カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
ファイター仙人のいる山へたどり着くのは、本当に険しい道のりだ。
ここより険しい道のりとなると、それこそファイトマウンテンくらいじゃなかろうか。
頂上に神秘的な秘境があって、ダイアがめちゃくちゃ塩い登頂動画を上げたアレだ。
んで、仙人の山は登る人間によって難易度が変わる。
山を登る体力がないけど、仙人に助けを求めないと最悪死んでしまう子どものために、山に登らずとも店にたどり着く特殊ルートなんてものも存在するのだ。
登る資格のない人間は、そもそも途中で入口に戻されたり。
これを利用して、遭難した人間も入口に戻されたり。
割と安全弁の多い仕様だが、キアはそんなもの使っていないだろう。
一番険しいルートを通ってきたはずだ、俺やナギサみたいに。
そして俺もナギサも、結構余裕を持って登頂できた。
なのにキアが倒れるなんて、何があったのか。
答えは非常に単純だった、山登り以外のことを並行してやっていたんだな。
「それはなんというか……随分と無茶をするな……」
「計算上では問題ないはずだったんだ。ただまぁ、やっぱ想定外のことが起きると計算って簡単に崩れるね……」
「ダンジョンアタックでリソースギリギリは、大抵足りなくなるよな」
ボードアドバンテージ一枚で状況がひっくり返る状況、トップ解決で相手に計算以上のアドが発生した結果逆転されました……みたいな。
何度ダイアのサンボル……もとい、<破壊の雷>で盤面を崩されたことか。
「まぁでも、おかげでミツルが仙人と戦えるかもしれないんでしょ? なら、倒れたのも結果的には良かったのかも」
「流石にそれはない。自分を大事にしろよ」
「あはは……わかってる」
申し訳なさそうにそう言って、少しの沈黙。
どうして倒れたのか、については……これ以上話すこともないだろう。
キアからは、もっと別のことを聞かなくちゃならない。
ただ、俺が聞くべきではない。
キアの方から話を切り出してもらう、俺はそれを待つだけだ。
もちろん、話すつもりがないなら問題ない。
無理に聞くようなことでもないしな。
ただ、キアは仙人が俺に課した試練の内容を知っている。
話していいと思えたら、話すだろう。
そして今がその時だ。
かくしてキアは、自身の過去を詳らかにする。
「……ママが幼い頃に離婚して、私はパパと二人で暮らしてきたの」
「二人で?」
「うん。……でも、二人っていうのも、あんまり正しくないかな。だってパパと顔を合わせた機会なんてほとんどないんだもん」
キアの父親は、仕事が非常に忙しいのだという。
離婚の原因も……まぁ、それなのだろう。
「”スピリッツ”って……知ってるよね」
「カードショップのスピリッツだよな?」
「うん、……あそこの社長が、私のパパなの」
なるほど、それなら忙しいのも納得だ。
ただまぁ聞いてると、どうも忙しいだけじゃない気もするのだが。
「でも、それにしたってひどいんだよ? 誕生日も、クリスマスも、お正月も全然家に帰ってこないの。それどころか、入学式だってお祝いされてないんだから」
「それは……流石にひどいな」
ひどいと言うか、明らかに理由があってキアを避けてるよな。
その理由が同情できるものか、同情に値しないものかはさておいて。
とりあえず、とんでもない仕事人間なのは間違いないだろうが。
「ただパパの知り合いはいい人だったから、私考えたんだ。その人達に手伝ってもらって、私もいろんな企業を運営したらパパも認めてくれるんじゃないかって」
「……」
それで、そういう考えに至る辺り、割とキアも仕事人間だな……とは思ったものの。
でなければ、こんな山奥に仕事持ち込まないよな、と俺はノートパソコンをチラ見した。
「大学も飛び級で卒業して、今じゃ立派なカリスマ社長なんだよ? この若さで」
「自分で言っていくのか……いやでも、大学を飛び級はすごい話だ」
後に、結構そういう天才小学生はいると知ることになるが。
そういった天才小学生を初めてみたのは、キアが最初だった。
まぁでもホビーアニメみたいな世界だしな、そういう人もいるだろう。
「経営も上手く行ってる、パパの会社に負けないくらい、色んな会社を運営してる。でも……」
「でも?」
「パパは、私のことをみてくれなかった。せめて、善かったか悪かったかくらい言ってよ……」
もしも、褒めてくれたのならそれでいい。
仮に罵倒されたとしても、それならそれであきらめが付く。
どちらでもないのが、一番困ってしまうだろう。
「だから私は……次はカードショップの店長になるの。もっとパパに近づいて、パパの真意を私は知りたい」
「それが……望んだものじゃなかったとしても?」
「なかったとしても。そもそも、もうこれだけ無視されてる時点でこっちもパパのことなんて嫌いだよ。それでも、何にもわからないままじゃ納得できないの」
こればっかりは、キアの言う通りだ。
ホビーアニメなんだから、何かしらキアのお父さんにも意図はあるのだろうけれど。
流石に何も言わないんじゃ、それを察することなんてできない。
理由なんて、本当に訳のわからないところから湧いてくる世界だからな。
異世界からの侵略に備えるため、娘の存在を敵に知られないようにするため。
とかいう理由が、普通にありえる世界なんだぞ?
