カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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151 チームメンバーは揺れ動く ②

 例に漏れず、ハクさんも俺の店から参加しない理由はヤトちゃんの存在だ。

 ここ最近、ヤトちゃんに関する事件がいくつか連続して起きている。

 探偵ショルメ、ファイト探偵丹波スグル。

 どちらもヤトちゃんに関わる存在だ。

 そういった存在が連続して現れるということは、ヤトちゃんに新たな試練が襲いかかる前兆でもある。

 姉としては、それに対して不安を覚えるときもあるのだろう。

 だからこそこうして、正面から全力でぶつかれるタイミングを利用するのである。

 そして当然、ヤトちゃんだってそれは読めている。

 だからまぁ、反応としては知ってた、としか言いようがないわけなのだが。

 

「……そんな! 一体いつからバレていたというの! あと姉さんではないわ!」

「最初から……というか、どうやって天井に登ったのよ。危ないでしょ姉さん」

「私は特別な訓練を受けているから平気よ、あと姉さんではないわ」

 

 特別な訓練って、闇札機関で受けてる訓練のことを言わない?

 確か、日常的に体力づくりの走り込みとかしてるって聞いたけど。

 なんて話をエレアに振ってみると。

 

「ヤトちゃんから聞いた話だと、闇札機関の訓練って元はダイエットが目的だったらしいですよ」

「闇札機関って食堂が一食千五百円まで食べ放題だから、人によっては結構プニるのよ。姉さんとか」

「失礼なこといわないでヤト! 胸に栄養がいっているだけです! あと姉さんではないわ!」

 

 ……すごく生々しい話が返ってきた!

 人目があるんだから、そういう話は場所を選んでほしいなぁ。

 …………いや、それで外に追い出すと外で平気で話をしだすぞ! なぜならハクさんは痴女だから!

 

 こほん。

 

 とはいえ、常日頃から痴女みたいなことをしている人でもない。

 気を取り直すように、ハクさんは咳払いをして話を戻した。

 

「とにかく、ヤト! 貴方はまだまだ未熟です!」

「いや、それは……まぁうん、道のりは遠いと思うけど」

 

 ヤトちゃんは、ごくごく一般的な最強を目指す上昇志向のファイターだ。

 今の自分が未熟であるということは、誰よりもわかっていることだろう。

 隣でネッカ少年が解るぞ、と頷いていた。

 ……いや、それはいいんだけどさっきみたいな話を横で聞くのは教育が悪いから、ちょっと別の場所でファイトしてようね。

 おーい、アロマさん!

 

「先達として、姉として! 貴方がこれからもその道を進んでいくというのなら……私は、その前に立ちはだからざるを得ないの!」

「……まぁ、姉だしね」

「姉ではないわ!」

「自分で言ったじゃない!」

「兄とか姉って、すぐに前に立ちはだかりたがるよな……え? アロマのねえちゃんとやるのか? やるやる!」

 

 ネッカ少年の、なんだかめちゃくちゃ重い一言が響く。

 やたらと悪堕ちするのもそうだが、事あるごとにネッカ少年の前に立ちはだかる兄がいるからな。

 大抵は悪落ちしたうえで立ちはだかってるんだけど。

 ネッカ少年とお兄さんの関係は、決して悪くはないのだけど非常に複雑だ。

 兄のことを語るネッカ少年は、尊敬と諦めの感情をないまぜにしていることが多い。

 

 それはそれとして、一人で悩んでいたアロマさんにも声を掛ける。

 今のアロマさんには、ネッカ少年のアドバイスが効くだろうという采配だ。

 

「というわけで……ファイトよ、ヤト!」

「……いいじゃない、さんざん姉じゃない姉じゃないと言っておきながら、結局はそこに落ち着くんだものね。姉さんらしいわ」

「姉さんではないわ!」

 

 どうやら、今日のハクさんは何が何でも自分を姉と呼ばせたくないらしい。

 普段なら流石にここまで否定したりしないしな。

 

「やるわよ、店長! フィールド借りていいわよね!」

「ああ、今は空いてるからな」

 

 ピン、とヤトちゃんが手元から取り出したお金を俺の方に飛ばしてくる。

 やたら様になっているのは、やはりヤトちゃんが怪盗だから……?

