カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
俺と仙人のファイトが始まる。
この時期、俺はまだ<極大古式聖天使 エクス・メタトロン>を手に入れていない。
なので俺の最終エースはこのとき、<アークロード・ミカエル>だ。
なお、<アークロード>以外の四大天使強化バージョン――<メガブラスター・ウリエル>とかも未入手である。
今と比べると、大分デッキのパワーも低いと言えるな。
「では、呼び出すとしようかのう。<真守護古聖獣 覇王青龍>!」
荒れ狂う空――俺達からしてみれば大地から、青の龍が現れた。
咆哮とともに仙人の横に降り立ち、俺を睨む。
仙人のデッキは『
俺の『古式聖天使』のような、相手の攻撃を受けつつ本気を出させた所を更に本気で叩き潰すリスペクトスタイルのデッキ。
というか、こっちが四大天使で向こうが守護聖獣だ。
割と似た者同士なデッキである。
「迎え撃つぞ、<ロード・ミカエル>!」
俺がすでに呼び出していた<ロード・ミカエル>が、<覇王青龍>の攻撃を受け流す。
というより、お互いのモンスターは同じ打点なのだが、お互いにターン一回の破壊耐性があるのだ。
「ふむ、やはりぶつかり合いになるのう」
「お互い、似たようなデッキつかってるからな」
「似たような……まぁ、よい」
その後も、仙人とのファイトは続く。
俺が<ブラスター・ウリエル>を出せば<極炎朱雀>をサモンし、<エクシード・ラファエル>をサモンすれば、<超越白虎>を呼び出した。
そしてついに――
「……現れろ! <大古式聖天使 デイバース・ガブリエル>!」
「こちらも、カウンターエフェクトの効果で呼び出させてもらおうかの。<真守護古聖獣 生典玄武>!」
それぞれのフィールドに、四大天使と四聖獣が揃った。
壮観な光景だ、思わずといった様子で、ナギサが喉を鳴らす。
「……すごいな」
「聖獣と聖天使が……こんな」
俺としても、まさかここまでもつれ込むとは思わなかった。
お互いに防御的なカードが多い分、極度に不安定な拮抗が生まれるのは想定していたが。
すべての聖天使と聖獣が揃うまで続くとは。
「お互い、攻めあぐねた結果……すべての下僕を呼び出したの」
「けど……ここからだ! 俺は更にこいつを呼び出す!」
これ以上の拮抗は、おそらく俺が不利になるだけだ。
俺には<アークロード・ミカエル>しかこいつらの強化体がいない。
対して向こうにはおそらくすべての聖獣の強化体がいるはずだ。
そして、その先も。
「こい! <極大古式聖天使 アークロード・ミカエル>!」
「出た、ミツルにぃのエース!」
俺の勝ち筋は、このまま向こうに何もさせず、ここで押し切る!
「まったく。すでにその年で、<アークロード>に至っていることが異常なのだ」
「そうはいっても、俺は自分のしたいことをしているだけだ……!」
「じゃが! 儂と戦いたいと言ったからには、今のお前の位階を理解するがよい!」
俺が攻撃に転じようとしたところで、仙人の雰囲気が変わる。
一瞬にして、俺は息を呑んだ。
仙人の豹変は、空気すらも歪めてしまったからだ。
どこか浮世離れした、時間の止まった空間である仙境が歪む。
ただでさえ先ほどから足元の雲は荒れ狂っていたが。
その気配が、俺達の元まで足を伸ばしてきたのだ。
ナギサとキアが、警戒しながら周囲を見渡す。
俺自身は、仙人へと意識を集中した。
「……カウンターエフェクト、<
「……グランシオン?」
「さての、いずれ解るときが来るじゃろうて。儂はこのエフェクトで、手札のモンスターとフィールドのモンスターを素材とする!」
うねる気配が、形に変わる。
やがてそれは、俺の眼の前に顕現した。
「とくと見るが良い、<極真守護古聖獣 神装麒麟>!」
麒麟、神話に登場する伝説の生物。
とんでもない存在感だ。
あまりにもモンスターとしての格がほかと違いすぎる。
強者のモンスターに相対した時、弱者がそれに飲まれてしまいそうになる……というのはこの世界だと時折起こり得る。
しかし、俺がそれを体験するのはこれが初めてのことだった。
「……<神装麒麟>」
「いずれお前さんがたどり着く、神の領域に至ったモンスターだ。これを見せるのは……ナガヒロ以来になるかのう」
「ナガヒロさん以来……!? いくらミツルだって、そんなモンスター相手にするのは無茶だ!」
ナガヒロさんを敬愛するナギサが叫ぶ。
その言葉に、俺はそんなことないと否定したいところだが……難しい。
実際問題、あまりにも目の前のモンスターは格上すぎる。
何より、俺にはこれに勝てる手札がない。
文字通りの意味ではなく、方策という意味で。
「<神装麒麟>のエフェクトにより、このモンスターがサモンされた時、もしくはターン開始時に発動する。すべての相手モンスターのエフェクトを無効する。そのモンスターはこのターン攻撃が出来ない」
「……!」
「加えて、戦闘を行う場合<神装麒麟>は攻撃対象を自身に変更し、フィールドの<守護古聖獣>モンスターの数だけ攻撃力を上げる」
――それは、つまり。
このターンに俺が勝利する方法はなくなったということだ。
