カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
ミーシアさん、俺にとっては昔からの友人で、ファイターとしてはライバルでもある。
超絶火札の時代から一緒だったんだから、当然だな。
「イグニッション!」
『ん……イグニッション』
かくしてファイトは静かにスタートする。
俺の先攻だ。
モンスターを展開し――
「出ろ! <極大古式聖天使 アークロード・ミカエル>!」
『……いきなり、<アークロード>』
「今更、牽制から入るような関係でもないだろ!」
ターンを終える。
普段なら<ロード・ミカエル>から入っていく俺にしては、珍しい立ち上がり。
ただこれには、理由があるのだ。
『ん、私のターン。来て<ドリーミースター・アルタイル>!』
現れるのは、流星のようなエフェクトを発する光の人型。
これがミーシアさんの愛用するデッキ、『ドリーミースター』デッキだ。
星をモチーフにしている。
そして、問題はこの次だ。
『このモンスターは、『ドリーミースター』モンスターがいればサモンできる』
「……いきなりか!」
『<ハイドドリーミースター・ムーングロウデビル>!』
おどろおどろしい、悪魔のような光の人型が現れる。
こいつはミーシアさんのエース……のようでエースではない挨拶代わりのモンスター。
一言で言えば、こいつはミーシアさんが夢想郷での事件で操られた際に使ったモンスターだ。
つまり、劇場版のボスモンスター。
ミーシアさんが無事に解放された後、何故かデッキの中に残っていたので今も使用しているのだ。
恐ろしいのは、こいつが劇場版の短い尺で登場することを想定されているからか、サモン条件がめちゃくちゃゆるいこと。
『ドリーミースター』モンスターがいるだけでいいのだ。
それでいて、破壊耐性と1妨害は当然のように確保していて、打点も高い。
こいつがいるから、<ロード・ミカエル>で牽制なんて悠長なことがしていられないのである。
『ふふふ、今日こそミツルに勝つ。何故なら……』
「なぜなら?」
『――トウマとコハナが見てる』
ふふ、と表情の乏しい顔で笑うミーシアさん。
『いけー、ミツルをボコボコにしろー!』
『ぼ、ボコボコって……。が、頑張ってねミーシアちゃん!』
『むふー、頑張る』
あ、向こうからダイアたちの声が聞こえてくる。
こいつ、俺に対抗したいって理由で先鋒戦はこっちに来て、大将戦は向こうにいるな?
この野郎……。
まぁ、いつものことだ。
『このように、今の私は最強の私。どこからでもかかってきなさい』
「……今はそっちのターンだろ」
『はっ! そうだった。てれてれ』
照れるミーシアさんは置いといて、ファイトは続いていく。
<ムーングロウデビル>は強力だが、厄介なのはそこではない。
ミーシアさんの一番厄介なところは<ムーングロウデビル>がポン出しできるサブエースにすぎないということだ。
『そして来て、<シャイニードリーミースター・オリオン>!』
本来のミーシアさんのエース格は星座モチーフのモンスターだ。
黄道十二宮以外の星座をモチーフにした星座がモンスターとして登場する。
なんで黄道十二宮がハブられるかって? そっちはそっちでモチーフとして美味しいからですかね。
その後、俺の<アークロード・ミカエル>が突破されるもミーシアさんは俺を倒しきれずターンエンド。
俺が反撃して、何とか<ムーングロウデビル>の方は退かすことができた。
場には、<極大古式聖天使 ハイエクシード・ラファエル>とそのエフェクトで蘇生した<アークロード・ミカエル>が並ぶ。
『くっ……やっぱり、ミツルはつよいね……っ!』
「ミーシアさんだってな」
結局俺は、<オリオン>を撃破できずにターンを終了させることとなる。
次のターンの反撃で、俺は苦境に立たされるだろう。
それもこれも、ミーシアさんの実力あってのことだ。
『私は……でも』
「でも?」
『トウマやミツルには……勝ちきれてない』
――単純な勝率で言えば、確かにミーシアさんは俺とダイアには少し見劣りする。
だからといって、ミーシアさんが弱いわけではないし。
俺やダイア相手に勝率が三割とか四割ある時点で、この世界ではトップクラスのファイターなのだ。
それでも、いや、だからこそ。
トップには届かないと、解ってしまう。
『それに私は……誰よりも、トウマに勝ちたい。私にとって、トウマは私をこの世界に連れてきてくれた人。私にとって誰よりも大切な人――そして私が、初めてファイトに負けた人』
「……」
『負けたくない、勝ちたいって思う。でも、届かない。ねぇ、ミツル。この世界でトウマに本気で”勝てる”って私が思える人は、貴方だけ』
ミーシアさんにとって、どれだけダイアが大切で。
どれだけ、手を伸ばしたいと思っているか。
それでも届かないと思っているか。
俺には、想像することしかできない。
『ねぇ、ミツル』
「……ああ」
そしてミーシアさんは、まっすぐこちらを見ながら問いかけてきた。
『貴方にとってトウマって、何?』
――俺にとって、か。
ミーシアさんにとって、俺はダイアと唯一対等に渡り合える人間だ。
実際がどうかはともかく、
少なくとも俺は、そういう立場にある。
そして、俺にとって逢田トウマとは。
ライバルであり、親友であり、そして誰よりも大切な人だ。
家族を除けば、もっとも失いたくないと思う他人。
それはつまり――
「俺にとって、ダイアはすごいヤツ、なんだよ」
『すごいヤツ?』
「そう。大切な人、愛している人なら他にもいる」
エレアを一瞥してから、続ける。
「でも、一番すごいと思う奴はダイアだ。多分ソレは、これからも一生変わらない」
『……それは、きっと私もだ』
「だって、その方が――目指しがいがあるだろ? 越えたいとおもうなら、やっぱ一番すごいやつを越えないと」
『……!』
ミーシアさんが目を見開く。
それはきっと、当たり前過ぎてミーシアさんの中ですっぽりと抜け落ちていた部分だと思う。
「ミーシアさんにとって、ダイアが凄いのは当たり前過ぎたんだ。本当なら、だからこそ凄いダイアを越えたいと思うはずなんだけど」
『……私は、初心を忘れてたんだね』
人間、初心というのは三歩歩けば忘れてしまうものだ。
流石にそれは鶏頭が過ぎるけど、それでも忘れやすいものであることに違いはない。
何せ、あのファイター仙人すら忘れてしまうものなのだから。
『なら、まずは……ミツルに勝って、私がトウマに負けないくらいすごいってことを、証明する!』
「いいぞ、来い!」
『私の……ターン!』
さぁ、最後の攻防だ。
ミーシアさんは連続でモンスターを展開し、攻勢を仕掛けてくる。
トドメは彼女の最終エースだ。
『これが最後! <シャイニードリーミースター・サンライズ>!』
――このエースモンスターは、ミーシアさんが高校を卒業する時に手に入れたエースモンスターだ。
こっちの世界にやってきて、ダイアとともに暮らし、成長してきた彼女の集大成。
それが今、俺のモンスターを圧倒する!
