カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
アロマさんとアウローラさんの濃密なファイトの後。
迎えたのは次鋒戦、レンさんと小中井さんのファイトだ。
ファイト構成作家の小中井さん。
創作の中でファイトというのは、現実とはまた違う環境だ。
セッティングされた状態でめくられると、手札をすべて捨てて五枚ドローできるモンスターや。
ダメージを無効にしつつ一枚ドローするカウンターエフェクト。
他様々なドローカードが必須となる環境。
全く別の環境と言っていいだろう。
それでも、小中井さんは強い。
仮にもマスターズは、客の規模で言えばウチよりも大きいはずだ。
そんなマスターズでチームメンバーを勝ち取れるという時点で、その強さは言うまでもないだろう。
加えて、驚くべきことに。
「今日はよろしくおねがいしますね、レンちゃん」
「うむ! しかしちゃん付けは不要だ!」
「ふふ……それにしても、まさか
「……!? 母上の事を知っているのか!?」
母上。
それに、名前だけは聞いたことがある。
ルインさん。
口ぶりからして、そのルインさんで間違いないのだろう。
「はい。実は昔、ルインさんがバイトをしているファイト教室に通ってたことがありまして……子供の頃の話なんですけど」
「お、おお……そうか……まさかこんなところで母上を知るものとつながるとは……」
完全に、思ってもみないような展開だった。
このショップ対抗戦の場、激突したカードに一切因縁がないということはないと思っていたけれど。
まさか、そうなるとは。
しかし、これはなんというか……。
「母上はどのような感じだったのだ?」
「ええと……まぁ、なんとなくレンちゃんも察してるかもしれないですが、破天荒な人でしたね」
「であろうなぁ……とレンちゃんではなく!」
「ふふ。……積もる話はありますが、今は大事なファイトの前! ファイトが終わってから……いえ、ファイトしながらお話しましょう、レンちゃん!」
「レンちゃんではなくーーーっ!」
かくして、次鋒戦が始まる。
「イグニッションです」
「イグニッションだーっ!」
□□□□□
「ふははははは! 勝てる、今日の我は強いぞ、これならば勝てる!」
そして、レンさんは絶好調だった。
普段の噛み合いの悪さはどこへやら、完全にダークファイターと戦うような調子で戦えている。
基本的に、うちの最高戦力はネッカ少年なわけだが……こうして、全力さえ出せればレンさんだってトップクラスのファイターだ。
おそらく、ネッカ少年も成長しているから実際にやったらわからないが、勝率はレンさんが六割ってところだろう。
「く……ライフが残り100。これじゃあ、勝っても殆ど負けたようなものですね」
正確に言うと、あと100減ると小中井さんは交代となる。
このルール、ピンチからの逆転というイグニッションファイトの定番があまり美味しくないルールである。
ライフが1000を切ると鉄壁、なんて前世ではよく言ったが。
そもそもライフが共有である以上、鉄壁に追い込まれた時点で勝っても傷は大きい。
ただ、それでも相手のライフを4000以上削っていることは事実だし、もし仮に大将戦で引き分けなんてことになったら、物を言うのはそれまでの勝数だ。
勝ちを拾っておくことに越したことはない。
「が、それすらも今の
「本の民ですか……ルインさんのお子さんからそう呼ばれるのは、なんだか光栄なような気恥ずかしいような……」
「……母上とは、親しい仲だったようだな?」
「ルインさんからは、読書の子って呼ばれてましたね」
当時の私って本の虫でしたから、と小中井さん。
どうも、レンさんの「何とかの民」呼びは母親の影響らしい。
まぁ、父親が普通に相手の名前を呼んでるから、当然といえば当然なんだろうけど。
「レンちゃんが生まれるまでは、たまに会ってお話をする仲だったんです。レンちゃんが生まれた頃に私が上京しちゃって。ルインさんもお仕事が忙しいみたいでそれからは殆ど会ってなかったんですけど」
「ちゃんではなくー! しかしそうか……我が生まれる頃か……」
「はい。赤ん坊の頃のレンちゃんの写真、実は未だにスマホに眠ってまして!」
「見せるな! やめろ! ちゃんではない!」
流石にファイト中にスマホを取り出せないので、見せてくることはなかったが。
どうやら”会って話をする”程度であっても、ルインさんにとってはかなり気心の知れた相手だったらしい。
「こほん、それではレンちゃん。私はおそらく、
「……どういうことだ?」
「その意味を、今からお教えいたしますよ!」
言いながら、小中井さんは己のターンを宣言してカードをドローする。
そして二体のモンスターをサモンして――
「私は、<
「もう少し、言い方を何とかできんのか……!」
小中井さんは、二体のモンスターを素材にしてエースモンスターをサモンする時、マリアージュって言うんだよな……。
その時の小中井さんは、めちゃくちゃいきいきしている。
ちょっと怖い。
「でてきてください! <
現れたのは、ドレスと巫女服をニコイチしたような衣装の人形少女。
金の髪が特徴的で、エレアがそれはもう興奮している。
それにしても……『破滅巫女』?
「なっ……『破滅巫女』!?
「……昔、頂いたんです。必要な時が来たら使ってくれ、って。きっとそれは、今だと私は思います」
「……だろうな。――いや、待てよ?」
「まずはファイトを終わらせてからにしましょう! <ロータス・ステラ>のエフェクト! <アストランド・ガイアドラゴン>を手札に戻します!」
「しまっ――!」
<アストランド・ガイアドラゴン>には破壊耐性がある。
しかしバウンスだとそれはすり抜けてしまい、結果としてレンさんのフィールドはがら空き。
逆転を許してしまう。
「これで終わりです! <ロータス・ステラ>!」
「く、ぬううううっ!」
勝ったのは小中井さんだ。
しかし、なんというかこれはアレだな――次に起きる事件への布石みたいなファイトだったな。
□□□□□
「……つまり、母上は失踪する直前に、そのカードを本の民に渡したのか?」
「そうです。すごく急いでる感じでした。私が聞いても、詳しいことは何も教えてくれなくって」
「しかし、このカードは確かに母上のカードだ。……本の民と我がつながるタイミングはここしかない。母上、狙ってやったな?」
なんて、詳しい話をレンさんと小中井さんがやっている。
どうやら、本格的に今回のファイトは次にレンさんが迎える”試練”への前フリだったらしい。
レンさんと小中井さんに繋がりなんてない。
ショップ対抗戦のことを、ルインさんが読んでいたのかは不明だが。
何かしら二人につながりが生まれた後に、大きな事件が起きることはわかっていたのだろう。
それが、どんな事件になるかは、まだ解らないが。
「……ところで、本の民よ。先程マリアージュとやらをさせていたあのカード……」
「あ、気づきました!? 実はあの<ピュアエンド>と<デストラクション・ファーアウト>はレンさんのご両親に似てるカードなんですよ!」
――ん?
「実はキヨシさんとルインさんって、幼い頃から好きあってたんですが、中々踏み出せなくってぇ。付き合い始めたのは確か私が高校生になったころで。いやぁそこまでがホント長くて甘酸っぱくて、私の性癖……こほん、今の在り方を形成したのはお二人といっても過言ではなくってですね!」
「う、うむ……」
「お二人の当時のことに興味がおありですか!?」
「……まぁ、あるが」
え、あ、じゃあもしかして<ロータス・ステラ>って
幸いレンさんは気付いていないようだ。
……願わくば、レンさんがその事実に気づかないことを祈りつつ、俺は次のファイトが始まるのを待った。
レンさんとヤトちゃんは次章で色々回収されるらしいですね。