エースとなる<大古式聖天使>と<アークロード・ミカエル>はすでにフィールドへサモンされているのだから。
そして相手の場には、<麒麟>がいる。
次のターンで俺は……負ける。
「案ずることはない、いずれお前さんはこの位階にたどり着く。これを見ることが、お前さんがここにやってきた意義だったというだけのことだ」
「……ぐ」
悔しいが、否定する材料はない。
俺の目的はそもそも、仙人とファイトすること。
こうしてファイトが始まった時点で、それは達成されている。
だからこそ、それ以上が俺にはない。
仙人に勝ちたいという、モチベーションの種がない。
「……ダメだよ、ミツルにぃ」
「キア……?」
そこで、キアは口を開く。
視線を落として、そして、上げる。
泣きそうな顔で、俺を睨んでいる。
「ダメだよ、負けちゃダメ。ミツルにぃ!」
「いや、しかし……」
「
「……!」
いや、そうだ。
俺は今、呑まれていると自覚していながら、それを払拭出来ていなかった。
眼の前の格上モンスターに、萎縮していただけだ。
取れる手は未だある。
それに、キアがいった。
最高の店長。
それは、俺の答えだ。
何の、と言われれば。
一つ、しかない。
「……仙人。俺は仙人に聞いていないことがある」
「なんじゃ? 今になって」
すぅ、と一つ息を吸う。
俺の言葉に、仙人は少しばかり嫌な予感を覚えたのだろう。
でも、俺は止まるつもりはないし、仙人にそれを止める手段はない。
「――仙人にとって、
それは、
「……むう!」
「別に、仙人は誰にだって聞いてるんだぞ? だったら、俺だって仙人に聞いてもいいはずだ」
言いながら、俺は一枚のカードに手をかける。
それは俺の手札に残った二枚のカード、その一枚。
この状況をひっくり返せるかもしれない……最後の切り札。
「いや、でも。
「お前さん……!」
「俺は! <
<アークロード・ミカエル>が光に包まれる。
その姿は、特殊な召喚方法によって今とは別の姿へ生まれ変わる。
俺に逆転の手段はない。
だったら、逆転する方法は一つ。
今この場で、逆転のカードを創造する――――!
「現れろ! <
フィールドに、二体の麒麟が降臨した。
「<古式聖天使>の麒麟……じゃと」
「――仙人の考える最高のカードショップは、皆が成長できるショップだ」
だからこそ、仙人は来客に試練を与え、店長推薦状を求める人間を店員として指導する。
そして――
「客が、店員が、
「……!!」
「バトル! <天宗麒麟>! <神装麒麟>を攻撃!」
二体の麒麟がぶつかり合う。
どうせ、攻撃対象が変更されてしまうなら、狙うのは最初から麒麟でいい!
「く……だが、<天宗>に<神装>と同じエフェクトがあったところで相打ちに終わるだけじゃ! すでに<神装>のエフェクトは適用された。攻撃できるのは<天宗>だけじゃぞ!」
「<天宗麒麟>のエフェクト! このモンスターが戦闘を行う時、対象が自分でなければ自分に変更し――」
ぶつかり合う二体の麒麟。
どちらも、自身のエフェクトで打点を上げていく。
その度に。二体は光を帯びて強大さを増していくのだ。
そして。
「フィールドの<古式聖天使>と<守護古聖獣>の分だけ、攻撃力を上げる!」
「何じゃと!?」
上がる打点の倍率は、流石に<神装>の方が上だが。
今、フィールドには四体の<古式聖天使>がいる。
<神装麒麟>の打点を、<天宗麒麟>が上回るには十分だ。
「これで終いだ、仙人!」
「……見事!」
俺の麒麟が、仙人の麒麟を破壊する。
最後に、どこか獰猛な笑みを浮かべて。
仙人は――敗北した。
□□□□□
「仙人は、仙人であるうちに初心を忘れてたんじゃないか?」
「……ほう」
「仙人の始まりは、仙人じゃなかっただろ? だったら、仙人になろうと思ったきっかけがあったと思うんだ」
「そうだのう……言われてみれば、そうだ」
これは俺の想像でしかないが。
なぜ、仙人が仙人であることを選んだのか。
他人の成長を願うなら、ここまで極端にする必要はないはずだ。
だというのに仙人は厳しい山の奥に住み、来訪者を待っている。
それは――
「より強いファイターを、育てたかったから」
「そして、何より儂は――そのファイターを越えることで、儂自身が成長したかったのじゃ」
それがいつしか、仙人に敵うものはほとんどいなくなって。
仙人は、ただ教えることしかしなくなった。
「でも、それなら心配はいらないよ。俺は、俺と同じくらい強いファイターを知っている」
「ふむ……逢田トウマか」
「さすが仙人、詳しいな。トウマや、多くのファイター――仙人の知らないいろんなファイターが、今も世界の何処かで育ってる」
だから、仙人より強いファイターは、これからもっともっと増えていくだろう。
「……まったく、おちおち仙境に籠もってなどおられんの」
「だな」
「何より……」
ニィ、と仙人は笑みを浮かべた。
「まさか、儂も他人から教えられることがあるとはのう! 愉快、まさしく愉快じゃ!」
呵呵々、と。
高らかに、仙人は笑い続けていた。
空は――すでに元の穏やかな、けれどもどこまでも広い青空へと戻っていた。