カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
ナギサは店員として非常に優秀だった。
「店長ー、この段ボールバックに運んどいていいかなー?」
「おー、運ぶつもりだったやつだから、運んでおいてくれると助かる」
とか。
「ふー、言われてたオリパ全部できたよ」
「まだ一時間も経ってないんだけど?」
とか。
「ナギサのにーちゃん、ちょっとここのルールでわかんねーことがあるんだけど」
「はいよー、今行くからね。……ああこれは」
とか。
最後に至っては、いつの間にやらネッカ少年に「にーちゃん」呼びで呼ばれている。
ヨシゾウ店長なんかが顕著だが、ネッカ少年は懐いてる年上を「にーちゃん」とか「おっちゃん」とか呼ぶ。
ネッカ少年のコミュ力ももちろんだが、ナギサのコミュ力も相当のものだ。
なお、ネッカ少年は「にーちゃん」と呼んでいるが性別は確定していない。
なぜかこの世界の熱血少年は――ダイアもそうだが――ナギサを男だと思うのだ。
逆に、ヒロインタイプの子――コハナちゃんとか――は女だと思うらしい。
なんかそういう運命でも背負ってるのかね。
「ぐぬぬ……店長、私も……私もなにか仕事を!」
「そうは言うがな……」
相変わらず、ナギサは店員として優秀過ぎる。
もともと世界各地を旅して、各地の人々と仲良くなれるコミュ力とバイタリティ。
そこに加えて、ナギサのような強いファイターは店員として大歓迎だからどこにいっても歓迎される。
すぐにいなくなってしまうという点に目を瞑れば、ヤツは世界最高峰のカードショップ店員なのである。
まぁ、店長資格は持ってないから店長にはなれないけどな。
あと、本人が一箇所に拠点を構える性格をしてないのもある。
煽りを受けるのはエレアである。
エレアだって店員としては非常に優秀なのだが、流石にうちの店の規模でナギサくらい優秀な店員がいると暇になってしまう。
俺は店長として色々とやることがあるんだが、エレアはどうしてもな。
と、そこで一つ思いつく。
「そうだ、エレアには店員以外にもできることがあるだろう」
「と、いいますと?」
「この状況、配信とかしたらどうだ? もちろん、皆に許可を貰う必要はあるが」
ふむ、とエレアが考え始める。
エレアには店員以外にも、配信者としての顔もある。
だったらそれを活かして、今の店の様子を配信してもらおうというわけだ。
ナギサというゲストもいることだしな。
「……構成を考えてくるので、十分ください」
「わかった、先に許可は取っておくよ」
どうやらエレアもやる気になったらしい。
普段の店の様子を配信するって、なかなか無かったからな。
いや、大会の様子は毎週配信してるんだけど。
だからこそ大会以外の配信っていうのは盲点だったらしい。
「……と、いうわけなんだが」
「俺はいいぜー!」
「わたくしも構いませんわ!」
遊びに来ているお客に、事情を説明して配信の許可を取り付ける。
今日遊びに来ている常連は、ネッカ少年とアロマさんだな。
もう少ししたら、ヤトちゃんも来るだろうか。
さて、問題はナギサの方だ。
「配信? もちろんオッケーだよ、それにしてもミツルくんの店は配信もやってるんだねー」
「エレアが配信者なんだ、結構人気あるんだぞ?」
「あはは、そういう所には疎くてねぇ。でも、エレアちゃんが配信者なのは納得」
そう言って、ナギサはうんうん頷く。
「人前で話すのに慣れてる感じなのにボクと話すことに緊張してたからね、直接人と話すんじゃなくて、画面越しで話すのに慣れてる気はしてた」
「さすが、よく見てるな」
「それにあの子――モンスターでしょ」
鋭い指摘だ、隠すことではないので頷く。
その後も、ナギサはエレアがモンスターで体力があるから夜遅くまで配信できるんだね、とか。
あのネッカ少年は、いずれダイアくらい強くなるよね? とか。
アロマちゃんって子は、もしかして人知れずエージェントとかしてたりする? とか。
この場にいる常連のパーソナリティをピタリと当ててきた。
「人間観察能力は、衰えてないみたいだな」
「むしろ、磨きがかかってるよ」
ナギサの得意とするところは、人間観察だ。
相手のことを観察し、理解する。
それを用いて相手と円滑なコミュニケーションを築くのがナギサの能力。
もはや異能染みてるレベルだな。
「そういうナギサは……日本に戻ってきたって辺り、なにか悩みでもあるのか」
「……そういう所は、絶対にミツルくんには勝てないよね」
まぁ、俺だって店長として人間観察はしてきてるからな。
ナギサは人間観察能力全般が優れているが、他人の悩みを見抜くという一点に限って俺はナギサを上回っている。
