のことはエレアに任せてきた、行きたそうにしていたが万が一の事を考えると俺が行ったほうがいい。
二人を行かせて、もしも事件がギャグ回じゃなかった場合大変なことになる。
特に、ハクさんが敵に回ったりしたら一大事だ。
実力的に、エレアとヤトちゃんにとって明らかに格上の相手だからな、ハクさんは。
とにかく、本来なら俺は基本的に人の問題にはあまり首を突っ込まない。
アドバイスを求められたらアドバイスするし、ファイトで背中を押したりすることはあるけれど。
でもそれは、あくまで俺がその事件に深く関われないからそうしているだけだ。
だが、どう考えてもハクさんの事件はそうじゃないだろう。
間違いなく普通の事件じゃない、シズカさんがダークイグニッション星人と取引をしていたときのような。
ヘンテコ事件に違いない。
「というわけで、ハクさんを追いかけてここまで来たわけだが」
「なんか、とてつもなく失礼なこと言ってるわね? 店長」
「否定できるか?」
「さ、先を進みましょ」
俺達は、天火市市街地の何も無い路地裏にいた。
異能バトルモノなら、襲撃者が襲ってきそうな雰囲気だがここはホビーアニメ。
襲撃者なんて路地裏でなくとも襲ってくる。
どうしてホビアニ世界の方が物騒なんですかね?
「姉さんはここにやってきたと思うんだけど……」
「ふむ……このあたりか?」
「なにか解るの?」
俺は、路地裏の何も無い場所に手を伸ばす。
すると、その手が”何か”に飲み込まれて消えた。
「え!?」
「……秘境への入口だよ。ヤトちゃんも”剣風帖”の秘境は知ってるだろ?」
「サムライとかニンジャとかいるのよね、前に会ったことあるわ」
風太郎の暮らす、こちらの世界とは隔絶した世界。
秘境と呼ばれる場所の入口は、世界の様々な場所にある。
剣風帖ならば山奥に、そしてこの秘境は……怪しい雰囲気の路地裏か。
とにかく、こういった時空の歪みから秘境へ入っていくのだ。
「……そういえば、秘境に入るのって初めてね、私」
「境界師の人でもないと、なかなか関わる機会もないしな」
世間的にも、あまり知られていないからこその秘境。
というか、知られないように秘匿されているからこその秘境。
秘匿組織のエージェントでも、用事がなければ入ることは早々ないよな。
「でも、今はそうも言ってられない。行ってみようか」
「……そうね」
というわけで、俺達は秘境の中へと入っていった。
□□□□□
秘境の中には、空間が捻れていてダンジョンとしか言いようのない構造の秘境も存在する。
時代がズレているだけで、文明が存在していて人が住んでいる剣風帖の世界は、結構レアなケースだったりするのだ。
大抵の秘境は、人の住めないような環境で。
モンスターやダークファイターが彷徨っていることもある。
そういう連中に出くわしたら、ファイトで勝利しないと大変なことになったりもするな。
この世界の場合は――一言でいうと禁酒法時代の暗黒街って感じだな。
マフィアとかが闊歩していそうな、退廃的な雰囲気の路地裏である。
迷路みたいな構造になっていて、普通に歩いたら絶対に迷うだろう。
「そして、ハクさんの姿もない」
「そりゃこんだけ入り組んでればね……というか、出た場所も違うんじゃない?」
言いながら、ヤトちゃんが振り返って後方の空間に手を伸ばす。
俺達が入ってきたはずのその場所へ伸ばされた手は、ただ空を切るだけだった。
言うなればここは不思議のダンジョン。
入ってきた時点で、ダンジョン内部のどこかに転送されたのだ。
「まぁ、脱出自体は問題ないさ」
「大丈夫なの?」
「気配がするからな、その気配を追いかければ自ずと出口が見つかる」
「なんの気配もしないけど……」
「いずれわかるさ、いずれな……」
俺は気配を感じ取れるのだが、ヤトちゃんは無理らしい。
