カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
キアと父親の確執。
それについては、俺も概ね把握している。
母親と離婚して以来、父親がキアとまともに話をしたことがない。
というより、そもそも親子の会話自体したことがないんじゃないか?
とんでもない話だが、ここはカードゲーム世界、とんでもないことがとんでもないままに成立してしまうこともままある。
「……パパのことは、今更ミツルにぃに言う必要もないよね」
「家族としての親愛と、それ故の不満。まぁ、解ってるつもりだよ」
「あはは、すごく簡単にまとめられちゃった。でも、実際そんな感じ」
悪いな、というとキアはいいよ、と首を横に振った。
今、俺達は会場の人気がない場所にいる。
以前、第三回ファイトキングカップでも、ここで俺は他人と二人きりの話をしたりした。
アリスさんとの会話なんかがそうだな。
「パパとは、今回の件で完璧に片を付けるつもり、言いたいことも、言わなくちゃいけないこともいっぱいあるもん」
「それは……多分、頑張ってくれとしか言いようがないよな」
「うん」
俺はキアの父親と会ったことがないから。
おそらく、ネッカ少年のお兄さんと同じだ。
避けられている。
それはつまり、彼が何かしらの事件に巻き込まれていることを意味するのだが――
「パパが変なことに巻き込まれてるって、私昔から思ってたんだ」
「まぁ、誰だって思うよな。キアのお父さんの態度はあまりに普通じゃない」
「でも、調べても何もでてこなかった。隠すのがすっごく上手いんだもん」
それは、キアだけでなく他の人間がやっても同じだったらしい。
ダイアですらかわされてしまったそうだ。
仮に、その奥にあるものを暴けるとしたら、俺とファイター仙人だけ。
まぁ、だからこそ会おうとはしてくれないだろうが。
とにかく。
キアのお父さんに関しては、それ以上言えることはなにもない。
そして、それだけじゃないのだ。
今のキアが抱えることは。
「……ミツルにぃは、スピリッツで起きてる事件が本当に解決したと思う?」
「例の悪魔のカード事件か。元凶と見られてるオリジナルの<星道の魔女>はすでに浄化したが」
「その言い方は、思ってないよね」
まぁ、と頷く。
ここ最近まで起きていた、スピリッツでの悪魔のカード事件。
店長にカードが取り憑いて悪さをする、というものなのだが。
その根本的な原因は、スピリッツ社内選抜の時に取り除かれたと思われている。
俺が回収した<星道の魔女>が暴走し、それを浄化したことで。
「何より、パパが話を聞いてくれなかった。事件を解決したのに態度が全然変わらないんだもん」
「で、宣戦布告した……と。大胆だな」
「これくらいしないと、パパも動いてくれなかったし」
ただ、事件はまだ終わっていないという意見もある。
というか、思っているからキアはその原因であろうスピリッツの社長に宣戦布告したのだ。
ショップ対抗戦でスピリッツに勝ったら、社長とも勝負させろ……と。
その場にはマスコミやネオカードポリスがいて、社長は勝負を受けるしかなかった。
「……でね、ミツルにぃはミトリって知ってるでしょ?」
「良空さん……キアの幼馴染で、親友だったか」
「うん、そのミトリが、最初のうちは協力してくれるって言ってくれたの」
なにかおかしなことがあったら報告する。
対抗戦で手を抜いたりはできないけど、最高のファイトにしよう、と。
そもそもスピリッツの事業監査部が悪魔のカード対策に乗り出したのも、良空さんがキアのために力を尽くした結果だそうで。
それは、実を結んでいた……ように見えた。
「でも、最近ミトリの様子がおかしいの。なんだか言動が乱暴だし、戦い方だってそう。勝利しか求めてないみたい。ミトリはそういうファイターじゃないのに」
「何かが起きてる……と、思ってるんだな」
「うん」
どうやら、ミトリさんにもおかしな兆候が出ているらしい。
そういう兆候は大抵間違っていない。
何かしら悪魔のカードに操られていたりするのだが……だからこそ、周囲の声は届かない。
