カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
秘境のモンスターが暴走する。
これは、時折起こることだ。
人間が悪いことをしていて、その反動でおきたりする。
でも、何もしなくても長い年月が経つと勝手に起きたりする。
そういう、一種の災害みたいなものだ。
だからまぁ、メタ的に言えばちょうどいい解決すべき問題といえる。
今回だってそうだ、店には多くの仮面ファイターがいて。
彼らが総動員で暴走したモンスターを落ち着かせれば、事態は終息する。
モンスターだって暴走したくてしているわけではないし、ファイトでこちらが勝利すれば落ち着いてくれる。
とはいえ――
「
仮面さんは、暴走のことを気にしていた。
無理もない、暴走はなにもしていなくても起きるが、人の身勝手な行動が要因になることもある。
今のところどちらが要因でモンスターが暴走したのかは、定かではない。
前者だと信じようとしても、信じきれない部分もあるだろう。
「間違っていても、間違っていなくても。貴方が今やるべきこと……やろうとしていることは変わらないよ、仮面さん」
「それは……そうですね」
俺としてはここで、もっと踏み込んだアドバイスをしてもいいのだけど。
仮面さんは、店長として一流の腕を持っている。
ファイトも強く、立ち直るのだって早いだろう。
今は少し背を押して、後は仮面さん自身に託せばいい。
この人は、それくらいで大丈夫だろう。
「それにしても……店にいないと思ったら、面倒事に巻き込まれてたのね、姉さん」
「今は月兎仮面ですよ。それよりヤト、どうしてここに?」
「姉さんが怪しいことをしてたからよ」
「怪しいことは……してないつもりなんだけど」
「月兎仮面の時点で怪しい!」
うっ、と月兎仮面が言葉に詰まる。
横ではハクさんとヤトちゃんの姉妹が、お互いの事情を話し合っていた。
というか、そこで言葉に詰まるって、月兎仮面がやましいことである自覚はあるんだな、ハクさん。
やましいことをしてるって思うから興奮する? ああうん、そうね。
「説明しなかった私が悪かったのね……ごめんなさい、ヤト」
「こっちこそ、勝手に後をつけてごめん」
「……ええ、いいのよ」
「んじゃ、話もまとまったし事件解決に急ぎましょう」
「ええ!」
そう言うと、二人は勢いよく飛び出していった。
こっちも大丈夫そうだな。
現在は、各地で”仮面舞踏会”のお客達がモンスターの暴走を止めるため動いている。
もともと好きで仮面舞踏会にやってきているお客さんたちだ。
そのモチベーションは高い。
ある意味、一番モチベーションが低いのは仮面さんかもしれないな。
自分のせいで……という気持ちが枷になってしまっている。
「見つけた、<ビアマイスター・ジョッキング>だ」
「あちらにもう一体。<ビアマイスター・グラスター>です」
早速俺達も、暴走するモンスターを発見する。
『びあびあびあー!』
『びあー!』
ううむ、顔が凶暴になっている。
ファイトエナジーも少し黒くなっていて、闇落ち直前といったところだ。
こういうモンスターなら、俺も対処できる。
「これは……タッグファイトになりそうですね」
「足を引っ張ることはしないさ」
二体の『ビアマイスター』モンスターが酒樽っぽいイグニスボードを出現させる。
こちらも仮面さんと頷きあって、イグニスボードを構えた。
タッグファイト――相手は間違いなく、どちらも『ビアマイスター』デッキ。
どう考えても相性は悪くない。
対してこちらは、即席のパートナー。
お互いのデッキが、どういう動きをするのかも把握していない。
いや、仮面さんは俺のデッキを把握しているだろうな。
とすれば、こちらが如何に足を引っ張らないかが重要か。
「イグニッション!」
「イグニッションです」
『びあびあ!』
『びあ!』
かくしてファイトが始まる。
――それにしても、どうしてモンスター達は暴走したのか。
つい先程までは普通に俺とヤトちゃんを案内してくれていたのに。
しかし時系列を考えると、その時間帯にはハクさんがこっちに来ていたはずだ。
そのハクさんが事態に気付いたということは、その時点ですでに暴走の兆候があったのでは?
