カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
仮面ファイター専門カードショップ“仮面舞踏会”。
言葉通りに受け取るなら、仮面ファイターだけが入れるカードショップか。
もしくは仮面に関するカードだけを扱っているカードショップか。
「……まずは、お二人にこちらを」
「これは……仮面?」
ヤトちゃんが、如何にも仮面舞踏会っぽい仮面を受け取ってしげしげと眺める。
「はい、当店は仮面を付けたお客様のみ入店することが可能となっておりますので。仮面をお持ちでないお客様には、こちらの仮面をプレゼントしております」
「えっと……」
「受け取っておこう、悪い気配はない」
――なるほど、どうやら仮面ファイターだけが入れるショップのようだ。
こういうショップは、時折ある。
先日訪れた、ミーシアさんのショップを更に極端にしたもの。
コンセプトショップとでも言おうか、世界観を独自に作り上げたショップである。
別にミーシアさんのショップが中途半端というわけではないぞ、アレはあくまで現実世界で故郷の雰囲気を再現するのが大事な店だから。
完全に故郷に寄せてしまったら、ミーシアさんの意図からズレる。
「しかし、秘境にわざわざ作るっていうのは、こだわりの強さを感じるな」
「そうでもありませんよ、“デュエリスト”店長様」
「……気付いていたのか」
「おっと、今は仮面を付けた同士。正体は言わぬが花、というものでした」
俺のことをデュエリストの店長だと看破する仮面の店員。
いや、おそらく店長か。
体格の出にくいスーツ姿に、顔を完全に覆ったマスク。
マスクで声が籠もっているからか、本当に性別は予測がつかない。
ショルメさんも性別がわかりにくいけど、あの人はどっちかというと女性的な雰囲気が強かったのに。
この人は本当に性別不明だな。
仮面さんと呼ばせてもらおう。
「この秘境は、全国あらゆるところに入口が繋がっています」
「つまり、全国から人を集められるっていうことか」
「はい。おかげさまで、うちも貴方様に負けないくらい繁盛しておりますよ?」
そりゃまた。
全国チェーンを展開しているタイプの大型ショップや、マスターズという例外を除けば俺の店は売り上げという面ではかなり上澄みだと思う。
それと同じくらい繁盛してるとは。
ちなみに、ミーシアさんもかなり繁盛している。
「何よりここは――入っていただければ解るでしょう。どうぞ、中へ」
「えっと……じゃあ、失礼するわ?」
「そうさせてもらおう」
というわけで早速中へ、仮面をつけることも忘れない。
思わぬ展開だが、興味深い同業がどんな経営をしているのかは単純に気になる。
中は、案の定というかなんというか。
バーと社交場をいい感じに混ぜ合わせた内装になっていた。
おしゃれで薄暗い店内で、仮面のファイターが歓談するような感じ。
「仮面ファイターがいっぱいね……」
「俺達みたいに普通の格好をしてるやつもいるが……明らかに仮面が衣装の一部って連中もいるな」
それこそ月兎仮面のように、仮面を被って活動しているようなファイター。
もっと言えば――
「この店は、仮面系辻ファイターの社交場ともなっております」
「……やっぱりか」
仮面さんが、俺の考えを肯定してくれた。
ここにいるファイターの大半は、仮面を被って戦う辻ファイターだ。
突如として道端でファイトを挑む辻ファイター。
その中でも、更に特殊な仮面を被ったファイター達の社交場。
「全国津々浦々の仮面系辻ファイターが集ってる、ってわけか」
「そりゃ、姉さんもここに通うわけだわ」
ハクさんは俺の店の常連でもあるけど、俺の店に仮面系辻ファイターはハクさんしかいない。
ダイアも含めていいっちゃいいけど、それでも二人しかいないのだ。
仮面系辻ファイターには、仮面系辻ファイターの悩みがある。
そういう悩みは、仮面系辻ファイター同士で共有するしかないだろう。
ダイア? あいつはダメだ、仮面とか関係なく強引に悩みを吹き飛ばしてしまう。
いうなればアレは仮面を被った
「といっても、姉さんの姿が見えないけど」