<ハイエクシード・ラファエル>が破壊され、残るは<アークロード・ミカエル>のみ。
そして俺のライフは残り少なく、おそらくこれで決着が付く。
『……勝つのは、私だよ! 行け! <サンライズ>!』
「いいやまだだ! カウンターエフェクト、<ファイブカウント・ビルドアップ>!」
『何!?』
このカードは、デッキの上から五枚めくってその中のモンスターカードをすべてセメタリーに送る。
そして、セメタリーに送ったモンスターの数だけフィールドのモンスターの打点を上げるのだ。
「これで俺が四枚モンスターをセメタリーに送れたら、俺の勝ちだ!」
『でも、三枚までなら私の勝ち……』
「そういうことだ……一枚目、モンスター!」
俺は、その後、二枚目を外し三枚目を当てる。
そして四枚目――
「四枚目は――――カウンターエフェクト」
『……! やった!』
「そんな、店長!」
思わず、といった様子でエレアが叫ぶ。
これによって、俺の敗北は確定した。
嬉しそうにミーシアさんが喜ぶ中、俺は最後の一枚に手をかけた。
『……ミツル』
その瞬間、映像の向こうから、ダイアの声が響く。
……その言葉の意味は、俺には判別がつかない。
ただ、俺はこの一枚を、敗北が決まった後の一枚をめくるうえで。
それでも逃げてはいけないと、そう強く感じた。
「最後は……モンスター!」
『それでも、私の勝ちは揺るがない!』
「ああ、そうだな……ミーシアさん、
けど、と俺はめくったモンスターをミーシアさんに見せる。
「俺は、たった今めくられて、セメタリーに送られた<古式聖天使 カロル>のエフェクト! このモンスターがセメタリーに送られた時、フィールドのモンスター一体の攻撃力を200アップし手札に戻る!」
『200……まさか!?』
現在、俺の――いや、チーム”デュエリスト”のライフは残り600、対してドリームランドは300だ。
これで、<アークロード・ミカエル>が破壊されダメージを受けると、俺の残りライフは200になるわけだが――<カロル>のエフェクトがあればライフは400。
元のライフが4500だったので、これでもこのファイトは終了するわけだが。
そうなると、最終ライフはデュエリストが400、ドリームランドが300になるわけで。
「俺は<アークロード・ミカエル>の攻撃力をアップ。さぁ来い、<サンライズ>!」
『く……私はミツルに勝った! 今はそれで……十分!』
かくして<アークロード>は破壊され、ファイトは決着する。
全体で見れば、デュエリストは二勝三敗。
けれども、ライフのやり取りがギリギリの状態で行われた結果、最後は敗北しながらも勝利するという、なかなか珍しい結果に終わった。
『トウマー、ひーん』
『お疲れ様、ミーシア。頑張ったな』
ミーシアさんが、敗北のショックで泣きながら――嘘泣きである――ダイアに飛びついていく。
おそらく、向こうではダイアとコハナちゃんがミーシアさんを慰めていることだろう。
『でも、ミーシアもすごかったぞ。ミツルに勝ったんだ、確かに店としては負けてしまったかもしれないが、本戦や決勝でリベンジする機会もあるかもしれない』
『うん』
『だから……これからも、頑張っていこうな』
『うん。ひーんひーん』
――そうだ、このファイトはあくまで予選の最終戦にすぎない。
ここからまだ対抗戦は続く。
そこで、再びドリームランドと当たる可能性もあるだろう。
まぁ、運命力が働いて一度ぶつかったカードはそうそう当たることはないだろうが。
そこは運命を捻じ曲げて他のショップを倒し、戦いの舞台に上がってきて欲しい。
何よりその時こそ、俺は改めてミーシアさんに、店としても個人としても勝つのだから。
「……ところで、頑張っていこうって言われたのに、更に泣き出してるのはどうしてかしら?」
「ああアレは、しれっと途中で”誰よりも大切な人”って言ったのにスルーされたからじゃないですかね」
「いや……それは流石に伝わらないでしょ、しれっとさせすぎよ」
なお、エレアとヤトちゃんが泣いているミーシアさんについて分析していた。
やめてあげなさいって。
というわけでドリームランド戦決着です、こういう勝ち方もあるので、最後まで勝負がわからないのも団体戦ルールのいいところだと自分で思ってます。