ファイトだって、受けてもらえないだろう。
いや、大きな舞台で戦う機会がなければ受けてもらえるかもしれないが。
今回は、こうして決勝トーナメントの舞台で激突することになるからな。
まぁぶっちゃけ、そこで決着をつけるのが一番手っ取り早いと俺は思います。
「とにかく、事件がまだ終わってないってことなら……気をつけてくれ、それを解決できるのはキアしかいないんだから」
「……うん、頑張る」
キアに、応援の言葉はいらないだろう。
父親がおかしなことになっていて、親友だって兆候が出ている。
そんな状況で、不安になる気持ちは確かにあるだろうが。
それをキアが乗り越えられると、俺は知っている。
というか、俺がするべきことは一つなのだ。
俺が無事でいること。
キアにとって、家族と呼べる存在は父親と良空さん、それから俺なんだろう。
そのうち二人が大変な状況にある中で、俺まで変なことになったらどうする。
そうならないことこそが、キアを安心させる最大の手段だ。
「ま、ミツルにぃに関しては心配いらないとして」
「……そこは心配してくれたほうが嬉しいところなんだが」
「絶対にいらない人へ、心配するだけリソースの無駄だよ、ミツルにぃ」
うむぅ、流石はカリスマ経営者、効率主義が極まっている。
ともかく。
キアに対して俺ができることは一つしかない。
「ねぇ、ミツルにぃ」
「なんだ?」
「ミツルにぃは、答えを見つけた?」
最高のカードショップとはなにか。
それに対する、究極普遍の答え。
このショップ対抗戦で、俺とキアが掲げるお題目。
ついでに言うと、投げかけてきたダイアも少しくらい考えてもらいたい。
まぁ、尋ねれば答えてくれるだろうけれど。
「残念ながら、今のところさっぱりだ」
「私も。アレだけ自信満々に、きっと答えはあるって言ったのにこれじゃあね」
「もう時間も殆ど残ってないぞ」
やれやれと肩を竦めるキアに、俺も同感だと頷く。
ハッキリ言って、お手上げ状態だ。
「仮面さんやミーシアさん、色んな店長からそれぞれの答えは聞いて回ってる。当然全員が違う答えだ」
「私も。いやぁほんと、みんな多種多様な理由で店長を目指すもんだよねぇ」
「人って凄いよな。これだけ数がいるのに、一人も同じ考えの人間がいないんだから」
むしろ、これだけ数がいるからこそなのか?
なんて、哲学的なことを言ってみたりする。
「……正直、一つの答えがもう私の中にはある」
「キアもか? 俺もだ」
答えらしい答えがあるかはわからない。
でも、それを探す内に、ある考えがよぎることがある。
きっとキアも、それは同じなのだろう。
その答えは――
「答えは、ない」
それだった。
俺とキアの言葉が、一言一句違わず唱和する。
まさに、示し合わせたような答えに俺達は思わず苦笑してしまった。
「お互い、考えることは同じだね」
「……だな」
ハッキリ言って、それこそが究極普遍の答えなのではないかと思うことがある。
答えがない。
それは一見ネガティブに聞こえてしまうかもしれないが、むしろまさに真理とも言える答えだ。
「答えがないからこそ、人は答えを考える。迷って、悩んで進み続ける」
「そのことにこそ、意味がある。ファイター仙人なら、そう言いそうだね」
なんとなくだが、仙人に聞いたらそれこそが究極普遍の答えなのだと断言するのではないだろうか。
答えを求めることこそが、答え。
そしてだからこそ、仙人がそう断言するということは。
「――だったら、なおさら俺達は探し続けなくちゃいけない」
「今を生きる私達だからこそ、ね」
人を導き、だからこそ進んでいく人を見送る仙人だからこそ。
俺達にその先へ進んでもらうため、敢えて「答えがない」を答えにする。
実にありそうなことだ。
だからこそ、俺達は覚悟を決める。
「ミツルにぃ」
「なんだ?」
「言いたいことがあるの」
「俺もだ」
そして二人は、鋭い視線を向け合って。
「決勝で、会おう」
答えを求めて、立ち上がる。
実は前編真面目なことしかしてない話って珍しいかもしれません、次回から決勝開始です