経験則――前世のホビアニ知識含む――によるものが大きいのだが、人間観察においては誰にも負けないと自負するナギサにとっては、若干悔しいと思う時もあるのだそうだ。
まぁ、今はそれが悩みというわけではなさそうだけど。
「んで、何があったんだ?」
「あー、それがね……」
少しだけナギサは、なんだか恥ずかしそうに頬を掻いてから――
「回っちゃったんだ、この世界全部」
そう、言った。
「……全部?」
「そう、全部。世界中、ボクが行ったことのない場所はないよ?」
「未だ、誰も到達したことのない秘島ファイトアイランドも?」
「行ったよー、あそこには精霊モンスターだけで形成された独自の生態系があったんだ」
「ダイアの魂の故郷こと、バニシオンも?」
「もちろん、今はグランシオンに名前変わっちゃってるけどね」
それから、色々と普通の人間がたどり着けない場所の名前を俺が挙げていく。
それらすべてにナギサは行ったと返答し、時にはスマホで証拠も見せてくれた。
とんでもない話だが、この風来坊。
本当に世界を一周してしまったらしい。
そう言って高校卒業と同時に日本を飛び出したあの頃が、昨日のことのように思い出せるってのに。
ちなみに、日本全国に関しては高校を卒業する前に踏破済みだ。
「それは……まぁ、悩むよな」
「悩むよねぇ」
「流石に、この世界のすべての人と話をしたことはないだろ?」
「ボクは人間観察が得意だけど、人間観察のために世界をさすらってるわけじゃないから」
あくまで、世界をこの眼で見て回りたいんだよ、とナギサ。
そうなると、本当にできることがないんだなぁ。
まぁ、そういうことならやるべきことは一つだ。
「んじゃ、ファイトするか」
「そこの判断、ホント早いよねミツルくん」
こういう時はファイトに限る。
周りも、突然やってきた見知らぬ――けれども優秀で気の良い青年なナギサがファイトするということで、こっちに注目を集めている。
「ミツルくんがファイトするのを、店の人も楽しみにしてるんだね」
「普段は、店で俺がファイトすることってあんまりないからな」
大会に優勝したお客とファイトする時くらいだ。
週に一回は必ずあるけど、二回あるかはその時次第って感じ。
「話は聞かせてもらいました! やはり配信となればファイト配信しかありません!」
と、そこでエレアがバックヤードから配信機材を持って飛び出してきた。
どうやらエレアも、似たようなことを考えていたらしい。
配信内容は、俺とナギサのファイトを予定していたようだ。
そこからはトントン拍子にファイトの準備が進む。
戦う場所は、自然とイグニッションフィールドになった。
「さて、ファイトを始める前に――ナギサ、一つ教えておくことがある」
「何かな? ミツルくん」
「その様子だと――集めきったんだろう?
「――!!」
その言葉に、ナギサの眼が見開かれる。
俺の言いたいことを、察したのだろう。
「……店長推薦状ってなんだ?」
「確か……店長が店長資格を得るための推薦状ですわ。世界各地に、この推薦状を発行できる店長がいて……その数は、確か十三」
ネッカ少年の言葉に、アロマさんが答える。
そう、店長推薦状とは店長になるために絶対必要となる推薦状のことだ。
詳しいことは後で話すが、アロマさんの言う通り、コレがないと店長になることは絶対できない。
世界各地に、この店長推薦状の発行を許された店長が十三人いるのである。
――というのが、今までの認識。
「まぁ、ボクは店長になるつもりはないけど、集められるものは集めたくなるのが風来坊。その通り、すでにボクは十三の店長推薦状を”すべて”集めきっている」
「いいや、それは違うな。ナギサは”すべて”の店長推薦状を集めきっていない」
そう言って、俺は指を二本立てる。
「二人だ。ナギサは知らないだろうが、かつてナギサが店長推薦状のことを知ってから、二人の店長が新しく店長推薦状を発行できる店長に指定された」
つまり、現在世界で店長推薦状を発行できる店長は十五人。
言うまでもなく――
「その一人が、この俺だ。ナギサ、君はまだ世界のすべてを回りきったとは言えない」
その一言に、ナギサも一気にスイッチが入る。
普段の飄々とした態度が、ファイターとしての獰猛なそれに変わった。
「俺はナギサの店員としてのスキルは知っている。だから、店長推薦状を出すための条件はただ一つ」
「――君に勝つことか、ミツルくん。……いや」
そして、フィールドが起動してファイトの準備を始める。
「ミツル店長!」
かくして、
「イグニッション!」
「イグニッションだ!」
俺と、ナギサ。
久々に再会した旧友にしてライバル、二人のファイトが始まった。
店長推薦状とは……詳しい話はまた次回。