カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
ついに開店した、カードショップ”デュエリスト”蒸気世界支店。
言うまでもなく、開店当初からこの店は――
「今日もこっちのデュエリストは誰も来てねぇなぁ」
「まぁそういうな、ネッカ」
――ガラッガラだった。
現在、店内にいるのは俺とネッカ少年だけである。
こうなることが読めていたので、ナギサも店には来ていない。
なぜネッカ少年がこちらにいるかと言えば、これは単純。
「……できた。悪いがテストに付き合ってくれ、ネッカ」
「よっしゃ、今日はクローもドリームランドの方に行ってるし、店長は独り占めだぜ」
俺とファイトするためだ。
ネッカの言う通り、クローは不在。
エレア達も向こうのデュエリストの接客で忙しい、となれば。
こっちの世界にいれば、俺と二人きりになれるのは当然である。
で、今俺達が何をしているのかと言えば――
「んで、今度はどんなデッキを組んだんだよ」
「蒸気世界のデッキでな、『チーム・ボロッツ』っていう廃材で組み上げた蒸気機械のデッキだ」
「え、もうこっちの世界のデッキを完成させたのか?」
「いや、微妙にパーツが足りてない」
チームとスチーム。
そしてボロボロとロボットをかけた感じの『チーム・ボロッツ』デッキ。
少し前に蒸気世界を探索中に見つけた廃材置き場で見つけたカードで組んだデッキだ。
「ってことは未完成じゃん、でもまぁいいぜ。これなら店長にも勝てそうだしな」
「今度、もう一回廃材置き場に行かないといけないな」
言いながら、二人でテーブルに付く。
タダのテストに、500円かかるフィールドを使うのもどうかって話だからな。
「兄ちゃんに負けて、デッキを組み直したんだ。新しいコンボを見せてやるぜ」
「おいおい、それじゃあ俺が勝てないだろ。少しはお手柔らかに頼むぞ」
「へへへ、そいつは無理な相談だ!」
かくして、お互いに準備を整え。
ファイトを始めよう――としたところで。
「あのぉ……おじゃましまぁす」
店の扉が開いた。
カランカラーン、みたいな音が響く。
客が来た時用に取り付けた、扉が開くと同時に音がなる仕組みだ。
つまり、言うまでもなく来客である。
「ああ、いらっしゃい」
「えっと……ここって、お店……でいいんですか?」
半信半疑、といった様子の黒髪の少年が立っていた。
年の頃はネッカ少年と同じくらいか、ひとつ下くらいか。
服装は、今ネッカ少年が着ているのと同じような感じの服だ。
おっかなびっくりと行った感じで、話しかけてくる。
「ああ、そうだぞ。カードショップ”デュエリスト”へようこそ」
「ゆっくりしていけよなー」
「は、はいい……ええと、カードショップ……ですか?」
やはり、そう聞いてくるか。
俺は一旦デッキを片付けて椅子から立ち上がると、まずは名前を名乗る。
「棚札ミツルだ、異世界からこの店ごとやってきていてな。よろしく」
「ろ、ログです……ログ・サビング。異世界ってことは……和国世界から?」
「いや、火札世界ってところだ。和国世界とはちょっと近いけど、違う文化の世界だな」
店の内装はともかく、服装はこっちの世界に合わせている今の俺とネッカ。
二人が異世界人だと知って、ログ少年も驚いている様子だ。
「カードショップっていうのは、カードを売り買いする店のことだな。こっちだとあまりピンとコないかも知れないが……」
「ご、ごめんなさい……」
「いや、謝らなくてもいいんだ。そうだな、どこから説明したものか」
実際にピンと来ていない様子で、ログ少年は店を見渡している。
店内には、無数のカード。
特にシングル販売のショーケースには、見たことないカードが山程置いてあることだろう。
俺が蒸気世界の廃材置き場から『チーム・ボロッツ』を組み上げたように。
基本的に、世界が変わるとカードも変化するものだ。
なぜか<星道の魔女>みたいなレジェンドカードは、いろんな世界に存在するらしいが。
シリーズの伝統ってやつだな。
「まずあっちに置いてあるカード。ストレージに置いてあるのが見えるだろ? アレ、全部売り物だ」
