カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
ちょうど蒸気世界くらいの時代に英国へ留学していた文豪といえば夏目漱石な訳だけど。
まぁ、世界ってのは何かと薄いつながりみたいなものがあるわけで。
たとえば、異世界モノなのにこっちの世界の神話の名前が登場するのは、創作にするうえでモチーフにしてるというのもあるけれど。
まぁ似たような人が似たようなことを考えるからって部分もあると思うんだよな。
特にTCGの世界は、なんか似たような別人とか、モチーフ被ってる別の何かとか出てきやすい。
日本神話モチーフのテーマ何個あると思ってるんだよ、みたいな話。
というわけで、異世界のなんか似たような感じの人と出くわしても不思議ではないのだけど。
「剣客文豪か……」
「なんかびっくりね……」
「うちの世界にもいそうだけど、いやどうかな……剣客文豪とカードって何も関係ないしな……」
剣客ファイターならいくらでもいるだろう。
文豪ファイターもいくらでもいるだろう。
剣客文豪ファイターとなると、どうかなぁ。
「ともあれ、実力は本物だぞ……」
「個人的に、こっちのほうがもっとびっくりよ……」
なにせ――
「くっ……俺がここまで追い込まれるとはな……!」
「ふふふ、某、そこそこ強いで候」
ダイアのライフが、すでに1000を切っているからな。
いわゆる鉄壁というやつではある。
先にここまで削られたほうが後々逆転するやつではある。
だが、それはそれとして。
そこまでライフを削られるということが、追い詰められているということとイコールなのもまた事実。
「ダイアをここまで追い詰めるなんて……」
「すごいわね、剣客文豪……」
「ふふふ、いいことを教えてやろう」
言いながら、ナツメさんがモンスターをサモンする。
「筆は剣よりも強し……! いでよ! <筆剣者 アクタ・コジロウ>!」
ナツメさんのモンスターは、一言でいうと剣士と文豪が合体していた。
加えてアンデッド族、なんか幽霊っぽい佇まいの剣士といったところか。
「ここに来てさらなるエースだと……!」
「某は考えた。筆は剣よりも強い。ならば、筆を持った剣士は更に強い! 強さが二倍であると!」
「……!!」
なんてガバガバ理論――とも言い切れないのがこの世界の恐ろしいところ。
強いと思い込むことこそが強さの秘訣なのだ。
狙った通りのカードを引くには、強いイメージを持ってカードをドローする必要がある。
ナツメさんは、自分なりの理論で強さを別の強さと合体させている。
本気でそう思っているからこそ、手に負えない。
何よりそういう相手は――ダイアと相性が悪い!
「ダイアは単純なんだ。こういうガバガバ理論でも、確かにと思ったら納得してしまう」
「な、納得したところで、それはあくまでナツメさんの理論であってダイアさんは関係ないんじゃないの!?」
「納得してしまうということは、ペースを握られるってことだ」
しかし、ダイア自身はどちらかというとペースを握るタイプのファイター。
そもそもデッキが、自分の世界を展開する『グランシオン』デッキ。
ナツメさんと同じ、確固たる理論と信念を武器に戦うタイプなのに。
納得してしまうから、相手の理論に丸め込まれてしまうんだ。
ダイアがここまで追い詰められているのも、ナツメさんの確固たる信念がそれだけ強固ということ。
「……でも、そういう相手って私達の世界にもいっぱいいるわよね」
「まぁそうだな。シズカさんとかもそういうタイプだし」
「だとしても、ダイアさんは私達の世界の日本チャンプよ?」
それはつまり、誰よりも強いということだ。
俺を除いてな?
誰にも負けず、最強を貫いているということだ。
俺を除いてな?
