カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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155 伝説のファイター仙人って? ①

「そろそろおゆはんできますよぉ」

「おー」

 

 鍋を持って、エレアがテーブルのほうにやってくる。

 俺は、落としていた視線をそちらに向けた。

 

「何を見ているんですか?」

「昔のアルバムが出てきてな、せっかくだからってめくってるんだ。見るか?」

「私に見せるために、わざわざここまで持ってきたんじゃないんですかー?」

「まぁな」

 

 現在、俺がいるのはショップ二階の生活スペースだ。

 店を閉めて、エレアと二人で夕飯を食べるところである。

 そこに俺が昔のアルバムを持ち込んでいるのだ。

 エレアと、昔の写真を見ようと思ってな。

 

「じゃあ、失礼しまーす。んふふ、ちょっと近いですか?」

「いや、こんなもんじゃないか?」

 

 肩を並べてアルバムを見る、すぐとなりにエレアがいるが、コレくらいならもうそこまで緊張はしない。

 ただ少し、エレアの良い香りが鼻孔をくすぐるも、その程度。

 

「これが中学入学の時の写真だな」

「もうこの頃から、ダイアさんと一緒に写ってるんですね」

「同じ特待生だったからな、まぁ流石にこの頃はそこまで親しくないけど」

 

 というか、このときが初対面じゃなかったか?

 などなど、溜め込んだ写真をエレアと見ていく。

 色々とエレアと語り合ったものの、ふとあるところで俺達は手を止める。

 

「――これ、キアさんとナギサさんと一緒に映ってる写真ですね」

「ああ、店長修行の頃だな」

「こちらのお爺さんは……?」

 

 写真には、俺とキアとナギサの三人が並んで笑顔でピースをしている。

 その後ろに、やれやれと言った様子でピースをする爺さんが一人。

 頭の天辺はつるつるだが、ヒゲは豊か。

 服装はどこか浮世離れしているような感じ。

 一体誰かと、エレアは首を傾げた。

 

「ああ、ファイター仙人だ」

「ファイター仙人!?」

 

 そして、俺の言葉にばっと飛び上がる。

 思ってもみない答えだったのだろう。

 

「ファ、ファイター仙人って、あのファイター仙人ですか!?」

「そのファイター仙人だ。そもそも店長推薦状を出せる店長の中にファイター仙人がいるってのは有名だろ?」

「い、いわれてみれば……」

 

 ファイター仙人。

 この世界で有名なファイターは何人もいるが、ファイター仙人はその中でも特に知名度が高い。

 世界一有名なカードショップ店長は? と聞かれたら名前が上がる存在でもあるし。

 文字通り、仙人としても有名である。

 

 ファイター仙人は、とある山の奥深くに住んでいて、俗世から隔絶した生活を送っている。

 文字通り仙人のような生活を送っているわけだが、そんな仙人の元に、アドバイスを求めて人がやってくることがある。

 それに対して仙人は試練を課して、それを突破したらアドバイスの答えやその人が求めるカードを渡したりするのだ。

 まさに、仙人である。

 

「そしてその試練の中に、店長推薦状を出してもらうという試練がある」

「店長はそれを受けたんですよね」

「いや、受けたというか……」

 

 まぁ、受けたは受けた。

 仙人のところに行って、推薦状を出してもらう試練を受けようとした。

 までは、良かったのだが――

 

 

「――試練、受ける必要ないって言われたんだ」

 

 

「あーーーーーーーー」

 

 めちゃくちゃ納得された。

 だってしょうがないじゃないか、仙人の所にいったら初手で推薦状投げつけられたんだもの。

 「お前さんがここにいる理由はない、帰れ帰れ」だそうな。

 

「ただ、個人的にそれじゃあ困るから、俺はしばらく仙人のところに居座ったんだ。仙人の身の回りの世話とか、ショップの運営を手伝ったりしてな?」

「うわー、アグレッシブですねぇ。それで……そのタイミングで、キアさんとナギサさんもやってきたんですか?」

「そんなところだ。んで、三人で仙人のところで修行をしたわけだな」

 

 俺以外の二人は、普通に試練を出されたぞ。

 なんで俺だけ仲間はずれにするんだ。

 

「あ、じゃあじゃあ店長。その時のことをもう少し教えて下さいよ」

「ふむ、別に構わんけど、どうしてだ?」

「えーっとその、キアさんのプライベートな部分が気になって」

 

 ちょっと恥ずかしそうなエレア。

 もちろん、話しちゃダメならそれでいいんですけど、と補足してくる。

 とはいえこれは――

 

「問題ないぞ。キアも、エレアになら話していいって言ってたしな」

「言ってたんですかぁ!?」

「まぁ誰だって気になるだろ、カリスマ美人店長”明日原キア”の素顔ってのは」

 

 だから先んじて、キアも話していい相手には話していいと言ってくれたわけだしな。

 さて、そういうわけで俺達の話題はアルバムからキアとの思い出話に移る。

 一旦アルバムも脇において、夕飯を食べながら話をしようということになった。

 二人で今日の夕飯を盛り付けながら、俺は過去へと思いを馳せていく――

 

 

 □□□□□

 

 

「――どうしてもだめか、仙人」

「ダメじゃ、お前さんとやっても得られるもんがないからの」

 

