カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
皆倉クルミ先生。
ドリームランドのチームメンバーに選ばれるだけあって、ファイターとしても高い実力を誇る。
ネッカ少年やクロー少年と、勝ち負けできるレベルだからな。
すくなくとも、あの学校で特に強いファイターの一人ではある。
まぁ、最強でないあたり、結構あの学校の層が厚いんだけど。
ともかく、そんなクルミ先生の使用デッキは、幽霊デッキだ。
アンデッド系のデッキは、ゾンビ、妖怪、そして幽霊とその種類は多岐にわたるが。
クルミ先生は特にその中でも、幽霊に特化している。
これはレンさんが最も苦手とするデッキだ。
『と、いうわけで』
「う、うむ……」
『今日はよろしくおねがいしますね、レンちゃん』
「うむうううううう」
笑顔のクルミ先生、顔を真っ青にしてガクブルしているレンさん。
ううむ、狩る側と狩られる側。
――クルミ先生が幽霊デッキ使いだと知ったのは、対戦カードが発表されてから。
なので、対戦カードを決めた俺にとっては、完全に不意打ちの状況である。
レンさんは完全に失念していて、ネッカ少年は黙っていたそうだ。
なんで黙っていたのかって?
「レンはそろそろ苦手なものと向き合うべきだとおもう」
とのこと。
一理あるし、レンさん自身そう言われたらやってやろうじゃないかという気持ちになったらしく。
最初のウチは乗り気だった。
が、最終的にはこれである。
対戦カードの変更は、発表された時点で不可能。
レンさんには諦めてもらおう。
「それにしたって……大丈夫なの? 店長」
「大丈夫か大丈夫でないかで言えば、大丈夫じゃないけどな。でもヤトちゃん。ここで逃げていたら、レンさんは次でもっと大変な目にあうぞ」
ヤトちゃんが、心配そうに訪ねてくる。
けれども、レンさんにとってこれは必要な試練だ。
そもそも、負けても問題ない状況で、なおかつ相手は自分の担任教師。
加減……とは行かないまでも、事情を分かったうえで戦ってくれる相手だ。
これ以上ないほど、レンさんが幽霊嫌いと向き合うのにお誂え向きである。
なので、俺もネッカ少年の言葉に反対はできなかった。
「わ、解っている……解っているのだ。ここで逃げても、次に待っているのはもっと恐ろしい本気の
『だったら、今日は練習だと思って……がんばろ、ね? レンちゃん?』
「あ、ああ……わかっている」
『あ、でも――』
そこで、クルミ先生はニコニコと笑ったままそれを口にする。
『勝つのは、私です。大会である以上、容赦は出来ません。……かかってきてください、レンちゃん』
笑顔の意味が、獰猛な狩人のそれに変貌する。
怖い、クルミ先生怖い!
ネッカ少年が「本気だよせんせ」とつぶやいている。
なるほど、ファイトになると変貌するタイプの人だったか。
とはいえ――レンさん相手にその変貌は悪手だな。
「くっ……そう言われた以上、我は引けん! やってやるぞ!」
組織の長として、国内最強クラスのエージェントとして。
レンさんの心に火が灯るからだ。
……いや、これ多分わざとだな。
□□□□□
で、結局。
『いきますよぉ、《霞霊の内裏雛》をサモンです』
「ぴいいいいいい!」
レンさんは屈した。
幽霊の怖さに。
ただ、正直幽霊だからといって怖がりすぎだと思う。
クルミ先生の『霞霊』デッキは、和風の女性がモチーフになっているデッキだ。
内裏雛は、それこそ雛人形のお雛様をモチーフにしている。
というか可愛らしいお雛様の周囲に、人魂が少し浮かんでいるようなデザインだ。
ぶっちゃけあまり怖くない。
レンさんの場合、幽霊であるという時点で怖いのだろう。
なんというかこれはもう、魂に染み付いてしまった弱点としか言いようがないな。
とはいえ、レンさんは怖がってこそいてもファイトの判断は鈍っていない。
毎回凄まじい反応を見せながら、的確にモンスターを展開していった。
「――こうしてみると、レンさんってやっぱり……強いわよね」
「どうしてか勝てないだけで、ファイト自体は成立するしな」
それに、基本的に表舞台で弱いというだけで勝てないわけではない。
ドロー運やプレイングの質が極端に悪くなるわけではないのだ。
運が良ければ、そのまま押し切れることもある。
現にここへ来るまで、レンさんは多少勝率こそ他のメンバーより悪いものの勝ち星がないわけではなかった。
