カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
さて、初手で異世界につながってしまったせいで話せていなかったが、現在俺の店は非常に繁盛している。
そりゃそうだ、ショップ対抗戦で優勝したのだから。
とはいえ、そういった繁盛はこれ以前にも体験している。
イベントの時とか、動画がバズった時とか。
それを考えると、今回の繁盛は少しだけ毛色が前回までと違っていた。
というのも――
「店長ミツル様とのファイトコーナーはこちらになりまーす」
「現在
臨時で雇われたリュウナさん――レンさんのメイドさん――とレンさんが呼び込みをしている。
俺とファイトしたいというお客を捌いているのだ。
前回との違い、それは前回の場合は観光目的の客が多かったのに対し。
今回は明確に俺やデュエリスト関係者への挑戦を目的とした客が多いということだ。
全国津々浦々、千差万別のファイターが俺達と戦いたがっているのだ。
一番人気は言うまでもなく俺だが、他のファイターにも人は集まっている。
レンさんが呼び込みをしているのも、単純に今日はレンさんがファイトする日じゃないからだ。
ちなみに人気は俺の次に学生なので戦える日が限られるネッカ少年とヤトちゃん。
逆に非番でなければいつでも戦えるエレアとメカシィは比較的空いているな。
刑事さんのファイトは受け付けてないから、ネオカードポリスの方に問い合わせてくれ。
さて、そんなカードショップ”デュエリスト”だが、今日はそれ以外の理由でも人が集まっていた。
「聞いたぞ店長、異世界に店がつながったんだって?」
「ダイアか、聞きつけたらすぐに来ると思ってたぞ」
理由はこれ、今日も今日とて不審者ルックのダイアが、ワクワクを隠せない様子で声をかけてきた。
異世界につながったことは、すぐに周知されることとなった。
なにせ、異世界に転移する方法が俺の店の扉をくぐるコトなんだから。
店をくぐってしまえば、誰にも気づかれずあっちの世界に迷い込むなんてこともありえる。
それを避けるためには、異世界のことをちゃんと周知徹底しないと不味い。
「蒸気世界、だったか。私も行ってみたいものだな」
「今日は無理だと思うぞ。どうも、向こうへ転移するのにも条件があるみたいでな」
といいつつ、今の時間帯は休憩時間なので、俺はダイアと二人で店の方に向かう。
今は近くのスペースを借りて臨時店舗にしているところだからな。
以前から何度も使用させてもらってる場所だ。
「ふふふ、異世界か。これで行くのは三回目だが、やはり異世界に行くのはワクワクするな」
「多分この世界で三回も異世界に行ってるのはお前だけだと思うぞ、ダイア」
さすがチャンピオン。
なんて思いつつ、店の扉を開けて中に入ると――
「……何も起こらないな?」
「言っただろ、今日は無理だって」
言いながら、ダイアは何度か店の出入り口を行ったり来たりする。
が、蒸気世界にダイアが入ることはなかった。
「条件は色々あるみたいなんだが、人が多すぎると転移が起きないみたいなんだ」
「そうなると……土日は無理そうだな」
「最初の転移も、人の少ない時間だったから起きたことだしな」
そしてしばらくは、そうそう転移することもないだろう。
俺は他にも幾つか条件を挙げていく。
「まず、転移するのは一定の時間の間だけだ。朝の九時から、夜の九時までの十二時間かな」
「概ね開店時間の間だけ、といったところか」
「ウチの開店は10時だから、必ずしも一致しないけどな」
なんでも、蒸気世界の人間の活動時間と一致しているのではないか、とはショルメさんの考察だ。
21時をすぎると真夜中として扱われるとかなんとか。
そしてその間に蒸気騎士団が活動する、とも言っていたな。
「加えて、転移できる人間は
「ほう……面白い基準だな、少し試してみたくなるぞ」
「お前は絶対条件満たすから、試す必要はないよ」
なんというか、スカウターみたいになってるらしいんだよな。
こういう事を言うと、自分の強さを確かめたいダイアみたいなのがハッスルするんだよな。
ダイアはハッスルするまでもないに決まってるだろ!
