カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
もうね、この組み合わせって時点で察するものがありましたよね。
キアだって解ってやってるはずだ。
逢魔カラスとアリス・ユースティア。
デビラスキングと先代マジカルファイター。
まぁ、今でこそ笑い話だが、当時は本気で殺し合ったファイター同士の対決である。
なんというかこう、デビラスキングの世界観がゆるくなったことで、やってる嫌がらせも嫌いなおかず発表悪魔とかその程度だが。
それはそれとして、煽りが酷い。
「仮にも世界有数のお貴族様のご当主が、なすを食べられないなんてどうなってるんだ? がーっはっはっはっは!」
「黙れです! 私の嗜好と家のことは関係ないです!」
「関係あるにきまっているだろうが、周囲の人間に対して恥ずかしくないのか!? ランチに出されたナスを、当主がそっと残したときのコックの気持ちを考えたことがあるのか!?」
「うがーーーーーーーです!」
なんというかもう、水を得た魚のようだ。
逢魔さん、普段は反省したからか大人しいそうなのだが、ファイトになるとそれはもう活き活きと相手を煽り出すらしい。
それでいて、踏み込んじゃいけないところは踏み込まず、踏み込んでいいところはもうめったんめったんに煽るものだから、見ていてある種の気持ちよさすら感じられる。
アロマさんいわく、
「あの方こそ、ヒールファイターの目指すべき至高。到達点ですわー!」
とのこと。
いやまぁ、元ダークファイターの親玉なのだからこれくらいのトラッシュトークはお手の物なのだろうけど。
なお、先日ヒールファイターの団体からショップ対抗戦をみてビビッときた、とスカウトが来ていたらしい。
さもありなん。
「それにしても……アリスちゃんがあそこまで感情をむき出しにするなんて……意外ですね」
「そうか? だいたいあんなもんだと思うけど」
「店長はアリスちゃんのプライベートに詳しいからそう思うんです! 世間一般だと、アリスちゃんはクールミステリアス美少女風天然ボケキャラなんですよ!」
天然ボケキャラではあるんだ……。
まぁ、なんとなくアリスさんがクールに振る舞おうとして、天然ボケかますところは想像に難くないけれど。
なお、ファイトは序盤にアリスさんが一気に追い込まれるものの。
「そんな姿を見られては、妹君が悲しむだろうなー!」
「……! あ、アロマが悲しむ姿は、見たくない……です!!」
「ぬお、しまったあああああ!」
煽りの最中に、うっかりアリスさんが奮起するワードを口にしてしまったことで逆転を許し、逢魔さんが敗北した。
うーん様式美。
なお、アロマさんは終始大興奮でアリスさんと逢魔さんを応援しており、まったく悲しんでいる様子はなかった。
多分、なすが嫌いなことは最初から承知してたんだろうなぁ、アリスさんが隠してても。
□□□□□
さて、残すは最終戦のみ。
小中井さんの奮起と、逢魔さんの煽り戦法が功を奏し、仮面舞踏会はここまで大きなリードを作れずにいた。
それでも、最後まで勝ちを諦めることはしない。
仮面さんは、覚悟を持ってキアに挑んだ。
『よろしくお願いします、マスターズ店長様』
『うん、よろしくね! 悪いけど、私はここで負けられないんだ!』
二人が意気込み、イグニッションを宣言。
ファイトが始まる。
『私の先行だよ! 私は<
明日原キアの使用デッキは『
鳥型モンスターを中心とした、どこか幻想的で輝ける明星のようなデッキ。
その特徴は――
『サモンされた<パラダイム・ロビン>のエフェクト! デッキから『明星の日成鳥』モンスターを手札に加え、このターンもう一度ノーマルサモンを行える!』
”ノーマルサモン”だ。
サモンには二種類あって、1ターンに1度しかできないノーマルサモンと、それ以外のサモンに分類される。
そのうち、キアは前者のノーマルサモンのみを使って戦うデッキだ。
一応言っておくと、ノーマルサモンメインだから相手の妨害をすり抜けやすいだけで、デッキ自体はビートダウンデッキだぞ。
ふわふわした連中とは違うのだ。
『さぁいくよ! でてきて! <明星の日成鳥 エンシェント・ハルピュイア>!』
『……マスターズ店長様の、エースモンスター!』
現れるのは、どこか女性的なフォルムのモンスター。
キアのデッキは小型モンスターが現実の鳥、大型モンスターが伝説上の鳥をモチーフにしている。
ハルピュイアは、すなわちハーピィ。
なるほど、実にそれらしいモンスターだ。
なお、カード名に『エンシェント』が入ってるのはハルピュイアとその強化形態だけだ。
若干俺との関係がありそうでない、それがキアのデッキである。
<ハルピュイア>もシナジーないしね、『古式聖天使』と。
