カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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223 そろそろ開店の準備を進めねばならぬ! ②

「イグニッションだ!」

「え、ええい! イグニッション!」

 

 レンさんは困惑しているものの、ファイトは始まった。

 困惑しながらファイトを始めることなんて、よくあることなのだから。

 

 とはいえ、だ。

 相手はあの仙波ナギサ、レンさんにとっては厳しい相手になるだろう。

 シズカさんもそうだが相手はただでさえ本調子の自分と同格か、それ以上の相手。

 年齢を考えれば、一枚上手でもおかしくない。

 

 仮にレンさんとナギサが同じくらいの年代なら、実力は拮抗するはずだ。

 しかし、どうしても同格の相手と戦った場合。

 年齢という経験の差は、埋めがたい障壁となってしまうのだ。

 そして当然。

 

「ええい、行け! <ガイアストラ・ウロボロス>!」

「おっと、<颯爽怒濤の風来坊 水神河童のキリサメ>のエフェクトを発動! <ウロボロス>を手札に戻す!」

「くぅ……<ウロボロス>!」

 

 レンさんの「ぐえー」特性は健在だ。

 あと一歩、どこかでファイトが噛み合わなくなってしまう特性。

 ただでさえ埋めがたい障壁が、決定的なものとなる。

 

「まったく、なんなのだ一体……!」

「ふふ、レンちゃん、一つ質問をさせてもらってもいいかな?」

「……なんだ?」

 

 一瞬、ファイトの手が止まる。

 おそらく、ここからがナギサの本題だろう。

 すなわち――

 

「レンちゃんは、蒸気世界でカードショップを開いても繁盛すると思う?」

 

 蒸気世界でのカードショップの意義。

 驚くべきことに、蒸気世界にはカードショップが存在しない。

 では、人はどのようにカードをあつめるのか?

 

「この世界の人達は、カードを集める習慣がないよ。それでも、レンちゃんは繁盛すると思う?」

 

 答えは、習慣がない。

 なぜか。

 理由は俺達も解っている。

 これまでの探索で、ある事実を俺達が知ったからだ。

 

「この世界では、物心ついた時にデッキが手に入るんだよな」

「そうだね店長。物心がついたらスチームボードを買ってもらって、そしてスチームボードを初めて子どもが手にした時。ボードについてるケースにデッキが”誕生”する」

 

 流石にナギサ、すでに蒸気騎士団へ入っているだけのことはある。

 情報の多さだと多分俺達より一歩進んでるな。

 

 ともあれ、要するにこうだ。

 この世界では蒸気が最も重要なエネルギーリソースである。

 あらゆる道具には蒸気が使われていて、蒸気がなくては生活できない。

 なぜそんなことになっているかといえば、そもそもこの蒸気には特別な力があるから。

 カードを生成する力だ。

 カード自体は、ファイトエナジーと専用の道具があれば生成は可能だが。

 この場合、道具の方を蒸気が担当している。

 ただ、この世界の蒸気はファイトエナジーを取り込む性質があるので。

 実質どちらも蒸気が担っていると考えても問題はないだろう。

 

「結果として、初めてスチームボードを手にした時に誕生したデッキを、この世界の人々は使い続けるってことか」

「そういうことだね。まぁ、これに関してはボク達の世界と比べて一長一短って感じなんだけど」

「カードショップって文化とは、相性悪いか」

 

 一見、なんだか不自由な気もするが。

 カードの入手そのものが不可能な訳では無い。

 道端に落ちているカードを拾ったり、蒸気の中からいい感じにカードを見つけたりすることはあるそうだ。

 俺たちの世界は、カードの入手こそ自由だが”相性の良いカードが見つからない”問題が起きることがある。

 そういう事がありえないという意味で、一長一短という感じだ。

 まぁ、そんなこと関係なくどう考えてもカードショップとは相性の悪い文化である。

 

「人は生まれた時より蒸気とあり、死する時も蒸気に身を委ねる、だったか」

「レンちゃん、よく調べてるね」

「フレーズがかっこよかったからな!」

 

 かっこいいフレーズには目がないレンさんである。

 まぁ、そんな中二マインドは置いておいて。

 

「確かに、カードショップを繁盛させることは難しいだろう」

「だよね」

「しかし、勝機はある。もしくは商機か」

 

 力強く、レンさんは宣言した。

 ちょっとダジャレっぽくなって恥ずかしそうにしながら。

 

