カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
まずは何と言ってもチームメンバー決定戦だ。
俺とエレアとメカシィはともかく、他のメンバーはここでメンバーに選ばれないと話にならない。
選ぶ方法は単純、実際にファイトして決める。
それだけだ。
ただ、今回は一般的なスイスドロー形式ではなく、総当たりで順位を決めることにした。
スイスドローにした際の利点は、最終戦で暫定五位と暫定六位がぶつかる点。
勝ったほうがチームメンバーに選ばれるわかりやすさが一番大きい。
総当たりの場合はそれが起きない。
一見すると、スイスドローのほうが最終戦も白熱するかもしれない。
だが、今回はあえて総当たりを選んだ。
理由は――
「――へへ、どうだレン。俺の勝ちはもう決まりかもな」
「……ぎゅぬぬ」
――今、眼の前で展開されているレンさんとネッカ少年のファイトが全てだ。
今回の総当たり戦、マッチングの順番はランダムに決定される。
メカシィが一瞬でやってくれました。
なので、このマッチングは偶然だ。
最終戦で、
まぁ、当然そこには運命力ってやつが絡んでくるわけだけど。
「むむむ、先に負けてしまった拙者は祈るしかないでないでござるなぁ」
「もうすでに七位の拙者は関係ないがな」
と、大会の話を聞いて今回のために店にやってきてくれた風太郎と任次郎両名が戦いの行く末を見守っている。
というか、すでに大会は最終盤を迎えていた。
今目の前で行われているネッカ少年とレンさんのファイト以外は全行程が終了。
二人のファイトに至っても、おそらく次か、その次のターンが最後になるだろうという状況だ。
現在の順位を振り返ろう。
一位はもはや言うまでもなくネッカ少年。
文句なしで、うちのショップでは俺に次いで強いファイターだ(ダイア除く)。
今回も、ここまで全勝で一位をもぎ取った。
二位はアロマさんで、三位がヤトちゃんだ。
ちなみに、勝ち星の数は同数、ライフ差で計算すると若干アロマさんが上回る感じ。
ふたりとも実力が伯仲しているな。
そして四位が――
「……こうしてみてると、何か俺が場違いに見えるな」
「なぜデスか? 刑事様は文句なしの単独四位デス。ピガガピー」
「いやぁ……他の面子が若すぎるって話だよ」
刑事さんだ。
草壁刑事は、何でも元からある程度時間に余裕があったのだが、ネオカードポリスの方からこんなお達しがあったらしい。
俺のショップのチームメンバーとして参加し、異変があったらそれを解決すること。
いやぁ、エージェントってのは大変だ。
職務で大会に参加したりするわけだからな。
しかもこれ、刑事さんがチームメンバーとして参加できることが前提になっている。
参加できなかったらめちゃくちゃ恥ずかしいぞ。
ところで、若さで言ったら俺のほうが年上になるんだけど刑事さん?
「いけー、負けないでレンさん!」
「がんばって、ネッカくん!」
ヤトちゃんとアツミちゃんが、それぞれ関係者を応援している。
ヤトちゃんとしては、ここで負けると数日レンさんが凹むので必死だ。
アツミちゃんも、大事な人の負ける姿は見たくないのだろう。
さて、残りの参加メンバーのうち、現在暫定五位なのが風太郎だ。
秘境”剣風帖”の出身であり、秘境の次期当主。
そんな彼は、秘境の威信を背負って出陣したわけだが――最終戦で敗北。
ここでレンさんが勝利すれば、勝数の関係で六位のレンさんがメンバー入りという状況だ。
「直接対決で任次郎に負けていなければ、メンバー入り確定していたでござるのになぁ」
「拙者に負ける時点で、精進が足りていないのだ。言い訳無用」
なんてこともあったわけだが、とにかく今はレンさんの最終戦だ。
実をいうと、俺は大会開始前にコイントスで今日のルールを決定した。
表なら総当たり、裏ならスイスドローということにして――出たのは表だった。
結果、総当たり戦でチームメンバー決定戦が開催され、最終戦でこういうカードになったわけだ。
こういうのを、運命力っていうんだ。
今、レンさんは眼の前に越えるべき壁がある。
同学年の最強ファイター、デュエリスト最強の常連客、レンさんにとってネッカ少年を越えたい理由は両手の指では絶対に足りないだろう。
本来なら、この国最強クラスのエージェントであるレンさんが本気を出せばネッカ少年には負けることはない……はずだ。
なのに、本気を出せないからいつまで経ってもレンさんはネッカに勝てない。
今まで、それはずっと二人の前では当たり前の事実として横たわっていた。
「……我の、ターン!」
苦しげな顔で、レンさんがカードをドローする。
その表情はしかし、ドローカードを見ても良くなることはなかった。
何せ――
「……蘇生札、ですか」
「弱くはない、けどどれだけリソースを注ぎ込んでも……一手足りないな」
傍目から、俺とエレアがその様子を観察していた。
