カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
ぶっちゃけ、キアのところに行くとエレアに伝えた時から――なんなら、ナギサと会って俺がキアを呼び捨てしているとわかったときから、こうなる予感はしていた。
俺と親しいキア、キアと親しい俺。
そのどちらにも嫉妬して、俺達のことを偵察にしに来るだろうな……と。
「どうしてバレたんですか!?」
「バレてはいない、勝手にバラしただけだ」
いや、サングラス一つで見抜けなくなる辺り、エレアの偵察能力そのものは凄まじいものがあるのだが。
最終的にファイトで解決することになるこの世界だと、割と宝の持ち腐れである。
「ぐぐぐ……とりあえず説明してください! どうしてキアちゃんに”にぃ”とか呼ばれてるんですかてんちょー! いえ、ミツルさん!」
「え、ええとミツルにぃ……もしかしてこの子が?」
俺の名前の呼び方を、店長からミツルに切り替えるエレア。
そんなエレアを見てキアもなんとなく、エレアの正体を察したようだ。
「ああ、紹介するよキア。俺の店の店員で――」
「こ、恋人の! エレアです!」
だきっ!
すごい勢いでエレアが俺に飛びついてきた。
危ない、ファイト身体能力がなければそのまま倒れていたぞ。
なんとか受け止めつつ、顔を真赤にしているエレアに苦笑する。
「ふぅーん、あのミツルにぃに恋人がねぇ……話には聞いてたし、配信も全部見てたけど未だに信じられないや」
「配信を……全部……?」
「うん、イベントの配信もそうだし、普段の配信も全部チェックしたよ。エレアちゃんって、素敵な配信者だよね」
「べうっ!!!」
あ、崩れ落ちた。
俺の腕からずるずると。
へたり込む前に、なんとか受け止めて身体を支える。
エレアは更に真っ赤になった。
「えええでもキアちゃんにそんな時間の余裕あるわけ……あんなに毎日色んなところを飛び回ってるのに」
「キアは時間を圧縮できるからな」
「レンさんと同じタイプ!?」
そのレンさんと言えば、どうやらヤトちゃんと一緒にエレアに同行してきたらしい。
向こうでサングラスをかけて、腕組みをしながらこちらの話を聞いているのが見える。
どうやらサングラス一つで隠密するのはエレアの技術のようで、エレアが近くにいないと意味がないようだ。
「それで、その、話を戻しますが……」
「ああ、私がミツルにぃをにぃって呼んでる理由? 最初に会ったのが十歳くらいのころだったからかなぁ」
「十歳!?」
そんなに昔から!?
と、エレアは驚くがしかし。
「キアはエレアと同い年だぞ。それが十歳だから十年前……つまり、俺が十六の頃だ。これでもダイアよりは付き合いが短い」
「な、なぁんだ。ダイアさんよりは付き合いが短いんですね……二十歳!?」
「そこは別に隠してないけど……」
「そういえばそうでした……」
キアの恐ろしい所は、カリスマ美人店主でありながら未だに二十歳であることだ。
大学は飛び級で卒業し、十歳くらいの頃からいろいろな会社を経営していた。
後者に関してはまぁ、同じようなことをしている小学生がそっちにいるのだが。
というか、大学を飛び級合格して以降はずっと会社経営と。
小学校に通いつついくつかの会社経営とエージェント組織運営。
どっちが凄いかと言うと……経歴は結構近いのに比較できない違いがあるぞ。
「大学を飛び級で卒業した後、私はカードショップの店長推薦状を集めるために各地で活動してたの。そのときにミツルにぃとは知り合ったんだ」
「何個かの店で、同じタイミングで推薦状を貰ったんだよな」
「頼りになるお兄ちゃんだったんだよ、ミツルにぃって」
「はへー」
なんとなく、エレアも落ち着いた様子になってきた。
ダイアより付き合いが短いという点が、結構な安心材料だったのだろう。
エレアにとってダイアより警戒すべき相手はいないだろうからな。
実際俺も、ダイアより特別な存在となると……まぁ、家族しかいない。
「んでまぁ、俺とキアはほぼ同じタイミングで推薦状を集め終わってな。ショップの開店も同じくらいのタイミングになった」
