カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
あの後、ミーシアさんは一応無事だった。
どうやらあのファイトはダークファイトではなかったようで、悪魔のカードにされずに済んだのだ。
ただ、精神力をだいぶ消耗したらしく、今はホテルの方でゆっくり休んでいるという。
ダイアとコハナちゃんが様子を見ているようだ。
なにはともあれ、様子のおかしい事業監査部の面々であるが、ファイトが終わった後忽然と姿を消してしまった。
同時にスピリッツ本社とも連絡が取れなくなっているらしい。
実際に足を運んでも、入口が開かなくなってしまっているとかなんとか。
こりゃあなんかあるぞ、と観客でも分かる状況だが、大会は続行である。
このくらい、大規模大会なら起きて当然の出来事だからな。
夜を対スピリッツの作戦会議に費やし、次の日。
マスターズとサイバースペースに関しては、すでに作戦会議は済ませてあるしメンバーも決まっている。
なので、気をつけるべきはやはりスピリッツなのだが。
それはそれとして、まずは自分たちの戦いだ。
準決勝、対戦するのはサイバースペース。
店主の望鐘氏が全国から集めたよりすぐりのメンバーとの対決。
これはこれで、結構楽しみだ。
そしてその先鋒戦、ネッカ少年に頼まれ俺は彼を先鋒に選んだ。
相手は、なぜか顔を隠しているフードのファイター。
フードファイターっていうと、大食らいに聞こえるな。
「つーわけで、いい加減顔を明かしてくれてもいいんじゃねぇか?」
「……」
「黙ってても、お見通しだぜ……
なんと、フードのファイターはネッカ少年のお兄さんだったらしい。
いやまぁでも、ネッカ少年の周辺人物で、顔を隠しそうな相手となるとお兄さんしかいないのか。
ネッカ少年が改心させたダークファイターという線もあるが、それならわざわざネッカ少年が自分から戦いたいとは言い出さない。
んで、
「……」
「だんまりかよ、まぁ、黙っててもファイトはできるけどな! ……イグニッション!」
かくして、推定兄弟対決が始まる。
「――それにしても、ネッカくん。まさか決勝トーナメントがどっちも身内戦だなんて」
「ネッカくらいの運命力の決勝の相手だ、それくらいじゃないとだめってことなんだろうさ」
おかげでネッカは決勝でのファイトを諦めることになってしまったわけだが。
ネッカが言い出さなければ、ネッカは決勝のメンバーだった以上、選んだのはネッカだろう。
本人も、それをわかって今のファイトに臨んでるしな。
「行くぞ、<バトルエンド・ドラゴン>! デッキじゃんけんだ!」
「……」
二人が、お互いにデッキをめくる。
ネッカ少年は一発で、お兄さんは間に一枚カウンターエフェクトを挟んでからモンスターをめくった。
「レベルは4! ……で、そっちは8か。じゃんけんには負けたけど、俺はたった今セメタリーに送った<ハイパーバトルエンド・エレメントウィザード>のエフェクト!」
ファイトは静かな立ち上がりを見せる。
そういえば、ネッカ少年は今年十一歳の小学五年生だが、お兄さんは十五歳、高校生だ。
ちょうど年齢差と同じレベル差のデッキじゃんけん。
なんとも因果だな。
あと、高校生であんだけ色々できるのってやっぱり凄いと思う。
レンさんもそうだけど、この世界の若い子は侮れないな。
「何一人で年長者ムーブしてるんですか」
「天の民も、若い頃は神童扱いだっただろうが」
「今じゃ普通の子ってな」
「そんなわけあるかぁ!」
さて、ファイトは続く。
今度はお兄さんのターン、鬼の面を被った戦士族モンスター、『鬼堕死隊』モンスターが彼のデッキらしい。
なんか最悪の混ざり方してない?