「あと、九時前から扉を開けっ放しにしておくと転移しない」
「転移した状態で、外から来客があった場合。その来客が扉を閉じる前に外へ出ると脱出できたりするのか?」
「できるな」
わかりやすい状況は、最初に俺達が転移した時だろう。
あの時俺達は店の中にいたが、後からヤトちゃんがやってきていた。
このとき、店に入ってくるヤトちゃんに気づけていたら、ヤトちゃんが開けた扉から元の世界に帰れていたはずだ。
「他にはそうだな……最初に転移した時に使えなかった通信関係が使えるようになったことかな」
「それは異世界でも通話できるのか?」
「それは無理だな、店の中は圏外にならないけど店の外に出ると圏外になる」
なので、あくまで転移が発生してしまっても店の中なら問題なく外と通信できるってだけだな。
ただあっちの世界に通信用の道具――無線とか――を持ち込んでしまえば無線同士であれば通信ができるようだ。
向こうにも、電話とか電報はあるらしいしな。
「転移が発生した時は、裏口から出ればこっちの世界に戻ってこれるぞ」
「なんというか、完全にデュエリストがトンネルになっているような感じなのだな」
「みたいだ。変なトンネルもあったもんだな」
んで、最後にこっちの世界に戻ってくるための条件。
ダイアの言う通り、俺の店はトンネルになってしまったようなのだ。
何で俺の店……? ヤトちゃんの繋がりでいったら闇札機関でもいいような……。
「しかし、そう考えると意外だな。まさか店長の店がこういう厄介事に巻き込まれるとは」
「まぁ、まだ厄介事とは決まってないけどな。平和に異世界と交流するだけかもしれん」
というか、可能性としては割とあるだろ。
なにせ不可逆的に戻ってこれないってことがないのだから。
そういう意味でも、なんかちょっとゆるいんだよな。
とはいえ、結構ヤトちゃんの事件はシリアスが見え隠れしそうでしない節がある。
実は裏では陰謀が蠢いてるのかもしれない。
「ま、そこら辺は今後調査をしていけばわかるだろう」
「ほう、調査か」
「早速食いついたな……」
と言いつつ、俺はダイアにある話をする。
「この繁盛が落ち着いた後、本格的に蒸気世界を探索しようと思ってるんだ。ショルメさんの案内を受けながらな?」
「行きたいな、ぜひ行きたい」
「問題はお前の予定が合うのかって話だよ」
「難しいな、とても難しい」
だろうな。
今日だって、結構頑張って時間を捻出してやってきているのはわかってるんだぞ。
「まぁ、一日二日で終わるものじゃないから、どっかで混ざることくらいはできるだろ」
「ああ、ぜひついていくからな!」
というわけでガッチリ握手。
異世界に店が転移して、その転移の条件が割とはっきりして。
さて、これからどうしようかというところ。
割と俺自身、蒸気世界ではどんなファイターがいるのか、気になっているんだよな。
「ところで、店長」
「どうしたんだ?」
「せっかく店に来たんだし、店長とファイトしたいんだが――」
と、その瞬間。
ずささーーーーと無言でレンさんがムスッとしたまま俺とダイアの間に割って入る。
すごい、ドタバタ走ってきてずささー、と停止する人初めてみた。
そんなレンさんの手には、一枚の看板。
『店長とのファイト:八時間待ち』
「さっきより増えてるな!?」
突っ込むダイアに、グイグイと看板を押し付けるレンさん。
不正は許しませんよ、と言いたげだ。
「無論解っている! 整理券をくれ!」
「最後の一枚だぞ、運が良かったな。それと天の民、そろそろ休憩は終わりだ。行くぞぉ!」
「はいはい。んじゃあまたな、ダイア」
「ああ、また後でな。俺は一度ドリームランドの方へ顔を出してくるよ」
レンさんにぐいぐいと背中を押されながら、俺は浮気者のダイアに手を振ってその場から離れる。
この繁盛も、楽しい時間だ。
それはそれとして、早く蒸気世界の探索もしたいな、と俺は思うのだった。