カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
メカシィとフィレナはファイトロボだ。
ファイトロボというのは、そもそもファイトを行うロボという程度の意味なのだが、その方向性は多岐にわたる。
ただ単純に与えられたプログラムとAIを元に、特定のデッキをプレイするだけのロボから。
自己学習を行い、最強のファイターを目指すロボまで様々だ。
メカシィとフィレナは、その中でも”感情学習型ファイトロボ”という区分のファイトロボらしい。
感情を学習し、それによって経験を積み重ねることで人間と同じ方法で進化するファイトロボ。
それが感情学習型ファイトロボ。
気軽にシンギュラリティ引き起こさないでくださる?
「――さて、いよいよデス。ピガガピー」
『ううう、よ、よろしくお願いしマス。メカシィ
さて、メカシィとフィレナ。
同型のファイトロボであるということは、言ってしまえば先輩と後輩みたいな立場である。
制作者が違うので兄妹というわけではないが、親近感があるのだろう。
フィレナはメカシィを先輩と呼んでいた。
「……いいですよね、後輩ロボ娘。ちょっと慎ましくて、引っ込み思案なところも素敵です」
「エレアはどうして血涙を流しながら、そんなことを言っているんだ」
「フィレナちゃん……もっと早く……出会いたかったです!」
ああうん。
そういえば今回のショップ対抗戦が初顔合わせだったもんね。
というか、動画でドリームランドの対戦を見て、エレアはフィレナの存在を知った。
そしてうっかり俺がフィレナのことをエレアに話していなかったため、泣きながらどうして教えてくれなかったのかと抗議されたりもしたぞ。
めっちゃガクガクされた、結論としてはエレアは可愛かった(スパーン)。
「フィレナ! ワタシはこのファイト、必ず貴方に勝利しマス! ピガガピー!」
『……っ! こ、こうして同じファイトロボとして生まれた身。ま、負けるわけには……いきませんっ! ピピピ!』
基本的にフィレナは陰のモノでこそあるものの。
ファイトロボとして、最強を目指したいという欲求は持っているようだ。
こうしてファイトの場に出れば、一歩も引かずにファイトしてみせるとアキラくんは言っていた。
なお、そのファイトの場に出すまでが大変だ、とも。
おそらく、ここに来るまでドリームランドの方では色々と大変なことになっていたに違いない。
それはそれとして、すでにメカシィもフィレナも準備はできている。
「イグニッション! ピガガピー!」
『イ、イグニッション! ピピピ!』
ファイトスタートだ。
――戦局は、ほぼほぼ互角に進行していく。
お互いファイトロボということもあり、繊細なプレイングは見事の一言。
一手のミスもなく、全力と全力がぶつかり合うさまは美しさすら感じられる。
「がんばってくださーい! メカシィさーん!」
「任せてください、エレア様! ピガガピー!」
エレアの応援を受けて、メカシィの動きが加速する。
まぁ加速してもプレイングの質が変わるわけではないのだが。
いや、この場合はカードのプレイ速度が変わっているのに質が落ちていないという点に注目すべきか。
「メカシィさん、勝てるでしょうか」
「まだなんとも言えないな。お互い、全く同型のファイトロボだ。それに、ミスもない」
「凄いですよね、どれもすっごく丁寧なプレイングで……流石はファイトロボって感じです」
「ただ――」
ただ? とエレアが首を傾げる。
「――プレイングにミスがないってことは、純粋な出力勝負になるってことだ」
俺の視線の先で、メカシィとフィレナのファイトに変化が起きる。
メカシィが、自身の切り札を投入するのだ!
「参りマス! 三倍すごくなるモード! そして、サモン! <メカメカシィルダー・コンバインパクト・ドラゴン>!」
メカシィ自身が赤くなり、そしてモンスターがサモンされる。
見た目は一言でいうなら……コンバインを竜にしたような感じだ。
何いってんだと思うかもしれないが、こう、亀みたいなタイプの竜がコンバインのパーツで構成されている。
「出ました、メカシィさんの三倍すごくなるモード! これでフィレナちゃんも……」
「いや……まだだ、メカシィに三倍すごくなるモードがあるということは――」
喜ぶエレアを、俺は制する。
なぜなら、まだ状況は決定的でないからだ。
メカシィはエースをサモンしたものの、決着を付けきれずフィレナにターンが回る。
そして今度は、フィレナがエースを呼び出す番だ。
『ま、負けていられマセン! 三倍とんでもないことになるモード! ピピピ! 行きマス!