「え……こ、この数のカードが!?」
「一枚ええと……こっちの世界のお金でこれくらい」
「や、やすい……」
そりゃまあ、ストレージのカードなんて全部一枚いくらの世界だからな。
正直、こっちの世界からしてみればダンピングもいいところだ。
そもそもカードを売り買いするっていう概念が存在しないからこそ、許されているみたいなところある。
「ど、どれも見たことないカード……でも、見たことないカードしかないからどれがいいかわからない……」
「そこは、ストレージをあさって見知らぬカードを見つけるのも楽しみの一つさ。んで、あっちのショーケースのカードはもうちょっとお高い」
「ええと……わわ、こんなに」
基本的に、カードの値段はショルメさん協力の元、蒸気世界の相場に合わせて直してある。
適正価格といえばそうなのだが、蒸気世界は結構貧富の差が激しいらしく。
庶民にシングルのカードは結構手が出ないお値段だそうな。
まぁでも正直、シングルのカードってだいたいは火札世界のデッキの重要パーツだ。
こっちの世界のカードとは相性が悪い。
需要があるのは、ストレージのカードの方だと俺は睨んでいる。
蒸気世界のシングルで売買されそうなカードは、もう少し安くする予定だしな。
「最後に……これがカードパック、中にはランダムで五枚のカードが封入されてる」
「……ランダムでカードが入ってるんですか?」
これが、おそらく蒸気世界の人たちには一番ピンとこない部分だろう。
カードパック、俺たちの世界ではポピュラーなそれが、蒸気世界では存在していない。
カードの売買や、交換ならばまだある程度ピンとくるだろう。
だが、カードパックは完全に未知。
ログ少年も、不思議そうにしている。
「これがさ、楽しいんだよ」
「わわ、ええっと君は……」
「ネッカだ、よろしくな。ログ」
「う、うん。よろしく……」
ネッカ少年が、横から入ってきて話を始める。
俺に代金を支払って、カードパックを受け取るとそれを店に置いてあるハサミで開封する。
手慣れた手つきになんとなく、ログ少年は感心しているようだ。
「で、中から出てきたカード。中にはちょっとレアなカードも入ってる」
「えーっと……ど、どれも知らないカードですね」
「……お、新しい『バトルエンド』だ、あったりぃ」
「あ……もしかして、その『バトルエンド』ってネッカくんのカードなの?」
そういうこと、とネッカ少年が楽しそうに笑う。
こうやって未知のカードと出会うのがカードパックの楽しみ。
さすがネッカ少年、一発でそれをログ少年に伝えてしまった。
「じゃ、じゃあボクも一つ……」
「そうだな、払うのはお金でも構わないけど、カードでもいいぞ?」
「いいんですか?」
「蒸気世界限定サービスだ」
五枚カードを俺に渡せば、カードパックを一つ。
普通、ストレージに行くようなカードは数十枚で一円とかそういう世界だが、蒸気世界なら話は違う。
すべてが未知のカードであり、あと単純に人によってはお金で払うのがキツイ場合もある。
ログ少年はその典型だろう。
そういう人のために、カード五枚でもパックを買えることにしたんだ。
いくらカードの売買が少ない世界とはいえ、落ちてるカードを溜めておけば結構な数になるからな。
「じゃ、じゃあこれを……」
「はいよ。……って、このカード」
俺は少し、ログ少年の差し出したカードを見て驚きつつパックを渡す。
ログ少年から受け取ったカードは十枚。
パックは二つだ。
「ハサミで開けると、中のカードが傷つかないぜ」
「う、うん」
おっかなびっくり、といった様子でパックを開封するログ少年。
それを横でネッカ少年が楽しげに眺める。
なんというか、アレだなぁ。
新シーズンの始まりを感じるなぁ。
とか、メタいことを考えていたら。
「こ、このカード……」
「へへ、当たりみたいだな?」
「はい! ありがとうございます!」
「よし、そうと決まればファイトだ!」
「は、はい!」
なんて、早速盛り上がっている。
青春だなぁ、頑張れネッカ少年。
先輩の威厳を見せつけるのだ。
主人公の先輩的な意味ね?
「というわけで、頼むぜ……店長!」
あ、戦うの俺なの!?