というか、チームメンバー決定戦の時点で、六位に入るためには多少なりとも勝たないといけないのだ。
「それなのにレンさんが勝てないのって、やっぱり本人の気質とかメンタル面の問題なのかしら」
「もしくは、過去のトラウマとかな」
考えられる可能性は、アロマさんのような過去の経験がドローやカード相性に関係してしまっている可能性。
この場合、過去の経験ってのは本人の経験だけではない。
血筋や遺伝も影響してくる。
「……レンさんのお父さんって、ファイトが苦手なんだっけ」
「”一族”の当主にも関わらず、な。本人曰く、生まれつきドロー力が足りないそうなんだ」
「レンさんも、それを受け継いでる?」
「可能性はある」
そして、それだけではない。
レンさんの母親はとにかく強い。
やたらめったら強い。
と、聞いている。
だから、いうなればそれは二つの相反する特性がレンさんの中で交わり合っているようなものだ。
「……それじゃあ、レンさんにはそれをどうにかすることって無理じゃない?」
「かもしれないな」
俺達の会話が続く中で、レンさんとクルミ先生のファイトは続く。
おっかなびっくりだったレンさんも、流石にずっと怖がりっぱなしではいられない。
というより、長く戦っていれば、慣れる。
「――ふ、これなら我は勝てる、勝てるぞ!」
『…………やっぱり、私の思った通りでしたねぇ』
「……どういうことだ?」
ふと、クルミ先生が笑う。
訝しむレンさん。
俺も少し、その意図は読み切れない。
『レンちゃんにとって、幽霊嫌いは克服できる恐怖ということです』
「そ、それはそうだろう! そもそも我は、ゆゆゆ幽霊など怖くない!」
『うふふ。だから、レンちゃんの幽霊嫌いはレンちゃん個人の苦手意識によるもの、ということです』
そう言って、クルミ先生は自身のターンを迎える。
ここまでレンさんは優勢にファイトを進めていた。
しかし、その瞬間。
クルミ先生の雰囲気が変わったのである。
『ただまぁ、しばらく時間を置いたらまた苦手意識が再燃してしまうと思いますが……』
「そそそそーんなことはなーい! 我は、もう幽霊にはままま、負けぬ!」
『うふふ』
「だから、さっきから我が強がると嬉しそうに喜ぶのをやめろー!」
教え子の成長が嬉しいのだろう。
思わず漏れてしまう笑み。
なんというかそれは、クルミ先生が獰猛に振る舞うのは、獰猛に振る舞ってみせているだけということだ。
つまり、本質的にクルミ先生は教え子に成長して欲しい。
教師としての顔が、彼女の素顔であるということ。
「クルミせんせは、いー先生だぜ。たまにああやってファイト好きになるから、あっちが素なんじゃって思われがちだけど」
「そのせいで、無駄に怖がられてるところがあるって? ネッカは優しいな」
なんて話をしつつ。
どうやら、状況は決しそうだ。
残念ながら――勝つのはクルミ先生だろう。
「むぅ、また一手足りぬ!」
『一手しか足りないせいで、勝ってもそこまでアドバンテージはないですけどね』
ここまで、ドリームランドと俺達デュエリストは、ほぼ互角の戦いを繰り広げている。
今回も、おそらくはちょっとの差でクルミ先生が勝つだろう。
レンさんにとっては、いつも通りの結果だ。
『でもこれで、ハッキリしましたね、レンちゃん』
「……なるほど、そういうことか」
レンさんが理解すると同時、俺も理解する。
クルミ先生の狙いについて、だ。
「どういうこと?」
「クルミ先生は……レンさんの
俺の言葉が届いているかは解らないが、クルミ先生が真意を明かす。
『レンちゃんの幽霊に対する苦手意識は、克服できるものです。でも、それを克服したのにレンちゃんは私に勝てなかった。つまり――』
「……我が勝てない理由は、苦手意識ではない」
普通、苦手意識の克服という本人にとってプラスの状況は、ファイトそのものに影響を与える。
運命力を自分に引き寄せ、勝利をもぎ取ることができるのだ。
しかし今回、「慣れただけ」とはいえ、苦手意識を多少克服してもレンさんに展開は向かなかった。
それはつまり、レンさんの「表舞台で勝てない」特性が。
本人の精神性に由来しているわけではないという証左。
『ミツル店長。後のことはお任せします』
「……ああ」
そして、ここまでを証明するのがクルミ先生の狙い。
後は俺に任せる。
そう宣言して――
『トドメを刺して、<霞霊の内裏雛>ちゃん』
――クルミ先生はファイトに勝利した。