カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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231 ヤトちゃん怒りのカード生成

「やってやるわ、やってやるわよ!」

「や、ヤトちゃんが燃えています……!」

 

 というわけで、いよいよカード生成を行う日がやってきた。

 日時は火札世界のデュエリストが定休日の日。

 なんでその日かといえば、俺とメカシィがカード生成に必要で、エレアが観戦したいと言い出したからだ。

 ついでに定休日がすぐそこだったので、そこでカード生成を行うことにした。

 

「ふん、今月の定休日デートは私とのファイトってわけね!」

「なんかこっちまで刺されました! 店長が悪いのに、ひどい!」

「そんな事言われても」

 

 とにかく、現在俺達はビッグベンの広場にやってきている。

 ショルメさんにいい場所がないかと聞いたら、ここを指定されたのだ。

 いいのかなぁ、と思ったが申請が通れば問題ないらしい。

 

「そして、申請は通したよ、ライオ王子に頼んでね」

「わぁ、ゴリ押し、ゴリ押しですよ! 圧政ですよ!」

「エレアが言うと洒落にならないって」

 

 圧政で苦しい人生を送ってきた人が言うんじゃありません!

 というわけで、この場にはショルメさんもいる。

 まぁ、カード生成なんて結構な事件だ。

 ショルメさんに監督してもらうのがこちらとしても助かる話だ。

 

「ところで、本当にヤトちゃんはいつものデッキでいいんですか?」

「ああ、そろそろ頃合いだからね」

「頃合い……?」

 

 俺とヤトちゃんが向かい合う。

 いざファイトを始めるという横で、エレアとショルメさんの話が聞こえてきた。

 

「――伝説の英雄が、蒸気世界に帰還したと見せつけてやるのさ」

 

 その言葉に、ヤトちゃんの視線が更に鋭くなった。

 これまでの理不尽に対する怒りではない。

 真剣さを帯びたのである。

 そしてそんな気はしていたが、真面目になれば一気に怒りも引っ込むな。

 ヤトちゃんは素直だからな。

 

「……店長、私、以前も言ったけど記憶を失う前の自分についてはさっぱりよ」

「そうだな」

「過去の自分がどれだけすごい存在なのかはわからない、蒸気世界に何をしたのかも知らない」

「ああ」

 

 お互いに、ボードに手をかざす。

 デッキに触れて、カードに手をかける。

 

「でも、以前の私のことを私は尊敬してるの! だって、こんなすごい世界を一度は救ってみせたのよ!?」

「すごい世界……か」

「ええ、だって……だって!」

 

 力強く、ヤトちゃんは宣言した。

 どこか嬉しそうに目を細めるショルメさん。

 そして――

 

 

「この世界は、こんなにパンク(かっこいい)なんだもの!」

 

 

 ショルメさんはずっこけた。

 まぁ、ヤトちゃんはこういう子だ。

 

「イグニッションよ!」

「イグニッションだ!」

 

 

 □□□□□

 

 

 その日、ビッグベンを見上げられる蒸気世界の中央広場とでも言うべき場所には、人が多く集まっていた。

 わざわざその場所を貸し切って、ファイトをする酔狂な人間が現れたからだ。

 一体何だってこんな場所を、わざわざ許可を取って?

 そんな住人の疑問は、俺とヤトちゃんを見て更に大きくなっただろう。

 

 ――誰この人たち……と。

 

 だがそんな疑問も。

 今この瞬間、大いなる納得へと変わる。

 

「私の先行! 来て! <蒸気騎士団 探偵ショルメ>!」

「おっと、早速お呼びか。それじゃあ、失礼させてもらおうかな」

 

 そう言って、ファイトを見守っていたショルメさんが、フィールドに現れた時。

 

「蒸気騎士団だ!」

「蒸気騎士団!? それにあの姿のショルメって、まさか――!」

 