「ま、そういうことさ」
「えっと……どういうこと?」
「見てればわかるよ、ダイアはこっからが強いんだから」
一見、ダイアは追い詰められた状態でさらなるエースを呼び出されてピンチに見える。
このまま下手したら、押し込まれて負けてしまうかもしれない状況。
しかし、だからこそ。
ここからのダイアは、誰にも負けないくらい強いんだ。
「――なるほど、剣客で文豪なら、確かに強さは二倍かもしれないな」
「ふふ、ダイア殿も解ってくれたか。――しかし! それだけではないぞ」
「……!!」
「某は、これをさらに三倍とする! 現われろ! <
さらなるナツメさんのモンスター。
「……蒸気騎士団!? 私のデッキにないわよ、<侍ナツメ>なんて!」
「ふふ、先日加わったばかりゆえな、
「……私、名乗ってないんだけど!?」
なんて、意味深なやり取りがかわされる。
カッコつけたけど、ここからどうするんだといった感じの大ピンチ。
ヤトちゃんが、困惑で俺達を見てくる。
ダイアは逆転できるのか? ナツメさんの狙いは何なのか?
そういった復数の困惑が同居していた。
だが、
「――いい、モンスターだな」
「ふふ、そうだろう」
「だが、私も負けられないぞ!」
「ほう――だが、某の攻撃を受けきれるかな!」
ナツメさんのフィールドには、三体のエース級モンスター。
そのうち一体が、ダイアを狙う。
これが通れば、ダイアの負け。
それが、三回飛んでくる。
しかし――!
「私は、カウンターエフェクト<アタック・ストッピング>を発動! その攻撃を無効にして、相手のバトルを終了させる!」
「……! 一枚でしのいだか!」
いわゆる、攻撃を無力化するカード。
中々渋いカードだが、割とありだと思うんだよなこういうカード。
今の時代、破壊したらどんなエフェクトが飛んでくるかわからない。
破壊できるかどうかすら怪しい。
そうなると、単純な攻撃無効カードもそこそこ優秀になるわけだ。
現実だとアドバンテージを稼げないカードだから使いにくいけど、この世界ならアドバンテージはピンポイントなドローで補えばいい。
とにかく最小限の動きで相手の攻撃を凌ぐこと、それがこういった攻撃無力化系カードに求められてるんだな。
で、そうなるとダイアにターンがわたる。
「君の理論を聞いていて、私は考えた。三倍も強い君を上回るには、私は数倍強くならねばならない……と」
「なんだと……!?」
「そして、答えは出た! まず、私はファイターだ、そしてプロファイターだ、更には日本チャンプだ! これで、三倍!」
「全部同じではないか……!」
確かに。
だが、ダイアはそう思っていない。
本気でそれで、三倍強くなったと思っている!
「加えて私は……逢田トウマだ!」
「誰!?」
「本名だ! 最後に――私はダイアでもある! これで私の強さは――五倍だあああああ!!」
「な、なにいいいいい!?」
一気に膨れ上がるダイアの気配。
なんかこう、シュアシュア言いながら気が高まっている様に見える。
「え、いまのでほんとに五倍になるの!?」
「なるさ、ダイアがそう信じているからな! 何より!」
「何より!?」
「ナツメさんも、勢いに流されて納得してしまっている!」
そう、ダイアと相性が悪いということは、相手にとっても相性が悪い。
向こうもダイアと同じくらい単純だからだ。
そうなると、ダイアの理論がどれだけガバガバでも、勢いが有れば通用してしまう。
そしてダイアの勢いは、間違いなく火札世界最強だ。
ファイターとしての最強は俺だけど(俺だけど)、勢いに関しては絶対に俺はダイアにかなわないからな……!
「行け! <グランシオン・デウス・ドラグバニシメント>!」
「……見事!」
かくして、ファイトはダイアの勝利で終わった。
「これが……火札世界最強ファイターの実力……完敗だ」
最強は俺だけどな?
「うむ、火札世界最強ファイターである私としても、君と戦えたことを嬉しく思うよ、ナツメさん」
「次は負けぬぞ……!」
「ああ!」
最強は!
俺だけど!
な!!
あー!(突如として現れたエレアに回収される音)