単純にファイターとしての実力の問題だろう。
俺が感じているのは、一種の変化したファイトエナジーだ。
空間の歪みは変化したファイトエナジーによって発生するから、それを感じ取れるようになれば脱出は容易い。
「とはいえ、せっかく侵入したのに即脱出するのはもったいない。気配はいくつかあるから一つずつ調べていこう」
「まぁ、こういう場所は来るの初めてだし、ワクワクしないと言えば嘘になるしね」
ヤトちゃんとしては、結構好奇心がくすぐられる展開なのだろう。
中二組織に属しているから、こういう展開に対して元々関心が強いのもあるだろうが。
というわけで、そんなヤトちゃんとダンジョンを進む。
怪しくも退廃的な雰囲気は、どこか当時の面影を感じさせるようでいて、そうではない。
「人の姿がないわね……」
「当時の裏路地っていうのは、言ってしまえば人の集まる場所だっただろうから……イメージとは少し違うよな」
なんて話をしていると、一番近い気配のある場所までたどり着いた。
そこで待っていたのは――
「酒樽……?」
「雰囲気にはあってるが……イメージ的にはゲームの宝箱の方が近いかもな」
酒樽だ、漫画とかでよく見かけるデザインのあれ。
木でできた樽型のアレ。
まさに酒樽としか言いようのない代物だった。
中には何か入っている気配がするが……酒の匂いもするが……なんかこう、酒じゃなさそうな気がする。
「とりあえず開けてみるか……」
「そうね……」
酒樽の上の部分が、開けられるようになっていた。
ますます宝箱っぽい。
中から現れたのは――
『ビアー』
ジョッキの形をした……モンスター?
「こいつは……<ビアマイスター・ジョッキング>か。前に一度見たことあるな」
「聞いたことないわよ……」
「ショップ店長だから、これくらいはな」
現れたジョッキ型モンスター<ジョッキング>は俺達の周囲を浮遊する。
しばらく、こちらを観察したかと思うと――ビアー、と言いながら何処かへ向かって去っていく。
いやこれは……案内しようとしている?
「どこかへ案内してくれてるの?」
「そんな感じだな。足取りからすると、別の気配がある場所まで連れて行ってくれるらしい」
おそらくは、ファイトエナジーの気配を感じ取れない人向けの案内役といったところか。
気配がする方向に向かって、迷いなく<ジョッキング>は進んでいる。
なら、その案内を受けることにしよう。
俺達は、どこか緊張した面持ちで<ジョッキング>の後を追いかけた。
いやまぁ、そこまで緊張することでもないんだろうけど、何が待っているかわからないからな。
「何が待ってるかしら……」
「おそらくだが、この秘境の中心部だ。気配が大きい場所に向かって<ジョッキング>が進んでいる。多分この秘境はこれから向かう場所のために存在する秘境だ」
秘境っていうのは、様々な理由で発生する。
そこで人々が暮らすためだったり、何かを守るためだったり。
もしくは――
「……ここだな」
「…………何かの店、かしら」
やがて<ジョッキング>の案内で俺達は扉の前に案内された。
そこはなんというか、この秘境の雰囲気にピッタリな酒場のような店。
ノッカーが取り付けられている。
これで店員を呼び出せってことだろうか。
俺は、ヤトちゃんと視線を合わせてからノッカーに手をかける。
カン、カン、と木を叩く音が響いた。
直後――
「――いらっしゃいませ」
現れたのは、仮面を付けた男とも女ともつかない人間だった。
こいつが――ヤトちゃんの言っていたハクさんの密会相手。
思わず、二人で息を呑み、仮面の次なる言葉を待つ。
そして――
「仮面ファイター専門カードショップ“仮面舞踏会”へようこそ――」
――カードショップ?
その言葉に、俺達は揃って首を傾げるのだった。
なお今回はハクさんがきっかけですがあんまりハクさんは目立ちません。