カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
平日に、俺はダイアと蒸気世界へやってきていた。
というかよくよく考えれば当然のことだが、忙しいダイアがまとまった時間を休日に確保するのは至難の業だった。
いや、結構な頻度で来れる時は来るんだけど。
最近は忙しいタイミングらしい。
「それに、休日に時間があいてたらショップ大会に参加したいからな」
「探索はいつでもできるんだから……ってことか」
「そういうことだ」
と、そんなダイアの意向もあって、探索は平日になった。
そして平日の昼間なら客もほとんどいないから、探索は俺が参加しても問題ない。
「……店長とダイアさんに囲まれるって、なかなかないから変な気分ね」
「今日は君の方が先輩だ、案内よろしく頼むよ、ヤトくん」
はっはっは、と楽しげなダイア。
服装は――和服にサングラス。
ええ……和服にサングラス?
「サングラスは私の休日の必須アイテムだ。これをつけていることで、私の体は今日がオフだと認識できる」
「スイッチってことね。……和服なのは?」
「ノリだ!」
「ノリかよ……」
ダイアは根っこがアホだから、たまにアホみたいなことをする。
不審者ルックがその典型。
今日だって和服にサングラスは不審者丸出しだ。
だが、不思議と周囲から変な視線は向けられない。
「……サングラスはアレだけど、蒸気世界と和服自体は相性がいいのよね」
「ダイアの体格もあって、似合ってるよなぁ」
というか、まぁ何着ても基本は似合うんだ。
あんなに不審者丸出しになる不審者ルックがおかしいんだ。
もう少しなんとかならんかったのか、アレは。
「で、わざわざ蒸気世界にやってきたわけだけど、ダイアは何がしたいんだ。アルケ・ミストが作りたいのか」
「蒸気ロボか、興味はあるが私にはドランシオンがあるからな……」
ドランシオン、ダイアの愛機であるイグナイト・サイクルだ。
もうかれこれ十年近く乗り回してるんだよな、アレ。
まだ誰もやってないけど、スチームパンクとエクスプロードのクロスオーバー・ファイトはそのうちあるだろう。
ルールはどっちも普通にイグニッション・ファイトだしな。
つまり、互換性があるのでわざわざ新しい機体を手にする必要はないのだ。
「そういえば、ネッカとクローはアルケ・ミストを作ってもらうそうだが、ヤトくんはいいのか?」
「私? 私はなんか……すでに持ってそうな感じだったわ」
ところで、と話がズレる。
ヤトちゃんのアルケ・ミスト。
普通に考えれば、すでに存在しているだろう。
蒸気騎士団をするうえで、アルケ・ミストの機動力は必要不可欠だ。
「でも、ショルメもジョンさんも、なんとなーく言及を避けたがってたのよね」
「なるほどな。大破したうえで所在がわからない、などありそうなところではあるが」
そういえば、同年代と判明したことでヤトちゃんのショルメさんの呼び方は呼び捨てに変化した。
まぁ、本人の気持ちの問題だから、だから何だとしか言いようがないんだけど。
とにかく、ヤトちゃんのアルケ・ミストの話だ。
「というよりも、ショルメさんは意図的に蒸気世界のことで話していないことがあるな」
「それはそうね……なんというか、その事を話す前に蒸気世界について知ってほしいって感じだわ」
なんとなく、蒸気世界は問題を抱えている気がする。
だが、その事を話す前にこっちに蒸気世界のことを知ってもらいたいというのがショルメさんの考えってことか。
多分、時間的猶予はそれなりにあるんだろう。
「仮に、の話だが。ヤトくんが火札世界にやってきて数年が経っていて――」
「ヤトちゃんが火札世界に転移した原因が、その事件解決を”先送りにする”ことだったとしたら、色々説明がつく気がするんだよな」
ダイアのセリフを引き継いで、考えを零す。
数年前に、かつての<怪盗ヤト>がこの世界が崩壊してしまいそうな事件を”先送り”にして。
その代償に記憶を失って俺たちの世界に飛ばされるようなことが起きたのだとしたら。
なんとなく、今のヤトちゃんの存在が納得できる気がするが。
