カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
そもそもの発想の種は、以前に行った、チームメンバー選抜戦。
ショップ対抗戦においてレンさんがネッカ少年の<バトルエンド・ドラゴン>を用いて行った方法だ。
ようするに、足りないものは自分で用意するのではなく、他所から引っ張ってくるという手段。
ちょうど、キアとの通話がその選抜戦が行われた日の夜だったので、俺はすぐにその手段へ思い至った。
が、しかし。
「い、いやだ! 我はやりたくない!」
レンさんにそのことを話すと、レンさんは激しく拒絶した。
それはもう、なんというか。
幽霊に出くわしたときのような怯えっぷりだ。
なんかこう、俺をとんでもなく恐ろしいなにかだと思ってらっしゃる?
「我をなんかこう、とんでもなく恐ろしいなにかにしようとするな!」
「思ってらっしゃった」
思いっきり一字一句あってらっしゃった。
ジリジリと後ずさりをするレンさん。
しかし俺としても、ここで退くわけにはいかないのである。
「レンさんが現状、自分で足りない部分を補う方法がないなら、補うにはこれしかないだろ?」
「だとしても、だ! 我は天の民のような怪物ではない!」
「俺は怪物ではないと思うが」
その瞬間、話を横で聞いていたアロマさんとヤトちゃんが「は?」みたいな顔でこっちを見てきた。
カードショップ”デュエリスト”の平和な一コマである。
「いやでも、やろうと思えばレンさんだってできるはずだ。ようは、パックの創造と同じだよ。ファイトエナジーと、カードを生成しようとする意志があればできる」
「パックの生成自体が神の領域ではないか! 我はやらないぞ! 我は人間だー!」
俺を人間じゃないみたいにおっしゃる。
俺の両親は普通の両親だし、俺は精霊系モンスターだって集中しないと見れないんだぞ?
至って普通の一般人じゃないか。
少なくとも、出自は。
まぁ、それを言ったらダイアだって一般のご家庭の出身だし、この世界出自とか関係なく強いファイターがポップするけどな。
「とはいえ、だよ。真面目な話をすると、レンさんに足りないのは求める心だとおれは思うよ」
「も、求める心……か」
「そう、闘争心というか……闘争本能みたいなもの」
レンさんは、言ってしまえば現状に満足しているのだ。
天才小学生として、闇札機関の盟主として、一族の娘として。
今のレンさんは、不自由なく生きていけるだけの土台がある。
これ以上を求めても、果たして手に入るものがあるのか? というくらいに。
「いや、それは可笑しい。闘争本能なら我にもあるぞ!」
「そうだな、人並みには十分持っている。でも、レンさんの求める水準には達してない。だから必要な時にしか発揮されないんだと俺は思う」
人並みには十分持っているからこそ、ダークファイターと戦う時に実力を発揮できるのだろう。
だが、それ以上のものがないから、レンさんは表舞台では「ぐえー」してしまうのだ。
それ以上のものを、求める機会がなかったから。
「……いや、それならばどうして我は、母上がいなくなっても前に進めない? ……我だって、母上がいなくなったのは寂しいんだぞ」
「それは……正直、俺にもわからない。ただレンさんがどうして勝ちきれないのかってことが解っただけで」
どうして勝ちきれなくなったのかまでは、いまいちわからないのだ。
多分、レンさんの過去の経験に理由があるのだと思うけど、レンさんは今ですら幼いのだ。
おそらく、すでに忘れてしまうくらい幼い頃の経験だったのだと思う。
父親であるキヨシさんや従姉のヒジリさんは何も知らないそうなので、おそらくレンさんの母親とレンさんだけの秘密だ。
そしてそれは、レンさんの母親がいなくなってしまった理由にも関わってくる――と。
俺はそう読んでいるわけだが、まぁ実際のところは今のところ結論が出ない。
「とにかく、レンさんが足りないものを補いたいと思うなら、創るしかない。創ること自体は、レンさんならできると俺は思ってる。後はレンさん次第だ」
「む、むううう……しかし、しかしぃ……!」
結局、最後までレンさんは悩んでいた。
というか、後のことを思い返せば未だに悩んでいる。
しかしそれでも、今まさに、レンさんは結論を出さなければいけない時が来ているのだ。
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「嫌だー! 天の民みたいなドン引き存在にはなりたくないー!」
『けれど、ここで殻を破らないと、君はいつまでもそのままだよ!』
「くぅううう!」
追い詰めるツカサさん、悩むレンさん。
緊迫する状況、それはそれとして。
俺に対する視線が痛い。
レンさんに何吹き込んでるんだ、みたいなエレアの視線が痛い。
なんなら、ツカサさんもちょっとこっち見て引いてる。
なんだよ、やってることはネッカ少年と同じだろう!?