「そりゃまぁ、集め始めたのが同じタイミングで、同じくらい優秀な店長なら集め終わるのも同じタイミングになるよ」
「ぐぎぎ……そう言われると羨ましくなってきます」
それはそれとして、店長という立場で俺と同じ目線に立てるのはキアだけだ。
そういうところは純粋に羨ましく感じられるのだろう。
エレアは絶対に俺と店長仲間になることはないからな。
「それにしてもぉ、こうしてエレアちゃんに会えて、私嬉しかったんだよ?」
「そうですか……?」
「うん、エレアちゃんの配信、昔からファンだったんだから」
「うぇ!?」
と、そこで矛先がエレアの話に向いた。
先ほどキアは配信を全部チェックしたと言っていたが、それがいつからとは言っていなかった。
具体的には――
「エレアちゃんの初配信から、ずっと見てるんだから」
「うぇうぇうぇ!?」
「だってそうでしょ? ミツルにぃの配信チャンネルだし、シズカも宣伝してるんだよ?」
そもそもあの配信チャンネルは、カードショップ”デュエリスト”の配信チャンネル。
同業のライバルであるキアがチェックすることはおかしな事じゃない。
ついでに、シズカさんとキアの繋がりも当然の繋がりだ。
お互い、プロファイターの中で最もSNSが得意なプロファイターと、ショップ店長の中で最もSNSが得意なショップ店長だ。
面識や絡みがない方が、むしろ不自然な組み合わせである。
何ならテレビのバラエティとかでも、同じひな壇に座ってることもあるしな。
「エレアの凄い所は、何と言っても成長力! 最初はおっかなびっくりだったのに、今じゃプロの配信者だもん」
「しょ、初期のことは、初期のことは何卒ー」
ガタン、となにかの倒れる音がする。
見ればこちらの話を聞いていた小中井さんが泡を吹いて倒れていた。
アウローラさんが慌てて駆け寄っている。
過去の自分に対するトラウマは発信者なら共通認識ってことか……。
というか、キアのことだ。
同じことを小中井さんに発言した可能性が高い。
もちろん本気だから、小中井さんも正面から受け止めざるを得なかったんだろう。
「それと……ファンの統率力! あそこまで鍛え上げられたファンはそうそういないよ!」
「え? アレが普通じゃないんですか?」
「んー、そういうところ! 素敵!」
なんかこう、エレアのファンはとりあえずなにかあると「店エレてぇてぇ」の詠唱が始まるらしい。
それもこれも、初回配信から俺に対して惚気続けてきたエレアの統率の成果だとかなんとか。
シズカさんが、以前そんなことを言っていた。
なにそれ……。
「そういうところは、完全に天然だからなぁ瞳の民」
「慣れればそれも一つの個性なんだけど、配信者としては人は激烈に選ぶわよね、エレアって」
「そっちは何の話をしてるんですかぁ!」
これまた、横目に俺達の話を聞いていたヤトちゃんとレンさん。
ツッコミに行くエレアに、二人は楽しげな笑みを見せていた。
先ほどから、店内の視線は俺達に向いているが、多くは好意的な視線だ。
そういう空気を作るのも、エレアの資質ってところだな。
「それにしても、ミツルにぃと付き合ったんでしょ?」
「ゔぇあ! え、ええええっと、あ、えっと、は、はひっ!」
「自分から恋人って言っておいて、そんなに照れるなんてカワイイんだ」
「かわわわわーーーーっ!」
飛び跳ねるエレア。
一度、ツッコミのために俺から離れたが、再び俺にくっついてきた。
そういうところだぞ。
少し恥ずかしい。
「だからね、ほら。私にとってミツルにぃはお兄ちゃんみたいなものだからさ」
「え、えう?」
そこで、なんだかからかうようにエレアに視線を向けるキア。
この後の展開が読めたぞ……エレアはわかっていないようだが。
「エレアちゃんのこと、エレアねぇって呼んでも……いいかな?」
その言葉に、
「へう――――」
エレアは完全に停止した。
こう、真っ白になって。
そして、
「さらさらさら――――」
さらさらと、風に乗って散っていった。
近所のお兄ちゃん枠でした。
近所……まぁ近所ですね……