カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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仮面さんと呼ばれた、ファイターの場合。

 後に”仮面さん”と呼ばれるそのファイターには、相性の良いカードが無かった。

 相性のいいカードがないということは、ファイトが弱いということだ。

 自然と周囲から除け者にされ、”仮面さん”は孤立していった。

 ファイターとして強くなりたいという思いは、当然ある。

 イグニッションファイトに対する熱意は、孤立していても失ってはいない。

 ただしかし、それに応えてくれるカードがない。

 そんなどこにでもいる、しかしどこにも居場所のない存在。

 それが”仮面さん”の、最初のパーソナリティだった。

 

 自分を恨みもした。

 周囲を妬みもした。

 決して、心穏やかな青春は送れなかった。

 鬱屈としていて、闇を抱え込んでいる。

 それが当時の”仮面さん”だったのだ。

 

 転機が起きたのは、後に”仮面さん”となるファイターが、中学に上がった時のことだろうか。

 ”仮面さん”は、ある時不意にその場所へ迷い込んだ。

 秘境を管理するエージェントである境界師の間では、”禁札法”と呼ばれるその秘境に。

 寂しく、何もない場所だった。

 すでにかつての栄華は失われ、ただ建物だけが鎮座する場所。

 

 孤独な場所だ。

 まるで、自分のようだ。

 ”仮面さん”はそう思った。

 だが、そうではなかったのだ。

 確かに人は姿を消した。

 けれど、”彼ら”は確かにそこにいたのである。

 

『びあびあー!』

 

 ジョッキやグラスをモチーフとしたカード。

 『ビアマイスター』のモンスターである。

 その秘境は、人々から忘れられたかつての世界を生きるモンスターたちの楽園だった。

 孤独だった”仮面さん”の心に、彼らはそっと入り込んでいく。

 『ビアマイスター』は決して”仮面さん”をバカにしない、蔑まない。

 どころか、共に楽しみを共有してくれるのだ。

 気がつけば、”仮面さん”はまさにその世界の住人と言っていいくらい、『ビアマイスター』との交流に熱中していたのである。

 

 だが、そんな幸せな時間は長く続かない。

 

 ”仮面さん”が秘境に出入りしていることを、周囲の人間が嗅ぎつけたのだ。

 ただでさえ、”仮面さん”をバカにしている連中である。

 ”仮面さん”の居場所をメチャクチャにしてやろうと考えるのは自然なことだろう。

 対する”仮面さん”だって、居場所を守るために行動を起こそうとした。

 けれども、やはり彼には相性の良いカードがない。

 『ビアマイスター』すら、”仮面さん”との相性はよくなかったのだ。

 

 迫りくる敵、何もできない自分。

 再び”仮面さん”は打ちひしがれる。

 やはり自分には、なにもないのか……と。

 そんな時だった。

 『ビアマイスター』のモンスターが、あるものを手渡したのは。

 

 

 仮面だった。

 

 

 顔を覆い隠し、自分を隠す仮面。

 敵を迎え撃とうとしながらも、恐怖を隠しきれていない”仮面さん”に対してそれを支えようとした結果だったのだろう。

 しかし、”仮面さん”はその仮面に、言いようのない安心感を感じていた。

 ただ恐怖を覆い隠すだけではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()のだと、”仮面さん”が確信してしまうくらい。

 その仮面は、”仮面さん”の手元にたどり着くべくしてたどり着いたのだ。

 

 そして、仮面さんは誕生した。

 迫りくる敵を、仮面をつけて迎え撃った時。

 その手にはいつの間にか――デッキが握られていたのである。

 

 それから仮面さんは、日常生活でも仮面をつけるようになった。

 寝る時ですら、寝る用の仮面――まぁ、つまりアイマスクなのだが――を着用し。

 絶対に、仮面を取った自分を他人に見せなくなった。

 最初のうちは家族も周囲の人間も何事かと驚いたものだが、仮面を取るよう言い出すものはいなかった。

 何故なら、仮面を付けて日常生活を送る人間なんて、この世界では珍しくはあるけれど奇異の目線を向けられるほどではないからだ。

 何より、仮面さんは見違えるほど前向きになっていたからだ。

 

 以前とは打って変わって、仮面さんは周囲と良好な関係を築いた。

 自分のことをバカにしていた連中も、秘境でのファイト以降は態度を改め。

 最初のうちはまだわだかまりを抱えていたものの、大人になってからはお互い距離感をつかめたのか、酒を飲み交わすまでになっている。

 

 仮面さんの人生は、そこから始まったのだ。

 

 それからすぐに、仮面さんはカードショップ店長を志した。

 理由は一つ、『ビアマイスター』たちが人との交流を望んだからだ。

 禁札法の世界を管理する境界師の人たちも、住人が望むならそうするべきだと言ってくれた。

 そのうえで、秘境に人を呼び込む方法として最も確実だったのが、カードショップだったのである。

 かくして、仮面さんは目標を持って人生を歩き出した。

 

 そんな折、ある人物からこう言われた。

 

「お前さんが、カードショップを開く本当の理由はなんだ?」

 

 ファイター仙人。

 店長推薦状を求めて、彼の元を訪れた時のことだった。

 

