カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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221 舞台の上のお嬢様 ②

「どうも、どの世界でも演劇中のファイトに関しては作法同じなんだな」

「まぁファイトに勝ち負けが発生する上に、人によってカード相性って違うから。これが一番自然なんでしょうね」

 

 さて、現在俺達は観客席にいる。

 席はアンジーさんが用意してくれた、お代は(怪盗ヤト貯金から)払うと言ったのだが聞いてくれず。

 まぁ、怪盗ヤト貯金は俺達のお金ではないので、節約できるならそれに越したことはない。

 ありがたく甘えさせてもらうことにした。

 後で補填するつもりはあるんだが、今のところこっちの世界で金を稼げてないからな。

 計画を急がないと。

 

「そろそろ始まるぞ」

「楽しみね」

 

 さて、この世界における演劇ファイトは一言でいうと”アドリブ”だ。

 どれくらいアドリブなのかというと、宿敵との対決で主役側が負けることもあるくらい。

 負けたらそのまま劇は進行するし、その後挽回のチャンスはあるけどそこでも負けたらそのままバッドエンドだ。

 なにせファイトは常に勝敗がわからないもの。

 最初から勝者の決まってるファイトなんて何が面白いんだ? というのがこの世界の常識。

 流石に主役が負けるのは、見ていて困るので挽回のチャンスを用意するのも常識だけど。 

 そこで負けたら容赦なくバッドエンドでいいというくらいには、観客もファイトの結果を受け入れている。

 

「それにしても、ライオ王子ってどんなデッキ使うのかしら」

()()()()()()()()()()()()だからな、見ものだぞ」

 

 そして、ファイター役者が使用するデッキは演劇用に組んだ専用デッキではない。

 役者が日頃から使用しているデッキだ。

 当然、アロマさんは今回ロックバーンデッキで戦うこととなる。

 かつてのアロマさんなら、とてもじゃないけどこの代役、受けようとは思わなかっただろうな。

 

「劇の内容は……シンプルな恋愛ものなのね」

「だからこそ、脚本の実力が試されるぞ。王道ってのはそれだけ使い古されてるってことだからな」

 

 貴族の学校を舞台にした、ちょっとスチームパンクな事以外はシンプル極まりない恋愛ものらしい。

 身分の低い貴族のお嬢様が、王子様に見出される話だとか。

 そんな事を話していると会場が暗くなり、演劇の幕が開く。

 

 内容は、本当にさっき言った通りの内容だった。

 冒頭から身分の低いお嬢様が王子様の関心を引き、お嬢様は周囲から嫉妬されたり。

 王子様がそれをはねのけたり。

 内容自体は、そのすべてがどこかで見たことある感じのもので構成されている。

 

 そしてだからこそ、あーやっぱりそうなるよねという安心感と実際にそうだった時のカタルシスはかなり大きい。

 ヒロインのお嬢様がピンチになった時、あらゆる伏線と前フリが王子様の劇的な登場を予感させていて。

 そして実際に、満を持して王子様が登場するシーンは最高としかいいようがなかった。

 

 そして迎えたアロマさんの出番。

 演劇の中で、ファイトは多くて二回から三回がベターとされる。

 単純にファイトは長いのだ、尺を取る上に勝ち負けによって展開が分岐するから脚本と役者への負担が大きい。

 今回に至っては、ファイトの回数は一回だけ。

 物語終盤、王子様とお嬢様がいよいよお互いの想いを吐露するシーンだ。

 

「王子……わたくしは……わたくしは!」

「ああ……君とこうして言葉とカードを通わせることができるなんて……なんて僕は幸福なんだ……!」

 

 少し必死そうなアロマさんと、逆に余裕たっぷりのライオさん。

 まぁそうなる要因は色々と演劇の中にあったんだけど。

 同時にそれは、挑戦者であるアロマさんと、それを迎え撃つライオさんの違いでもある。

 アロマさんにとって、相手は明らかに格上の相手。

 その格上に対する挑戦の意思を、恋に必死なヒロインと重ねているのだ。

 

「……参ります、イグニッション!」

「来たまえ、イグニッション!」

 

 ――ファイトは静かに進行していく。

 アロマさんのデッキが、じわじわと展開を進めるロックバーンなんだから当然だ。

 加えて、ライオさんのデッキも決して激しく攻め立てるタイプではない。

 

「私は、<ラウンズアクター・ガウェイン>をサモン!」

 

 ライオさんのデッキは『ラウンズアクター』デッキ。

 英国っぽい世界の王子らしく、円卓の騎士がモチーフのようだ。

 加えて、「アクター」はすなわち役者。

 円卓の騎士を演じる役者達のデッキといったところか。

 よく見ると、衣装がどことなく手作りっぽい。

 それでいて非常に良くできているとも思う。

 レベルの高い役者達だ。

 

「<ラウンズアクター・ガウェイン>はサモンした際、僕のフィールドのモンスターが<ガウェイン>のみの場合、相手モンスターを破壊する!」

「それはさせませんわ! <薔薇楼の庭園>がある限り、相手モンスターのエフェクトは無効にしますの!」

「ほう……!」

 

 どうやら、『ラウンズアクター』はフィールドにモンスターが一体しか存在しないことでエフェクトを発揮するらしい。

 顔を突き合わせるための円卓なのに……と思うが、劇に主演は一人しかいないので仕方がないのだろう。

 逆に言えば、『ラウンズアクター』モンスターは全員が主役ということでもある。

 