 住人たちがにわかに騒がしくなる。

 ショルメさんには二枚のカードがある。

 <蒸気騎士団 探偵ショルメ>と<蒸気騎士団の探索者 エルロック>。

 その二枚は、若干衣装が異なる。

 俺達は<探偵ショルメ>の方が見慣れているけれど、普段のショルメさんは<エルロック>の方の服を着ていた。

 それはつまり、<探偵ショルメ>としての衣装は、蒸気騎士団としてのショルメさんの衣装ということ。

 それをファイトでさらすということは――

 

「まさかあの子――怪盗ヤト!?」

「うそでしょ? 怪盗ヤトは数年前の蒸気大戦を最後に行方がわからなくなってたはず……」

 

 ヤトちゃんの正体を、蒸気世界に知らしめるということにほかならない。

 にわかに周囲が騒がしくなる。

 この世界の住人にとって、蒸気騎士団はまさしく英雄。

 その中でも、かつて姿をくらました<怪盗ヤト>は特に象徴的な存在なのだろう。

 姿をくらましたからこそ、という面もあるだろうけど。

 

「……なんだか、不思議な気分ね。自分がここまで周りから騒がれるなんて」

「少しは自信になったかい?」

「いいえ、むしろ逆。……ハードル高すぎよ、昔の私」

 

 そう言いながらも、ヤトちゃんはどこか嬉しそうだ。

 多分、本人も気づいたのだろう。

 今のヤトちゃんには、強くなったという確信がない。

 

「でも、こうして蒸気世界の人達の反応を見たことで、目標ができた」

「目標?」

「解ってるくせに。――怪盗ヤトを越えて、より強くなること! 今の私が、かつての私より強いと証明すること!」

 

 なんだか、そう言って笑う彼女の姿は、明らかにかつてと比べて大人びていた。

 成長、間違いなくしているよ、ヤトちゃん。

 そしてそれを、こうして特等席から見られることが、俺はどうしようもなく嬉しい。

 カードショップの店長として、先達として、成長を見守るという行為は何にも勝る喜びだ。

 さぁそれを、ファイトで存分にぶつけてくれ!

 

「続けていくわよ!」

 

 ファイトは続く、俺が<アークロード・ミカエル>をサモンすれば、<獅子心王リチャード>がそれを迎え撃つ。

 互角のハイレベルな戦いが繰り広げられる中、周囲のボルテージもどんどん上がっていく。

 

「さすが怪盗ヤト、なんてテクニックだ」

「相手のファイターも、互角に渡り合っているわ。彼は何者なの!?」

「ふっふーん、あの人は私の彼氏なんですよ? すごいでしょう!」

 

 なんて、がやがやといろんな声が聞こえてくる。

 エレアは少し自重しましょうね。

 ともかく。

 

「かつてのヤトちゃんを越えるためには、まず今のヤトちゃんが強くなったことを証明しないとな!」

「ええ、そうね!」

「そして俺は、そのために最高のカードを用意した! これを越えられるかな、ヤトちゃん!」

 

 言いながら、俺はあるカードを天高く掲げる。

 そのカードは――俺達が、何よりヤトちゃんが見慣れたカードだ。

 

 

「こい! <ドリーマーナイツ・アリアン>!」

 

 

 そう、ヤトちゃんのエースモンスター。

 <ドリーマーナイツ・アリアン>。

 かつて俺の手からハクさんにわたり、そして今はヤトちゃんが操る強力なモンスターだ。

 

「<アリアン>……店長も持ってたの!?」

「実はそうなんだ」

 

 以前、パックで当てたのである。

 いやぁびっくりしたね、高額のレアカードだし。

 それを今回、せっかくなので持ってきたわけだ。

 

「なんだかすごいカードが出てきたわ!」

「アレひどいんですよ。私と二人でパック開けたのに、ミツルさんの方だけレアカードだったんです!」

 

 がやがやと、盛り上がる観客。

 エレアはもうそれでいいや……

 ともあれ、俺は<アリアン>で攻め立てて<獅子心王リチャード>を撃破したものの、決着には至らず。

 ヤトちゃんのターンになった。

 