レンさんの引いたカードは、汎用の蘇生札。
いわゆる死者が墓地から蘇るそれは、自分か相手のセメタリーからモンスターをサモンできる。
だが、どうルートを考えてもネッカ少年の築いた布陣を突破するには、後一枚カードが足りなかった。
「…………」
レンさんの視線が揺らいでいる。
一瞬だけデッキを見て、それからネッカ少年の顔を見る。
ネッカ少年は、それを憮然とした顔で見守っていた。
「……なぁ、レン」
「なんだ、熱血の民」
「はっきり聞くぜ、どうしてレンは普通のファイトだと本気が出せないんだ?」
その言葉に、レンさんの手が止まる。
レンさんの視線に、迷いと苛立ちが混じった。
「そんなもの……我にもわからん!」
「レンにも?」
「そうだ! ドローするカードの質も、そこから織りなされるコンボも、平時と非常時では明らかに違うのだ!」
今が、まさに顕著な状況だろう。
平時のレンさんは、こういう状況で一手が足りない。
それは単純にたった今行ったドローだけが原因ではないのだ。
そこに至るまでにセメタリーで築いた資産――セメタリーアドバンテージも、非常時のそれとは全く異なるのである。
もしも今が非常時であれば、レンさんは完璧といってもいい手筋でピッタリネッカ少年にトドメを刺していただろう。
それはつまり――
「――じゃあ、レンは別に普段のファイトでも本気を出せないわけじゃないんだな」
「…………そうなるな」
レンさんは、いつだって本気だということだ。
それは、俺も正直わかっている。
もちろんレンさんだって。
でも、それを改善するには至っていない。
「平時と非常時で、精神面に違いがあるつもりはない。ドローの質だって、決して悪いとは思わないのだ。だが、ファイトを続けていく内に――」
「最終局面で、何かが足りなくなる……か」
その何かが、俺にもレンさんにもわからない。
そして――
「……そりゃあ、どうしようもねえなあ」
ネッカ少年にも、答えはわからなかった。
「考えられる答えは唯一つ。
「今ここにはない、か」
今はまだ、レンさんは殻を破るピースを揃えられていない。
相性の良いカードが、この世に存在しないファイターがいるように。
レンさんには、きっかけがない。
それこそ、行方不明になったお母さんのこととか。
色々とレンさんだって迷うことはあるだろう。
その答えは、これから待ち受ける未来にしか存在しないのだ。
「だから今は――どうすることもできんのだ」
「……そうだなぁ、それこそ」
ネッカ少年は、ほとんど雑談のつもりで言葉を零したのだろう。
それは、ある意味で。
失言、だったのだろう。
「
「――――」
はっと、レンさんは視線を上げる。
沈み込んでいた彼女が、一点を見つめて笑みを浮かべたのだ。
そして、手札にあった蘇生カードをプレイする。
「――この効果で、我はモンスターをセメタリーからサモンできる!」
「そのカードで<ガイアストラ・ドラグーン>を蘇生して、そこから展開するんだろ! けど、それじゃあ俺のライフはギリギリ削りきれないぜ!」
「我がサモンするのは――
――そうだ、それならば。
レンさんは、ここからさらにもう一枚。
デッキから
「我が選ぶのは――<バトルエンド・ドラゴン>だ! 我の元へ来い、熱血の下僕!」
かくして、レンさんのフィールドにネッカの初代エースが降臨した。
ネッカ少年は、やっべと言いたげな笑みを浮かべて冷や汗をかいている。
「行くぞ熱血の民! ――デッキじゃんけんだ!」
お互いのデッキトップをめくり、モンスターが出たらそのレベルを比べる。
ネッカの代名詞とも言える効果。
お互いのデッキからめくられたカードは――
「レベル6だぞ、レンはどうだ」
「……レベル4だな、ふん。だが
――デッキじゃんけんに勝ったのは、ネッカ少年だった。
その場合、<バトルエンド>は効果を使えない。
だが、レンさんはカードを一枚セメタリーに送ることができればそれでよかった。
足りないピースを、強引にレンさんは手繰り寄せたのである。
「……結局、手繰り寄せるのに他人の手を借りねばならなかった。そしてデッキじゃんけんでも我は負けている。まだまだ精進が足りんが、しかし」
「……」
「今は、それでいい! さぁ、行くぞ熱血の民!」
「…………ああ! 次は負けねぇ!」
そうして、レンさんはファイトに勝利した。
これで、最終的なチーム”デュエリスト”のメンバーが決定したこととなる。
店長、俺。
店員、エレア、メカシィ。
客、ネッカ、アロマさん、ヤトちゃん、刑事さん、――レンさん。
この八名で、俺達はショップ対抗戦に望む。
それにしても、レンさんの”足りなかった”部分。
なぜ、それが足りないのか。
未だに原因は俺にもレンさんにもわからない。
けれども俺はこのときあることを――以前訪れたレンさんの実家で出会った女性が言っていた言葉を、思い出していた。
次回はちょっと巻き戻って、やりそこねていた聖獣さんのお話。