「……ごめんね。いきなりこんなコト言って」
「いいさ、そもそも俺は、それを聞くためにこうして仙人窟にいるわけだし。失礼なのは俺の方だろ」
「そんなことないよ、ミツルは優しいもん。私の話も、こんなに真剣に聞いてくれた」
寂しげに、キアは笑う。
こうして自分の思いを吐き出したことなんて、今まで無かったのだろう。
「……何も言ってくれないパパじゃなくて、ミツルみたいな人が家族だったらよかったのにな」
「それじゃあ俺がお兄さんか?」
「うーん……ミツルにぃとかどう?」
兄ぃ、と来たか。
俺は特に意識せず、それに応える。
「まぁいいんじゃないか?」
「…………うん。じゃあミツルにぃで、宜しくね?」
「ああ」
少しだけ嬉しそうに、キアは笑った。
寂しげな雰囲気が取り払われたようで、よかったよ。
「ちなみに、ナギサはどうなんだ?」
「ナギサはナギサだよ、だって私の方がお姉ちゃんだもん」
「ああ……ヒエラルキー的な……」
どうにも、俺達三人の序列は仙人にどれだけ認められているかで決まっているような気がする。
俺が一番上で、次にキア、最後にナギサだ。
おかげでキアのナギサに対する態度が割と雑である。
後に、ナギサは一時的にキアの店に所属するわけだけど。
やっぱいろいろ雑なんだろうな……と思う。
南無。
「それで、ミツルにぃは私が倒れてた理由を知ったわけだけど、仙人はそれでオーケー出してくれると思う?」
「思わないな。確かに理由は知ったけど、俺はキアに何もできてない」
「にぃ、とは呼んだんだけどなー」
それは……なんというか。
キアの父親との確執は、きっとすぐに解決するものではない。
下手したら数年……十年くらいはかかるかもしれない難題だ。
だから俺がキアにたいしてするべきことは、そっちじゃない。
「……じゃあ、何をするの?」
「簡単だ。キア、君は――一体何日休んでないんだ?」
「え? えーと……今も休んでるよ? これから就寝だし」
確かに、キアは今パソコンを弄っていない。
俺と話をし始めてすぐに、ぱぱぱっと片付けてしまった。
「もっと纏まった休憩時間……休日のことだよ」
「休日は取ってるよ? 友達や取引先の人とコミュニケーションを取ったり、資格の勉強したりとか」
「それは……休日というのか?」
「普段とは違うことをしてリフレッシュする! 十分休日だと思うけど」
確かに休日っていうのはそういうものかも知れないけどさぁ!
でも、ほらなんか、違うだろ!
「なんかこう、何もせずダラダラ一日を過ごすとか……ないのか!?」
「……ないかなぁ」
「だろうな! というわけで……明日、時間は作れるか?」
「え、明日? まぁ、可能だと思うけど」
小首をかしげて、脳内で予定を調整しているらしいキア。
やがてそれが完了したのか、改めて一つ頷いた。
「うん、行けるよ。ちょっとこの後、諸々の調整で一時間くらい使うけど」
「それはまぁ……流石に全部投げ出すわけにもいかないしな」
引き継ぎは大事だと、俺の前世の記憶も言っている。
それはそれとして――明日は何もしない、これは決定である。
「でもなぁ……何もしないって……できるかなぁ、私」
「……わからん、やってみるしかないだろ」
何事も、やってみないことには始まらない。
ファイトなんか、特にな。
最初の手札を見てみないことには、その後の展開なんて解りようもないのである。
と言うわけで割とすんなりミツルにぃになりました。
年間ランキングで二位になりました。
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