カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
さて、これまでずっと蒸気世界の探索を進めてきたが、それとは別にやらなければならないことがある。
カードショップがあり、店長があり、そして人がいるならば。
俺はカードショップを開店しなければならないのだ、蒸気世界に。
とはいえ、俺はカードショップの経営に関しては一店長程度の能力しかない。
見知らぬ世界に出店して、いきなり店を大繁盛させる自信はない。
そこで頼りになるのが経営の天才、レンさんだ。
キアでもいいのだが、キアの場合はそのまま自分で出店した方が早いからな。
「終わったぞー、レンさん」
「うむ、内装はこんなものでいいだろう」
というわけで、レンさん指示の下俺はショップ開店の準備を進めていた。
現在は店の内装を蒸気世界向けに作り変えているところだ。
といっても、火札世界の店舗と基本は変わらない。
きちんとやろうとするとフローリングとか、全部張り替えなきゃいけないからな。
どうせ目新しいものにしかならないのだから、大きくいじるのはコスパが悪いとレンさんが言っていた。
俺もそう思う。
とはいえ、最低限の飾り付けはしておこうということで、色々と小物が増えた。
プレーン極まりないうちの店舗が、だいぶおしゃれになったと思う。
「それにしても、不思議なものだな……
「カードは増えてないけどね」
さて、ここで少し補足なのだが。
実を言うと、今俺達がいる蒸気世界のデュエリストと、火札世界のデュエリストは別物だ。
前にも言ったが、転移の発生条件は午前九時から午後九時までの間に店に入って扉を閉めること。
この時点で火札世界のデュエリストから、蒸気世界のデュエリストに転移が発生するのである。
このとき、店舗ごと転移が発生するのではなく、人だけが転移するのである。
なので二つの世界のデュエリストは、どちらかの世界で内装を変えてもその変化が同期することはない。
というわけで、蒸気世界のデュエリストは蒸気世界仕様に内装を変更した、というわけ。
店の備品が倍になる、とはそういうことだ。
ちなみに、カードだけは同期しているのか、向こうの世界でショーケースからカードが持ち出されるといつの間にかカードが消えていたりする。
「といっても、数日の市場調査ではそこまで細かい調整はできん。内装に関しては逐一アップデートしていくのだ!」
「まぁ、いい感じにやっていくよ」
「やれたらやるはやらないの民!」
スパーンと、勢いよくハリセンで叩かれた。
まぁ実際、たとえどんだけ繁盛しても内装はこのままで済ませそうな気がする。
エレアすら店の内装はそこまで頓着してないからな……。
「瞳の民は、単純に天の民の内装ならなんでもいいだけだ!」
「ああなるほど……」
他には、俺の雰囲気とエレアのセンスが合わないというのもあるだろうな。
何にしても、これで店の開店準備は完了だ。
「問題は――店員だな」
「俺が常駐するわけにもいかないからなぁ」
次の問題は店員問題。
以前も話した気がするけど、カードショップの店員というのは実力がないと成り立たない。
店にやってくるダークファイターとかを撃退しないといけないからだ。
うちの店員はエレアもメカシィも十分な実力を持っているけれど、店を二つ開店するとなるとそもそも人手がたりていない。
「募集はかけているのだろう」
「条件が厳しくてなぁ。そもそも蒸気世界でいつまでも店を開き続けるとは限らないだろ?」
一応、人は来てくれるのだ。
ただ来てくれる人が主に二つの理由で採用できないのである。
一つは単純に実力不足。
そもそも一定以上の実力がないと蒸気世界に転移できないのだから、転移できる実力が必要になる。
この基準、かなり厳しいのだ。
闇札機関の十二天将ですら、転移できない人がいるくらいに。
他にはメカシィは転移できたけど、フィレナは転移できなかったりした。
フィレナでも無理って、厳しすぎだろ……。
そしてもう一つは、この基準を満たす人は強すぎるということ。
そういう人は、蒸気世界の臨時店員以外にもいくらでも行くところがある。
