カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
蒸気世界、俺達がそう呼んでいる世界は、一言で言えばスチームパンクな世界だ。
創作のモチーフとして時折見られる、蒸気と近代英国が舞台の世界。
まず近代の英国ってのが舞台として映えるんだよな。
レンガ造りの町並みと、古めかしいデザインの車。
英国らしい紳士淑女の服装に、ちょっと淀んだ空気。
個人的には、同じ時代の日本文化がビジュアル的に相性がいいってのがポイントだな。
英国の町並みに、ハイカラな和服や学生服、軍服が似合うんだ、これが。
まぁ、そんなスチパン語りはさておいて。
俺達が迷い込んだ蒸気世界もまた、そういった蒸気と近代英国の空気が多分に感じられる世界だった。
そんな世界を今、俺達は自分の足で探検しようというわけだ。
「というわけで、じゃじゃーん。どうですか店長!」
「なんか……パンクじゃないと……落ち着かないわね」
で、エレアとヤトちゃんが今俺に見せているのは――この世界で活動するための服装だ。
まぁ、あっちの私服だと目立つからな。
「私の方は、活動的な冒険家っぽい衣装になってます。このゴーグルがいーんですよね」
そういうエレアは、茶色のコートとその下にフリル多めのスカートという構成。
本人の言う通り、なんというか冒険家っぽい衣装だ。
もしくは探偵っぽい……とも言うかも知れない。
ショルメさんの衣装が典型的なインバネスコートだったけど、それとはまた違う感じ。
イマイチ伝わりにくいかも知れないけど、スチパン世界の王道衣装ってことで。
「私の方は学生服ね……なんかこう、もう少し黒を増やさない?」
ヤトちゃんのそれは、こっちの世界で実際に使われているらしい女学校の学生服だ。
白と黒のワンピース型、本人の言う通り若干白のほうが比率高め。
ショルメさんが用意してくれたもので、ヤトちゃんに似合っているのは間違いない。
「そういう店長は……なんか、職人って感じですね?」
「ショルメさんは普通のスーツも勧めてくれたんだが、エプロンを着た時にすこぶる似合わなかったからこっちになった」
俺はなんというか、頑固な職人って感じの衣装だ。
英国紳士っぽいスーツもショルメさんは見せてくれたんだが、それ単体ならともかくエプロンと合わせるとなるとな。
うん、ショルメさんも言葉を濁していた。
「そういうエレアは……」
「私は大丈夫ですよ、このコートを脱ぐとだいたいいつも通りなので」
「フリルマシマシか」
「フリルマシマシです」
フリルマシマシなので大丈夫らしい。
まぁ、とにかくこれで準備は完了だな。
「――やぁ、ちょうどいいタイミングで来たみたいだね」
「ショルメさん」
声がして振り返る。
ショルメさんが、先日と変わらない探偵ルックで扉を開けて立っていた。
「皆似合ってるよ、特にヤトはサイズが合ってるみたいでよかった」
「ああうん、サイズもあってるわよ、よく解ったわね?」
「昔の君が成長すればこのくらいになるだろうってのは、簡単に推測できるからね。ああそうだ」
言いながら、ショルメさんはあるものを取り出す。
それは……帽子?
