カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
で、考えてみると。
次なる事件への布石になりそうなファイターはもうひとりいる。
ヤトちゃんだ。
何せ――
「あ、こ、こんにちわ……ヤトお姉ちゃん」
「ええと……同い年よね?」
「あ、い、今はそうでした、ごめんなさい……」
――キリアさんは、未来のヤトちゃんを知っているのだから。
考えてみれば当然のことで、キリアさんは未来の俺達の関係者だ。
それなりに近しい立ち位置のヤトちゃんと顔見知りでもおかしくはない。
お姉ちゃんと呼んでいるあたり、結構親しい仲なのか。
「ええと……あ、言えない。……これも言えない……。うう、ごめんなさい、言えないことばっかりで……」
「たしか、未来が決まっちゃうようなことは言えないのよね。とりあえず、明らかに未来の私と貴方に繋がりがあるってところは気になるけど……」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」
「いや謝る必要ないってば。とにかく、ファイトよ!」
は、はいいい、とキリアさんが反応して。
「イグニッション!」
「イグニッションですううう!」
中堅戦が始まった。
□□□□□
「――嘘でしょ、こっちの手の内が全部読まれてる!」
「ご、ごごご、ごめんなさいー! 未来知識で無双するタイプの時間旅行者でごめんなさいー!」
ファイトは、かなり一方的だった。
というのも未来でキリアさんとヤトちゃんは相当仲が良かったみたいだ。
キリアさんはヤトちゃんの手の内を完全に把握していた。
それゆえに、ヤトちゃんがかなり追い詰められているのである。
「いえ、それ自体はいいのよ……というか、できるのに手を抜かれるとか、その方が問題だし」
「はいいい、ぜ、全力でいかせていただきますううう!」
かくして、ファイトはヤトちゃん不利で続いていく。
なんとか対応策を立てようにも、その対応策はキリアさんにとって既知。
ある程度は戦えているものの、それでもファイトはかなり一方的なものになっていた。
防戦一方というか、ジリ貧というか。
「流石に逢田トウマの娘だけあって、ほんっとうに強いわね……! 防戦一方なの、未来知識だけじゃないでしょ……!」
「え、えへへ、ありがとうございます。あ、でもそれならミっちゃんの方が……あ、続けますね……」
話がそれたのを、キリアさんが方向修正する。
それにしても、親友のミっちゃんというのは本当に何者なんだろう。
キリアさんの親友で相当強いって、候補かなり限られないか?
一体誰と誰の娘なんだ……(認識阻害)。
「そ、それにしてもまさかヤトお姉ちゃんとこうして、大事な場で戦えるなんて……光栄です」
「……参考までに聞きたいんだけど、未来の私ってどうなってるの?」
「最近はお仕事が忙しそうで……あ、何のお仕事かは言えないみたいです……」
しかし未来のヤトちゃんか……多分、キリアさんの時代だと今の俺より少し年上くらいだよな。
なんというか、その時代のヤトちゃんが何をやってるのかさっぱりわからん。
他にもレンさんとハクさんも、未来がどうなってるかはまったく予想がつかないのだ。
それ以外のうちの常連客――ネッカ少年やアロマさんは、なんとなく想像がつくんだけどな。
いやまぁ、その辺りはきっとプロなりエージェントなりで活躍してるだろうってだけなんだけど。
「んー、あー、んー……聞きたい、聞きたいけど聞けない……こればっかりは聞けないわ……!」
「え、あ、何がでしょう……」
「ごめん、忘れて!」
そして、一番聞きたかっただろうことを聞こうとして、ヤトちゃんは止めた。
なんとなく想像はつくが、ここは深堀りしないほうがいいだろう。
俺はエレアと視線を交わして、お互い深くうなずきあった。
「とにかく! 続けるわよ!」
何にせよ、ファイトは続く。
もともとキリアさんのデッキは火力が高いわけじゃない。
結果としてヤトちゃんは命拾いしているわけだが、同時にジリジリと追い詰められている感覚は中々きついものがあるだろう。
こればっかりは、キリアさんがどうにかできる問題ではないので、ヤトちゃんがどうにかするしかない。
「……攻略法はあるはずよ! <
「そのカードも知ってます! カウンターエフェクト<グラウンド・ロスト>!」
「これもダメか……!」
そしてヤトちゃんも、キリアさんに対する攻略法を見出しつつある。
どういうことかと言えば、簡単だ。
今のヤトちゃんが使っていて、未来のヤトちゃんが使っていないカードを探すのだ。
ところでどうでもいいんだけど、<グラウンド・ロスト>って意訳すると「欠地」だったりする?