「具体的に何があったか、まではわからないわよね」
「まぁ、そうだな」
「それに……どうして、私は火札世界に飛ばされたの?」
わからないことは多い。
考えることは色々だ。
とはいえ、答えを出せるほど俺達はこの世界を知らない。
「……そのショルメくんとやらは、私達に自分の手で結論を出させたいのかも知れないな」
「そうしたい理由がわからないけどね」
単純に、そうしてほしいからかもしれないし。
そうする必要があるのかも知れないし。
まぁ、なんとも言えないな。
「とはいえ、それは我々にとっても悪い話ではないだろう?」
「まぁな。こうして異世界を歩き回れるのは新鮮だし――」
と、そこでダイアが足を止める。
俺も解ってはいたので、ダイアに合わせて足を止めて。
少し前に行き過ぎたヤトちゃんが、こっちを見て振り返る。
「どうしたの?」
「何、この世界を歩き回ることで、新しいファイターとの出会いがあるということだ」
ダイアの言葉に、察しがついたのだろう。
ヤトちゃんが視線をダイアの見ている方向に向けた。
「――ふむ、気付かれたか」
タン、と俺達が歩いているパイプの上に、一人の女性が着地する。
別のパイプから俺達を見ていたのだ。
結構な距離を落下してきたが、問題はないように見える。
そりゃそうだろう。
彼女は明らかに鍛えているからな。
「某、そこそこ鍛錬を積んでいるつもりだったが、こうも容易く見抜かれるとは」
「気配は隠せていたな。だが、闘志を隠すつもりなど毛頭なかっただろう」
「ふっ……さすが鋭い。同郷……のように見えるが、違うな?」
――彼女の服装は、和服だった。
というか、侍だった。
黒髪ポニーテール、明らかに女剣士といった風貌のハイカラな和服だ。
ダイアが和服を着ているから、意識を向けたのだろう。
「俺達は火札世界という世界からの出身だ。そういう君は、蒸気世界の人間には見えないが?」
「ご明察。某は和国世界の出身だ。まさか、別の世界に某達の世界のような文化があるとは」
まぁ、俺達の世界の和服は結構前に廃れているけれど。
どうやら、あっちの世界はちょうど明治から大正頃の日本に近い世界らしい。
スチパンと相性がいいといっていた、アレだ。
そしてどうやらこの蒸気世界、別の世界ともほそぼそとであるがつながっているようなのだ。
火札世界は世界としてはデカイが、よその世界とはつながっていない。
対する蒸気世界のような、世界の規模が小さい世界はよその世界との繋がりがあったりなかったりする。
帝国世界みたいに、よそに干渉する技術を持ってる世界もあるしね。
「ここであったのもなにかの縁、一手指南いただきたく」
「君は、必要がないほどの使い手に見えるが」
「かもしれぬ。しかし――」
そこで、女性剣士の視線が鋭くなった。
「お主、
「……なるほど」
どうやら、この女性剣士もかなりの使い手らしい。
いや、見ればわかるのだけど。
ダイアを一発で世界最強クラスと判断するのは、見る目がありすぎる。
「そちらの男も同じほど強そうだが、某が興味を持ったのはお主だ。名を聞こう」
「そうだな……ダイア、と名乗っておこうか」
「ダイア……良い名だ」
逢田トウマと名乗るかダイアと名乗るか。
正直、どっちでもいいっちゃいいんだが。
敢えてダイアを名乗ったのは、単純に今がオフだからか。
多分、ダイアは何も考えていない。
「では……」
「ああ」
お互いに、スチームボードを構える。
多分女性剣士の世界にもその世界特有のイグニスボードはあると思うんだが。
郷に入っては郷に従えとも言うしな。
ダイアだって、使用するのはスチームボードである。
というか、俺だけイグニスボードなのはやっぱり浮いてません、エレアさん?
と、そこで。
「某の名は”剣客文豪”ナツメ! いざ、尋常に!」
え、ナツメ!?
「イグニッション、参る!」
「イグニッションだ!」
文豪でナツメって……え、そういうこと!?
いや確かに、一時期英国に留学してたらしいけどさ!
ともかく、そんな剣客文豪なる奇っ怪な剣士と、ダイアのファイトが始まった。
夏目漱石が英国に留学してるネタを大逆転裁判で知りました。