カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
そこからは、蒸気が通るパイプの上を、スチームボードを使って移動することとなった。
基本的にこの世界は、車等の乗り物が別のパイプに移動する場合、先程みたような地面から噴出される蒸気を利用するそうだが、人間の場合はスチームボードを利用するそうだ。
あのゴテゴテとした装備は、言ってしまえば立体機動的な装置も兼ねていたのである。
少し違うところがあるとすれば、アンカー的なものはなく、あくまで蒸気だけで移動するということか。
「わわわー、落ちますー!」
「エレア!」
時折足をすべらせると、下までは数十メートルあったりする。
慌てて落ちたエレアを俺がそれを追いかけて、空中でキャッチ。
そのまま地面に着地した。
「大丈夫かい」
――直後、降りてきたショルメさんが蒸気を蒸しながらゆっくり着地する。
本来なら、高いところから落ちたら地面に激突する直前に、こうして蒸気で体を守ってくれるらしい。
「……君、どれくらいの高さなら落下しても耐えられるんだい?」
「結構な高さからでも大丈夫かな。結構な頻度で落ちるから、気がついたら着地が上手くなってたんだ」
「えぇ……」
いやだって、年末になるとなぜか落ちるんだもの。
ファイター仙人の山から転げ落ちたり、ビルの倒壊に巻き込まれたり。
俺の場合はたまにしか落ちないので、これでもそこまで耐性はないほうだ。
ダイアなんて毎年年末になったら落ちてるぞ。
シズカさんもよく巻き込まれてるな。
「と、ところで店長」
「どうしたエレア」
「胸がキュンキュンしすぎて死にそうなので、そろそろおろしてください」
「悪い」
キュン死するんだ……。
ともかく、ヤトちゃんが待つパイプまで三人で戻って、先を急ぐ。
ちなみに、高いところへ移動する場合はデカイパイプの間に小さいパイプがあるので、そこを乗り継ぐ感じになる。
完全な飛行とは行かず、大ジャンプを繰り返すような感じで移動するのだ。
なので、俺も身体能力だけで移動が可能だったりする。
流石に数十メートルを一息でジャンプするのは俺でも無理だよ。
というわけで、エレアが落ちた場所に戻ってきた。
「蒸気世界、というのは本当に言い得て妙ってやつでね。ボクたちはこのように、パイプが張り巡らされた蒸気の世界を生きているんだ」
「外には出られそうにないんですか?」
「今のところ、我々の長い歴史の中で成功したことはないね」
なんとも不思議な世界だ、世界というよりは秘境に近い感じもする。
夢想郷とどっちが異世界っぽいかと言われると、少し悩むところだ。
ただ夢想郷はあくまで俺達の世界の夢に紐づいているので、秘境でないと成立しない場所でもある。
「私達はどこへ向かっているの?」
「ボクたちの世界の、言ってしまえば象徴みたいな場所さ」
「あー、もしかしてアレか?」
「向こうの世界にもあるのかい?」
多分、アレだと思う。
英国といえば、やはり最も有名な建築物はアレだろう。
何かと創作のネタにされがちな――
「さて、そろそろ大通りに出るよ」
「大通りですか?」
「そう、この蒸気世界の中心地さ」
行政区とか、王城とか。
そういったものが集中している場所らしい。
俺達の店があるのはBC街と呼ばれる通りらしく、ショルメさんも俺達の店の近くに探偵事務所を構えているそうだ。
つまりベーカー街だな。
で、そこから暫く進むとこの中心地に到着するらしい。
「ここからなら、それを一望できるよ。”アレ”も、すぐ目に入るだろう」
そう言って、先頭を行くショルメさんが立ち止まる。
そこには先ほどこの街の構造を俺達に見せた時と同じく、視界がひらける場所だ。
かくしてたどり着いたのは――
「あれこそが、この街の心臓。時計塔ビッグベン。そしてここは、蒸気世界の中心地区、時計街さ」
なんとも、蒸気めいた場所だった。
眼下には大きな街が広がっている。
これ一つでも、結構な広さだ。
多分、一地方都市でしかない天火市全体よりも大きいんじゃないか?
