カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
キアは仲間たちに断って、会場から離れた場所で休んでいた。
以前、ミツルと二人で話をした場所だ。
第三回ファイトキングカップから伝統ある、会場の人気のない場所である。
「――ここにいたんですね、キア」
「ミトリ……うん。なんだか落ち着かなくって」
「緊張してるんですか? 珍しい。キアが緊張してるところなんて、初めてみました」
そんなキアの元にやってきたのは、親友である良空ミトリだった。
両手に紙のカップに入ったジュースを手にしていて、片方をキアにわたす。
キアはそれを少しだけ申し訳無さそうに受け取った。
「そりゃあ私だって、緊張くらいするよ」
「お父さんとのファイトだって、全然緊張してなかったのにですか?」
「それは……むしろ逆だと思う、かな? 負けられない戦いだから、使命感が勝っちゃうよ」
「なるほど」
負けられない戦いなら、キアは緊張なんてしない。
だが、今は違う。
キアはキアのためだけに、誰よりも憧れる存在と戦うのだから。
「――ミツルにぃは、私の憧れだよ。世界の誰よりも尊敬してる」
「そんな人と、こんな大舞台で戦うんだから、そりゃあ緊張はしますよね」
「それに、今回は
「そうですか?」
うん、とキアは頷く。
もし仮にここで負けたとしても、チームの仲間たちは悔しがりこそすれ、キアを責めたりはしないだろう。
いい思い出になって、それでおしまい。
気負う理由がないからこそ、キアは緊張してしまうのだ。
「……少し意外だったんですけど」
「なぁに?」
と、そこで。
「キアって、棚札さんのことが好きなんだと思ってました」
ミトリが爆弾発言を投下した。
思わず吹き出したキアは、むせながらミトリを見る。
「けほっ、けほっ、……なんで!?」
「いやだって、キアにとって世界で一番ステキな男性なんですよね?」
「……そもそも、異性として意識したことすらなかったよ。恐れ多いもん」
「恐れ多いって……」
そんな、推しを前にした限界ファンみたいな……と苦笑するミトリ。
まぁ実際そんなものかもね、とキアは同じく苦笑した。
「私にとってミツルにぃは一番の憧れであると同時に、一番遠い存在なの」
「ファイター仙人よりも?」
「仙人よりも」
だからこそ、キアは不安なのだ。
きっとミツルは、キアの問いに対する答えを持っている。
”最高のカードショップとはなにか”、それに対する”絶対普遍の答え”。
対する自分は、果たしてそれにふさわしいファイトができるだろうか。
答えを――見つけられるだろうか。
「なら――キアは諦めるの?」
「……ううん。諦めない、ミツルにぃを追いかけ続けてきたからここまでやってこれたんだ。それを今更止められないよ」
「じゃあ、簡単ですね」
そう言って、ジュースを飲み干したミトリが立ち上がり手を伸ばす。
「もうキアは歩きだしてるんですから、止まれないなら……行くしかないですよね?」
「スパルタだなぁ」
「そうやって、歩き続けるキアをずっと隣で見てきましたから」
その手を取って、キアが立ち上がる。
「隣に……そうだね。私はそろそろ――ミツルにぃの隣に、立つべきなんだ」
そういうキアの瞳には、すでに強い意志が宿っている。
そろそろ、ナギサとエレアのファイトに決着がつくころだろう。
「……行ってくる」
「がんばってください」
かくして。
キアとミツル。
最高のカードショップとはなにか。
その絶対普遍の答えを見つけるためのファイトが、始まる。
□□□□□
――お互い、前口上といえる前口上はほとんどなかった。
「――多くの因縁を乗り越えて、私達はここにたどり着いたんだね、ミツルにぃ」
「そうだな。そして、その因縁の先にある答えを探すためにここにいる」
「最高のカードショップを決めるために!」
「このファイトを――最高のファイトにしよう!」
マイクパフォーマンスのように、示し合わせたかのごとく言葉を紡ぎ。
「イグニッションだ!」
「イグニッションだよ!」
二人は、カードを手に取った。
――先行はミツルだ。
「俺は、カウンターエフェクト<
「……何が狙いかな? でも、そういうことなら呼び出させてもらうよ!」
キアの『
だからだろうか、『明日の日成鳥』モンスターはそれ以外の方法でサモンができない。
一体のモンスターを除いては。
「私は<明星の日成鳥 バルーン・チック>をサモン!」
「俺は<古式聖天使 ブリュレ>をサモンだ。そのエフェクトで、フィールド上のモンスターを破壊する!」
