カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
ジョンさんとメカシィのクロスオーバー・ファイト。
そしてエレアとレンさん企画のファイト喫茶。
これらによって、カードショップ”デュエリスト”の名前は蒸気世界へ一気に広がった。
今やその名前を知らないものはいない――までになったのだが。
「……カードショップとしての利用者は、相変わらず少ないよ」
と、ナギサが言っていた。
一部の人は、店の利用方法を理解して使用しているが、多くの人はそうではない。
まず、パックという概念がない人にパックの概念を説明することが難しい。
中身がわからない袋に入ったカード五枚を購入して開けるとか、どこのギャンブルだという話。
これでもソシャゲのガチャより単価は低いんだがなぁ。
ともあれ。
「解決策は一つしかない」
「え、ええ」
「――カードパックを生成しよう」
俺は、まだ人がやってきていない店内でヤトちゃんに言った。
今日、ここにいるのは俺とヤトちゃんの二人である。
蒸気世界に店舗がつながってから、ヤトちゃんとこっちで活動することが格段に増えてるな。
そんなヤトちゃんは、どこか緊張した様子で俺の話を聞いている。
「生成方法はデジタル一択だ。そもそもこの世界だと、オカルトやアナログだとカードパックが生成できない」
「蒸気とファイトエナジーが結びついてるからだっけ? デジタルならできるの?」
「デジタルは、機械がファイトエナジーを生成するんだ。俺達のファイトに呼応してな。だから、蒸気と混じらない純粋なファイトエナジーが生まれる」
「そうなんだ……」
デジタルはとにかく謎の多い生成技術だ。
機械でオカルトの生成を模倣するというやり方でありながら、オカルトとは全く異なる生成プロセスをたどる。
だが、謎が多いからこそ世界の法則からすり抜けやすい。
「もともと、カードパックを生成できない異世界ってそこそこあるんだよ」
「そうなの?」
「ああ。そういう世界でも、デジタルでのカード生成は有効だって話は結構ある」
ちなみに、蒸気世界以外でカードパック生成ができないのは、例えばフレーバーテキストの世界だな。
ああいう世界はそもそも、異世界人が介入しないとファイトが発生しないから。
「ちなみに、大事な点としてデジタルでのカード生成は有効だけど、そもそもカードパックが生成できない理由自体は世界によって異なる事が多い」
「どういうこと?」
「蒸気世界なら、蒸気とファイトエナジーが結びついているからだが――別の世界だと、その世界の親玉がカードパック生成を封じてたりとか、そういう理由だったりもする」
なので、その理屈によってはデジタルでもカードパックが生成できない可能性はある。
だが蒸気世界は、理論上デジタルでも問題なくカードパックは生成できるはずだ。
と、いうわけで――
「で、そのファイトに関してだが――俺とヤトちゃんでやりたいと思う」
「む、無茶よ!」
俺の言葉に、ヤトちゃんが即答した。
「カードの生成をするんでしょ!? それも大勢の前で! ハードル高すぎるわよ!」
「いや、今のヤトちゃんなら十分にこなせるはずだ」
「だ、だって……具体的に言うと店長とダイアさんが突然世紀の一戦始めたアレと同じくらいのハードルなのよ!」
そ、そう言われると確かにハードル高いな。
アレは結果として、世界中で注目を集めるファイトになった。
俺とダイアのファイトの中でも、特に満足度の高いファイトの一つだ。
やるにしても、大事件の終わりというか――それこそ、蒸気世界での事件が解決した後にやるファイトってことならハードルも越えられるだろうが。
「どこまで行っても、私はヤトなのよ。この世界にとって、怪盗ヤトはすごい存在なのかも知れない。でも私は、ただのヤト」
「闇札機関の次期エースで、うちの常連の中でもトップクラスのファイターだ、それでもダメか?」
