カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
俺の店は、特別な理由がない限りは21時までやっている。
それは単純に、遅くまで店に屯している連中が多いという話でもあるし、俺自身がそれを望んでいるからという話でもある。
まぁ流石に二十時をすぎれば人もポツポツといなくなっていくし、最後まで残っている客はほとんどいないのだけど。
いなくなるまでの時間が、言ってしまえばクールダウンの時間なのだ。
そんな心地よい余韻のような時間が、俺は好きだ。
エレアがいる日は、すでにあらかた業務を終えたエレアが夕飯の準備をしてくれている。
メカシィがいる日は、退店の準備を終えたメカシィを入口で見送る。
俺がいない日は……エレアが、俺の代わりをしてくれているようだ。
そんな、何気ない日常が俺の店にはあって。
けれども、その日。
俺の店は二十時を待たずに閉められる。
それから二日間、この店が開店することはない。
次に店が開くのは、すべてが終わった後になるだろう。
ただ、本来ならこの時間帯に人はいない。
しかし今日は、結構な人だかりが店の前にできていた。
いやまぁ、俺達を含めて合計八人程度の人だかりなんだけど。
「……よし、店の戸締まりは完了だ」
「皆さんももう集まってますよー」
「ああ、じゃあエレア――それからみんな」
エレアの言葉に頷いて、そしてこの場にいる全員の顔を見る。
エレア、メカシィ。
それからネッカにヤトちゃん、レンさんとアロマさん。
少し遠くに、デカい車の運転席からこちらを見る刑事さんの姿もある。
「これから、ショップ対抗戦の決勝戦、その会場に向かう」
俺の言葉に、皆は一様に頷いてくれた。
「移動は車で、大人組が交代しながら運転する。刑事さん、よろしくな」
「ああ、任せてくれ。そのために実家からこいつを借りてきたんだからな」
そう言って、笑みを浮かべながら軽く車体を小突く刑事さん。
俺もそれに頷くと、笑みを浮かべて拳を突き出す。
「じゃあ、カードショップ”デュエリスト”、ショップ対抗戦決勝会場に出発だ!」
「おー!」
俺の周りにいるメンバーが、俺の突き出した拳に合わせてくれる。
それから俺は、エレアと視線を合わせて笑みを浮かべあう。
さぁ、決勝トーナメントに向かうとしよう。
□□□□□
決勝の会場、名前をファイトスタジアムという。
この国の大きな大会は、必ずこのスタジアムで行われるという伝統の会場だ。
俺が以前訪れたのは三年前、第三回ファイトキングカップに出場した時のことである。
あれから、会場は何ら変わりなく。
多くのファイターを受け入れていた。
そして今、俺は再びここにいる。
「帰ってきたなぁ」
「帰ってきたんですかぁ」
車を宿泊先のホテルに停めて、そのまま一泊。
朝食を済ませたら、俺達は朝早くから会場にやってきていた。
開会まではまだ時間があるし、別にそこまで急ぐ必要はない。
ただまぁ、居ても立っても居られないってのはこのことで。
俺達に限らず、多くの人間がすでに会場に集まっていた。
「ヤトちゃんたちは、会場を回ってくるそうです。刑事さんが引率で」
「ここに残ってるのは……」
「俺と店長とエレアの姉ちゃんだけだな」
俺とエレアと――それから、珍しくネッカ少年が残っていた。
俺達はこれから、受付なんかをしに行く予定だ。
あまり面白いことはないと思うのだが。
「会場見て回る前に、クローに会いたいんだよ。多分向こうも同じこと考えてミーシアの姉ちゃんについてると思うから」
「そういうことなら、早速受付に向かいましょうか! ふふふ、優勝候補のお出ましですよ」
「決勝に進めるのは8チームだけだから、ぶっちゃけどれも優勝候補だと思うけどな」
少なくとも、よりすぐりのチームが決勝に駒を進めている。
下馬評通りのチームもあれば、ダークホース的なチームまで様々だが。
この会場にチームとして来ている時点で、注目を集めないわけがない。
実際今も、周囲からは視線を集めているしな、俺達。
「私の美貌のおかげですね」
「若干否定できないところがある」
この世界でも、白髪って結構目立つからな。
メッシュが白かったりするやつは多いんだけどなー、俺とか。
さて、会場には人だかりができているものの、俺達が通ろうとするとそれがすぐに開く。
よっぽど顔が割れているんだろう、聞こえてくる声も俺達が”デュエリスト”の人間であることを察しているものが殆どだ。
しばらくそうして、事前に通達されていた場所に向かうと、スタッフが挨拶をしてくれた。
「デュエリストの店長様ですね」
