カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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177 急ぎすぎた少女

 レンという少女が天才で、中二入ってて、表舞台のファイトでよく「ぐえー」している小学生であることは、誰もが知っている。

 少なくとも俺達は、レンさんがそういう少女だとよくよく知っているのだ。

 

 けれど、レンさんがどうしてそういう少女になったのかを、俺達は知らない。

 その過去ならば、なんとなくは知っている。

 この国を守護する”一族”当主の娘として生まれ、母親が行方不明になったことで「闇札機関」を受け継いだ。

 他にも、様々な企業の経営を一人で熟す天才小学生。

 

 ダークファイトにおいて、レンさんは間違いなくこの国最強クラスのファイターだ。

 他にも、この国最強のエージェントには”聖獣”鵺野ヒジリさん、”特火室のエース”周防さん、”ネオカードポリス総帥”塚部ケンジさんといった錚々たる面子がいる。

 そういった面子に、レンさんは勝るとも劣らない実力だ。

 

 だが、表舞台ではすぐに「ぐえー」してしまう。

 決して弱い相手ではないのだ、物怖じせずどんなファイターにでも挑んでいけるメンタルがあるから、シズカさんのようなトッププロにだって食らいつくことができる。

 なのに、どうしてか一手が足りなくなってしまう。

 どんなファイトでも、最終的にはその一手が足りず惜敗してしまうのだ。

 勝てそうなのに勝てない、故にレンさんはいつだって「ぐえー」するのである。

 

 では、何故そうなってしまうのか?

 その理由が、どうしてか俺にすらわからないのだ。

 仮にも、最高の店長を目指す身としては、レンさんの問題も解決できるよう手助けしたいとは思う。

 しかし、レンさんの問題は俺でもその理由が判然としない。

 仮に解るとしたら、それこそファイター仙人かもしくは――行方不明になってしまったレンさんの母親しかいないのではないだろうか。

 

 というか、母親が行方不明になったことが、レンさんの生き方に影響を与えていないわけがない。

 ただ、レンさんが表舞台で勝てなかったのは母親が行方不明になる以前からのことだ。

 なので、母親だけが原因ではないのだろう、というのが俺の想像。

 それでも結論を出すことはできないけどな。

 

 ――ある時、俺はキアとレンさんについて話をした。

 アレはちょうど、マスターズに俺が来店して少ししたくらいの頃だったかな。

 通話で色々と話をしている最中に、レンさんの話題が出たのだ。

 

『レンちゃんかぁ、いい子だよね』

「そういえば知り合いなんだよな、キアとレンさんって」

『うん、私が作ったGCH(ジーニアス・チルドレン・ハブ)の後継になってくれた子なんだ』

「あれキアが作ったのか……」

 

 いやでも、キアもレンさんも天才ではあるけど一分野に突出するタイプじゃなくてあらゆる分野で一流なタイプだ。

 何より幼い頃から会社経営をしたりしている。

 人をまとめるのも得意だし、キアがGCHを任せるならレンさんしかいないと考えるのも納得だ。

 

『真面目で、いい子。子供の頃の自分を見てるみたい』

「案外、今も似た者同士だったりしないか?」

『もー、ミツルにぃったら酷いなぁ。まぁ事実だけどさ』

 

 というか、ぶっちゃけ広い目で見ればレンさんもキアもまだまだ子供だろう。

 何だったら、俺だって二十六は若輩扱いでいいと思うくらいだ。

 前世から含めて結構な年月生きてるわけだが、全然大人になれたって気はしないぞ。

 それはともかく。

 

『……まぁ、私もレンちゃんも、生き急いでるって感じなのは似てるかな。幼い頃から何でもできちゃうと、あれもこれもって手を伸ばしがちなんだよ』

「それはまぁ、ふたりともそうだな。でなきゃ、時間圧縮技術なんて身につかないだろうし」

『便利だよ? ……それで、レンちゃんってもしかして今も、表舞台だと「ぐえー」しちゃうの?』

「まぁ、そんな感じ」

 

 どうやら、キアもレンさんの「ぐえー」は把握しているようだ。

 そりゃそうか、GCHの先代リーダーと今代リーダーだもんな。

 実際にファイトした経験もあるだろう。

 

「キアは、レンさんがどうして『ぐえー』するか、解るか?」

『うーん、私も詳しいことは言えないかな。でも、一つ言える事があるよ』

「と、いうと?」

『私は「ぐえー」しないってこと。私とレンちゃんって、同じタイプの天才なのに。……そこに、何か違いがあるんじゃないかな?』

 

 ふむ、と考える。

 レンさんとキアの違い。

 万能の天才である二人が持つ、背景の違い。

 少し考えて――俺は、一つのことに思い至る。

 思い至って、しまった。

 

「――あ」

『ん、何か思い当たるところがあった?』

「……いや、これはなんていうか。そうだな、思い当たるところはあるけど、言うとキアに対して失礼だと思ったんだ」

『私は気にしないけどー』

 