 俺はその日、仙人に直談判していた。

 俺と仙人がいるのは、仙人の住処であり――山奥にひっそりと建てられた仙人のカードショップだ。

 「仙人窟」と呼ばれている。

 そんな仙人窟で、俺と仙人はあーだこーだ言い合っているわけである。

 内容は――

 

「けど、俺は仙人とファイトするためにここまで来たんだ。頼む、一回でいいから」

「ダメじゃと言っとるだろう、お前さんは儂とのファイトで得られるものが何も無い。もうすでに、お前さんという”個”が完成しているからじゃ」

 

 これだ、俺は仙人とファイトしたかったのだ。

 だって仙人だぜ? この世界で知らぬ存在はいない、ファイトの仙人だ。

 一回くらいファイトしてみたいってのが人情というものではないだろうか。

 が、仙人はダメだという。

 

「儂はこれでも仙人じゃ。人を導き、道を照らす存在なのじゃ」

「仙人のファイトは、あくまで他人を導くためのもの。導く存在にファイトは不要……だろ、わかってるって」

「じゃったら、何故そうまでしてファイトを望む」

「ファイトをしたいと望むのに、理由なんて必要か?」

 

 ファイターなら、誰だって強いファイターと戦いたいものだろう。

 それは一種の本能であり、決して咎められるものではない。

 

「ただのファイターならば、な。しかしミツル、それがカードショップの店長なら、どうだ?」

「ふむ……」

 

 少し考える。

 仙人は、俺に一種の謎掛けをしているのだ。

 意図を読み取ってみろと言っている。

 俺は少し考えて――

 

「……カードショップの店長は、店にやってくる全ての客の味方だ。誰か一人のワガママを聞いてそいつとだけファイトなんてのは……確かに許されないな」

「うむ、それに――」

「それに……そもそもショップの店長である以上、そいつは経営者。ファイトより店の運営を優先しないといけない、か」

「……お前さん、少しくらい儂に話させてくんないかのう?」

 

 じゃからお前さんに与える試練がないのじゃ、とつまらなそうに仙人は言う。

 

「とにかく、今のやり取りから分かる通り、お前さんは儂の教えなぞ必要ない。必要ないのなら、ファイトはしない。それが答えじゃ」

「むむむ」

「第一、お前さんはそもそもすでに儂と同じ――――」

 

 と、何やら仙人が口に出そうとした時。

 

 ――ドサ。

 

 店の外で、そんな音がした。

 

「む、何じゃ?」

「また、誰かが無茶して山を登ってきて、入口が視えて安心して倒れたかな」

「いつものことじゃのう。ほれ、少し見に行くぞ」

 

 そう言って、仙人は立ち上がる。

 俺もその後に続いた。

 店の入口で倒れていたのは――まぁ、言うまでもない。

 後にカードショップ”マスターズ”の店長となる、明日原キアだった。

 この時の俺は、彼女のことを何も知らないわけだけど。

 

「おい、大丈夫か?」

「ふむ……疲れておるだけのようじゃな。中で少し休めば問題ないじゃろて」

「……みたいだな。それにしても、なんだってこんな小さな子が仙人窟に?」

 

 いいながら、俺は少女を抱えあげる。

 それを見て仙人が――

 

「ふむ、ミツルよ。何故この少女はここで倒れておると思う?」

「そうだな……なにか大切なものを失った少女が、それを取り戻すため決死の思いで仙人の元へやってきた――」

「……」

「――わけじゃないな。身なりが整ってるし、何よりこの子は気配からして明らかに強い。よっぽどの理由がなければ、仙人の助けはいらないだろう」

 

 一瞬、俺の言葉に仙人が眉をぴくりとさせたが、最後まで言い切るとそうじゃなと頷いた。

 

「とすると――やってきた理由は一つ。仙人にしかできないことを頼むためだ。例えば……店長推薦状とか」

「もしくは、儂が保有する伝説のカードを求めてやってきたか、じゃな」

 

 とはいえ、と仙人が少しだけ安心した様子で続ける。

 

「お前さんでも……何故この小娘が倒れていたかまではわからんようじゃな」

「流石にそこまではな。明らかにファイターとしての実力を感じさせる気配をしてるのに、この山を登った程度で倒れる体力をしているとは思えん」

「そこが理解できていたら、儂は仙人の立場をお前さんに譲らなければならんかったぞ」

 

 いや、流石にそこまでは求めてない……。

 

「ようやく、お前さんにも試練を出すことができそうじゃの」

「……ってことは」

「うむ。棚札ミツルよ、この少女を助け――少女が何故、この店にたどり着く際に力尽きたのか。その理由を探るのじゃ」

 

 ただし正面から、彼女の口から聞き出すのじゃぞ、と。

 仙人はそういった。

 

「それを成し遂げた暁には、儂はお前さんとファイトしよう。それでよいな?」

「ああ……と、言いたいところだけど」

 

 俺は、抱えている少女の方を見て、一言。

 

「彼女から許可をもらえたら、な」

「うむ、流石にこの程度は間違えんな」

 

 ――もしここで、俺が彼女のことを意識していなかったら即座に失格にするつもりだったな?

 と、思いつつ。

 俺は、少女を店の中へと運ぶのだった。




というわけで再び過去編
四章前半戦も最終エピソードです。
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