カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

178 / 373
158 伝説のファイター仙人って? ④

 仙人に今日はキアと二人でダラダラすると伝えたら、やっぱりか、という視線で許可してくれた。

 なんでも、大事なのは理由を知ることではなく、その後の行動だったらしい。

 んで、二人で何もせず休むのは大正解。

 また何も言わずとも俺がなんとかしてしまった、というわけだな。

 教えたがりの仙人め。

 

 ちなみにナギサはといえば、じゃあ自分もちょっと休んで麓の観光に行ってくるといって出ていった。

 いや、そもそも普通に降りたら麓と仙人窟を往復するだけで一日かかると思うんだけど――?

 まぁアイツなら大丈夫だろう。

 仙人も許可したし。

 

 というわけで、キアと二人でダラダラしているわけだが――

 

 

「――無理! ダラダラ無理!」

 

 

 キアが、ベッドの上でジタバタしていた。

 

「そうか……? デッキの調整とかしてるだけでも楽しいぞ?」

「流石に一日をそれで費やすのは無理だよ、ミツルにぃ!」

「……?」

「ごめん、ミツルにぃなら余裕だよねそうだよね」

 

 いやまぁ、それが普通じゃないことはわかっているのだが。

 俺の周囲には、それで一日潰せる人間の方が多いんだ、悪いな。

 

「じゃあ、適当にパソコンで何か見るか?」

「目的なくパソコンを開いたことがないから、何を探せばいいのかわからないよ」

「そもそも、目的なくパソコンを開くのも結構難しいよな」

 

 せめてスマホなら違うんだろうが。

 あと、キアの場合はパソコンを開くとそのまま流れる手つきで仕事を始めてしまうのだろう。

 俺がデッキを手にしたら、自然と調整を始めてしまうように。

 

「いっそ、私の手足をベッドに縛り付けてほしいくらいだよ、そうすれば物理的に何も出来ないし」

「絵面がやばすぎる、というか休暇は心と身体を休めるためにやるものだろ、それじゃあ何の意味もないぞ」

「それはそうだけど……そもそも、何もしないっていうのが、私にとっては休んでるって言わないことがわかったの!」

 

 だらだらしようとしても、気がついたら手が動いてしまっている。

 もはやキアは染み付いてしまうほどの仕事人間だ。

 ファイターがファイトから逃げられないように、キアは仕事から逃げられない。

 ううん、なんとなく解るような解らないような感覚だ。

 俺だって、ダラダラしてるときにデッキ構築やカードの整理とかを始めたらそのまま一日潰れていることだろう。

 でもそれは仕事とはまた違う気がするしなぁ。

 

「んじゃあ、何かはしよう。といっても、何するかなぁ……」

「パソコンはダメ、ゲームとかはそもそも持ってきてないし……」

「仙人の畑の土いじりでもするか?」

「悪くはないけど……こういう時、仙人が自分で畑弄ってそうだから邪魔すると拗ねるかも」

 

 ええい、子供みたいなことする爺さんめ。

 まぁ俺も同じようなことを思ったから、土いじりは却下だな。

 

「じゃあ、外を散歩するか……」

「まぁ、それしかないけど、流石にもう結構な時間暮らしてるから、あんまり見るところもないよねぇ」

 

 俺達が暮らす仙人窟の周囲は、仙境と呼ぶにふさわしい幻想的な風景が広がっている。

 でも、流石に生活圏にしていると慣れる。

 もちろん今見ても素晴らしい光景だろうが、それはそれとしてなんかこう……話題は欲しい。

 

「んじゃ、そうだな……歩きながら、話すか」

「話すかぁ……何を?」

「それは今から考える」

 

 流石になんかでてくるだろう。

 こう、いい感じのものが。

 

 

 □□□□□

 

 

「――ミツルにぃは、仙人の質問になんて答えたの?」

「ああ、あの最高のカードショップとはなにか、ってやつか」

 

 空は晴れ、辺りには山々が広がって、眼下には見渡す限りの雲。

 そこは仙人の住まう山の頂、この世のすべてを見下ろせるほどの峰。

 この雲の下には人々の生活があって、雲の上には仙人の住まう庵がある。

 まさに雲は、世界を隔てる壁だった。

 どこまでも、幻想的な光景が広がっている。

 

「ナギサは、皆が笑顔でいられる場所、だったかな」

「仙人は”あやつ”の受け売りだろうって言ってたね」

「さすらいのショップ店長”傳田ナガヒロ”の定義する最高のカードショップ……だったな」

 

 傳田ナガヒロ。

 今から数十年くらい前、店長資格の制度が出来て少し経った頃。

 店長推薦状をすべて手に入れると店長資格を手に入れることができるという制度で、初めてショップ店長になった店長だ。

 世界中を飛び回り、人々に笑顔を届けるためにショップ店長をしている。

 とにかくすごい人だ、一度会ったことあるけど。

 

「まぁ、ナギサからしてみれば当然だろ。傳田さんの言葉で、ナギサは風来坊を志したんだから」

「そりゃあそうだよね、そしてだからこそナギサは店長に拘ってない」

「店長を目指しても、傳田さんの二番煎じにしかならないからな」

 

 だったら、もっと別のことをする、というのがナギサの考え。

 それが正しいかどうかはともかく、ナギサの中でそうすると決まっているのだから俺から言うことは何も無い。

 

