カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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220 舞台の上のお嬢様 ①

「蒸気世界! ですわー!」

「気合入ってるわねー」

 

 蒸気世界探索n回目(数えてないので何回目かわからない)。

 今日のゲストはアロマさんだ、アウローラさんとキリアさんはそれぞれ用事があってお休みだ。

 平日だからな、今日も。

 

「どうでもいいけど、最近アロマさんが同い年って知ったわ、今まで年上だと思っててごめんなさい」

「ん? 別に構いませんわー! わたくしたち、マブですもの!」

 

 ですわ口調なだけで、基本はノリのいいアロマさんが、ヤトちゃんの肩を組んでいた。

 そんなアロマさんの現在の衣装は、一言でいえば普段通りである。

 なにせアロマさんはお嬢様、この世界に似合う豪華なドレスとかも普通に持ち合わせている。

 

「エレア様みたいに、自作してみたかったのですけれど。時間がありませんでしたわね」

「あっちもまぁ、元々そういう衣装を作ってたってだけだからな」

 

 ちなみにエレアは服飾スキルを持っているけれど、アロマさんの場合はあくまでデザインだけだ。

 デザインさえしてしまえば、エクスチェンジスーツがあるからね。

 そしてデザインセンスは普通に高い、エンタメファイターとしての衣装もだいたい自分でデザインしてるし。

 

「というわけで、今日は精一杯楽しませてもらいますわ!」

「ああ、今回は目的も決まってるしな」

 

 ともかく。

 そんなわけで今日はアロマさんと探索だ。

 現在、俺達は蒸気世界の中心地、時計街に来ている。

 目的は――観劇だ。

 

「確か、この世界だと演劇が一大エンタメなのよね?」

「みたいだな。ファイトしながらやる演劇、俺たちの世界にもあったけど。こっちの世界のほうが市民の人気は高いみたいだ」

「わたくしたちの世界だと、あくまでエンタメの一つでしかありませんものねぇ」

 

 さすがエンタメファイターを目指すアロマさん、詳しい。

 アロマさんがついてきたのも、この世界のエンタメを学ぶため。

 

「すでに下調べはすませてありますわ! 王族でありながら役者でもあるトップスター! ライオ王子! 今回の観劇する演目でも主演を務めておりますの!」

「すごそうね」

 

 王子で役者とか、キャラが濃い。

 まあでも、カード世界だもんな。

 キャラの濃い王族の一人や二人、普通にいて当然だよね。

 

「うちの世界にも、そういやいたなぁそういう王子」

「そうなんですの?」

「絶対知り合いよね」

 

 ヤトちゃんはなんて失礼な偏見を、俺がそういう王子とお近づきになれるとでも?

 まぁ知り合いなんだけど。

 と、そんな時だ。

 

 

「あ、い、いたあああああ!」

 

 

 不意に、誰かが叫びながら近づいてくる。

 背の高い女性だ。

 そんな彼女が、アロマさんの手を掴む。

 

「お願い、力を貸してほしいの!」

「え、ええと……お困りでしたら吝かではありませんが、一体何があったんですの?」

「ですの!? ますます適役よぉ!」

 

 興奮した様子で目を輝かせる女性。

 悪意はなさそうなので、無理には引き剥がさないけど。

 保護者として、間には入らないとな。

 

「ええと、何かあったんですか?」

「貴方は……ええと、この子の従者さん?」

「保護者……ではありますが」

「ならええと、聞いてくださる? 私はライオット劇団のアンジーというものなのですけれど」

「まぁ、ライオット劇団!」

 

 どうやら、今日見に行く劇をやってる劇団のスタッフさんらしい。

 ライオ王子が看板役者でライオット劇団、わかりやすいな。

 

「わたくし、今日の劇を見に行く予定だったんですの!」

「そうなの!? それは……ごめんなさい、今日は劇が上演できないかもしれないわ」

「……役者様に、なにかあったんですの?」

 

 アンジーさんの様子を見て、アロマさんが何かを察したようだ。

 いや、俺も察したけれど。

 

「実は……今日の演劇のファイター役の子がカードにされちゃって」

「あらまぁ」

 

 この世界でも、悪魔のカード事件は健在なんだなぁ。

 いや、この世界だと悪魔のカードと呼ばない可能性が高いな。

 あれはあくまで俺たちの世界の用語だし。

 

「クライムカードが、ここ最近暴れてるのよね」

「ははぁ、クライムカードっていうのか」

 

 早速答えが出た。

 クライムカード、犯罪カードってところだな。

 さながら使い手は……クライマーとか?

