カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
そしてファイトは――
「やったぁ、勝ったぁ」
ヒジリさんの勝利で終わった。
「これで二勝三敗だぁ」
「負け越しているではないか、姉上」
「こっからだよこっから」
まぁそれ以前に四回やって、うち三回は俺が勝利しているわけだが。
勝つ時は俺が<メタトロン>を出して勝ち、負ける時は<メタトロン>を出す前にヒジリさんが爆発力で圧倒する。
そんな感じのパワーバランスだ。
流石にエージェント畑の世界最強クラスは爆発力が高く、一発勝負に強い。
「ご、五回もあんな濃ゆいファイトして疲れませんかぁ?」
「いや、全然? 店長さんもそうだよね?」
「まぁな。とはいえこのままだと日が暮れても終わりそうにないぞ」
俺はともかく。
ヒジリさんはなんというか、凄い集中力と忍耐力だ。
ケラケラと笑っていてそんな感じは一切ないけれど、とにかくファイトで全く消耗しない。
普通、ファイトってのは体力を持っていかれるものなのに。
これほどの連戦で一切疲れを見せないなんてのは、ダイアくらいのものだぞ。
ネッカ少年だって、まだ体が出来ていないからあまり何度も戦うと疲れが出てくるのに。
「もともと、聖獣……正確に言うと鵺野の一族はファイトが大好きでさ。こうして人身御供としてこの部屋に押し込められても、ファイトさえしていられたらそれで満足できるくらいだったんだ」
「……我も、幼い頃は何度も姉上とのファイトにつきあわされたぞ」
「レンさんは今も幼いですよね???」
なんか普通に、自分はもう大人だみたいに言うレンさんにエレアがツッコミを入れる。
レンさんは確かに天才小学生だが、あくまで天才小学生でしかないのだが。
「ま、そうだね。流石にこれ以上はレンとエレアちゃんが暇になるかな」
「別に我は、その間に色々とやることをやるだけだから構わんが」
「私も、店長のファイトなら無限に横で見ていられますよ!」
「レンも一息いれようよ。というわけで、次は四人でやれることをやろう」
あ、エレアがスルーされた。
そしてレンさんは、俺達のファイトを見ながら仕事やらなんやらの処理をしていた。
両手にスマホとタブレットを抱えて、何か色々と処理をしている。
「であれば、少し待つが良い」
で、俺達にそう断ってから――そのスピードが極端に上がる。
それはもう、両手が分身しているんじゃないかという感じだ。
「こ、これがレンさんの時間圧縮技術ですか……!」
「何度見ても、おかしいことしてるよねぇ」
で、三分ほどそうしていると、両手で画面をターン、と叩いてから手をクロスさせて停止する。
あ、アレは――キーボードをカタカタターン! ってするやつ!
今の時代だとタブレットの画面でターン! することになるのか、ちょっとシュールだな……。
「終わったぞ」
「おおー」
「おおー」
エレアとヒジリさんが素直に拍手をしていた。
俺も絵面はともかくレンさんの手際には拍手を送らざるを得ない。
「というわけで四人でやれること……つまりゲームをしよう!」
「おー、協力型FPS、私これ得意なんですよ」
「エレアちゃんがいればなんとかなる気がするゲームを選びました」
と言いながら手渡される、携帯機三台。
しっかりヒジリさんも自分の分を持っている。
「そもそも、私とヒジリちゃんの絡みって、FPSのコーチングからでしたからね」
「そうなのか?」
「エレアちゃんって、正体が正体だからFPSがプロ並に上手くって。女性でコーチングを頼めるプレイヤーって貴重だから……」
どうでもいいが、この世界にもプロゲーマーは存在する。
そしてプロゲーマーってのは大抵ファイトも強いのだ。
中にはプロゲーマー兼プロファイターなんてのもいるな。
ファイトしてみたい。
そしてエレアは、そんなプロ並にFPSが上手く、いろんな女性配信者からコーチングを頼まれるらしい。
エレアは凄いなぁ。
「店長さんはゲームの腕前どんなもんっすか?」
「そこそこのオタクって感じの腕前ですね」
「瞳の民が答えていくのか……」
ゲームを起動しつつ、まずは軽くそんな話をする。
俺の腕前は至って普通だ。
「ボクと似たようなもんだねぇ、いやボクの場合は手を広げ過ぎて一つのゲームの習熟が足りてないだけなんだけど」
「有名配信者は大変だな……」
そしてヒジリさんは、とにかく色んなゲームをするもんだから基礎は普通にあるけど、一つのことに習熟する時間がないみたいだ。