あったとしても、俺とヤトちゃんは初見だからそれに気付けなかっただけかもしれないが。
ファイト自体は順調に進む。
俺達の連携の齟齬をモンスターに突かれたりはするものの。
連携に致命的な破綻はない。
このまま行けば、俺達が勝利するはずだ。
「問題はやはり……彼らがどうして暴走したのか、だな」
「それは……申し訳ありません、心当たりが」
「いや、いいんだ。とりあえず……まずはファイトを終わらせる!」
「ええ、行ってください! <
仮面さんのエースモンスターが<ビアマイスター・ジョッキング>を撃破。
俺達は勝利した。
暴走していたモンスターたちも、今は落ち着きを取り戻している。
「……一つ、気になることがある」
「と、いいますと」
「時系列的に、俺がここへ来たときには、すでにモンスターたちは暴走しかけていたはず。なのに俺とヤトちゃんは何事もなく店にたどり着いた。<ジョッキング>の案内によって」
「それは……」
確かにおかしい、と仮面さんも頷く。
これがどういうことか、間違いなく彼らの行動のヒントになる行動だ。
ここから、彼らの望み――暴走のきっかけを見つけられるかもしれない。
考えられるとしたら――
「……俺達を、店に招きたかった?」
「――――それかもしれません」
俺のつぶやきに、仮面さんが何か思い至ったようだ。
どうやら心当たりがあるらしい。
「彼らには、以前からこの秘境に迷い込んだお客様を店に案内するよう頼んでいます。それはお客様の保護を目的とするためでもあり、同時に店に足を運んでいただきたいからでもあります」
「ここはダンジョン型の秘境だからな、迷って出られないなんてことがあったら困る」
「……ですがこれは、私が頼んだのではありません。彼らが提案してくれたことなのです」
つまり、モンスターの方から迷っている人を店に運びたいと申し出た?
そういうことなら、つまり彼らは人を店に案内したい欲求があることになる。
落ち着いたモンスターたちに視線を移す。
申し訳無さそうな<ジョッキング>と<グラスター>がこっちを見ていた。
「まさか……私の店に、人を呼び込みたかったのですか?」
『びあー……』
どうやら、あたりらしい。
詳しくはこうだ。
もともとこの秘境は、『ビアマイスター』モンスター以外のモンスターも人も存在しない秘境だった。
そこにやってきた仮面さん、仮面さんと『ビアマイスター』モンスターはすぐに仲良くなった。
そして仮面さんが店を開いて人を集めると、秘境は一気に活気を手に入れた。
結果、『ビアマイスター』たちには二つの願望が生まれたのだ。
一つは、人を集めて寂しかった秘境を賑やかにしたい。
そしてもう一つは――
「――私の店が、もっと有名になってほしかった」
『びあ!』
その言葉に、<ジョッキング>が強く頷く。
現在、仮面さんの店は非常に繁盛している。
俺の店並に繁盛しているというなら、それはもう上澄み中の上澄みだろう。
でも、やってくるお客さんの顔ぶれは、俺の店よりもずっと固定化しているらしい。
何せ、いくら全国に入口があると言っても、やってくるのは秘境に入り込む適性のあるファイターか仮面系辻ファイターのどちらか。
なんというか、知る人ぞ知るって感じの状況を変えるのは難しいだろうな。
ただでさえ俺の店も、イベントやる前は結構知る人ぞ知る感じだったのに。
「そう……ですか」
「仮面さん……」
「……私はずっと考えていたのです」
仮面さんは、『ビアマイスター』モンスターを抱き上げて俺に振り返る。
その顔は仮面に隠れていて読み取れないが、どこか寂しさを感じさせた。
「この場所を、守っていこう……と。その中には、人が増えることでこの秘境の雰囲気が壊れることを恐れる想いもありました」
「それは……当然のことだろう、雰囲気が壊れることでモンスターが暴走する可能性もある」
「ですが……違ったのですね。この秘境の元となった時代は、ほの暗くも派手な時代。モンスターたちも、騒がしさが嫌いではなかった」
むしろ、孤独を恐れているくらいだった。
だったら、仮面さんが取る行動は決まっている。
「――ショップ対抗戦に出ようと思います」
「ショップ対抗戦に?」
ショップ対抗戦。
開催が噂されている、最強のショップを決める大会。
確かに、今カードショップが知名度を集めるなら、アレほどふさわしい舞台もないだろう。
「貴方とは、必ず大きな舞台でぶつかります。ですので――」
「ファイトは、その時の楽しみに取っておいて欲しい……か?」
「ええ。絶対に後悔のないファイトにいたしますので」
「わかった」
そうして俺達は頷き合う。
ちょうど、メッセージを通じてヤトちゃんが事態の終息を教えてくれた。
まぁアレだけ強いファイターが店に揃っているのだ、これくらいは当然だろう。
「……では、いずれまた」
「ああ、また会おう」
そうして、俺達は握手を交わした。
ショップ対抗戦か……もともと、出場する気は満々だったが。
俄然、楽しみになってきたな。
秘境は一般的にその存在を公表してはいませんが、別に知られちゃいけないわけではないので知名度をあげるのはセーフです。
そしてショップ対抗戦に向けて色々店を出したりしています。