 まぁ、実際俺が言っても、気にしないとは思う。

 でも、キアにとって愉快な内容でないこともまた事実なのだ。

 あくまで”俺が言っても”キアが気にしないというだけで。

 おそらく、俺以外の親しくない誰かが指摘したら、キアは怒る。

 当然だ。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて。

 

 

 あまりにも、指摘するには残酷すぎる違いなのだから。

 ――結局、俺はキアにそのことを話さなかった。

 せっかく楽しく話をしているのに、わざわざ空気を気まずくさせるのもどうかと思ったからだ。

 もっと言えば、キアと通話しているのがエレアにバレて、色々大変なことになったというのもあるけれど。

 

 とにかく俺はその会話で、少しだけ取っ掛かりを得ることができた。

 レンさんがどうして「ぐえー」してしまうようになったのか、に対する答え――ではない。

 もっと単純に、であればどうすれば「ぐえー」しなくてよくなるのか。

 その答えを、俺は思いついたのだ。

 

 

 □□□□□

 

 

 レンさんとヒジリさん――ツカサさんの対決。

 従姉妹である二人は、色々と思うところがあってこの対決に臨んでいる。

 といっても、ツカサさんが正体を隠している以上、それを表に出すことはないわけだが。

 それでも、ツカサさんがレンさんに何を言いたいかは明白だ。

 

『さぁ、どうするかなぁ? このまま私がトドメを刺したら、このファイトはここで終了だよ』

「くっ……」

 

 ――そして、レンさんは今めちゃくちゃ追い込まれていた。

 残るライフは12200、ファイト開始時が16100だったので、あと100削られるとファイトが終わる。

 だというのに、フィールドはがら空き。

 手札もセッティングされたカウンターエフェクトもゼロ。

 完全に追い詰められた状況である。

 対して、相手のモンスターは――

 

『くくく、私のフィールドには攻撃力1()6()0()0()0()の<ロールシャッハ・アルティメート・キメイラ>がいる! この攻撃が通れば、私達のチームの勝利だぁ』

 

 攻撃力を極限まで高めたモンスター。

 ツカサさん――というか、ヒジリさんのデッキは「ロールシャッハ」モンスターで構成された高火力デッキ。

 ロールシャッハテストと呼ばれる心理学のテストに由来する、人によって視え方の違う「ロールシャッハ」モンスターを操るデッキだ。

 ”鵺”であるヒジリさんが”ロールシャッハ”というのは中々洒落ていると思うんだが。

 何故か使うカードが軒並み横文字である。

 

「我は……しかし……」

 

 これが通れば、レンさんどころかチームデュエリストすら敗退してしまう状況。

 だが、決して逆転の手段がないわけではない。

 あるのだ、むしろ。

 この状況を完全にひっくり返す手段が。

 この対決に際して、対策として俺とレンさんが用意した手段が。

 けれど、レンさんはそれを使うのをためらっていた。

 

『逆転の手段があるなら、使ってみなよ。そのままそうして、殻から抜け出せないままじゃ、君はひな鳥のままだよー』

「違う、我は……我はすでに一人前だ! 大人と同じように振る舞うことができる!」

『そういうところが、まだまだ君は子供だってことだね。なら、ここで終わらせるとしよう!』

 

 傍から見ると、完全にツカサさんがレンさんを煽る悪役になっているな、と俺はなんとなく思った。

 人ごとみたいな感想だが、まぁレンさんが”あの手段”を取るかどうかはレンさん次第だ。

 俺が言えることはない。

 それに、ファイトの中で明らかにツカサさんがレンさんのことを知っている言動を見せている。

 この世界のファイターは察しが良いので、レンさんとツカサさんがリアルの知り合いだということは気づいている者も多いだろう。

 それはそれとして。

 

「だが……我は……」

 

 レンさんはためらっていた。

 

「確かに、我には後一つ何かが足りない時がある。それは我自身の未熟であり、そう簡単に補えるものではない」

 

 ぽつり、とレンさんは言葉を紡ぎ始める。

 

「解ってはいるのだ、我がまだまだ子供であるということくらい。……急ぎすぎているということくらい」

 

 それは、レンさんがこれまで口にしてこなかった本音だろう。

 何かが足りないことも、それを今はまだどうしようもないことも。

 レンさんはずっと解っていたはずだ。

 ただ、大人になりたいからと、口にしてこなかっただけで。

 

「それでも、我はほしいのだ。我の足りていないものを補う何かが。我を表舞台でも我たらしめる何かが」

 

 強く欲し、けれどもレンさんは躊躇う。

 何故か。

 

「だが、嫌だ……」

 

 そして、俺を一瞥してからレンさんは頭を抱えた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そんな天の民みたいになるのは、いやだぁ」

 

 

 ……まぁ、うん。

 はい。

 足りないなら、どうすればいいか。

 創ればいいのだ。

 以前俺が、レンさんの前でアロマさんとリュウナさんのカードを創造したみたいに。

 しかしそれは、なんというか。

 まぁうん、かなり無茶なことだったわけで。

 

 割と常識人なレンさんは、常識を捨てるのをためらっていたのである――




というわけで対決のレンさん回、次回に続きます。

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