「……ええい、もう残ってるのこのカードだけじゃない。一番可能性低いでしょ、この子!」
「まさか……来ますか、あのカード……!」
「やってみるしかないわね……私は<ドリーマーナイツ・アリアン>をサモン!」
「<
んん――――?
今、なんかキリアさんがすごいことを言った気がするけど。
でも、想定内といえば想定内な気もするけど。
それはそれとして。
「……<アリアン>が正解なの!? でも、そういうことならこっちのモンね! <パンクナイツ・パンキッシュ>!」
「……あ、見たことある姿に近くなりました」
どうやら当たりは<ドリーマーナイツ・アリアン>だったようだ。
そしてキリアさんの言葉から察するに、未来だと<アリアン>は『蒸気騎士団』モンスターの一体になっているのだろう。
<アリアン>はあくまで汎用カード。
『蒸気騎士団』のエースとして使うなら、やはり『蒸気騎士団』としての名称は欲しい。
「近いってことは、知らないってことでしょ! 反撃開始よ! <アリアン・パンキッシュ>!」
「くっ……ま、まずいです……!」
<アリアン>から始まった反撃により、一気に盛り返したヤトちゃん。
どんどんキリアさんの盤面を切り崩し、ライフにも大ダメージを与えた。
そして、あと一撃。
これが通れば、ヤトちゃんの勝ちというところまでキリアさんを追い詰める。
勝ちを確信し、ヤトちゃんが叫んだ。
「一応先達である以上、負けるわけには行かないのよ! 行け! <アリアン・パンキッシュ>!」
「ま、まだです! ――――カウンターエフェクト、<
「……えっ?」
えっ?
思わず、完全に想定していなかったカードの存在にヤトちゃんが目を丸くする。
俺も思わず目を丸くしてしまった。
そう、そのカードは――
「た、助けてお父さんーーー! <グランシオン・デウス・ドラグバニシメント>ッ!」
逢田キリアの父、逢田トウマが使用するエースモンスター。
しかも、最強と名高い<デウス・ドラグバニシメント>だ。
「……さ、流石にそれは反則でしょ!」
「か、勝てばいいんです! 勝てば!」
かくして中堅戦は――ある種の理不尽とも呼ぶべきデウス・エクス・マキナによって、キリアさんの勝利で終わるのだった。
□□□□□
「あ、ありがとうございました」
「ありがとうございました……なんか、すっごい疲れたわね」
「あうう、なんだかごめんなさい……」
といいつつも、勝利は勝利。
「勝てばいい」と言っていた通り、キリアさんは割と勝利に貪欲なようだ。
ダイアがそうあるべしと、育てた結果なんだろう。
引っ込み思案なところはあるけれど、芯は間違いなく強い。
いい子だよな、キリアさん。
「あ、ところでなんだけど」
「はい、なんでしょう……」
「……未来のことで、何か言えることはない?」
「え、あー、や、やってみますね」
と、そこでヤトちゃんがそんなリクエスト。
巧いリクエストの仕方だ。
キリアさんは、未来を確定させないことしか言えない。
つまり、キリアさんが言えることは言ってもいいことなのだ。
こっちから質問するのではなく、向こうから言ってもらう。
これで、質問の仕方でヤトちゃんがやけどすることもないだろう。
それから、しばらくキリアさんはあーでもないこーでもないといろいろ試し――
ふと、ぽつりと。
「そうだ、ヤトお姉ちゃんのご両親はお元気ですか?」
そう、問いかけた。
「…………私の、父さんと母さん?」
「あ、はい。……アレ? 何かおかしなことをいいましたか?」
「
思ってもみない問いかけだった。
未来では、ヤトちゃん――正確に言えば、ハクさんのご両親が健在なのか?
いやまぁ、この世界で「生死不明」は殆どが「生きてる」って意味ではあるのだけど。
まさか、それを口にしても問題ないとは。
「え、あ、はい。……アレ? でもそれ以上は言えないみたいです」
「いえ、いいのよ。……そう、そうなのね」
――いや、逆か?
なんだか神妙な面持ちのヤトちゃんを見て、俺はそう考えるのだった。