カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
ヤトちゃんとハクさんの関係は複雑だ。
姉妹であり、血はつながっていない。
この世で二人だけの家族。
その仲は間違いなく良好だけれど、時折ボタンの掛け違いが発生することもある。
と、いうよりも――
「私達って、私達が思ってる以上に凸凹な姉妹だと思うのよ」
『……そうですね』
「姉さんと私の好みは正反対。私は黒が好きだけど、姉さんは白が好き。私は辛いものが好きだけど、姉さんは甘いものが好き……みたいにね」
そうだ、ヤトちゃんとハクさんは、決して何から何まで似た者同士な姉妹ではない。
似ている部分もあるけれど、そうでない部分も多い。
何せ、生まれてからずっと家族として育ってきたわけではない。
いろいろな理由があって、同じ時間を歩むことになった二人なのだ。
本来なら、もっとすれ違いが起こっていたって不思議ではない。
ぐいいいいいいい(エレアが俺の頬をつねる音)。
いだだだだだだだ。
「だからきっと、本当ならもっと私と姉さんって、いろんなことですれ違ったり喧嘩してたりしたのかもしれないわ」
げしげし(エレアが俺のスネを蹴る音)
いたいいたい。
『そうですね。でも、私はヤトと姉妹として生きていきたいです。どれだけ喧嘩することになっても、どれだけすれ違うことになっても』
どさっ(エレアが俺に乗っかってくる音)。
おも……くない。
普通に軽い!
「それはなんで? 答えはすっごく難しいわ。簡単に出てくるものじゃない。でも不思議と、私は思うのよ」
ぷにぷにぷにぷに(エレアが俺の二の腕をもみまくる音)。
なんかエレア楽しくなってないか?
『私もです。そして答えはきっと――この世界に、私達が姉妹と思える相手は私達だけだから』
スパーン!(二人まとめてレンさんにハリセンで叩かれる音)
ごめんなさい。
「なのにどうして、こんなにも置いていかれたくないと思うのか。姉妹だったら、相手の成長を羨む事はあっても不安に思うことはないでしょう?」
俺とエレアは、ヤトちゃんとハクさんが出す答えを、正座しながら待つ。
その答えは――
『答えは、簡単です。私達は姉妹であると同時に、最も近くにいる赤の他人同士だから』
他人同士だから。
ヤトちゃんとハクさんの間には、姉妹としての情と絆がある。
それと同時に、どうしようもなく他人であるという自覚もある。
常に隣を歩く、姉妹であり他人。
たとえ、相手を好意的に見ていても。
置いていかれたくはないはずだ。
『ヤトは、前に進みました。そして、これからも進んでいきます。もうすぐ、ヤトには大きな変化が訪れるでしょう。……その時、置いていかれるのが、私は怖い』
「姉さん……」
ここ最近の傾向からして、いずれヤトちゃんは自身の出身である(と思われる)蒸気騎士団の世界へと誘われるだろう。
そこで、幾つかの事件と再会を経験し、自分の因縁へ決着をつけるのだ。
その時、置いていかれるのをハクさんは怖がっている。
『そして、何よりそれを口にすることが怖い。……ですが!』
「……!」
『今こうして、口に出して。覚悟が決まりました! 私はヤトの隣に居続ける。ヤトの姉であり続けるのだと!』
ファイトが進む。
それまで、若干ヤトちゃん優勢で進んでいたファイトが一気にハクさん優勢に傾いた。
ぶつかり合うモンスター。
それぞれのエースが、激しく攻防を繰り広げる!