ともあれ、ファイトは続く。
一進一退の攻防、もともとキア自身が俺と同じく相手の行動を見てから対処するタイプなので、一方的なファイトが起こりにくい。
加えて仮面さんは、今回のファイトにかなり気合を入れてきているようだ。
明らかにプレイのキレが、俺の時から一段上がっていた。
『強敵だね……!』
『ここで、負けるわけには行かないのです! 決勝に進み、”彼”に勝利するまでは!』
『それは私も同じだよ!』
一度負けたことで、俺に対する対抗心が燃え上がっているのか。
それはそれとして俺が決勝に進むことを前提にされると、少しプレッシャーがあるな。
負ける気は毛頭ないけどさ。
『マスターズ店長様――キア様、一つお聞きしてもよろしいですかな?』
『……何かな?』
ファイトは佳境。
仮面さんもキアもお互いの大型エースを呼び出して、ファイトをおわらせにかかる。
その最中、仮面さんは問いかけた。
『――キア様は、カードショップを経営していて、楽しいですか?』
一瞬、キアの手が止まる。
……仮面さん、踏み込んだな。
『そりゃ、楽しいよ。私の手で最高のカードショップを作るんだもん』
『その楽しさは、経営の楽しさではないでしょうか。もちろん、それが間違っているとは思いませんが……』
『……』
『カードショップには、様々な”顔”があると私は思います』
いいながら、仮面さんは復数の仮面を懐から取り出す。
それらを一つひとつ、手の中に取り出してはまた消す。
手品だな、アレは。
『ファイターをお迎えする場所、地域のインフラ、夢を届ける場所……答えは様々でしょうが。それらはどれも正しい』
『……そうだね』
『キア様の、最高のカードショップという考えも、間違いなく正しい』
やがて、仮面さんの手には一枚の仮面が収まった。
アレは……キアをモチーフにした仮面か。
『ですが、それでは足りないのでは? 私自身思うのです、私にとって最高のカードショップとは、私とお客様にとっての最高の空間です。ですがそれでは、究極普遍の答えには足りない……と』
『……そう、かもしれないね』
『キア様だって、そうです。最高のカードショップはなにか、その究極普遍の答えを探すのでしたら……まだ、足りていない』
それは、キアが今回のショップ対抗戦に際して、散々語っていることだ。
”最高のカードショップとはなにか”、その答えのない問いの、究極普遍の答えを探したい。
ダイアがそれをショップ対抗戦のテーマにしたのもそうだ。
『キア様は……自身が経営するカードショップで、楽しいと思ったことはありますか?』
『それは……もちろん、あるよ! でなきゃ、カードショップはやってない!』
『……そうですか、失礼いたしました。出過ぎたことをいいました。ただ――』
『ただ?』
『――私には、その楽しみよりもキア様は”使命感”が勝っているように視えまして』
その言葉、キアは答えられなかった。
確かにそうだ。
キアがカードショップの経営を始めたきっかけは、父親から答えを得るため。
カードショップ経営が楽しいから……ではない。
無論、楽しくないわけはない。
だが、それが全てではない。
あくまで、キアにとって一側面でしかないのだ。
『……ペルソナ、だね』
『ええ、人は仮面をかぶるモノですから』
『だったら、私の答えは一つだよ。――確かに、私は楽しさを求めてカードショップを経営してない。それじゃあ、究極普遍の答えに足りないかもしれない』
勝負は最終盤。
キアは、最後のエースをサモンする。
『でも、答えを求めるために……私はここで足を止めるわけにはいかないんだ! 行くよ!』
『……!』
『天よりいでて、私を導け! <明日の日成鳥 エンシェント・エクス・ハルピュイア>!』
それは、まさしく神の降臨。
天を割り、降り注ぐ星の光を背負いながら。
キアの最終エースがサモンされた!
『ありがとね、確かに私はまだまだ足りてない。仮面さんの言う通りだ』
『く……!』
『でもね、だからこそ人は進むんだ! その先にある答えを求めて! そのことに――間違いはない!』
激突。
キアのエース<エクス・ハルピュイア>と仮面さんのエース<ダムショウ・オリジン>。
それらが激しくぶつかり合い――
『――私の勝ちだよ』
最後に立っていたのは、キアだ。
『……お見事です、マスターズ店長様』
対する仮面さんは、どこか悔しそうにしながらも楽しげに、笑みを浮かべてそれをたたえた。
かくして、第三試合決着。
準決勝に駒を進めたのは――マスターズだ。
「……副将戦との温度差よ」
「しっ! それは言っちゃだめ、レンさん!」
最後にレンさんが、誰もが思ったけど口にしなかったことを口にして、試合は終了した。
温度差。