と、その時である。
「レン! お前、こないだやったこと忘れたのかよー!」
俺がネッカ少年のことを考えると同時、神妙な顔でファイトを見守っていたネッカ少年が口を開いた。
いい加減、見ていられないとしびれを切らしたのだろう。
「俺のセメタリーのカードを使って、足りない所からカードを持ってきたじゃねぇかよ!」
「そ、それとこれとは、違うだろ……色々と!」
「確かに違うけど、同じ線の上にあるんじゃねーのか!? なのに、途中で線の上から逸れるなんて、レンらしくねーぞ!」
「……っ!」
そうだ、確かに途中で投げ出すなんてのはレンさんらしくない。
そもそも諦めるのがレンさんらしくないのだ。
確かにレンさんは怖がりだったりして、苦手なものから逃げ出す傾向は強い。
でも、それにしたって最後には向き合って挑んできたじゃないか。
クルミ先生とのファイトがそうだ。
「もしも、レンが勝てないのがレンにどうしようもできない理由なら、まずはレンがどうにかできる理由に変えちまえ!」
「幽霊のように、か? 無茶を言うな……」
そう零すレンさんは、しかし先ほどとは明らかに違った。
らしくない、と言われて冷静になったのだろう。
今まで、レンさんは自分が勝てない理由をどうにもできなかった。
だが、今は違う。
どうにかする手段が、レンさんにはある。
だったら、足を踏み出すのがレンさんだろう。
「……ええい、やってやる! やってやるとも! 来い!」
『まってたよぉ、ボクは<アルティメート・キメイラ>で攻撃!』
「セメタリーの<ガイアストラ・ボーンドレイク>のエフェクト! セメタリーの『ガイアストラ』モンスターを五枚デッキに戻し……自身をサモン!」
サモンされた<ボーンドレイク>が盾になったことで、レンさんはそのターンを生き延びる。
<アルティメート・キマイラ>に貫通能力はないからな。
そのうえで、レンさんのターン。
「我は……新たなる下僕を創造する! 来い!」
モンスターを展開、さらなるモンスターを呼び出す。
それこそが、レンさんの創造する新たなるモンスター。
今まさにそれがフィールドに降臨する――直前に、ちらりとレンさんがカードに視線を向けて。
なんか……すっごい渋い顔をした。
それからこっちを見て、改めてモンスターを呼び出す。
「現れろ! <極大古式聖天使 アストランド・ガイアドラゴン>!」
ああ、それは。
いわゆる、アレであった。
『古式聖天使』の他人の空似モンスター。
しかも『
エレアからも、なんかすっごい渋い視線が向けられる。
「ええい! <ガイアドラゴン>はエフェクトと戦闘で破壊されず、戦闘時に相手モンスターより攻撃力が低い場合、その差ぶん攻撃力を上げる! そして、相手モンスターを破壊した時、その攻撃力分のダメージを与える!」
『え!? いやそれは本当に不味い! <ロールシャッハ・シャッフル>! フィールドとセメタリーの「ロールシャッハ」モンスターを交換だ!」
<ガイアドラゴン>は素の攻撃力が3000ある、その上で相手のほうが攻撃力が高い場合打点を合わせるのだ。
なので、<アルティメート・キマイラ>を破壊されたら今度は仮面舞踏会が敗北する。
そのうえで、ただ<アルティメート・キマイラ>をどかしても大ダメージなのだ。
だからモンスターの入れ替えは最適解だろう。
それでも、呼び出せるモンスターの打点が低く、ダメージは免れない。
「終わりだ! <アストランド・ガイアドラゴン>で攻撃!」
『くうー! 次は負けないからね!』
そう言って、ツカサさんは画面外まで吹き飛び。
勝利したのはレンさんだった。
なお、その後数分ほど、天に祈りを捧げるレンさんとエレアの姿が目撃された。
何なんだ一体。