「正直、自分でも自分がどれだけすごいかわからなくなってるのよね……」
ヤトちゃんはここまで、いろいろな事を経験してきた。
間違いなく、成長はしている。
それは闇札機関のランク戦や、ショップ対抗戦が証明してくれている。
「最初のうちは、他人よりファイトがちょっと強いだけだった。かといってそれで上を目指そうっていう上昇志向もなくて……上を目指して頑張れるねえさんが、少し羨ましかったかも」
「ハクさんって、痴女趣味を除けば結構強さに執着があるファイターだもんな」
「今も、世界大会で頑張ってるしねR18……じゃなかった、U18で」
「その間違え方はまずいって!」
確か、そろそろ決勝トーナメントの準決勝が始まるとかなんとか。
今年参加した日本人の中では、最後まで残ってる関係で結構注目度が高い。
懸念事項は、本気を出すために少しずつ露出度の増えてる衣装だな。
どうしても痴女形態じゃないと全力が出せないせいで、相手が強くなればなるほどハクさんが脱ぐシステムになっている。
そろそろ脱げる部分も少なくなってきたんだが、ここからどうなるか。
「それで、姉さんを助けるために闇札機関に入った。あの頃は、本当に必死で……周りを見ている余裕もなくて。迷惑かけちゃったわね」
「何、ヤトちゃんはやりきったんだ、素直にすごいことだと思うよ」
「それもこれも、店長のおかげ。あのファイトで、私は前を向けたから」
ヤトちゃんと初めて出会った時のことを思い出す。
あの頃のヤトちゃんは真面目で、俺のことを殆ど知らなくて。
今思い返すと、ヤトちゃんの反応が新鮮だったな。
「それで……その、姉さんが痴女になって。でも、おかげで姉さんとの仲は深まったと思う」
「…………ごめん」
「それこそ、店長が間に入ってくれたからでしょ。そうじゃなきゃ、もっとひどい喧嘩になってたと思うから」
まぁ実際、ハクさんが痴女になって自分をさらけ出したことで、ヤトちゃんとわかりあえた部分もあるだろう。
血がつながっていない姉妹だからこそ、お互いのことをきちんと理解するために歩み寄ることが肝心なのだ。
方法はともかくとして。
「それからも、店長には色々とお世話になったし。店長がエレアと恋人になれたのは素直に喜ばしいことだと思う」
「応援してくれてありがとうな、思い返せば……エレアとの関係を見つめ直すきっかけになったのは、ヤトちゃんだったか」
「そうかもね。それで……私の方も、気づけばファイターとして強くなってた。のびのびと成長できたからでしょうね」
俺とエレアがあーだこーだしているうちに、ヤトちゃんは強くなっていった。
「強くなったのは……間違いないのよ。店長と出会った時の私と今の私で戦ったら、十回中九回は今の私が勝つ」
「一回は負けるのか」
「そこなのよね。私が自信を持てないのは。いえ、自信はある。持てないのは……多分確信」
確信……それはつまり、経験と言い換えることもできるだろうか。
「思えば、私って最初の事件以来、大きな事件に関わった記憶がないのよね。事件になりそうなことも、なんか勝手に解決しちゃうし……あれ?」
「どうした?」
「…………なんか、そういう事件の影に必ず店長の姿があるんだけど」
「今更!?」
流石にそれは、俺だって把握していることだぞ。
特にダークランドヤードのファイト探偵なる存在が、色々と不発になったのは俺だって気にしているんだ。
だけどもしかして――
「……ヤトちゃん、そのことに気付いてなかった?」
「…………」
もしかしてヤトちゃんは勘違い系主人公だった……?
「……なんか、ふつふつと店長という理不尽への怒りが湧いてきたわ」
「理不尽!?」
二重の意味で。
「勝負よ、店長! この怒り、ファイトで貴方にぶつけてみせるわ!」
お、おう。
まぁ、やる気になったみたいなので、良かったと思います。
結構真面目な回……真面目か?