『いきなさい! <
「迎え撃って! <ドリーマーナイツ・アリアン>!」
そんなファイトをみながら、いつの間にか俺の上におぶさっているエレアと言葉を交わす。
「……このファイト、どっちが勝つと思いますか?」
「今のところ、まだ読めないな。ハクさんが有利だけど、多分一回はヤトちゃんも盛り返すし……けど、聞きたいのってそういうことじゃないだろ?」
少し落ちてきたエレアを背負い直しつつ、そう問い返す。
わざわざエレアが、このタイミングでそんなことを聞いてくるのには理由があるはずだ。
「私自身……どっちを応援すべきなのかなって」
「そんなに迷うことか?」
「チームメイトとして、ヤトちゃんを応援する気持ちはあります。でも、ヤトちゃんが大変なことになりそうなのは私だって、わかります」
ハリセンを構えるレンさんを牽制しつつ、話は続く。
「その時、やっぱりハクさんにはヤトちゃんの隣にいて欲しいじゃないですか。……ハクさんの言葉に、共感できちゃって」
「なるほどな、確かにそれはその通りだ」
いつになるかといえば、多分このショップ対抗戦が終わった後……そこまで間は置かないだろう。
まず、ハクさんとヤトちゃんが今ここで色々と決着をつけることは運命を動かすには十分なファクターだ。
<探偵ショルメ>とファイト探偵の件から、向こうがこちらに干渉する手段があるのはほぼ確定してるしな。
「ただ……ハッキリ言って、ここで俺達がどっちを応援したって……もう二人は大丈夫さ」
「それは……」
「もう、ハクさんが言葉にしたからな。後は、ファイトの結果がどうあれ、二人はうまくやるよ」
なんたって、姉妹なんだから。
どれだけ、二人がなんと言おうと。
周りがなんと言おうと。
俺は断言できる。
ハクさんとヤトちゃんは姉妹だ。
魂がつながっているとでも言うべきか。
あの二人は、出会うべくして出会ったんだと俺は思う。
「だから俺達にできることは……チームメンバーとしてヤトちゃんを応援しながら、戦いの終わりを見届けるだけだ」
「……ですね!」
そして、二人の戦いはいよいよ最終局面に向かう。
一時は<ヴォーパル・バニー・カルバノグ>で押されたヤトちゃんだったが、カウンターエフェクトで<ドリーマーナイツ・アリアン>を強化。
<ヴォーパル・バニー・カルバノグ>の突破に成功している。
「このまま終わらせる! <パンクナイツ・パンキッシュ>!」
パンキッシュは、<アリアン>を強化したカウンターエフェクトだ。
装備魔法のような効果で、外付けでアリアンを強化しつつ名称に『蒸気騎士団』を加えることができる。
アリアンの、簡易強化形態ってところか。
『……まだです! カウンターエフェクト<
「姉さんの……新しいエースモンスター!?」
<パンキッシュ>による強化は、先日の二人のファイトでも行われていた。
ここ最近のヤトちゃんお得意の強化だ。
対してハクさんのそれは、完全に初お披露目の奇襲。
ここまで、それを隠していたのか。
はたまた、
どちらにせよ、趨勢は一気に傾くだろう。
『来て! <仮面道化 ルナティック・ヴォーパル・バニー>!』
現れたのは、月の狂気を浴びた<ヴォーパル・バニー>。
否、違う。
その瞳は正気を保っている。
これはいうなれば、月の狂気を制御した<ヴォーパル・バニー>だ。
ハクさんが、自身の葛藤を受け入れ成長した証……!
『おしまいです! <ルナティック・ヴォーパル・バニー>!』
「くっ……<パンキッシュ>!」
両者は激しくぶつかり合い――勝ったのは、ハクさんだった。
先日の借りを返す形で、姉妹対決はハクさんに軍配が上がった。
□□□□□
握手を交わすハクさんとヤトちゃんの姉妹。
まぁ、ホログラフの上ではあるけれど。
だからこそ、二人はおそらく確信を持って、自分が相手とつながっていると思うはずだ。
「……
「レンさん?」
「それに対し、二人は大きな衝突なくここまでやってきた。それは良いことではあるのだが、果たして二人の経験という面ではどうなのかと、我は思っていたのだ」
……なるほど。
それはつまり、いっそ二人が本気で衝突することで、不和を乗り越えていく必要があるのではないかと。
レンさんは心の片隅で考えていたわけだ。
絶対にそうである必要はない。
レンさんだって、可能性の一つとして考えていただけだ。
それでも、考えてしまった以上、それに対する答えが欲しいってところか。
「それなら簡単だ。人間、本人に進むつもりがあるのなら案外どんな経験をしたって行き着くところは一緒だよ」
「……もし仮に、荒療治が必要なのだとしたらそれは、
「そういうこと。ヤトちゃんたちは、そういう面では一切心配はいらなかっただろ?」
そうだな、とレンさんも頷いてくれた。
それこそ、危険な経験をして育ったとしても、周囲から愛されてすくすくと育ったとしても。
成長という意味では変わらない。
過程が少し、違うだけだ。
経験の中で目指すところも変わってくるかもしれないが、歩む速度は変わらないだろう。
それに……。
「人間、きつい経験をしたって変われるかどうかは本人次第だからな」
「ですねー」
俺におぶさって、呑気にぐでーとなっている俺の恋人とか。
多分、過去がどんな経験をしていても最終的にはこうなってると思うぞ?