そんな将来有望な人を、蒸気世界の臨時店員に留めておくのは惜しいと思うのだ。
「そういった有望な輩であれば、むしろ蒸気世界の臨時店員はいい経験だと思うが?」
「確かにそうかもだけど、転職してまで来てもらうほどじゃないし」
「定職についておらず、実力の伴った人材か。ギルドに声をかけてみるか?」
「それは確かにありだね」
ギルドに登録している、個人エージェントは人によっては暇な時も出てくるだろう。
蒸気世界でのあれやこれやが片付いたら、またエージェント業に戻ればいいわけだし。
というか定職についていない実力の伴った人材。
そう言えば一人心当たりがあるな。
いわゆる、自称風来坊の住所不定無職。
つまり――
コンコン。
「む、来客だぞ」
「来客? 店はまだ開店してないんだけど」
扉がノックされたので、二人でそちらに向かう。
強盗ならば撃退し、現地の人なら開店日を伝えて宣伝してもらおうという魂胆。
そして、扉を開けてでてきたのは――
「すいませーん、ここってお店みたいですけど、どんなお店――ミツル?」
――たった今思い浮かべた心当たり、こと。
「――ナギサ?」
風来坊、仙波ナギサだった。
□□□□□
仙波ナギサ、先日のショップ対抗戦ではマスターズに所属していたが、本質的には根無し草だ。
次は異世界を目指す、と言っていたが。
「まさかすでに異世界に転移していて、しかも転移先が蒸気世界とはな……」
「いやぁボクも、異世界でミツルやレンちゃんに会うとは思わなかったんだけど」
「ふん、どこに行っても壮健のようだな、風の民」
レンさんとナギサも、俺の知らないところで面識があったらしい。
多分、レンさん経営の店の前でナギサが行き倒れてたりしたんだろうな。
「それでナギサ、異世界での生活は順調か?」
「そりゃあもう順調だよ、もともと蒸気世界って他の世界とも繋がりがあるからボクみたいな風来坊も普通に受け入れてくれてね。今は蒸気騎士団をやってるんだ」
なんと。
ああいやでも、そう言われると納得だ。
以前、ライオ王子――獅子王リチャードの口からアロマさんの名前が出たけれど。
その出所はナギサだったんだろう。
個人情報!
「ただねー、異世界だからこっちのお金が使えなくて。蒸気騎士団の依頼もそこまで数ないし」
「ヤトちゃんは結構溜め込んでたんだけどな……」
「<怪盗ヤト>ちゃんの方でしょ? その時代は事件が山程あったらしいから、当然だよ」
それもそうか。
ともあれ、そんな<怪盗ヤト>の遺産……遺産? に頼らない資金繰りは必須である。
そのためのカードショップ開店なのだから。
「そういうことなら、ボクの存在はまさに渡りに船ってことかぁ。風来坊はつらいネ」
「ああ、ナギサより信頼できる臨時店員もいないだろう」
なんだかんだ言って、技術的にもナギサは優秀だ。
なにせ、先日キアからも店長推薦状をもらったことで、再びすべての店長推薦状を手にして店長資格を得たナギサだ。
今回はちゃんと店長資格を発行してもらったそうなので、これで新しい推薦状店長が出ても問題ない。
どうでもいいけど、俺もキアも自分の推薦状は受け取れないから、現在世界で一番店長推薦状を集めてるのってナギサなんだよな。
なんか悔しいぞ。
「まぁ、せっかくのお誘いだしやりたくないわけじゃないんだけど」
「だけど?」
「繁盛するの? カードショップって」
ナギサがちらりと店の外に視線を向けて――
「蒸気世界って、
そんなことを、言う。
確かに、そうなのだ。
蒸気世界にはカードショップが存在しない。
なぜかと言うと――
「まぁ、いいや。せっかくだし、ファイトでボクに勝てたら誘いを受けるってことで」
「そうなるか。いいぞ、やろう」
「ちょっと待った。ボクがファイトするのは店長じゃない――レンさんだ」
そして、ナギサは視線を自分は関係ないだろう、と話の輪から外れて店のインテリアを弄くっていたレンさんに向ける。
「……何で我なのだ!?」
レンさんが、驚いた様子で飛び上がった。
というわけで、探索は一旦ここでおしまい。
異世界カードショップ編が始まります。