カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
さて、俺は呼ばれたファイトをワンターンキルで片付け、外でパフォーマンスをしている二人を見に行くことにした。
いや、俺がそうしたかったわけじゃなくて、絶対に全力を出してくれと言われたからそうしただけなんだ。
誓って、封殺は、してません。
それはそれとして。
レンさんとエレアのパフォーマンスファイトの様子は――――
「……なんだこの人だかり」
ちょっと目を離した隙に、とんでもない人だかりになっていた。
もともと、俺達の店がある場所はそこまで広いわけじゃない。
というか蒸気世界自体が全体的に狭いわけだが、その中でも平均的な狭さだ。
んで、そこに今日はファイト喫茶イベントで人が来ている。
ただでさえ多い人が人を呼び。
そして現在、その集大成とでも言うべきシロモノが、街の上空で繰り広げられていた。
……上空?
「ハーッハッハッハ! 飛んでいる、我は飛んでいるぞ!」
「どこからでもかかってきてください、レンさん!」
二人が空を飛んでいた。
エレアの方はわかる、テクス・エンジン――機体名エクレルール・エンジンに乗り込んでいる。
アレは結構なとんでもロボットだから、空中で静止することもできるのだろう。
だが、レンさんはなんだろう。
完全に生身で空中に静止していた。
ちなみにちゃんとスカートの中は見えないようになっている。
偉い。
「いえアレは……飛んでいるのではありません。エクスチェンジスーツの応用で、見えない糸を空中に張り巡らせているのです」
「リュウナさん!」
なるほど、糸の上に立っているのか。
細かい移動はスチームボードでできるからな。
というわけで、どうやら二人は空中でファイトしているらしい。
「なんだありゃ、本当に空を飛んでいるぞ!」
「あんなファイト、スチームボードでもアルケ・ミストでもできないわ、どうやってるの!?」
住人が不思議そうにしている。
「聞け! 我が名は翠蓮!
「そして私の名はエレア! 同じくこことは違う世界よりやってきた、しがないパイロットです!」
エレアはパイロットだったのか……もとい。
二人は、自分たちが異世界の住人であるとアピールしているようだ。
なるほど、カードショップは異世界の存在。
異世界の存在がいるということを知ってもらわないことには、カードショップの知名度も上がりようがない。
一応、異世界の存在を知る人もいるが、多くの蒸気世界住人は存在を知らないらしいからな。
「今日は私達が、あなた達の知らない新しいファイトをお見せいたします!」
「覚悟し、震えるがよい! ハーッハッハッハッハ!」
「イグニッションです!」
「イグニッションだ!」
というわけで、二人のファイトが始まった。
そういえば、この対戦カードは結構珍しいカードだな。
□□□□□
二人のファイトは、一進一退で進んでいく。
意外だったのは、前回のナギサ戦と同じくレンさんのファイトが噛み合っているということ。
普段だったら細かいアドバンテージの差でジリジリ追い詰められていくレンさんが、完全に拮抗した状態でファイトを進めている。
「……やはり、お嬢様はこの世界となにか繋がりがあるのでしょうか」
「まぁ、他になにかあるって感じはしないものな」
レンさんの様子をみながら、俺はリュウナさんと話をしている。
リュウナさんはレンさんの専属メイドだから、レンさんのことを誰よりも把握しているはずだ。
そんなリュウナさんから見ても、今のレンさんはファイトが噛み合っている。
そのうえで、理由がこの世界との繋がり以外に考えられない状況らしい。
「良いこと……ではあると思いますが、同時に心配でもあります」
「おそらく、この世界でレンさんが大きな因縁と対決するから……か?」
「はい。そしておそらくその因縁は――」
「レンさんのお母さんと、無関係ではないだろうな」
レンさんのお母さん、ルインさん。
中々破天荒な人だったようで、それは使用デッキが『破滅巫女』であることからもわかる。