可愛らしい、白い帽子だった。
学生服姿とマッチしている。
「んっと、これは?」
「君は色々あって有名人でね。成長しているから一般市民にはバレないだろうけど、見知った人となるとね」
「……私が、ねえ」
いいながら、ヤトちゃんは帽子を被る。
少し調子を確かめてから、こちらに視線を向けてきた。
エレアが可愛い可愛いとはしゃぐ。
少し気恥ずかしそうなヤトちゃんは帽子を弄りながら――
「……黒のほうが似合うと思わない?」
「今は白でも似合ってると思うけどね」
ポツリとこぼした言葉に、ショルメさんはそう言って苦笑するのだった。
□□□□□
エレアと二人で、多分あの帽子思い出の品ですよ、あんまり詮索しすぎるなよ、みたいな話をこそこそしながら。
俺達は街の中を歩いている。
店には鍵をかけてきた、なぜか元の世界の鍵がそのまま使えたんだが、まったくどういう理屈なんだか。
「それにしても……本当に蒸気世界、って感じね」
「ですねぇ」
「そう言ってもらえると光栄かな? まぁ、ボクには見慣れた光景ではあるんだけどね」
なんて話をしながら、街を歩く。
町中は、クラシックなデザインの車が行き交っていて、道行く人々の服装もどこか古めかしい。
空は蒸気で覆われていて拝めないが、どこか薄暗さがある。
なんというか、陽の光が届いていないというか。
「これなら、ショルメさんにも私達の世界を体験してほしかったんですけどねぇ」
「残念ながら、ボクは君たちの店の裏口を通って外に出れないみたいだからね、こればかりは仕方がない」
そういえば、どうも火札世界の人間は自由に行き来ができるらしいが、蒸気世界の人間はそうではないらしい。
裏口を通ろうとしたら、視えない壁に阻まれてしまった。
「それで、私達はどこへ向かってるの?」
「このあたりは比較的”平坦”なエリアだからね。少し起伏の激しいエリアに行こうと思ってるんだ」
「へいたん……?」
いいながら、エレアはどこから取り出したのかわからない兵糧丸をぽい、っと口に含む。
いやマジでどこから出したんだそれ、え? 剣風帖の秘境で売ってた? そう……。
「見ていればわかるよ、ほら……そろそろだ」
そう言いながら、ショルメさんは視線で促す。
今までの道は、街中ということもあって狭い場所だった。
一気にそれが開けるのだ。
そこで俺達が見たものは――
「わ、広い――」
「……ここが」
眼下に広がる、大きな大きな街の様子だった。
崖になっているのだ。
そこから、周囲を一望することができる。
大きな街がそこにはあった。
一言で言えば、それはダンジョンだ。
あちこちにデカイパイプが張り巡らされたダンジョン。
というよりも――
「なぁ、もしかしてなんだが――」
「ご明察。この蒸気世界は、一つの大きな建物の中にできているのさ。君たちが先程歩いていたのは
道理で、陽の光が通っていない気がしていたが。
と、その時である。
俺達の横を、先程まで町中を走っていたクラシックな車が飛び出していく。
「あ! 落ちていきましたよ!?」
「いや、落ちてはいない。見ていたまえ」
そう言って、驚くエレアをショルメさんが制すると、直後に車の足元に――蒸気が吹き出し始めた。
下に無数のパイプがあるのだ。
その蒸気を足場にして、車はどんどん進んでいく。
「とまぁこのように、移動には蒸気が用いられる。他にも……そうだな」
「どうするの? スチームボードを構えて」
ヤトちゃんの疑問に、ショルメさんは軽く微笑んでからその場でジャンプする。
すると、スチームボードから蒸気が噴出し、ショルメさんは高く飛び上がった。
そのまま、十数メートルはある高さのパイプに着地。
こちらを見下ろしている。
「とまぁ、この様に。スチームボードはファイトのためだけでなく、移動手段としても用いられるのさ」
「はえー、すっごいですね」
「というわけで、こっちの世界では君たちの世界のイグニスボードではなくスチームボードを――」
ふむ。
俺は少しだけ考えてから、腰を沈めて――
跳んだ。
「使ったほうが――へぁ?」
そのまま、解説をしていたショルメさんの隣に着地する。
このくらいの距離なら、普通にジャンプすれば届くな。
「……届くの?」
「いやまぁ、ファイターだしな」
トップクラスのファイター――ダイアあたりなら、これくらいは余裕だろう。
アリスさんもエージェント畑なのでイケルと思う。
シズカさんがちょっと厳しいかな……あの人体型維持するための運動しかしてないし。
いや、俺もそこまで運動はしてないけどね。
「というわけで、ショルメさん。俺はスチームボード必要なさそうだから、エレアとヤトちゃんに渡してやってくれ」
「えぇ……いや、いいんだけどね? でもせっかくなんだしスチームボード使おうよ。ほら、似合うよ?」
「店長だけイグニスボード使うのが、特別感あってかっこいいと思いまーす!」
なんかやたらとスチームボードを勧めようとしてくるショルメさんと、いやイグニスボードだと騒ぐエレア。
ヤトちゃんはやれやれ、といった感じで苦笑していて。
スチームボードが世界で一番かっこいいボードだと思うんだけどなぁ、と零すショルメさんに、なんとなく親しみを感じつつ。
俺達は蒸気世界探索を続けるのだった。