<フルメカラット・ラピスラズリシスター>!』
フィレナさんのデッキは『メカラット』デッキ。
ロボロボしい宝石の形をしたロボ娘デッキだ。
エレアがかわいいかわいいとはしゃいでいる。
現れたのは、ラピスラズリのような色合いの修道女。
背中には、メカ娘っぽい武装を身にまとっている。
機械羽とか、そういう奴。
「くー! これですよこれこれ! かっわいーですー!」
「――メカシィと同じように、フィレナも三倍モードを所有しているということでもある」
「は、反応してください! 店長! 反応ほしいです! はーんーのーうー!」
はいはい、と俺はエレアの頭をなでた。
そしてレンさんとノリで参加したアロマさんにハリセンを叩き込まれながら続ける。
「……メカシィは、フィレナの先輩なんだよ」
「どういうことですかごろにゃーん」
「後から作られたフィレナは、メカシィからフィードバックを受けてるんだ。どっちも量産化とか考えてないフルスクラッチな作りだから――」
「――基本的に、フィレナさんの方が出力が高いんですねごろにゃーん」
エレアの顎のあたりをくすぐりつつ俺は頷く。
故に、基本的なスペックはフィレナの方が高いのだ。
無論、アキラくんは天才少年とはいえ基本フィレナを個人で開発しているから足りていない部分もあるが――そういうのは大抵、メカシィに何故搭載されているかわからないヘンテコ機能だ。
なので、ファイトに関する機能は概ねフィレナの方が優れている、と言える。
実際、フィレナがエースをサモンしたことで、メカシィのエースは敗れた。
決着こそつかなかったものの、かなり危険な状況だ。
次のターンにメカシィが逆転できなければ、勝つのはフィレナだろう。
「――フィレナ。ピガガピー」
『はいデス。メカシィ先輩。ピピピ』
「やはりフィレナは凄いデスね」
『……っ! あ、ありがとうございマシュ!』
噛んだ。
エレアが目をキラキラさせる中、メカシィは少しだけ寂しそうに言う。
「……やはりワタシは、先達としてフィレナに敗れる立場にあるようデス。ピガガピー」
『メカシィ先輩、そんなこと……いえ、フィレナはそのつもりで戦っていマス。ピピピ』
そんなことはない、といいかけてフィレナはとどまった。
メカシィにとって、それがある種の侮辱とすら言えるものだったからだ。
でもそれを、きちんと踏みとどまれるのは流石感情学習型ファイトロボ。
だからこそ、メカシィもまた闘志を燃やすのだ。
そう――
「フィレナ! お見せしましょう! ピガガピー!」
――メカシィは、まだ諦めていない!
「確かに私のスペックはフィレナには劣りマス。しかしワタシには、フィレナにはない強さがありマス! ピガガピー!」
『そ、それは!? ピピピ!』
「――経験、デス」
経験。
そう、感情学習型ファイトロボは、経験によって強くなる。
如何にフィレナがスペックの上で強かったとしても、メカシィには積み上げてきた物がある。
「ああそうだメカシィ、見せてやれ! この店でメカシィが積み上げてきたものを!」
「はいデス! ピガガピー!」
俺がそう呼びかけると、メカシィは頷いて――その場で飛び上がる。
直後!
「メカシィ・チェーンジッ!」
変形が始まった。
……変形した!?
思わず平然と受け入れてしまっていたが、流石にカードゲーム世界でもいきなりロボが変形することは……いやよくあるな。
ともあれ。
ガチャンガチャンと、すごい勢いでメカシィの身体が変形していく。
やがて、その姿は――
「メカシィ・バイクルモード!」
バイクになった。
「おお、かっこいいわね、アレ」
「うむ」
ヤトちゃんとレンさんが頷いている。
中二心をくすぐる、正統派かっこいい系バイクにメカシィは変形したのだ。
「これは、ワタシがデュエリストで店員として過ごすうちに身に着けた、新たな姿!」
「うちでの経験でバイクになるんですか!?」
「バイクはワタシの趣味デス。ピガガピー!」
ならしょうがないね。
ともかく、バイクに変形したメカシィは、勢いよく新たなエースをサモンする。
「くらいなサイ、フィレナ! これがワタシの新たなる力! <メカメカシィルダー
現れたのは、数体のバイクからなる
うーん、デザインが素晴らしい。
そして、<フルメタルバイクワッド>と<ラピスラズリシスター>は、幾度かの攻防の後、その明暗が分かれる。
「トドメです、フィレナ!」
『これが……経験! ワタシも、いつかは、先輩みたいに……! ピピピ!』
――勝ったのは、メカシィだ。
その内容は、まさしく完勝。
何故なら――
『――これで、ライフ差が逆転した』
フィールドに、ホログラフのミーシアさんが現れる。
ミーシアさんは倒れたフィレナを抱き起こすと、大丈夫か確認してからアキラ少年に預けた。
同時に俺も、メカシィとハイタッチをしてから交代する。
フィールドに、二人の店長が並び立った。
「大将戦だな、ミーシアさん」
『ん……負けない』
ライフ差が逆転したことで、現在リードしているのはデュエリストだ。
しかし、油断はならない。
相手は超絶火札に特待生として編入してきたミーシアさん。
その実力は、疑うまでもない。
――さぁ、最終戦の始まりだ。