何を破滅させるつもりなんだ、物騒すぎるだろこの巫女さん。
で、ここ最近レンさんはそんな『破滅巫女』カードと縁がある。
普通に考えれば――この世界に、ルインさんがいる可能性があった。
「とはいえ、ルイン様とお嬢様は雰囲気も似通っております。もしもルイン様がこの世界にいらっしゃれば、住人も気付くかと……」
「流石にそれは……と思うが、蒸気世界は狭い世界だからな、普通に有り得る」
加えて娯楽も少ないとなれば、レンさんくらい目立つファイターならすぐに有名になるだろう。
それがないということは、ルインさんはこの世界にいないか――別の理由があるか、だ。
「今のところ言えることがあるとすれば、ショルメさんが何のコメントも出していないということだ」
「あの方は、”今はまだその時ではない”と情報を出し渋る方のようですね」
「ショルメさんだからなぁ」
探偵で、ショルメなのだ。
ホームズでないのは少しおかしいが、それでも探偵であることに違いはない。
であれば、なにかを話すタイミングを待っているのは間違いなくて。
「とにかく、俺達はカードショップを盛りたてながら、時期を待つしかないな」
「そうですね。……そろそろ、お嬢様のファイトにも決着が付きそうです」
二人のファイト、盤面はエレアのエースである<帝国の開拓者>と、レンさんのエースである<ガイアストラ・ウロボロス>が並び立っている。
<アストランド・ガイアドラゴン>ではない。
あっちも強力なエースだけど、若干番外なところがあるからな。
「ふっふっふ、私の完璧なロックは、貴方にそうそう突破できませんよ!」
「ぐぬぬ……だが、我は諦めぬ! 我のターン!」
エレアの奴、すっかり悪役っぽいムーブに酔っているな。
たまにはヒールをやりたい時もあるのだろう、帝国デッキが制圧系でヒールに向いてるし。
「……我は諦めぬ! 我のカードが、我と共にある限り!」
「リュウナさんはここにいるけどな」
「お嬢様がお呼びであれば、今すぐおそばに参ります」
ここに至るまで、レンさんはリュウナさんのカードを使っていない。
列の整理があるからだろう。
実際、こうして観戦しつつきっちり仕事もこなしているからな。
まぁ、そこは俺も同じなんだけど。
「……行くぞ! 我は<
「……!? 新しいエースモンスター!?」
「現われろ! <サンクガイアストラ・ラグナファフニール>!」
――『サンクガイアストラ』!?
初めて聞くカードだ。
だが、この状況をひっくり返す力はある。
「これで終わりだ、<ラグナファフニール>!」
「ば、ばかなーーーーーっ!」
そしてエレアの断末魔はちょっと棒な感じだった。
□□□□□
イベントは大盛況に終わった。
レンさんとエレアのパフォーマンスも集客に作用して。
ファイト喫茶としてのデュエリストは大成功だったと言っていいだろう。
そして、ファイト喫茶として知名度を上げたことで、この場所がファイトをするための場所だと印象付けることができた。
カードの売上に関してはまだまだだが、メカシィとそのお手製パーツ目当ての客がそのままファイトして帰ってくれるようになったのは収穫だろう。
それはそれとして、気になるのはレンさんのモンスター。
新しいエース、<サンクガイアストラ・ラグナファフニール>。
レンさんにその詳細を聞いてみたところ――
「どこから手に入れたのかわからない?」
「うむ、いつの間にかデッキに入っていたぞ」
「それはなんとも……」
素材に<破滅巫女 ロータス・ステラ>を要求するのも意味深だ。
そもそもレンさんのデッキは、<心火再熱>を必要とするカードはほとんどなかったからな。
とにかく、色々と謎の残るカードだが――
「……しかし、アレだな。使いにくいエフェクトしているな、このカード」
「それはいったらおしまいだよ、レンさん」
召喚条件が、あまりにも限定的すぎる。
とりあえず、運命力のあるこの世界だから使えるものの。
普通に使おうとしたら、間違いなくめちゃくちゃ使いにくいカードだよなぁ。
と、レンさんと二人で思うのだった。