カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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142 さすらいの風来坊(住所不定無職) ①

「た、ったたた、大変ですてんちょー!」

「どうした?」

 

 店を開店する直前、買い出しに出ていたエレアが慌てた様子で店の中に入ってくる。

 手にしていた買い物袋を適当な所に置くと、勢いよく叫んだ。

 

 

「店の入口で人が行き倒れてます!」

 

 

 なんと。

 まぁこの世界なら別におかしな事でもないのだが。

 この店を開店して以来初めての出来事なので、レアなことではある。

 流石にこれで死なれても困るので、慌てて俺達は店の外に駆け出した。

 そうして、俺が目にしたものは――

 

「……ってなんだ、ナギサじゃないか」

「…………誰ですか?」

 

 ボロボロのマントに、ラフなシャツとズボン。

 線の細い中性的な顔立ち。

 俺の友人である、仙波ナギサがそこにいた。

 こいつ、学生時代から本当に顔立ち変わらないな。

 なお、再会したのは三年ぶりで、俺の店を訪れたことはないのでエレアとの面識はない。

 

 ――俺の学友には、変なやつが多い。

 そりゃあ、俺の学友はダイアの学友でもあるのだから当然だけど。

 その中で、進路として一番多かったのがプロファイターだ。

 ダイアにシズカさん、他にも今まで名前を挙げたことのない知り合いが数名。

 プロファイターが一番多いってのは凄いことなんだが、ダイアの周りの人間は全員強豪ファイターだったからおかしな事ではない。

 次に多いのがエージェント、刑事さんを始め多くのファイターが日夜平和のために戦っている。

 最後がカードショップ店長、俺とミーシアさんの二人がこれだ。

 後は例外として、カードにかかわらない職に進んだ学校教師のコハナちゃんがいるな。

 

 その中で、一際異彩を放つのが仙波ナギサだ。

 まず、ナギサは俺の知り合いで一人だけ大学に進まなかった人物だ。

 中学と高校は俺達と同じ超絶火札。

 高校卒業と同時に、就職……というか、なんかこう、旅立っていった。

 そんなナギサの職業はと言えば――

 

「いやぁー、ごめんねミツルくん。ご飯まで食べさせてもらっちゃって」

「別にいいさ、学友だしな。ああでも、金がほしいなら一日うちで働いてくか? どうせ手持ちがないんだろ」

「宵越しの銭は持たない主義だからね、何せボクは――」

「住所不定無職の変人、だろう」

「さすらいの風来坊……ってちょっと!?」

 

 無職、だ。

 いや、本人曰くさすらいの風来坊で、一応本当に風来坊をしているのだけど。

 まぁ世間一般ではそれを住所不定無職という。

 

「ひどいよー、ボクは風来坊として色んな場所を旅してるっていうのに」

「その場その場の思いつきで、刹那的な生き方をしていないのなら風来坊と呼んでやろう」

「……そうだ、最近ミツルくんってばどうなの?」

 

 話を逸らしたな、こいつ。

 まぁ、そういう奴なのだ。

 変人の多い俺の友人の中でも、輪をかけて変人。

 ファイターとしては頼りになるんだが、学生時代からあちこちふらふらしていたからなにか事件が起きても戦力に数えにくいんだこれが。

 それを言ったら、そもそも事件に関われない俺とかいるけど。

 

「はい、お茶どうぞ」

「んー、冷えた麦茶は最高だね。えーっと君は」

「エレアですよ、本名はエクレルールですけど……この店で店員をしてます」

「あー、エレアちゃん! そういえば聞いたことある!」

 

 それは動画を見たのか、はたまた旅先で別の知り合いから聞いたのか。

 とにかく、名乗りさえすればエレアのことも知っているくらい、ナギサはこっちの事情を風の噂で聞いていたらしい。

 

「なんでも、最近結婚したんだって? おめでたいねぇー」

「……まぁ、それはいいだろう。最近のナギサはどうなんだ?」

「そっちだって話題そらすじゃん!」

 

 あはは、と楽しげに突っ込むナギサ。

 ノリの軽いヤツだ、多分一生このままなんだろうなぁ。

 

