カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

165 / 373
146 カードショップ”マスターズ”の人々 ②

 小中井さんがいることは不思議じゃない。

 もともと、呼び出されたのがこのマスターズのある街だったからな。

 マスターズをホームにするのは自然なことだ。

 ただ、小中井さんとアウローラさんに繋がりがあるのは、少し意外だった。

 いや、小中井さんにアロマさんを紹介したのは俺だけどさ。

 

 アウローラさん。

 アロマさんの親友で、アロマさんと同じくマジカルファイター。

 元は異世界の出身であるから、モンスターでもある。

 生真面目な性格の、落ち着いた雰囲気の少女だったのだが。

 今はフリフリ多めの服を着ている。

 つまるところ――

 

「なんかえーと……うちのエレアみたいな服装が好みなのか」

「好み……といいますか、なぜか他の方から貰う服装がこういうものが多くて……」

 

 むしろアウローラさん本人は、地味な服の方が落ち着くらしい。

 前回俺の店に来た時は、特徴の薄いワンピースだったな。

 

「アウちゃんは美人さんですもの! 着飾るべきですわ!」

「わかるー、アロマさんの言う通りですよ!」

 

 アロマさんと、それに深く同意する小中井さん。

 ああうん、なんとなく三人の関係性が視えてきた。

 

「いただけるのはありがたいのですが、こういう服装ばかりというのもどうも……」

「はっ……まさか、もう少しセクシーな!?」

「アウちゃんのマジカルファイターの衣装、かなりセクシーですものね!」

「もう……アロマも()()も止めてください」

 

 何やら楽しそうな姦しい女子三人だ。

 小中井さんも……まぁ、女子でいいか。

 うん……先生?

 

「先生、というのは?」

「あ、いやー、その、アウローラちゃんから私、先生って呼ばれてるんですよねぇ。ほら、小説家になったから」

「先生は先生なんです!」

 

 ずいっと、アウローラさんが俺の方に顔を近づける。

 目を輝かせて、とてもうれしそうだ。

 後ろで小中井さんが恥ずかしそうにしている。

 

「だって、あんなに素晴らしい作品を書いてらっしゃるんですよ!?」

「うあー、あ、アウローラちゃん、うあー」

 

 どうやらめちゃくちゃファンだったらしい。

 それはもうとんでもなくファンだったらしい。

 めちゃくちゃ語りたそうにしているくらいファンだったらしい。

 後ろでは、小中井さんが凄まじく恥ずかしそうにしていた。

 

「私、先生の作品は全部見てるんです」

「全部……ファイト構成作家としてのものも、小説家としてのものも?」

「はい!」

 

 うむ、すごいオタクだ。

 そして小中井さんが顔を覆うのも自然な成り行きだ。

 

「うう……こんなにまっすぐ、私の作品を読んでもらえることが初めてで……私、どうしたらいいか……」

「あ、わたくしも全部見ましたわ! 面白かったですわ!」

「ぐさぁーっ!」

「せ、先生ーっ!?」

 

 アロマさんの追撃を食らって、小中井さんは倒れた。

 ううむ、ちょっとこじらせてるタイプの大人に、光属性一色のアロマさんとアウローラさんは眩しすぎたようだ。

 多分、二人はどうして小中井さんが倒れたのかも理解できないぞ。

 ……いや、アロマさんはちょっと解るかも知れない。

 歩いてきた道のりが茨の道だったからな。

 まぁ、言わないと思い至らない気もするが。

 

「ところで、キリアさんはどうなんだ? 二人が読んだなら、キリアさんも読んだだろ」

「えーと、読んだことがあると仰っておりましたわ。……未来で」

 

 えーとそれはつまり……。

 アロマさんやアウローラさんと関係なく、読んだことがあるってことか?

 それって……小中井さんって未来だとすごいことになってるんじゃ……?