「じゃあミツルにぃは? ミツルにぃも答えたんだよね?」

「流石にな。と言っても、大したことは言ってないけど」

 

 大したことかどうかで言えば、大したことではない。

 俺にとって当たり前のことだし、キアが聞いてもそれは当然のことだろうと思うからだ。

 だから、俺の答えは――

 

 

「俺の答えは――()()()()()()()()()()だ」

 

 

 それは、ある意味でキアの答えとは正反対のものだ。

 キアは最高のカードショップを「繁盛している店」と答えた。

 俺にとって最高のカードショップに必要なものは、「店長」。

 対してキアは「店」なのだ。

 この二つの考えは、完全に土台を別としている。

 

「店も、商品も……それから、究極的に言えば客も、いくらでも変化するものだ。場所や開店時間なんかでな」

「変わらないのは、店長だけってこと?」

「そうだ。カードショップは他のものは必要なくても、店長がいないと経営できないものなんだから」

 

 カードショップの開店に必要なものは、イグニッションフィールドと店長資格だ。

 その二つさえあれば、そこはどこだろうとカードショップになりうる。

 傳田さんのカードショップは、イグニッションフィールドを内蔵したデカいトラックだったりするからな。

 

「じゃあ、最高の店長ってなぁに?」

「それこそ、答えは人によって異なる。最高のカードショップという問いの答えが人によって違うように、な」

「ミツルにぃは、自分が最高の店長になれるって信じてるんだ」

「もちろんだ、俺はファイターとしても店長としても、いつだって最高を目指してるよ」

 

 この世界に転生した時から。

 この世界でカードに触れたその時から、俺はカードに魅了され続けている。

 だって、こんなにも楽しくて素晴らしい世界なんだぞ?

 そりゃあ、人と人のわだかまりは当たり前にあって、それが時には誰かを傷つけることはあるけれど。

 

 それでも、カードさえあれば最後には彼らは手を取り合える。

 争いではなく、ファイトで言葉を交わす世界。

 それが素晴らしくなくて、何だというのだろう。

 

 そんな世界の最高を目指したいと思うのは、とても自然なことではないだろうか。

 

「私は……目指せるかな、最高の店長」

「最高の店長を目指す必要はないさ、それはキアの考えとは違うんだから」

「あ……」

 

 俺とキアの考えは、全く以て正反対のものだ。

 だが、面白いのはその二つが絶対に相容れないものではないということ。

 お互いを尊重しあい、それでいて高め合うための土台となりうるもの。

 それはまさに、カードショップ同士が競合相手であったとしても、決してお互いを攻撃し合う存在でないのと同じだ。

 

「……わかった。私、最高の店を作ってみせるよ」

「そして俺は、最高の店長になってみせる」

 

 お互いに、柔らかな笑みを浮かべて言葉を交わす。

 キアの肩から、少しだけ力が抜けたように思えた。

 多分、休憩としては大成功だろう。

 穏やかな時間の中で、言葉を交わすことも一つのリラックスになるということだ。

 

「――約束だね」

「ああ、約束だ」

 

 そうして、俺達は拳を重ねる。

 いずれ、最高になった店と店長を、お互いに見て貰うという約束をして。

 

 

 □□□□□

 

 

「――棚札ミツル、お前さんの願い。確かに聞き届けた」

 

 その夜、食事を終えた後。

 仙人は何気なくそういった。

 言葉の意味を、俺は一瞬で理解する。

 

「……じゃあ、仙人。俺とファイトしてくれるのか?」

「ああ、お前さんは儂の試練を突破した。であれば、その報酬は渡さねばならぬ」

「ありがとう仙人。……ファイトは、今からでいいか?」

「ほっほ、そういうところは若いのう」

 

 ヒゲを弄りながら、仙人はあるものを取り出す。

 木でできたイグニスボードだ。

 ずっと昔の、魔術がファイトと密接に関わっていた時代のもの。

 この場所風に言うなら……仙術か?

 

「頑張って、ミツルにぃ」

「まけないでー、ミツルー。……あと、いつの間にキアはミツルのこと兄ぃって呼ぶようになったん?」

 

 横でキアとナギサが応援してくれる。

 その言葉に俺は頷きで返して、仙人と向かい合った。

 イグニスボードを構える。

 

「……始める前に、仙人」

「どうしたんじゃ?」

「一つ、礼を言っておくよ。試練を課してくれてありがとう」

 

 その言葉に、キア達が首を傾げた。

 ファイトを受けてくれたことにではないのか、と疑問な様子だ。

 

「あの試練は、俺が肩の力を抜くためのものでもあったんだな。キアと話して、俺もちょっとだけ気が楽になったよ」

「……ふん、相変わらず面白くないのう。お前さんもキアも、まだ子供だというのに」

「子供は、大人ぶりたいものなんだよ!」

 

 一応、転生前は成人してたけど。

 仙人からしたら、転生前の俺だって子供みたいなもんだろうな。

 とにかく、これで準備は整った。

 

 俺達は、かくしてファイトを始める。

 

「イグニッション!」

「イグニッションじゃ」

 

 この仙人窟で、仙人と暮らして得たものを、仙人にお返しするとしよう!




四章前半も後二回です、そして四章前半のファイトノルマはまさかのファイター仙人に。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。