「ボクはほら、いつも通り旅から旅への風来坊だよ。日本に戻ってきたのは先月だったかなぁ?」

「とすると、金が尽きたのは日本に来てからか」

「この国は事件こそ多いけど、野良のダークファイターってあんまりいないからねぇ」

 

 落ちてるカードも、レアカードが全然見つからないんだこれが。

 と肩をすくめるナギサ。

 風来坊をしているが、金は無限に湧いてくるわけじゃない。

 先ほど行き倒れていたように、ナギサはすぐに金欠になる。

 それを何とかするためには、ダークファイターをしょっぴいてその報酬を貰うか、落ちてるカードを拾って売り払うのが一番早い。

 が、現在はそのどちらもが不発だったようだ。

 

「……旅をしながら、各地のダークファイターを倒してお金を貰っているなら、それは個人エージェントでいいのでは?」

「それを日常的にこなしているならそうだがな、こいつの場合は気が向いた時にしかやらないんだ」

 

 エレアの疑問はもっともで、ナギサの職業を一応呼称するならギルド所属の個人エージェントというのが近い。

 ただ、個人エージェントってのは常に依頼やらなんやらで事件解決に奔走するものだ。

 ナギサの場合は、単純に目について気が向いたからダークファイターを倒しているにすぎない。

 気が乗らなかったら、たとえ目の前で悪魔のカードが大暴れしていてもスルーするだろう。

 なんてやつだ。

 

「そもそも、旅のエージェントなんてのが余計なお世話なのさ。基本的にこの世界は治安がしっかりしてるから、現地のエージェントがなんとかするのが普通だよ」

 

 と、本人は言う。

 まぁ実際、そうして大暴れしている悪魔のカードには何かしらの因縁があるもので。

 多くの場合は、その因縁に導かれたファイターが事件を解決するものなのだけど。

 

「ボクがダークファイターを倒すのは、ボクにその因縁が回ってきた時だけさ」

「だから金に苦労するんだろうが」

「風来坊だからそれでいいんだよ」

 

 逆に言えば、自分が因縁に絡んだ時だけ事件解決に動けばいい。

 そういう時はナギサ自身も気が向いているから、別に誰が困るということもない。

 

「……なんていうかこれ、アレですね」

「アレ?」

「時代劇の人みたいです」

「あー! そんなかんじ! エレアちゃんはわかってるね!」

 

 確かに、ナギサの生き方を考えるとそんな感じかもしれない。

 各地を旅して、時には困っている人を助ける。

 この世界にも時代劇は存在するのだ、最後はカードで解決することになるけど。

 というか、時代劇の正体をバラす見得と、エースカードのサモンって相性いいんだよね。

 むかしから時代劇がこの世界でも人気なのは、そういう所に要因がある。

 おっと、話がそれた。

 

「まぁとりあえず、今日の所はミツルくんの所でお世話になってもいいかな?」

「おう、仕事のやり方はわかってるよな?」

「日雇いでショップ店員をするのも、初めてじゃないしね」

 

 というか、以前俺とナギサが再会したのも、とあるカードショップでのことだった。

 アレから三年か、色々あったな。

 

 慣れた手つきで俺の店のエプロンに袖を通し、ある程度説明をしたらナギサは早速働き始めた。

 その手つきは本当に熟練のショップ店員という感じで、こいつが各地で日雇い店員をしてきた経歴がうかがえる。

 寂れたカードショップを狙ったカード強盗を、ファイトで撃退したりとかしたんだろうなぁ。

 

「いや、なんというか……変わった人ですね」

「本人に言ってやると喜ぶぞ」

 

 変って言われて喜ぶ人種だからな、ナギサは。

 

「ところで、すごく、すごーーーーく気になってたんですが」

「ああ、なんだ?」

 

 エレアがヒソヒソと問いかけてくる。

 まぁ内容は読めてるんだが。

 

 

「……ナギサさんって、性別どっちですか? 男? 女?」

 

 

 やっぱりな。

 

「答えは……解らん。かれこれ十年以上の付き合いになるが、未だにわからないんだ」

 

 そして、答えはこれである。

 仙波ナギサ、性別ナギサ。

 十年前から今も変わらず、性別が迷子な俺の学友である。




立ち位置的には別シリーズのメインキャラがダイアや店長とも繋がりがあった。みたいな人。
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