カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
ショップ対抗戦が終わってすぐ、俺はスピリッツの天火支店にやってきていた。
大型カード専門店のスピリッツ。
俺の地元である天火市にも店舗があり、ヨシゾウ店長が経営しているというのは周知の事実。
そこで今回、ショップ対抗戦に関するカード専門店ごとの選抜大会が開かれているのだ。
正確には、スピリッツ全店の中から、1店舗が代表して本戦に出場できる。
その選抜大会が、スピリッツのイグニッションフィールドを利用して開かれているということ。
今回、俺はその見学に来ているというわけだ。
なお、エレアは一緒に来ていない。
何故なら、本来今日の非番はエレアであり、俺が出勤する予定だったのを代わってもらっているからだ。
と、いうのも――
「……来たか」
「ああ、ダイア」
「急な呼び出しで悪かった」
「いや、いいさ。状況が状況だしな」
俺がここに来ているのは、ダイアに呼び出されたためだからだ。
本来なら、このスピリッツ選抜大会を、俺は配信で視聴する予定だった。
というかフィールドの配信機能を利用して、店内で中継する予定だったのだ。
それが、ダイアから天火支店に来てほしいと言われ急遽予定を変更した次第である。
何でそんなことを? と思うかもしれないが。
理由はいたって単純。
「それにしても、スピリッツ内部で悪魔のカード事件、か。どこも大変だな」
「まぁな。以前この店でも起きて、店長……ミツルも巻き込まれたアレが、いよいよ大詰めだからな」
悪魔のカード事件。
以前、ヨシゾウ店長とネッカ少年が巻き込まれたあの事件が、いよいよ最終局面を迎えようとしているらしい。
というか、よくよく考えれば、そもそもショップ対抗戦に関わって事件を起こそうとしている悪魔のカードの前フリだよな、アレは。
んで、スピリッツも黙ってそれを見過ごすつもりはないそうだ。
「今回、スピリッツは悪魔のカードが社外――つまり、本戦に出てしまう前に決着をつけることにしたそうだ」
「まぁ、妥当な判断だよな。で、その警備としてダイアがここに呼ばれた、と」
「ああ。天火支店は選抜大会の優勝候補筆頭だからな」
そして、ちょうど近くに俺もいたから、俺も呼ばれた――と。
なお、刑事さんも店に来ているようだ。
ネッカ少年も見かけて、軽く挨拶したらしい。
遠くから手を振っただけだから、事情までは話していないようだが。
まぁ、何か起こればまっさきにネッカ少年は動く。彼に関しては問題ないだろう。
「事件が起こるとしたら、この天火支店かスピリッツの本社だ」
「本社の方にも、人が詰めてるんだっけ?」
「ああ、シズカと――マスターズのキアさんが詰めている」
ふむ。
キアといえば、スピリッツの社長はキアの父親だ。
どうやら覚悟を決めて、キアは因縁に決着をつけに行ったらしい。
無事に終わってくれれば何よりだが。
「しかしスピリッツも考えたもんだな」
「ああ、私も最初聞いた時はなるほど、と感心したものだよ」
「
なんというか、いろんなものがいい感じにピースがハマるよう、この世界はできているのだと思う。
今回の件が、まさにそうだ。
スピリッツの監査部に所属している良空ミトリさん。
以前俺が出会った彼女は、なんとキアの幼馴染だったそうだ。
それで、そんな監査部の彼女を中心とした選抜チームが、この大会に参加している。
本社内に設置された、社販カードショップの店長として。
「ある意味で、ずるいとも言えるけどな」
「とはいえ、選抜大会をする時点でスピリッツはむしろ強気だが。他の専門店は、店長連合なんてものを組むところもあるのだぞ?」
「そりゃあダイア、普通なら店長が一番強いんだから、店長連合の方が良いに決まってる」
ここで少し話は逸れるが、カード専門店には本戦に1店舗が出場できる特別枠が用意されている。
なので、普通はこうしてスピリッツのように社内選抜をするべきなのだろう。
だが、何事にも抜け道というものはあるわけで。
選抜大会そのものはルールで開くよう規定されているのだが、そのチームと方法に関しては専門店側に委ねられている。
中には、優秀な店長だけを集めた店長連合による臨時店舗をつくり、それを特別シードとして選抜大会の決勝でだけ戦わせることで、店長連合を本戦に出場させるなんてところもある。