「呼び出してすぐにもー! <バルーン・チック>の破壊時エフェクトでお互いのライフに500のダメージ!」
<バルーン・チック>。
名前の通り、風船のヒヨコだ。
キアはなんとなく、マスコットみたいで気に入っている。
相手に破壊されるとお互いにダメージが行くのは、少し問題児だと思うが。
「相手モンスターを破壊したことで、手札から<古式聖天使 グラニット>のエフェクト――」
その後も、軽快にモンスターを展開。
大型モンスターを呼び出した。
「来い! <大古式聖天使 デイバース・ガブリエル>!」
「<ロード・ミカエル>じゃないんだ!」
「今回はな! <デイバース・ガブリエル>はサモンした時、一枚ドローできる。カウンターエフェクトを二枚セッティングして、ターンエンドだ」
カードを引き抜いてから、それを確認。
そのカードを含めて二枚のカードを伏せた。
――これみよがしに。
「……私のターン! ドロー!」
対するキアは、少し考えてから手札からあるカードを発動する。
「私は……<ひな鳥の羽ばたき>を発動! 相手フィールドのカウンターエフェクトをすべて破壊する!」
それはダイアの<破壊の雷>のような、汎用札。
キアの場合は、モンスターではなくカウンターエフェクトをすべて破壊する。
そして、キアに汎用札があるように。
「カウンターエフェクト<ゴッド・デクラレイション>!」
「知ってた!」
ミツルにも、必殺の汎用札が存在する。
先ほど、これみよがしに伏せたカウンターエフェクトだ。
「<デイバース・ガブリエル>は自分がカウンターエフェクトを発動した時、1ターンに1度カードをドローし、攻撃と守備をそれぞれアップさせる」
「そして、このターンエフェクトで破壊することはできない。……<ミカエル>じゃなかったのはそういうことだね」
「ああ、続けてこい」
「わかってる!」
とはいえ、これで<ゴッド・デクラレイション>を引っ剥がした。
ここからは気兼ねなくキアが反撃に打って出る番だ。
「行くよ! <明星の日成鳥 エンシェント・ハルピュイア>! サモン時エフェクトで、フィールドのモンスターを一体手札に戻す!」
「……やっぱそうくるよな!」
キアのエース<エンシェント・ハルピュイア>には三つのエフェクトがある。
その一つは、サモン時にフィールドのモンスター一体を手札に戻すエフェクトだ。
<ミカエル>は破壊に耐性を持つが、手札に戻すエフェクトには耐性がない。
それは<ガブリエル>も同様だが、こちらはその前に一枚ドローができる。
故にミツルは、キアの戦術を分かったうえで<ガブリエル>を選択していた。
「更に! <エンシェント・ハルピュイア>がフィールドにいる限り、私はノーマルサモンをもう一度行える!」
「大型の『明星の日成鳥』になると、ノーマルサモンの権利追加が常時エフェクトになるのキツイよな……!」
「フィールドの<エンシェント・ハルピュイア>をセメタリーに送って――」
上級のモンスターを呼び出す際には、モンスターをセメタリーに送る必要がある。
なお、リリースといった呼び方はしない。
「<明星の日成鳥 ジェネレイト・フェニックス>!」
そして現れるのは、不死鳥だ。
燃え盛る炎を伴うモンスター。
「そのエフェクトで、セメタリーの『明星の日成鳥』を指定する。<ジェネレイト・フェニックス>は指定したモンスターの攻撃力分、自身の攻撃力を上げる。さぁ、これが通ればミツルにぃは終わりだよ!」
<ジェネレイト・フェニックス>に<エンシェント・ハルピュイア>の打点を加える。
こうすれば、通常のファイトでも容易に1ターンキルが可能だ。
団体戦で若干減ったライフであればなおのこと。
「いや――残念ながら、そうはいかない」
「やっぱり! 何をしかけてくるのかな!?」
いいながら、どこかワクワクしながらキアはミツルの次の一手を待つ。
しかし、待っていたのは――
「悪いが、もう一枚だ。<ゴッド・デクラレイション>」
「な――」
思わず絶句する。
<ゴッド・デクラレイション>を二枚!?
そんなファイト、キアは二度しか見たことがない。
一度は、ファイター仙人の元にいた頃、異界からやってきたダークファイターを封殺した時。
もう一回は――
あの時も、開幕に<ゴッド・デクラレイション>を二連打していた。
それはすなわち。
ミツルにとって、このファイトがそれだけガチなファイトであるということで――
キアは思わずつばを飲む。
今、キアの眼の前に立っている存在は、キアのよく知るミツルであって、ミツルではない。
かつて――第三回ファイトキングで逢田トウマを誰よりも追い詰めた、最強のファイターだ。