「とにかく、だ! たとえカードショップという概念が存在しなくとも、需要はある!」

「その心は?」

「まず第一に、この世界は火札世界以外ともつながっている。そちらの世界には、カードショップの概念はあるだろう」

 

 蒸気世界は、和国世界のような別世界と少しだけつながっている。

 そしてそれぞれは交流があるのだ。

 だから、和国世界の出身はカードショップの文化を素直に受け入れられるだろう。

 そのように、そういった人物から口コミで評判が広がるのをレンさんは期待しているのだ。

 

「でも、それは少し気長すぎるよ。他の世界の人間は希少だ。口コミが広がるには時間がかかる」

「なにより!」

「……っ!」

 

 レンさんの喝破。

 流れで目を見開くナギサ。

 そして――

 

「語ってやれい、天の民!」

「え、俺!?」

 

 なぜか話を振られる俺。

 いやまぁ、いいけど。

 

「……カードショップ自体は、基本的にはどこにでもあってしかるべきものだからだ。人と人との繋がりの場、カードと人を繋ぐ場所。蒸気世界みたいな特殊環境でなければどこの世界にも存在するんだから」

 

 だから、仮に存在しない世界であってもカードショップの需要はファイターの深層に根付いているはず。

 それを呼び覚ますのは、仮にも”最強のカードショップ”の称号を勝ち取った俺達デュエリストの役割じゃないか。

 

「だからこそ、俺達は店ごとこっちに転移したんじゃないのか?」

「ふふ、そうかもね」

「――故に、だ! 我の答えは単純! 天の民ならできる!」

 

 本当に単純だ、と驚くナギサ。

 ファイトが再開する。

 ナギサは<疾風鎌鼬のジン>――最終エースを呼び出すものの。

 レンさんも<極大古式聖天使 アストランド・ガイアドラゴン>で迎撃。

 

「……これで終わりだぁ!」

「純粋に押し負け……完敗だね……ッ!」

 

 レンさんが勝利した。

 そう、勝ったのだ、レンさんが。

 

「……勝った? 我が?」

「あたた……そうみたいだね」

 

 敗北によって軽く吹っ飛んだナギサが立ち上がりつつ。

 同意しながら近づいてくる。

 なぜか、驚いているレンさんより冷静だ。

 悔しそうではあるが。

 

「み、見たか天の民! 我が勝ったぞ!? それも天の民みたいな行為を働かぬ、純粋な勝利だ!」

「ああ、おめでとうレンさん。ところで俺みたいな行為って?」

「やったぞー! 祝杯だー!」

「俺みたいな行為って? レンさん?」

 

 どこからか現れたリュウナさん――レンさんの従者兼デッキのモンスター――が紙吹雪をばらまく。

 後で掃除してね?

 

「しかしなぜだ……? 我は何もしていないぞ」

「それなんだけど……ほら、このカード。レンちゃんに渡したくって」

「一体何なのだ風の民――って、これは……!」

 

 ふと、あるカードをナギサが取り出す。

 そのカードは――

 

「――<破滅巫女 ロータス・ステラ>!?」

 

 レンさんのお母さんが使用する『破滅巫女』デッキの一枚だ。

 どうして、ナギサがこれを?

 

「拾ったんだよ。()()()()で」

「――っ!」

 

 その言葉に、俺もレンさんも目を見開く。

 まさか――

 

「……まさか、因縁の集束は、夜刀神(ヤト)だけではない?」

 

 ごくり、とレンさんがつばを飲む。

 因縁の集束。

 異世界に転移した”デュエリスト”。

 その異世界出身のモンスター、ヤトちゃん。

 ちょうど図ったかのようなタイミングで全国大会に出かけ、不在のハクさん。

 そして――レンさん。

 

 

「まさか……母上も、蒸気世界にいるのか?」

 

 

 すべての因果が、一つに混ざり合い。

 やがて、結末へと向かっていく――――

 

 ――なお、ナギサの給料はカードで支払うことにした。

 いやだって、ナギサは今蒸気世界で生活してるから、火札世界のお金は使い道がないし。

 かといって俺達は、ヤトちゃん貯金しか手元にカネがないんだから。

 カードで支払うしかないよな。

 

 

 ということで、さっそくたった今の二人のファイトエナジーを利用してカードを生成したらドン引きされた。

 

 

 いや、だって蒸気世界は至る所に蒸気があるから。

 ファイトエナジーさえ足りてれば簡単にカードが生成できるんだもの。

 え、できない?

 そう……。




カードショップの概念が存在しない異世界でカードショップ無双。
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