 そしてそれに影響されたのか、ハクさんも懐からおサイフを取り出してコインを投げようとして――

 

「きゃっ」

 

 手をすべらせてコインが零れ落ちる。

 ころころと転がったコインはヤトちゃんが拾い上げて、ピーンと俺の方に飛ばしてきた。

 ナイスシュート。

 そうして二人はフィールドに並び立った。

 

「行くわよ、姉さん!」

「姉さんではないわ!」

 

 そして、

 

「イグニッション!」

「イグニッションです!」

 

 二人は、ファイトを始めた。

 

 

 □□□□□

 

 

 ハクさん的には、ここでヤトちゃんに勝利してショップ対抗戦でリベンジしてくるのを期待していたのだろう。

 基本的に月兎仮面としてのハクさんは強い。

 ネッカ少年とどっこいのレベルなのだから、ヤトちゃんとはファイトの実力で言えば若干格上にあたる。

 前回、一度ハクさんとして『仮面道化(マスカレイド)』を使用して敗北しているものの。

 今回は月兎仮面、ハクさんにとっては間違いなく全力である。

 おそらく、今後起こるであろうヤトちゃんを中心とした事件で、ヤトちゃんが迷わず進めるようにと思って。

 勝利するためこのファイトに臨んだ。

 結果――

 

 

「――私の勝ちよ、姉さん」

 

 

 勝ったのはヤトちゃんだった。

 完勝である。

 原因は単純――

 

「……姉さんが思ってるほど、私、悩んでないから」

「……ええ、ごめんなさいヤト。私が一人で先走っていたのね」

 

 ――ヤトちゃんのメンタルに、翳りなし。

 ハクさんは心配だったのだろう、ここ最近起こるアレやコレやでヤトちゃんが不安になっていないか、と。

 結果はご覧の通り、ヤトちゃんは何一つ迷ってなどいない。

 むしろ、ここ最近はファイトの調子も含めて上がり調子だ。

 対するハクさんは――

 

「悩んでいるのは……私だったのね」

「姉としての立場を意識しすぎてる感じでしたね」

 

 エレアの言葉に、ハクさんはがっくりと項垂れた。

 姉ではないと否定するのは、姉であることを意識しすぎているから。

 単純な話だったのだ。

 

「私が負けるのは必然だったんですね……」

 

 というわけで、ハクさんとヤトちゃんのファイトは決着がついた。

 それと時を同じくして。

 

「……ってわけで、別にそこまで気にしなくてもいいと思うぞ。自分がやりたいことをやるのが一番だ。アロマのねえちゃんはどうしたいんだ?」

「わたくしのしたいこと……アウちゃんやキリアちゃんと、本気で戦いたいですわ!」

 

 アロマさんの方も決着がついたようだ。

 悩んでいたアロマさんに、いい感じにネッカ少年がアドバイスしたようである。

 そしてアロマさんの悩みは、やはりアウローラさんとキリアさんに対してのことだった。

 親友として、同じ道を歩みたい気持ちはある。

 しかし同時に、ファイターとして親友と正面からぶつかりたい気持ちもある。

 

「思えば、わたくしがアウちゃんにエージェントの道を勧めたのも、やりたいことをやるのが一番だと思ったからでしたわ!」

「初心って、何かあるたびに忘れるもんだからな。でも、その度に思い出せばいいと俺は思うぞ」

 

 ネッカ少年の言葉に含蓄がありすぎる。

 この年で、多くのダークファイターや変なファイターと戦ってきた実績は大きいということだろう。

 いやそれにしたって包容力ありすぎだろ。

 

 と、そんな話を小耳に挟むものがいた。

 

「――やりたいことをやるのが、一番ですか」

「……姉さん?」

 

 ハクさんだ。

 崩れ落ちたハクさんが、ふらりと顔を上げる。

 何か、嫌な予感がしたのかヤトちゃんが声をかけている。

 

「私のしたいことは……ヤトを導くこと。ヤトを守ること……ううん、それだけじゃありません」

「姉さん? 落ち着いて姉さん? その初心は思い出さなくていいんじゃない?」

 

 すでにオチが読めていたのだろう。

 ハクさんの肩をヤトちゃんが揺さぶる。

 だが、もうハクさんは止まらない――

 

 

「私のしたいことは……露出よ!」

 

 

 高らかに、そう宣言した。

 そしてヤトちゃんの方を見たと思うと、

 

「……ヤト! 私、目が覚めました!」

「そこは覚めなくていいから!」

「私、仮面舞踏会のチームに参加して……進化してきます!」

「進化しなくていいから!」

 

 そして、ハクさんは勢いよく俺の店の入口へ向かう。

 そのままここを立ち去るつもりなんだろう。

 

「進化した私の姿、期待しててね、ヤト!」

「進化してもいいけど、露出度は上げないでよ――!」

 

 かくして、ハクさんが別チームに、アロマさんがデュエリストチームに参加することが決まった――




なおそもそも痴女さんの衣装がどんな痴女なのかが不明なので、パワーアップするかも不明です。
皆も書籍一巻を買って、二巻で痴女の衣装が実装されるよう祈るべし!
というわけで書籍版もよろしくお願いしますー

じみーにAmazon様でも表紙が公開されてたり……
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