あと、気落ちしたい、に聞こえてなんかネガティブだ。
「そのデッキ……やっぱ兄ちゃんみてぇだな」
「……」
おそらくは、見慣れたお兄さんのプレイングにネッカ少年はさらなる確信を抱く。
ところで、決勝トーナメントに進むまで誰も彼がお兄さんだと気付いていなかったわけだけど、どうして気づかなかったのか。
答えは、そもそも別のデッキを使っていたから、だ。
別のデッキを使っていても、ショップ対抗戦の決勝トーナメントに進める実力。
まさしく、器用万能なお兄さんらしいと言えるだろう。
「……!」
「……出たな! <鬼堕死隊総隊長
どうやら、エースがサモンされたらしい。
場には、体中を刀で刺された鬼の面を被った剣士。
鬼気迫る表情が、仮面越しなのに伝わってくる。
恐ろしいモンスターだ。
ネッカ少年は<バトルエンド・ドラゴン>を破壊されるもののライフが削りきられることはなく。
次のターンに<ハイパーバトルエンド・ドラゴン>で反撃する。
対するお兄さんも、<闇乙刻>を進化。
激しい攻防が展開される。
ここまで、ほぼ互角。
「しかし……若干ネッカ少年が押されているな」
「らしくないぞ、熱血の民!」
とはいえ、端から見ている俺達には原因がわからない。
ネッカ少年のファイトそのものはいつもどおりだと思うし、展開もそこまで不自然なところはない。
だというのに、なんというかワンテンポズレているのだ。
上手く二人のファイトが噛み合っていない……というか。
「……そりゃあ、そうだろうよ」
「刑事さん?」
ふと、どうやら原因に気付いたらしい刑事さんが口を開く。
刑事さんいわく、原因は非常に単純なものであるらしい。
というのも――
「
「……あっ!」
エレアが、納得した様子で声を上げる。
俺も同様に、思ってもみなかったという視線をネッカたちに向けた。
まぁ、俺が気づかないのも無理はない。
そもそも俺は、ネッカのお兄さんがファイトしてるところを見たことがないんだから。
見たことがあれば、すぐに気付いていただろう。
そして、ファイトは最終局面へ。
ネッカ少年が最終エースである<バトルエンド・ラグナロク・ドラゴン>をサモンする。
「……兄ちゃんの狙いが、解らなかった。どうしてわざわざこんな事までして俺とファイトしようとしたんだ? ……て」
「……」
「でも、やっとわかった。兄ちゃんは俺と、大舞台で全力のファイトがしたかったんだな。それも、闇落ちしてない状態で!」
「……!」
今のお兄さんが闇落ちしていないという前提に気付いてしまえば、そこに気付くことは難しくはないだろう。
ネッカ少年の顔は、どこか嬉しそうだ。
「俺もだ、兄ちゃん! こんな機会めったにないからな! それに、普段は闇落ちしてて言いにくいけど……今ならハッキリ言えるぜ!」
「……?」
「
「……!!」
ああ全く。
ネッカ少年は眩しいな、どこまでも真っ直ぐで。
それでいて、ブレない。
兄に対する複雑な感情こそあれど、それは闇落ちしている兄に対してでしかない。
そうでないときの兄は、こんなにも真っ直ぐ兄を尊敬しているんだ。
「でも! このファイトで負けるつもりはない! デッキじゃんけんだ!」
「……!」
お兄さんも、デッキに手を添えて構える。
お互いにカードを抜き放ち、そしてかざした。
「……8!」
「……
そこで、俺はお兄さんの声を初めて聞いた。
少し幼さの残る、高校生くらいの普通の少年の声だ。
「へへ、やっぱり強いな……兄ちゃんは! でも、まだだ! バトル! いっけぇ!」
「……!」
最終局面、ネッカがお兄さんの最終エースに攻撃を仕掛ける。
激しい激突、そのさなかにネッカ少年とお兄さんは、同時にカウンターエフェクトを使用する。
「カウンターエフェクト! <奮戦>!」
「……モンスターの攻撃力を、1000上げる」
結果、お互いのモンスターが打点を上げる。
そうなると、勝利するのは元々の打点が強いお兄さんのモンスターだ。
「……次は、負けねぇからな!」
「……また、やろう」
「へへ、兄ちゃん……俺、兄ちゃんのこと、本気で尊敬してるからな!」
ネッカ少年がライフを削りきられて、ファイトは終了する。
歓声が上がる中、二人の兄弟は固く握手を交わすのだった。
――なお、この後公衆の面前で盛大に感謝された恥ずかしさで闇落ちしたお兄さんを、ネッカ少年が止めることになるのは、また別のお話。