「そういうことなら……私もやって見せる! ドロー!」

 

 ヤトちゃんは、カードをドローしそれを見た。

 一瞬だけ目を見開き――そして、不敵な笑みを浮かべる。

 

「どうやら、この世界の蒸気は私に力を貸してくれるみたいね!」

「へぇ、そいつは楽しみだ」

「行くわよ、私は――」

 

 そして、サモンされるカードは――

 

 

「<蒸気騎士団 怪盗ヤト>をサモン! 行くわよ、私!」

 

 

 <怪盗ヤト>、ヤトちゃん自身だ。

 

「か、怪盗ヤトだ! 伝説の蒸気騎士団の復活だ!」

 

 チームサティスファクションみたいなノリで、かつての蒸気騎士団がヤトちゃんのフィールドに蘇る!

 すごい露出度だ! これがハクさんを目覚めさせた要因……俺は思わず息を呑んだ。

 

「<怪盗ヤト>はフィールドとセメタリーの『蒸気騎士団』モンスターの数だけ攻撃力を上げる。行くわよ、店長!」

「シンプルイズベスト、だな、それは止められない!」

 

 ヤトちゃんのフィールドには、これまでファイトで使用した『蒸気騎士団』のメンバーが幻影みたいに浮かんでいる。

 カードゲームによくあるやつだ!

 そんな彼らを背に、<怪盗ヤト>は<アリアン>を撃破。

 

「私の……勝ちよ!」

 

 ファイトに決着がついた。

 

 

 □□□□□

 

 

 観客達は最高に盛り上がっている。

 これだけのボルテージがあれば、カードパックの生成に十分なファイトエナジーとなるだろう。

 俺達の目的は達成。

 さっそくメカシィが、デジタルな方法でパックを生成するわけだが――

 

「……ん、なんだこれ」

「袋に……モンスターが描かれてるわ」

 

 観客たちの手に、一つずつパックが生成される。

 

「良く聞いてくれ、皆。それはカードパックというシロモノだ。パックの中にはランダムでカードが封入されている。今回、それを皆にプレゼントしようと思う」

「カードパック……? 良くわからないけど、カードを手に入れることができるのか?」

「そうだ。俺はカードショップ”デュエリスト”の店長、棚札ミツル。そのパックは、俺の店でも同じようなものが取り扱われている」

「デュエリストって、最近話題の? へぇー、面白そう」

 

 俺の言葉に、皆が思い思いにパックを開けた。

 おそらく、この人たちはカードパックの事を理解してくれるだろう。

 そして、周りの人にも教えてくれるはずだ。

 狭い蒸気世界なら、これで十分カードパックの概念を教えることができる。

 ――わけだが。

 

「……ミツルさん」

「なんだ、エレア」

 

 エレアが、俺の横までとことこ駆けてきて、耳元で囁く。

 

「……パックの数が少なすぎます、本来ならもっといっぱいパックが生成されるはずですよね?」

「ああ、そうだな」

 

 ――エレアの言う通り、これは本来のカードパック生成の結果としては物足りない結果だ。

 本来なら、もっとわんさかパックが生成され、それをボックスにすることで市場に販売するのが普通。

 だというのに今回は、せいぜいこの場にいる全員に一パック行き渡るかどうか。

 これではとてもではないが、カードパックの生成が成功したとは言えない。

 だが同時に、失敗というわけでもない。

 

「……なんだか、前途多難って感じね」

「そうだね」

 

 向こうでは、ヤトちゃんがショルメさんとそんな話をしている。

 前途多難、まさしくその通りだ。

 蒸気世界の事件は、まだ何も解決していないのだから。

 

「ところで聞いて下さいよ、ミツルさん」

「なんだ?」

「私のパックから、またミチルちゃんが出てきたんですけど、極大天使の方の」

 

 そう……なんか、そろそろ六枚くらいになってない?

 <極大天使ミチル>。

 ともあれ、物欲センサーがー! と呻くエレアの頭を撫でながら、今後のことに思いを馳せるのだった。

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