「ああ、棚札だ。チームメンバー揃って、すでに会場に来ている。受付をお願いしてもいいか?」
「かしこまりました」
丁寧な応対で、決勝の間は控室を使っていいと教えてもらう。
控室の場所に関しては、以前利用したことがあるのでなんとなく把握しているのだが。
説明は一通り受けたうえで、控室の鍵を受け取った。
地図も受け取ったので、これはエレアに渡しておく。
一目で内装を記憶してくれるので、流石は偵察兵といったところだ。
んで、そんな折。
「あ、ミツルだ」
お目当ての人物が、俺達の前に現れた。
ミーシアさんと、それからクロー少年。
どうやらこちらは二人きりのようだ。
「やぁ、ミーシアさん」
「おはようございます、ミーシアさん!」
「エレアもおはよう、元気そうで何より」
んで、そんな普通の挨拶を交わす俺達の横で――
「……よう」
「……ああ」
ネッカとクローは、ライバルらしい静かな挨拶をしていた。
わざわざ、お互いこの場で会うために来たってのに。
直接会うと、カッコつけたくなるのがライバル関係って感じだな。
俺も、ダイアが相手だとそうなるときは結構ある。
「ネッカ」
「クロー」
俺とミーシアさんが、二人で話をしてくるといいと促す。
すると少年たちはありがとうと返して、その場を去っていった。
話が終わったらスマホで連絡するよう事前に伝えてあるから、後はごゆっくりって感じだ。
「さて、と。じゃあ用事も済んだことだし――」
「ちょっと待って、ミツルに聞きたいことがある」
んで、立ち去ろうとしたら、ミーシアさんがひと声かけてきた。
会場の案内をするスタッフに少し待ってもらうよう伝えて、俺の方にミーシアさんはやってくる。
「まずは、決勝進出おめでとう」
「お互いにな」
「おめでとうございますー」
エレアも合わせて、三人で健闘を称え合う。
そのうえで、ミーシアさんは本題に切り込んできた。
「――ミツルはキアのことをどう思ってる?」
「キアちゃんがどうしたんですか?」
ミーシアさんからキアの名前が出てくるとは思わなかったのだろう。
エレアが小首をかしげている。
ただまぁ、俺はなんとなく想像していたことだ。
「本戦で、私達ドリームランドは、マスターズと戦った」
「惜しかったな」
「ぐさぐさ。勝敗に関しては関係ない、次は勝つ。こほん」
傷ついたような声を出しながら、表情は特に変化していないミーシアさん。
いつも通りだ。
「そこで、キアと話をしたの。ミツルと親しいそうだから」
「まぁ、にぃ……なんて呼ばれてはいるな」
「わ、私もねぇなんて呼ばれちゃいました……てれてれ」
俺の言葉に、ミーシアさんは頷く。
「キアは今、大変な状況にある」
「……父親との確執だな」
「それだけじゃない。良空ミトリとの因縁も」
キアは、父親との長年の確執に決着をつけようとしている。
それと同時に、キアは自身の幼馴染である良空さんとも因縁があるようだ。
「といっても、その辺り俺は詳しくないぞ。良空さんとはキアと関係ない所で知り合っただけだし」
「……まぁ、ミツルが事件の深い所に関わってるとは思ってなかったけど」
ミーシアさんとは、それなりに付き合いが長いだけあって俺の特性を彼女はよく理解している。
今回だって、俺がキアの抱える事件と関係ないことは、最初から解っていたはずだ。
「でも、気を付けて。キアの因縁は、おそらくこのショップ対抗戦に収束する」
「だろうな」
「貴方に万が一のことがあったら、トウマが心配する」
「一番心配が無用な人に忠告が飛んでいます!」
まぁそう言うな。
ミーシアさんはあくまで、ダイアが心配するところを見たくないだけなのだ。
「というか、個人的にはダイアの方が心配だぞ、俺は」
「……そう?」
「いやだって――」
――如何にもカマセにされそうなポジションじゃん?
思わず、そう考えて。
俺はこれまでのダイアを思い出す。
日本チャンプとして、これまでダイアは何度も事件に巻き込まれてきた。
プロファイターの中に紛れ込んだダークファイターだったり。
イグニッション星人の来襲だったり。
まぁ、とにかく色々と。
その中で、ダイアは多くのファイトを繰り広げてきたわけだが――
――あれ、なんか全然負けてないな?
と、思い至ったのだ。
というか、多分ダイアはそういう時に一度も負けてない。
シズカさんはしょっちゅう負けてるのに。
ダイアは……うん、思い返す限りでは負けてないな。
「……いや、いいや。ダイアなら大丈夫だろ」
「……」
「……」
と、思い直した俺に、何やら突き刺さる視線。
なぜだ、なぜ俺を見る。
「……店長が悪いんですよ?」
「そうだそうだ、ミツルはトウマの教育に悪い」
そんなことはないぞ、多分、決して……きっと。