 店を開く本当の理由。

 仮面さんが店を開くのは『ビアマイスター』のためだ。

 

「しかしそれは、他人に理由を求めているに過ぎん。お前さんには、お前さんの理由があるじゃろう」

 

 ――ああ、本当に。

 後に、自分のことを”仮面さん”と呼んだ彼も。

 全く同じことを聞いてきた。

 人の心を見通す”眼”を持った人たちは、どうしてこんなにも見透かすのが上手いのか。

 確かにある。

 誰の理由でもない、仮面さんだけが持つ理由が。

 聞けば誰もが、つまらない理由だと思うだろう。

 そんな、ありふれた、自分の素顔のような理由が――”仮面さん”にも、存在するのだ。

 

 

 □□□□□

 

 

『これで終わりです、行きなさい! <ダムショウ・オリジン>!』

「ああ、終わりにしよう! <エクス・メタトロン>!」

 

 俺と仮面さんの最終エースが激突する。

 激しい攻防の中で思う。

 仮面さんは、仮面を付けなければ戦えない。

 それと同時に、仮面をつけることで前を向いて生きることができる。

 仮面さんは自分の本体が仮面であると、考えているだろう。

 それはつまり――

 

「……仮面さんは! 自分の価値を自分以外に求めているんだな!」

『……! ええ、それは否定いたしません。この仮面は”彼ら”から頂いたもの。その恩を返すことが私の生きる意義なのです!』

 

 居場所を与えられ、人生を与えられ。

 『ビアマイスター』の願いを叶えることは、仮面さんにとって最高の恩返しであり生きがいだっただろう。

 それは、何も間違っていない。

 正しいことしかしていない。

 それでも、

 

「でもそれは……仮面さんとしての願いだ! ”君”は君の願いを、つまらないものだと切り捨てている!」

『ええそうでしょう! 仮面を付けた私の生き方に比べれば、”私”個人の些細な願いなど――』

「たとえ些細でも……つまらなくなんかない!」

 

 俺は、<エクス・メタトロン>のバトル時エフェクトを起動する。

 フィールドの『古式聖天使』の数だけ打点を上げるエフェクトだ。

 だが、打点が足りない。

 フィールドにいるのは<メタトロン>の他には<ラファエル>だけ。

 これでは、<ダムショウ・オリジン>の打点を超えることはできない。

 

『……っ! 私にとって最高のカードショップは、”彼ら”が、そして店に訪れてくれたお客様が、笑顔になってくれる店です! つまり……私にとっての最高は、お客様なのです!』

「ああ、そうだな。けど――!」

 

 故に、俺はカードを手札から掲げる。

 

「……俺は! <大古式聖天使 リアル・フェイス>のエフェクト発動! 『古式聖天使』モンスターか、『仮面道化』モンスターのエフェクト発動時、このモンスターをサモン!」

『……ですが、一体ではまだたりませんよ!』

「まだだ、俺は<リアル・フェイス>のエフェクト。このモンスターがサモンされた時、フィールドのモンスター一体の名称を<大古式聖天使 リアル・フェイス>としても扱う!」

 

 これで二体分だ。

 <ダムショウ・オリジン>が<リアル・フェイス>としても扱われる!

 

『バカな……攻撃力が上回られた!?』

「終わりだ、仮面さん。……最後に一つ、聞いておきたい」

『なんでしょう、デュエリスト店長様』

 

 向かい合う<メタトロン>と<ダムショウ・オリジン>。

 そして俺と、仮面さん。

 

「仮面さんは、『ビアマイスター』の願いを叶えるため、店を宣伝する方針に切り替えて。それから、対抗戦に参加した」

『そう……ですね』

「いろんなことが変化したと思う。見ず知らずの人から注目されて、仲間たちと頂点を目指して。アレから、今まで」

 

 俺は、一拍置いて。

 

 

「――仮面さんは、楽しかったか?」

 

 

 その言葉を、口にした。

 仮面さんがカードショップを開いた本当の理由。

 彼がつまらないという、些細な理由。

 それは、

 

『…………否定は、できませんね』

 

 仮面さんの()()()()()()()()だ。

 あまりにもシンプルで、そしてだからこそ。

 滅私を志す仮面さんにとっては、つまらないもの。

 ああ、でもしかし。

 

「その感情は……仮面さんが仮面さんになるより前から、もっていた感情なんじゃないか?」

『……』

「『ビアマイスター』たちと、初めて出会った時から。仮面さんは楽しいと感じていたはずだ」

『そう……ですね』

 

 どこか、苦笑するように。

 けれども決して、悲しげではなく。

 寂しげでもない、嬉しそうな顔で。

 

「その、楽しいって気持ちこそ、『ビアマイスター』が仮面さんと一緒に歩みたいと思った、そもそもの理由のはずだ」

『そう…………でしたね』

 

 俺の言葉に、納得を返す。

 かくして、<エクス・メタトロン>が<ダムショウ・オリジン>を撃破して――

 

 

『ありがとうございました。本当に敵いませんね……貴方には』

 

 

 俺は、勝利した。

 仮面舞踏会との対抗戦も、これにて終了。

 俺達”デュエリスト”は、決勝トーナメントに駒を進める。




というわけで決着です、次回から決勝トーナメント編です。
その前にちょっと準備があります。

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