カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
探偵ショルメ。
『蒸気騎士団』のキーパーツである、具体的には初動札。
加えて、蒸気の街を駆ける騎士団という設定を鑑みても、ショルメこそが蒸気騎士団の中核といっても過言ではないだろう。
そんな人物が、モンスターが、俺達の眼の前にいる。
「――貴方が、ショルメ?」
「そうだよ、知ってのとおりね。といっても、今の君にとっては初対面だと思うけど」
「いえ……それでも、貴方がショルメだということはわかるわ」
ヤトちゃんが、町中に立つショルメにそう言って近づいていく。
どこか感慨深い様子で、ショルメの手を取った。
そして――
「いつもお世話になってます。貴方がいなかったら、『蒸気騎士団』は絶対回らないわ」
「う、うん。……相変わらず真面目だね」
目を輝かせて、普段のお礼を言った。
ショルメ……さんの知ってるヤトちゃんもこんな感じなのか。
なんか、一気にショルメさんへ親近感が湧いてきたぞ。
「だって、だって蒸気騎士団が悪いのよ……? 貴方以外の蒸気騎士団って、基本まとまりがないんだもの!」
「まぁ……うん、彼らはそういう連中だから」
「わかってくれる!? ええ、やはり貴方こそがショルメなのね。よろしく、ヤトよ」
そう言って、目を輝かせてヤトちゃんは改めて名乗った。
今のヤトちゃんは、ショルメさんの知ってるヤトちゃんではない。
それを、改めて表明するためにも。
ともかく。
「――まずは、中に入って話そうか?」
「あ、うん。そうね」
「ああ、わかったよ”店長”さん」
なんだか、敢えて意味深に言っている感じのショルメさん。
どうでもいいけど、最近俺以外の店長と接する機会が多かったから、俺個人を指して店長と呼ばれるのはなんだか久しぶりだ。
で、店の中へ。
「――というわけで、お茶を入れておきました。紅茶でいいですか?」
「これはこれは、奥方もご健勝のようで」
「も、もうやですねー、ショルメちゃん。私はまだ奥方じゃないですよ」
というわけで、中に入るとエレアが先んじて紅茶を淹れて待っていた。
ところでショルメさんはちゃん付けなんだ……。
あとこの紅茶、前に用意してた高級な奴だ。
え? こんなこともあろうと用意しておいた? さすが。
「では改めて、蒸気世界へようこそ。デュエリストのみなさんと、ヤト」
「アレ? 私達が蒸気世界ってこの世界を呼んでること、よく解りましたね」
「簡単な推理だよ、エレアさん」
「お、おお!」
なんか探偵っぽい!
エレアと二人で少しだけ感心しつつ。
「ぶっちゃけ、この世界を称するならそれしかないだろ?」
「そりゃそうですけどお!」
ずこー、となった。
まぁそうですよね、はい。
「とはいえ、それを確信させる推理の材料はいくつかある……が、今は置いておこう。重要な話はボクの推理力じゃなくて、この世界のことだからね」
「そうね、お願いしてもいいかしら」
ヤトちゃんが促して、ショルメさんは頷く。
「では改めて、この蒸気世界は、
「いわゆるスチームパンク世界ですね!」
「その認識で構わない。まぁ、
「否定できないのか……」
そりゃそうさ、と紅茶を飲みながら零すショルメさん。
なお、紅茶の味はお気に召してくれたのか、満足気に頷いている。
レンさんからオススメを聞いたらしい。
そりゃあレンさんオススメなら誰だって満足するよ。
値段は……五桁? レアカードほどじゃないからたいしたことないな(感覚麻痺)。
「でなけりゃ、蒸気騎士団は必要ないからね。彼らがいないと、街の治安が守れないくらいには物騒だからね、ここは」
「なんか……スコットランドヤードが腐敗してそうだものね……」
「真面目な刑事もいるんだけどねぇ、ガニマールくんとか」
いやそれフランスの……。
もしかしたらレストレード警部は黒幕枠だったりしたのだろうか。
まぁ、今はそこまで突っ込むまい。
「蒸気騎士団、この街の治安を影から守る正義の騎士さ。その正体は謎に包まれており、蒸気騎士団の仲間同士ですら正体を知らないものは多い」
「流石に、ショルメさんは知られてたりするんですか?」
「まぁ、仲介役になることも多いしね。とはいえ、市民には秘密にしておいてくれたまえよ? ボクの正体を明かして逮捕したいスコットランドヤードの人間は多いんだから」
騎士団の中には王族すら混じっているが、同時に騎士団を捕まえようとする公的な立場の人間も多いそうだ。
正義と悪が入り乱れて、中々複雑だなぁ。
まぁ、物騒といっても革命前のエレアの世界ほど物騒な世界は早々ない。
この蒸気世界だって、表向きは平和を謳歌しているそうだからな。
「さて、細かい話ならこれからいくらでもできるだろう。でも、今はそろそろ元の世界に戻らないと君たちが困ってしまうね」