「月兎仮面様ですか、今日は来ていらっしゃいませんね」
「……あんた、ほんとになんでも知ってるわね」
月兎仮面=ハクさんというのは話していないが。
仮面さんにはお見通しらしい。
「
「すごいプロ意識だな……この店が繁盛するのも頷ける」
「光栄の至り……」
恭しく、仮面さんは一礼してみせた。
プロ意識というのは、ショップ店長をするうえでも非常に大事なもので。
俺なんかは、あまり自分の店長としての立場にプロ意識を感じたことはないけれど。
それでも、店長としてやってきたお客に最大限のおもてなしはしたいし、困っていることがあれば助けになりたい。
そういうものは、まぁプロ意識ってやつだろう。
「それにしても、どうして仮面さん……ああ失礼、貴方はここに店を開こうと思ったんだ?」
「ふふ、仮面さん……ですか。構いませんよ、そう呼んでいただけると親しみを感じます」
「ありがとう、仮面さん」
「ええ。そしてそうですね……どうしてここに、店を開こうと思ったか……ですか」
仮面さんは、腕組みをして考える。
白い手袋が薄暗い店内ではどこか浮いているように目立つ。
雰囲気がそぐわないというわけではないぞ、本当に浮いている感じなのだ。
「単純に、この秘境が寂しい場所だと私が思ったからでしょう」
「寂しい場所?」
「はい、ここには人がいない。モンスターが時折やってくる程度。それは少し……寂しく感じます」
「なるほど」
秘境というのには、様々な種類がある。
しかし基本的に、どれも世界から隔絶された場所だということは変わらない。
時代がズレていたり、神秘的な神を祀っていたり。
どちらにせよ、他とは違う……小さな世界だ。
人やモンスターが平和に暮らしているなら、それもいい。
けどこの世界は、そうじゃない。
「秘境というのは、そこに暮らす人やモンスターがいなければ忘れられていく場所です。それは、余りにも惜しい」
そうやって語る仮面さんは、もしかしたら元は境界師だったのかもしれない。
この世界で、秘境と密接に関わるには秘境に生まれ落ちるか、境界師になるしかないのだ。
前者であれば秘境出身の独特な気配というものがあるし、仮面さんはそうではない。
であれば後者と考えるのが普通だが……まぁ、これ以上は野暮だな。
「仮面さん、少しいいだろうか」
「なんでしょうか」
「――営業中に頼むことではないのだが、俺とファイトしてくれないか?」
その言葉に、仮面さんが少しだけ目を見開くのが解った。
それと同時に、周囲の人々の視線がこちらに向くのも。
とはいえ、不躾にこちらを見る感じではない。
あくまで意識を向けているという程度。
それでも――如実に感じる。
『あの強そうなファイターと、店長がファイトを?』
ここにいる人達は、根っからのファイター。
店長と強いファイターの勝負には興味があるのだろう。
「貴方の店を見ていて、俺は素晴らしい店だと思った。けれど、貴方を知るためにはもっと踏み込んだことをしないといけない。俺は貴方のことをよく知りたい」
「……そのための、ファイトですか」
「ああ」
頷く。
仮面さんは、どうやら俺のファイトを受けてくれるようだ。
「店長……ああえっと、棚札店長の申し出を断れるファイターなんて、そういないと思うけど」
「そうですね、レディ。……私も少し、胸が高鳴っております」
ヤトちゃんの言葉に仮面さんが頷いて、一気に店内は盛り上がった。
多分、ヤトちゃんが俺を店長と呼んだからだろう。
店長同士のファイトは、興味深いカードだからな。
「では……」
「ええ」
お互いに、店舗中央のフィールド――酒場で詩人とかが芸を披露しそうな木の台になっているへと向かい。
いざ、ファイトを始める――
そう、誰もが思ったところで。
「大変です、皆さん! 秘境のモンスターたちが暴走を始めてしまっているんです。このままでは――悪魔のカードになってしまうかもしれません!」
叫び、飛び込んでくる人がいた。
白い仮面に黒の髪。
――月兎仮面が、慌てた様子で助けを求めてきた。
ハクさんは飛び込んでくるってことは身だしなみを整える時間がなかったという理論で、少し露出が増えています