なんとなく閉鎖的な空間ではあるが、世界というだけあって一つの国くらいの大きさはありそうだ。
「わぁああ、この世界にも時計塔はあるんですねぇ」
「でかいわね……写真で私達の世界の時計塔は見たことあるけど、比じゃないデカさよ」
なんて、エレアとヤトちゃんがはしゃいでいる。
その間に、気になったことを俺は質問することにした。
「ところで、
「さすが、察しが良いね店長さん。この世界のビッグベンは、蒸気を生み出しているんだ」
なんでも、この街中を循環する蒸気はすべてビッグベンから排出されているらしい。
とんでもない話だ。
「でも、そういうのってなんかワクワクしますね!」
「まぁ気持ちはわからなくもない」
なんて、話をしながらビッグベンを眺める。
「……ねえさんも、来れたら良かったのだけど」
「仕方ないですよ、大事な大会中ですもの」
少し寂しそうな顔をするヤトちゃん。
今回の蒸気世界転移事件は、ヤトちゃんだけでなくハクさんにとっても大事だ。
しかしあいにくと、ハクさんは大きなファイト大会に参加している。
U-18世界大会、十八歳以下の学生を対象とした世界大会だ。
おかげで、帰って来るまでもうしばらく時間が必要で。
本人も蒸気世界へやってこれないことを、残念がっていた。
まあ、気持ちはわかる。
俺もそういうすれ違いで、大きな事件を幾つも逃してきた口だ。
とか思っていると。
「ヒヒヒ、こんなところに何のようだ、お嬢ちゃんと優男さんよぉ」
後ろから声がして、振り返るとチンピラが立っていた。
…………。
……。
……えっ!?
「えっ!?」
「うわ、なんですか店長。いきなりチンピラに絡まれたくらいでそんなに驚いて」
「いやだってチンピラだぞ!?」
慌てる俺をよそに、スチームボードを構えて俺達を囲むチンピラがえーと……十五人くらい。
どれも、なんか世紀末なモヒカンをしている。
「……パンク!」
「ああ、ヤトちゃんがチンピラにパンクを見出しています!」
「でも、だって……!」
何やら、パンク成分が不足しているらしく、色々と禁断症状が出ているヤトちゃん。
おやおやと苦笑するショルメさん。
カオスだ。
「この世界は結構治安が悪くてね、こうやってチンピラに襲われることが結構あるんだ」
「ヒヒヒ、レアカード置いていきなぁ」
「別に蹴散らしてもいいんだが……流石に数が多いね」
どちらかというと、面倒という感情が大きいのだろう。
ショルメさんは嘆息しながら周りのチンピラに声をかけている。
「ど、どうしますか?」
「うん、逃げよう。これをまとめて相手にするのは時間の無駄だ」
そう言って、スチームボードをいじるショルメさん。
まぁ、今は店を空けている状況だからな。
平日の昼だから客もそうこないだろうけど。
ちなみにヤトちゃんは学校の許可を得て休んでいるぞ、ヤトちゃんのアレヤコレヤに関わる話だからな。
下手すると世界が滅んだりするので、許可を取れば簡単に休めるのだ。
「ちょうどいい機会だし、これを――」
「――――まった。俺にやらせてくれ」
何やら、スチームボードから機械を取り出したショルメさんに待ったをかける。
どうしても、俺はこいつらと戦いたい理由があるのだ。
「ふむ、なにか考えがあるのかな?」
「ああ……」
俺は、イグニスボードを構える。
チンピラはそれに怪訝そうな表情をしたり、露骨にバカにしてる視線を向けたりしていた。
「なにせ……俺がチンピラ十五人をまとめて相手する機会とか、一生あるかどうかなんだよ!」
だって……相手にしたかったから!
考えてもみてくれよ、俺は事件に関われない体質なんだぞ?
だからこういう、複数のチンピラに囲まれるなんてシチュエーションそうそう起こらない。
というか人生で初めての出来事だ。
異世界だからだろうか、理由は不明だが――千載一遇の機会、逃してなるものか!
「……エレアくん、店長さんってもしかしてバカなのかな?」
「ファイトバカではありますね」
「かかってこい……! 俺は多分世界で五指に入るくらいには強いぞ――!」
「ヒャーッハッハッハ! いくら強くても一人で十五人に勝てるわけねぇだろうがよー!」
というわけでファイトが始まった。
燃えるぜ、一対十五!
――なお、全員ワンキルで倒しました。
ワンターンフィフティーンキゥ……