 まぁ、そこら辺は後でショルメさんに聞くとして。

 

「蒸気騎士団の皆さんが、解決にあたってくれているのだけど……多分、今日いっぱいはかかると思う」

「それで、最近ショルメが案内についてきてくれなくなってたのね」

「あら、ショルメさんとお知り合いなのね、それならやっぱり信頼できるわ」

 

 まぁ、俺達が慣れてきたからというのもあるだろうけど。

 とにかく、色々大変らしい。

 あと、ショルメさんが蒸気騎士団の人間なのは周知の事実らしい。

 まぁ、一番目立ちそうなポジションだしな。

 

「たしか、この世界だと役者は一部の人間を除いてお芝居をする役者とファイトをする役者が別々なんでしたのよね?」

「そうね、ライオ王子のような例外もいるけど」

 

 歌を歌う人と、俳優が別みたいなやつだな。

 これに関しては俺達の世界でもそこそこある話だ。

 といってもあっちは人が多く競争が激しいのもあって、ファイトもできる役者のほうが多いけどな。

 蒸気世界はほら、狭いから仕方ない。

 

「もしかして、代役を探してるんですの?」

「そうなのよ! お嬢様で、ですわで、ドリル! 完璧よ、見た感じファイトも強そうだし!」

「ふっ……そういうことでしたら、まさにわたくしこそが適役ですわね! なにせわたくし――エンタメファイター志望ですの!」

「……志望!」

 

 なんというか、想定より良さそうな人材だけど、若干不安が残る感じ。

 いやわからなくはないけれど。

 ただこの場合は、アロマさんが謙遜しすぎなところがあるな。

 

「アロマさんは、本物のエンタメファイターだよ、まだプロでこそないけれど俺達の世界では注目を集めてるんだ」

「……あ、やっぱり別世界の人なのね」

 

 蒸気世界は、和国世界以外にも色々な世界とつながっているようなのだ。

 でないと、この建物の中の世界でどうやって野菜とか育てるんだって話だしな。

 なのでこういう言い方をしても普通にアンジーさんには通じる。

 

「と、とにかく……来てもらってもいい!? お礼は弾むから!」

「若輩者ですが、これも一つの挑戦ですわ!」

「ありがとう! あなた達も来てもらっていい!?」

「俺は保護者なので、ついてくよ」

「一人になってもしょうがないし、行くわ」

 

 というわけで。

 なんかいきなり、アロマさんが演劇の代役ファイターに抜擢された。

 

 

 □□□□□

 

 

 というわけで、おさらいになるけれど。

 この世界だと演劇は一大エンタメだ。

 ただの演劇ではない、途中にファイトを挟むミュージカルみたいな演劇である。

 そして、その関係でお芝居をする役者とファイトをする役者はそれぞれ別であることが多い。

 アロマさんが代役を務めるのは後者。

 今回の演目のヒロインである、高飛車だけど純情なお嬢様のファイトシーン担当らしい。

 そんなアロマさんだが――

 

「――似合うな」

「――似合うわね」

 

 衣装を着てみると、それはもうピッタリとしか言いようがなかった。

 といっても、アレだ。

 

「……変化はあまりありませんけどね」

 

 普段はポニテなドリルをツインにしたくらいか。

 お嬢様の衣装なので、自然と変化はなかった。

 まぁだからこそ、一目でアンジーさんは代役に抜擢したのだろうけど。

 

「でも、これなら完璧よ! 私からは何も言うことはないわ!」

「おまかせくださいまし、代役――完璧に務めさせていただきますわ!」

 

 アロマさんが、決意を固めたところで――

 

 

「それは心強い! 実に! 心! 強い! ではないか!」

 

 

 どこまでも、ハッキリと通る声が聞こえた。

 振り向けばそこに、”主役”が立っている。

 派手な格好の王子様だ、まさに王子って感じの、薔薇が舞ってる金髪王子。

 間違いない、彼こそが――

 

「ライオ王子、いらっしゃったのですね!」

「ふっ、申し訳ないアンジーくん、少し時間がかかってしまった」

 

 いいながら、優雅極まりない動作でアロマさんとアンジーさんの元へ歩み寄る――直前に。

 俺達の方へ華麗に一礼をする。

 思わず、のまれてしまいそうだった。

 雰囲気がすごい。

 

「君が、アロマくんだね」

「はいですわ!」

 

 優雅に、華麗に、綺羅びやかに、アロマさんに歩み寄ったライオ王子が――深々と一礼。

 

「――ノブレスオブリージュ」

「……!」

「君のその勇気に、深く感謝を」

「わたくしは――責任を果たすためだけに、代役を引き受けたのではありませんわ」

 

 アロマさんはお嬢様だ、この世界で言う貴族である。

 現代でそういった貴族的な責任とかが発生することはほとんどないが。

 それでも、ライオ王子からしてみれば責任あるものが、その責任を果たしているように見えるのだろう。

 

「わたくしが挑戦したいと思ったから、引き受けたのですわ!」

「……そうか! それは……素晴らしいな!」

 

 顔を上げて、ライオ王子が満面の笑みを浮かべる。

 どこか子供っぽさを感じられる、けれども同時に王の風格を感じさせる笑み。

 これが――トップスター。

 

「共に、最高のファイトにしよう!」

「もちろんですわ」

 

 ――間違いない。

 この人は、蒸気世界でも最強クラスのファイターだ。

 俺たちの世界でいう、ダイアクラスの存在。

 

 ファ、ファイトしてみたい……!(うずうず)

 

 そんなうずうずしているところを、ヤトちゃんがどこからか持ち出してきたハリセンで牽制されている俺をよそに。

 アロマさんとライオ王子がガッチリと握手。

 

 演劇の、幕が開こうとしていた。




最近店長のIQが下がっている気がしますがおそらく気のせいです。
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