「ならば、正面突破あるのみ! 行け! <ガウェイン>!」

「<薔薇楼の門番>は手札を一枚捨てることで、破壊から身を守りますわ! さらに、相手にダメージを与えますの!」

「くっ……!」

 

 そのやり取りに、劇場がざわつく。

 ロックバーン。

 あまりにも、エンタメに向いていないデッキだ。

 そのことは蒸気世界の人々も知っている。

 アロマさんが代役として登場することはもとより告知していたが、大丈夫なのかという空気が広がっていく。

 だが――

 

 その反応、()()()()()()()()()だ。

 

「――おわかりですか、王子」

「……ああ、この茨は……まるで君の心だ。美しく、気高く。しかし触れるものを傷つけてしまう茨だ」

「その通りですわ。わたくしは……怖いんですの。王子の愛を受け入れることが」

 

 アロマさんの言葉に、ライオ王子が完璧な返答を返す。

 ファイト中のやり取りは、完全なアドリブだ。

 ある程度、打ち合わせはするけれど今回はその時間がなかった。

 それでも、二人は完璧にやりとりをこなしてみせる。

 

「これが……わたくしの心ですわ! 来てくださいまし! <薔薇楼の茨姫騎士>!」

 

 そしてアロマさんのターン。

 仮面を身につけたエースモンスター<茨姫騎士>がサモンされる。

 <茨姫騎士>は顔の半分が仮面で覆われているモンスターだが、今回はそちらを前に出して仮面で覆われていない部分が見えない構図になっていた。

 

「……そうか、君はそれほどまでに恐れているんだな。その仮面も、茨も、自分を守るためのもの。しかし……私はその奥にある君が欲しい!」

 

 これがアロマさんの狙いだ。

 アロマさんは、プロのエンタメファイターを目指す身。

 ヒールとプリンセスの二面性を使いこなす。

 今回はそのうち「ヒール」の部分を、王子が助け出すべき牢としたのだ。

 『薔薇楼』の面目躍如といったところだろう。

 

 ――ファイトが続く。

 ライオ王子の『ラウンズアクター』が『薔薇楼』の牢を一つ一つ破壊していくのだ。

 やがて――

 

「……ああ、ようやく。わたくしもこの姿を貴方にお見せできますわ」

「それが、君の……!」

「ええ、これがわたくしの、本当の気持ち! <薔薇楼の茨天使>をサモン!」

 

 アロマさんの最終エースが呼び出される。

 状況はアロマさんに有利だ、ライオ王子は『薔薇楼』を突破し、アロマさんの心……というか最終エースを明らかにした。

 しかしそれは、アロマさんの”最強”が襲いかかるということ。

 これをしのげなければ、ライオ王子は敗北してしまう。

 

「……であれば、僕も本当の僕を見せなければいけないね」

「それは……!?」

「お教えしよう、『ラウンズアクター』モンスターには、手札のカード一枚を捨てることで()()姿()を明らかにするエフェクトがある!」

 

 そう言いながら、ライオ王子は手札を一枚セメタリーに送る。

 っと、あのカードは――

 

 

「これが、僕の真の姿! <ジェヌインラウンズアクター・ランスロット・ベトレイヤー>!」

 

 

 ――恐るべきことに、ライオ王子はここまで自身の大型エースをサモンしてこなかったのだ。

 『ジェヌインラウンズアクター』、なんともわかりやすい。

 真のラウンズアクターってところか。

 役者っぽい衣装が、本物の衣装に変化する。

 

「……お見事、ですわ」

「ああ、ようやく見つけたよ」

 

 かくして――ファイトは、結果だけ見ればライオ王子の圧勝で終了した。

 

 

 □□□□□

 

 

「くやしいですわー! 完全に勝つつもりで戦ってましたのに!」

「まぁ、流石に向こうが強かったわね……」

 

 悔しそうにしているアロマさんをヤトちゃんが慰めている。

 劇も終わり、アロマさんが帰ってきた。

 アンジーさんとライオさんからはたっぷりお礼をされて――

 

「また会おう、アロマ・ユースティアくん」

 

 と、別れを告げられたらしい。

 少し気になる別れ方だな、どうしてアロマさんの本名を知っていたのだろう。

 それにしても――

 

「なんとなくそんな気はしてたけど、やはりライオ王子が”獅子王リチャード”の中の人だったな」

「……そうなの? いや、そんな気はしてたけど」

 

 獅子王リチャード。

 蒸気騎士団の一人が操るアルケ・ミストだ。

 中には王族が入っていると言っていたが、やはりというべきか正体はライオ王子だったらしい。

 

「ああ、彼が最後に<ランスロット・ベトレイヤー>をサモンする時、コストにしたカードがあるだろ?」

「うん」

 

 ヤトちゃんの頷きに、俺は続ける。

 

 

「アレ、<蒸気騎士団の王者(ロイヤルパンクナイツ) ライオンハート・リチャード>だったんだ」

 

 

 その言葉に、

 

「……ええ、あの距離でそこまで見れたの?」

「師匠店長様、どういう視力してらっしゃいますの?」

 

 ヤトちゃんとアロマさんはドン引きした。

 いや、ファイターならそれくらい観察できるものじゃないの……?

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