ただまぁ、そういうことをする専門店は規模が小さい。
悲しいかな、そもそも店長連合を組んだところで決勝に進めるか怪しいのだ。
「その点スピリッツは、この天火支店が本戦に出場すれば、そのまま決勝まで駒を進めてくるだろう」
ダイアの言う通り、この天火支店の店員は強い。
理由は単純、現在フィールドの前でヨシゾウ店長と円陣を組んでいるメンツを見れば解るだろう。
「頑張るザンスよー! えいえいおー!」
「おー!」
そこにいるのは――無数のモンスター。
獣だったり、人型だったり、アンデッドだったり。
百鬼夜行か何か? と言わんばかりの独特な容姿の連中が円陣を組んでいる。
これが天火支店の特徴だ。
彼らがなにかといえば、以前ヨシゾウ店長の元で強制労働をさせられていたモンスターたちである。
あのあとヨシゾウ店長と和解し、店員としてきちんと働いているのだ。
そして言うまでもなく、彼らは強い。
一人ひとりが、ネッカ少年とガチファイトできるレベル。
まぁ、勝つのはネッカ少年だけどね。
「対する監査部特命チームも、元天才小学生良空ミトリ氏を始めとして強豪ぞろい」
「この2チームのどちらかが本戦に出場するなら、まぁ世間から見ても文句は出ないよな」
というわけなのである。
「さて、そろそろ決勝が始まるぞ」
「ここで何も起きなかったら、事件は本戦に持ち越しか」
「……流石に、そうはならないだろうな」
俺のつぶやきを、ダイアが否定する。
まぁ、俺自身ここで何も起きないわけがないと思っているので、それは同感なのだが。
「
「ああ、なんでもスピリッツの店長職の社員のデッキに紛れ込むらしい」
「社員のデッキ……ということは、会社の備品に悪魔のカードが紛れ込むのか」
言われてみればそうだな。
基本的に、カード専門店で社員が使うデッキは会社の備品だ。
社員の個人的なデッキが使われることはない。
こう、社としてのイメージを統一したいんだそうな。
それってカードとの相性大丈夫なの? と思うかもしれないが、社員になった時点である程度は補正される。
言うなればそのカードたちは、会社と相性の良いカードなのだ。
しゃ、社畜カード……。
「完全にスピリッツを狙った犯行だよな」
「犯人はまだ見つかっていないのか?」
「あまりにも手がかりがなさすぎて、カードそのものが犯人だって説が濃厚だ」
「ということは……」
ダイアは腕組みをして、何やら考え事をしている。
あのダイアが考え事をできるようになるなんて、と俺が感動していると。
「……おそらく、ヨシゾウ店長か良空氏のデッキに眠っているのではないか?」
「それはありそうだな。とすると、二人に関係のあるカードか」
正直、これに関してはスピリッツでも考えが及んでいるだろう。
わざわざ部外者であり、情報の足りていない俺達があーだこーだ言うことはないと思うが。
二人に関係のあるカード……と言われて、俺には思い当たるカードが一枚あった。
「……<
「<星道の魔女>? それと関係のない人類の方が少ないと思うが」
まぁ、この世界で最も有名なカードの一枚ですからね。
ただ、理由があるのだ。
「前にこの店で事件が起きた時、ヨシゾウ店長が<星道の魔女>のレプリカを景品にした大会を開こうとしていてな」
「その場に、良空氏も居合わせたんだろう? 私も聞いているぞ」
「……なぜか、景品の<星道の魔女>がオリジナルに化けてたんだ」
「ん……?」
なんか、雲行きが怪しくなってきたぞ、みたいな顔のダイア。
ああうん、俺も口にしている間に、なんとなく嫌な予感がしてきたところだ。
「で、レプリカに関しては、良空さんが会社の備品デッキに<星道の魔女>のレプリカがあったから、それで補填したんだよ」
「…………そのオリジナル、今はどこに保管されている?」
俺は、少しだけためらいを覚えて沈黙し、けれども言葉にせざるを得ない言葉を口にする。
「スピリッツじゃ安全に保管できないからって、仕方なくうちで保管してる」
直後である、スマホに着信。
エレアからだ。
『たたた大変ですてんちょー! 店に保管してあった<星道の魔女>のオリジナルが悪魔のカードになりました!』
――俺とダイアは一瞬天を仰いだ後、急ぎデュエリストに戻るべく駆け出すのだった。
なお、スピリッツ選抜大会で悪魔のカードは発生せず、良空さん率いる事業監査部チームが勝利した。
いつもの