「そうだな、このままこっちの世界で店を開くわけにもいかないだろ」
何せ目立ちすぎる。
下手したら、目立つからという理由だけで逮捕されかねないくらいには。
火札世界での営業もあるしな。
「と、いうわけで早速だが――ボクとファイトしてくれないかい? 店長さん」
「……俺とか? ヤトちゃんではなく?」
「
ほう、と視線をヤトちゃんに向ける。
対するヤトちゃんの態度は”ああやっぱり”みたいな感じだ。
どういうことだろう。
「夢の中で、それっぽい相手とファイトしたのよ。やっぱり貴方だったのね」
「まぁね、いろいろあって夢の中でヤトと接触したのさ」
「ええ、どうやってです?」
「それはまだ――話すべきときではないかな」
おお、とそれっぽいセリフが返ってきてやはり感動する俺達。
ともあれ、ファイトということなら否やはない。
俺は早速デッキを取り出すと、フィールドに立つ。
「ここでファイトをする時は、一回500円を払う決まりなんだけど……まぁ、異世界交流の一環ということで今回は」
「お世話になるよ。さて――」
そうして、ショルメさんは腰に据え付けられている蒸気機械に手をかざす。
スチームをそれが吹き出したかと思えば、ジャキンと一部が開いてそこからデッキが射出される。
更に、反対側の腰に手をかざすと、そこにあった蒸気機械が分離。
こちらもスチームを吹き出しながら、ショルメさんのそばに収まった。
「――それが、この世界のイグニスボードか」
「スチームボードさ。蒸気世界に火を灯すための武器だね。さぁ、ボク達のファイトをお見せしよう」
「楽しみにしてるよ!」
かくして、お互いにボードを構えて。
「イグニッション!」
「イグニッションさ!」
ファイトを開始する。
□□□□□
ショルメさんのデッキは、やはりと言うべきか『蒸気騎士団』にまつわるデッキだった。
ただ、その趣はヤトちゃんの『蒸気騎士団』とは少し異なる。
「ボクは<
「なるほど、『蒸気騎士団の探索者』か……!」
「蒸気騎士団は、弱きを助け強きを挫くという信念の元、個人の意志によって行動するのさ! 故にボク達は、それぞれ全く別の『蒸気騎士団』を操るんだよ」
なるほど、本来なら『蒸気騎士団』は一つのテーマではないのだ。
それを無理やりに束ねるから、ヤトちゃんは『まとまりがない』なんて言うんだな。
正確に言うと、特色が薄いのだ。
ヤトちゃんの扱う『蒸気騎士団』は非常にオーソドックスなビートダウンデッキである。
主人公タイプって感じだな。
”デッキじゃんけん”という特色を持つネッカより、デッキの動きは主人公っぽいぞ。
かくしてファイトは続く。
俺は、一気呵成に攻め立てるべく大型エースを呼び出す。
「現われろ! <極大古式聖天使 アークロード・ミカエル>!」
<アークロード・ミカエル>だ。
やはり、うちの切り込み隊長は<ミカエル>だな。
「君がそのつもりなら、こちらも行かせてもらう。<蒸気騎士団の探索者 エルキュール>!」
そしてどうやら、ショルメさんのデッキは探偵成分が強めのようだ。
古今東西の探偵が、蒸気装備を身にまといファイトに参戦している。
顔の視えない探偵が多いな。
蒸気騎士団が正体を隠すからだろうか。
ともあれファイトは――
「悪いが今回は勝たせてもらう! <エクス・メタトロン>で攻撃!」
「……見事!」
――俺の勝利で終わった。
攻防に<エクス・メタトロン>が関わってくるあたりは、さすがショルメさんといったところか。
「……すごいわね、私は勝てなかったのに」
「流石に、店長さん相手だとボクでも厳しいねぇ」
どうやら、夢の中でのヤトちゃんとのファイトはヤトちゃんの敗北で終わったらしい。
いよいよヤトちゃんの故郷にまつわる因縁が動き始めるっていうのに、少し幸先が悪いな。
ともあれ、その後少しだけ感想戦をして、そろそろ帰る方法を探さないといけない時間になった。
「んで、どこから帰るかなんだが……」
「それなら、入口の扉以外の扉をくぐればいいだろう」
「と、言うと?」
「裏口はこの店にあるかな?」
あー、と俺とエレアが一緒になって声を上げる。
そういえば、試してなかったな。
この店のバックヤードには、外に出るための裏口があるのに。
案外盲点だったというか……とにかく、早速裏口の扉を開けるとそこには――
「俺達の店の裏口からつながる道だ……」
「見覚えアリありですね……」
というわけで、俺達は火札世界に帰ってこれたわけだが。
――というか、正確には火札世界と蒸気世界が”デュエリスト”を通じてつながったわけだが。
まぁ、細かい話は後にして。
とりあえず今は、仕事に集中するとしよう。
他にも色々細かい転移の条件はありますが、また次回。