配信者ってそんな感じだよな、実際。
エレアみたいに、特定のゲームでプロ並みの実力を発揮するタイプもいるけどさ。
「レンさんは……すっごい熟れてるな……」
「私の次に上手いんじゃないですか?」
「こんなもの、少しやれば慣れるだろう」
そしてレンさんは、相変わらずの器用さというか。
どうもこのゲームをプレイするのは初めてだというのに、一瞬で操作を理解してセオリーまで把握してしまったようだ。
純粋な技量で勝るエレアを除けば、この中で一番上手いかもしれない。
「レンは昔から何でもできるからねぇ、不器用なボクとは大違い」
「姉上は物臭なだけだろう。どれも中途半端で放り投げて、続いた例がないではないか」
「ゲームはちゃんとクリアまでやるってばー」
なんて話をしながら、時間は過ぎていく。
ヒジリさんは、有名配信者をしているだけあって話し上手で、場を回すのも上手い。
ただそれ以上に、思い返してみると。
こうしてレンさんとゲームをして時間を過ごすことって、初めてな気がする。
大抵の場合、レンさんとはショップに客としてやってくるか、何かしら用事があって仕事の話をすることがほとんどだ。
以前、ネッカ少年たちとバスケをしているところに出くわしたことはあるけれど。
レンさん個人とこうして、ただ肩を並べて遊ぶという経験は――思い返してみると初めてのことかもしれなかった。
□□□□□
「すぅ――」
そして、夜。
遊び疲れたのかレンさんはもうすでに眠ってしまった。
一日八時間の睡眠は、この寝付きの良さによって培われているのだろう。
「いやぁ……なんというか、こうして無心にレンと遊ぶなんていつ以来だろう」
「ヒジリさんもそうなのか? ヒジリさんなら、レンさんと遊ぶ機会も多いと思うが」
そんなレンさんを、ヒジリさんが膝枕しながら頭をなでている。
その姿は、姉としてのヒジリさんのあり方を端的に表していた。
「うーん、レンのお母さんが行方不明になってから、レンはずっと頑張ってるからねぇ」
「レンさんのお母さんか……」
「死んではいないと思う。あの人はそう簡単にくたばるようなタマじゃないし」
「言い方が雑だなぁ」
まぁうん、話を聞いている限りとんでもない人なのだろう。
強いのに”社”の当主になれない辺り、そうとうピーキーというか……まぁこの世界の住人らしい破天荒さを持っているに違いない。
「……レンはね、レンのお母さんにファイトで勝ったことがないんだ」
「そりゃあ、レンさんの特性を考えるとそうなんだろうが」
「
「――それは」
確かに、少し普通じゃない。
基本的に、この世界の人間で無敗のファイターなんて
そりゃあ初代ファイトキングとか、
人は長い人生の中で、一回は敗北を経験する。
だから、何度も何度もやっていれば、一回や二回くらい格上の相手に勝つことだってあるのだ。
まぁ、それを一発勝負で引き出すことはあまりにも難しいのが運命力の存在するこの世界なんだけど。
それにしたって、一度もってことはつまり日常的なファイトすら全敗だったということだろう。
あまりファイトをしない間柄ならともかく。
親子という間柄で、どちらかが一方的に勝てないなんてことはそうそうない。
「……いつか、レンはレンという殻を破れるのかなぁ」
その原因を、端的にヒジリさんは口にした。
まぁ、自然に考えるならそうなるよな。
いずれレンさんは、成長して普通のファイトでもダークファイトと同じ実力を発揮できるようになる……と。
「レンは急ぎすぎなんだよねぇ。ボクみたいに、毎日ダラダラ好き勝手暮らせばいいのに」
「流石にそれは極端すぎるような……」
「というか」
いいながら、エレアはスマホを弄って――
「確かにヒジリちゃんは好き勝手暮らしてますけど」
「うん」
「――一日二回行動はダラダラとは言わないんですよ」
チャンネルの配信を見せる。
一日に最低二回は配信を繰り返す配信モンスター、下手すると三回四回連続行動。
まあうん。
「……似たもの姉妹だな」
「なんてこったぁ」
そうしてすぅすぅと眠るレンさんと、たははと笑うヒジリさんはなんというか。
根っこが似ているようだった。
お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、意図的に店長のゲームのジツリキをスルーしていたりします。
何でスルーするのかは……まぁ、そのうち……そのうち……