 いややめよう、俺の予想で皆を混乱させたくない。

 少なくとも、アロマさんは思い至っていない様子だった。

 アウローラさんは……多分絶対にそうなると疑ってないんだろうな。

 

 その後も、二人の褒め殺しに悶える小中井さんという構図を横目に眺めていると。

 俺に声をかけてくる者がいた。

 

「あ、ミツルー、こっちに来てたんだね」

「……ナギサじゃないか。って、そのエプロン」

 

 仙波ナギサが、そこにいた。

 さすらいの風来坊こと住所不定無職のこの男か女かよくわからんヤツは、以前俺の店を訪れた後、キアの店を目指して旅立ったはずだ。

 そして今、ヤツはキアの店にいる。

 

 ――店の制服であろう、エプロンを身に着けて。

 

「うん、今はここで店員をしてるんだ。ちょっと、どうしてもそうする必要があってね」

「つまり――負けたのか」

「口にしないでよ、今思い出しても悔しいんだからさ」

 

 ナギサがエプロンを身に着けているということは、キアから推薦状をゲットしようとして失敗したからだろう。

 推薦状を手に入れるにはファイトで勝利する必要があり、失敗したら手に入らない。

 もう一度手に入れるための一番手っ取り早い方法が、店員として働いて機会を伺うことだからな。

 

「あら、ナギサ様と師匠店長様はお知り合いでしたのね?」

「古馴染みなんだよ、ダイアやシズカさんみたいにな」

「師匠店長様が呼び捨てにするとなると、すごく親しい仲なのですね」

 

 ナギサの見た目のせいで、若干エレアに警戒されるくらいにはな。

 まぁ、俺にもナギサにも、そんなつもりは一切ないんだけど。

 

「ボクたち……そんなに親しい仲だったんだね……!」

「やめろ、顔を赤らめさせるな! そして近い!」

 

 そんなつもり一切ないのに、こうして距離を詰めてくるのがナギサというヤツだ。

 ノリだけで生きやがって……!

 

「あらあらまぁまぁ! まぁまぁまぁまぁ!」

「小中井さん!?」

 

 そして、小中井さんが凄い勢いで起き上がると、こっちをキラキラした眼で見てくる。

 いや、キラキラしているがその眼は淀んでいる!

 淀みきった大人の眼をしている!

 アロマさんとアウローラさんに見せちゃダメな顔をしている!

 

「その絡み……いいです! もっと見せてください!」

「……先生、絡み……とはなんですか?」

「はっ!!!!!!!!!」

 

 そして、興奮したところにアウローラさんの質問が飛んできて冷静になった。

 凄まじい脂汗とともに、淀んだ瞳がうろたえたそれへと変わる。

 身体を小刻みに震わせて、ちらりとアウローラさんの方を見るのだ。

 そして、視線があってびくっとなる。

 ううん、自業自得。

 

「先生! 絡みについて教えて下さい!」

「貴方に教えることは何もありませんよ、仙波さん!」

 

 そして、今度は標的を小中井さんに変えたナギサが光属性の瞳で詰め寄っていく。

 明らかにからかっているにもかかわらず、その瞳はアウローラさんと同じくらい光り輝いていた。

 ノリで生きるあまり、その性根が純粋すぎるのだ、ナギサは。

 

「いやぁ、これは」

 

 その様子を見て、俺は思う。

 マスターズの人たち、濃いなぁ。

 ナギサは一時加入のメンバーとはいえ、他の人達も負けてはいない。

 濃さという面では、ハクさんを例外にすれば俺の店なんて全然かもしれないなと思ってしまうほどだ。

 ハクさん……? あの人はほら、ちょっとぶっ飛びすぎてるから。

 

「何とも、見ていて飽きない光景だな」

 

 そんな俺のつぶやきに、

 

 

「――そうだよねぇ。私もそう思う」

 

 

 同調する者がいた。

 あっちでわちゃわちゃしている店の常連とナギサ……ではない。

 先程まではここにいなかった声。

 聞き覚えのある女性の声だ。

 

 ちょっと癖のある銀髪ポニテ、背丈は普通くらい。

 青いオーバーオールの上にエプロンを身に着けた女性。

 なんというか、彼女は存在感に満ちていた。

 その場にいる誰もが、一度は彼女の方へ視線を向けてしまうくらい。

 容姿とか、そういうものとはまた違う何かが彼女を引き立てている。

 きっとそれを、人はこう呼ぶのだろう。

 

 ――カリスマ、と。

 

 

「……久しぶりだな、キア」

「うん、久しぶり。そっちも元気そうで何よりだよ」

 

 

 カードショップ”マスターズ”の店主。

 名を、明日原キア。

 かつて俺やナギサとともに推薦状を貰うためとあるショップで働き。

 今は俺と並び立つ日本トップクラスのカードショップの店長だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。